明月ばかりと思うなよ 02

 ——どうして自分はあんなことを言ってしまったのだろう。

 男は共同部屋の己に割り振られたベッドの上で後悔の念に駆られていた。
 今から数時間前のことだ。男は長らく想いを寄せていた少女から愛の告白を受けた。貴方が好きです、そう言葉にしながらまっすぐ自分を見つめる瞳には曇り一つ無かった。
 だというのに男は彼女の想いを素直に受け止められなかった。気付けば心にもない暴言を少女に浴びせていた。
 彼女とは友人として数年掛けてゆっくりと親交を深めてきた。だから断られるにしたって、まさかそんな風に拒絶されるなど思ってもみなかったのだろう。ごめんなさいと震わせた声、去り際に見せた傷ついた表情が頭から離れない。

 少女は魔力を持たない身でありながら、このナイトレイブンカレッジを生き抜く強さを持っていた。そんな彼女の周りにはいつも自分より優れた男がいて、なんなら過去の寮長や副寮長の中には彼女に想いを寄せる者もいた。
 百年に一度の黄金時代、それほどの歴史を築いた者に愛された彼女。それに対して自分はどうだ?
 どこにでもいるただの一寮生。いつも彼女の一番近くにいる男達は寮長と副寮長を務めたというのに、自分はこの学園で何一つ残せなかった。卒業した後の進路だって魔法士としての活躍が期待されているあの二人と違って輝かしいものではない。
 そんな自分が彼女に好かれる理由がわからなかった。彼女の気持ちが信じられなかった。そして彼女を傷つけてしまった。全ては自信のなさが招いたこと。

 まあやってしまったものは仕方がない。でも大丈夫。だって彼女はあのエース・トラッポラでもデュース・スペードでもなく自分を選んだ。そう、彼女は自分が好きなのだから!
 ならば今までのようにそのうち二人きりになる機会も巡ってくるだろう。
 その時、彼女に弁解しよう。あれは緊張のあまり出てしまった、ただのジョークなのだと。そうして交際に至った暁には彼女の面倒を見てやるとしよう。
 彼女の体質を考えれば水商売ぐらいしか就ける職はないだろう。生活のため致し方ないにしても恋人が他の男にこびを売るところは見たくない。

 そうと決まれば話は早い。いつまでもくよくよ悩んでいないで、今日はさっさと寝てしまおう。
 明日になれば、明日が無理でも近いうちに、自分と彼女は結ばれるのだから。そういう運命の中に自分はいるのだ。
 一人で百面相を浮かべる男にルームメイト達は気味悪がっていたが、男が眠り始めたのを機に部屋の電気を消す。

 全ては過ぎた事、正しくその通り!
 何も知らないまま呑気に眠る男を笑うかのように、締め切られたカーテンの向こう側で明月が爛々と輝いていた。

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