婚星迎え来たる夜に 02
警察官だった父が殉職したのは私が十歳の時だった。
朝、いつも通りあたたかな笑みで「いってきます」と手を振ってくれた父は冷たい骸になって帰ってきた。父のただいまが聞けなくなる日が来るなんて、考えたこともなかった。
母は私が生まれてすぐ亡くなっている。だからあの日から十五離れた兄が親代わりになってくれたのだけれど、兄もまた父に憧れ、その頃にはもう警察官として働き始めていて。
父さんとは部門が違うから大丈夫だと兄は宥めてくれていたのに、私は父のように兄も突然いなくなってしまうのではないかと不安で不安で。あまりに怯える私を見かねて兄は空いた時間は全て私に使ってくれるようになった。
ただそれが原因で兄は当時の恋人にフラれてしまって。私が悪いのに兄は「を蔑ろにするような奴こっちから願い下げだ」と一言も私を責めなかった。
その後はできる限り兄に迷惑をかけないよう過ごして、私が中学を卒業する間際に兄は結婚した。かつての彼女とは違って私の存在ごと受け止めてくれる優しい人と。
それでも兄を不幸にしてしまった事は父の死と共に、ずっと私の胸の中でしこりとして残り続けている。
「……じゃあ私がおばあちゃんになるまで、おかえりって言わせてくれる?」
ふと蘇った過去の記憶、だがこれはきっと今思い出すべきじゃなかった。
おかげで顔を真っ赤にしつつ「僕が魔法執行官になったら結婚しよう」と告げてくれたデュースへ、そんな願いを口にしてしまっていたのだから。
彼のプロポーズにダメだなと思ってたくせ、肯定するような言葉を吐くなんて。何をやってるんだと内心で自分を叱ったがもう遅い。
満面の笑みで「任せてほしい」とデュースは胸を叩く。そんな頼もしい姿に、私は先程の願いを撤回することができなくて。
「魔法執行官になったら迎えに行く、だからどうか待っていてくれ」
きっとデュースはこの誓いを守ってくれるのだろう。私はいつか貴方を裏切るのに。約束を受け入れながら私は、その日が来なければいいなんて矛盾したことを考えていた。
◇
ふと目を覚ました時、私の体はベッドに沈んでいた。ふかふかで気持ちいい、私がいつも使っているオンボロ寮のそれとは寝心地が段違いだ。
それに凄く良い匂いがする。これ何の匂いだっけ、絶対嗅いだことあるんだけどな。香水とか使ってるわけじゃないのに、こうして間近で感じるたびに好きだなあって思って。
ギシ、と軋む音。覆い被さるような人の気配。それにさっきよりも匂いを強く感じる。
「」
さっきと同じ呼び声に重い瞼をうっすら開く。お酒のせいか視界は酷くぼやけてた。ただこれもまたどこか見覚えのある光景で。いやというほど見慣れた色彩だとわかる。
声と色と匂い、聴覚と視覚と嗅覚からの情報が繋がって微かに答えが浮かび上がる。そのまま酔いと眠気に回らない頭を一生懸命働かせて、私が弾き出したのは。
「でゅーす……?」
手を伸ばして彼の頬らしき部分に触れる。ぺたりと合わせたそこから感じるぬくもりを私は知っていた。うん、やっぱりデュースだ。
お酒の入った体、上等なベッド、会えるはずのない好きな人、だからこそわかった。ああ、これ夢だなって。
彼と別れてからそういった事を全くしてこなかったせいで欲求不満なのか。たまに今みたいな夢を見ることがたびたびあった。だから今も現状もあっさり受け入れて。
恥ずかしいけど、こういう夢を見るのが実は好きだ。だって夢なら何でも言える、なんだって許される。だからいつもみたいに私は甘えるように彼へ縋り付いて。
◇
「んっ、ぅう」
「……ずいぶん狭いな、初めての時みたいだ」
ぐちぐちと音を立てながら私の秘部をデュースの指が行き交う。ただ、いっぱい濡れてるのに、どうしてか指一本受けいれるのでせいいっぱいで。最後に触れられた時よりも丁寧に拓かれていく。
こんなにも手間がかかってるのは、さっきから彼の発言通り処女じみた反応を見せてしまっているからだろう。こういった夢は記憶の再生のはず、だからいつもならこんなことないのに。
「ご、めん」
「何がだ?」
「さっきからずっと私ばっかり気持ちいいから……」
ぐにゃぐにゃの視界のせいでデュースの表情はよくわからない。わかっていたとしてもきっと自分にとって都合の良い顔をさせてしまっていたんだろうけど。
彼は私の発言に何も言わなかった。ただぴったりと唇を合わせてくる。ちゅ、ちゅと何度も繰り返されるそれが嬉しくてたまらない。もっと、と甘えた声でねだると頭の中を溶かすような深いキスに変わる。
私がそちらに気を取られている間にデュースは中に入れる指を増やして。ぐるぐるかき混ぜるような動きにお腹の奥が疼くと同時に絶頂を迎えた。
「は一人でこういったことしないのか?」
達したことでくたりとしている私へデュースが問いかけてくる。こういったことって……たぶん、自分で慰めないのかってことだよね?
「……し、ない。恥ずかしいし、好きじゃないもん」
「え゛、本当は嫌だったのか……?」
こんなやりとりしたことあったかなあ……。たぶんやったことない気がするんだけど。だって付き合っていた時、彼とはいっぱいえっちしてたし、何なら私から誘うこともあったくらいだし。
記憶にはないけども目の前の彼は声色からして焦っているのがわかる。きっと実際のデュースもこんな反応するんだろうな。今までなかったパターンを不思議に思いつつ、どうせ夢だからいっかといつも通り素直に口にする。
「でも、デュースとするのは好き。だから、今も、すごい嬉しい」
ごくりと唾を飲む音。そんな一拍を置いて、ずると私の中から指が抜ける。ただただ気持ちよかったそれにしっかりとほぐされているのがわかる。
女の私には男の人の気持ちは理解できないけど、たぶんこういう状況にあればさっさと挿れてしまうのが常なんだろう。でもデュースはその前にぎゅっと抱きしめてくれる。何回してもこの瞬間はいつもちょっとだけ怖い、そう私が零してしまった時からずっと。
夢の中だとわかってるのにその優しさとぬくもりに胸がいっぱいになる。その分、起きた時に現実との落差に毎回死にたくなるのに……私も懲りないなあ。
落ち着いたところでおなかにすっかり育った彼の物が宛がわれる。いつものように形とかは判別できないけど、でも凄いところまで届いちゃうぐらい大きいのとか、相変わらずちょっとえぐい色してるなあってのはわかる。
じっくり見るには凶悪なフォルムなんだけど、でも、それでもデュースの体だと思ったら愛しく思えるし、なんなら口でかわいがったりもしちゃってるんだよなあ。だって好きなんだもん……。
「結婚するんだから、もう付けなくてもいいよな?」
「……けっこんしてくれるの?」
「するだろ?」
当然のようにデュースは私の喜ぶ言葉を返してくれる。そりゃそうだよ、だって私の夢だもん。欲しいものに溢れてて当たり前。なのに思わず嬉し涙を浮かべている自分がいて。
「僕の子供を産んでくれないか、できれば三人は欲しいんだが」
「……いいよ。デュースとの子供なら、もっといっぱいでも欲しいなあ」
現実では絶対に言えない願いを口にする。相変わらず視界はぼやけてるのに、今、私の目の前にいるデュースは心からの笑顔を見せているのはわかった。だってこれは夢だから。
蕩けきった膣口へ熱が宛がわれる。いっぱい慣らしてくれたからか、先端を飲み込んだならば、そこからはぐちゅんと奥まで一気に入ってしまった。突然の刺激に体を弓なりに反らす。
いきなり膨れ上がった快感に息が詰まった。それでもなんとか逃がそうと震えていた私へ追い打ちをかけるようにデュースは奥を突いてくる。急に電気を付けられた時のようにばちんと目の前が白に染まる。
「や、ぁああ、まって、だめ、でゅーす」
「悪い」
お願いしたのに、謝ってるくせに、それでも容赦なくデュースは私の体を揺さぶってくる。再びすぐに上り詰めて、びくびくと全身が震える。けどデュースは止まらない。ずりずり引き抜いて、ぐんと深く押し込んで。
強引だ、激しすぎる。心ではそう思ってる、だけど体は待ちわびてた熱に喜ぶばかりだ。ぎゅっと抱きついた肌は溶け合ってしまいそうなほど熱い。このままくっついていたなら私達の体は混ざり合って、そうして一つになってしまうんじゃないだろうか。
唇を塞ぎながら、デュースが私の一番奥へと張り出した先端を押しつけて果てる。一際熱いものを奥へたっぷりかけられる感覚に腰がびくびくと跳ねてしまう。
「……足りない」
「ひ、あっ」
ついさっき出したばかりなのに、もう中のデュースは固く大きくなってて。とんとんと奥を叩いてくる。さっきよりは穏やかな動きだけど、何度も絶頂を迎えて敏感になっている私にとってはそれですら強すぎる。
ぐいぐい奥を擦られ、そのうち差し込まれた先端がはまって。過ぎた快感に逃げようとすれば腰を掴まれて、いっそう貪られる。
まったく余裕を感じられないまま腰を振るデュースと目が合った。さっきまで獣じみた目つきをしていたのに、私の瞳を見た途端、彼の青色はとろりと愛おしげな眼差しに変わる。ずるい、そんな間接的な刺激にすら私の体は煽られて達してしまう。
それによって中が彼の熱をぎゅうと締め付けて、吸い付くようにして彼の精液を搾り取る。もう限界だと思ってたはずなのに、いつの間にか私の体も欲しいと訴えかけてくるようになっていて。そうしてお互い数え切れないほど上り詰めていく。
「でゅーす、すき、おねがい、ずっと、ずっと、いっしょにいて」
もし本当にデュースのお嫁さんになれたなら、たくさん子供に恵まれて。近所でも評判のカッコイイおまわりさんのお父さんのことを、きっと私やお兄ちゃんみたいに子供達は憧れてるんだろうな。それから大好きなお父さんが仕事から帰ってくるのを子供達と待って、帰ってきたデュースに笑っておかえりって、そう言えたら、良かったのに。
「僕も愛してる。今度は離さない。大丈夫、これからはずっと傍にいるからな」
ああ、本当に良い夢だ。泣きたくなるくらい、幸せな。