唇は私だけにしてね 04
「あれ? スカリーくん……?」
今日も今日とて、また一人、私は失恋ボーイを生み出していた。モテる女はつらいわーとか冗談でも言えない。スカリーくんが心配そうな表情で見つめてくるので。
今回呼び出されたのは植物園だった。レオナ先輩スヤスヤスペースと、サ部やキノコ研究会……違った、山を愛する会が使ってるスペースさえ避ければ、放課後は意外と人がいなかったりする。だから中庭の次に告白場所に選ばれることが多いのだ。
女の子は花が好き!ってことで植物園に呼び出すのは全然いいと思う。でもさすがに満開だからって野菜畑をチョイスするのは間違ってると思うんだよ、名も知らぬイグニハイド一年生くん。オクラとかレタスとか特に可愛いけど、こちとら家庭菜園やってるから実の方が頭に浮かぶんだわ。いいなあ、豊作になりそうで。
さーてとりあえず終わったし帰るか、そう踵を返したところ、遠目にスカリーくんがいるのが目に入った。何してるんだろ。
「スカリーくん、何見てるの?」
「わっ。さんでしたか」
「驚かせちゃったね、ごめん」
「いえ、我輩も周りを見ていなかったので……」
近寄って声をかける。集中していたあまり、スカリーくんは私の接近に気付いてなかったらしい。
驚かせてしまったことに謝る。それに優しく返してくれた後、彼は小首を傾げた。
「さんはこちらで何を……ああ」
「うん。いつもの、だね。あ、そんな不安そうな顔しないで! 別に普通の告白だったから! 元の世界でされたような『お前で昨晩ヌいたわww』とかじゃないから!」
「……最低すぎませんか」
「最悪だった。五発ぐらい殴っとけばよかったな」
心底不快そうに顔をしかめるスカリーくん。あのクソ野郎はまじで一生許さないけど、見た事ない彼の表情を見せてくれたことだけは感謝してやろう。
自分から作り出しておいてなんだが、この空気を終わらせたくて何かないかなと目を動かす。ならば吊すところがなかったからか、地面に置いてあった看板が視界に入った。
「へー食虫植物コーナーだったんだ、ここ」
「はい。先日見た映画で興味が出てきまして……」
クソデカ吸血植物が人をバクバク食べていくって話なのだが、根っこを足みたいにしてめちゃくちゃ移動するのが何となくシュールで。ホラーっていうよりはコメディ寄りの作品だった。
でもスカリーくん的には刺さるものがあったのか。まあ食虫植物ってホラーの題材に向いてそうだもんね。
彼に並んで、ガーデンラックに整列する鉢植えを眺める。これがハエトリソウで、こっちがウツボカズラだったよね。さすがにラフレシアはないか。いやあっちゃダメだわ、あれは。
他にも見た事のない植物がたくさん並んでる。食虫植物って結構種類があるんだなあ、知らなかった。ハサミとか見当たらないけど、これとかどうやって虫捕まえるんだろう。
そんな風に観察していた中に一際目を惹く花があった。すごく綺麗だ、もっと間近で見たくて思わず顔を近づける。
「ダメです、さんッ!」
「えっ? ひゃっ」
腕を掴まれ、思いっきり後ろに引かれる。瞬間、花から飛び出た何かが私の体にかかった。
この植物園には生死に関わる危険植物は置いてない。あったとしても厳重に管理されている、とクルーウェル先生から聞いていたせいで油断していたけど、スカリーくんがひっぱってくれなかったら目に入っていたんじゃないだろうか。
「スカリーくん、ありがとう……。ってうわ、何これ、臭いしベトベトしてる……洗濯で落ちるかな」
服の上だったから気付かなかったけど、胸にべっとりと白い謎の粘液が付着している。毒液かもしれないから触れないけど、こぼれ落ちないところからして、かなり粘度が高そうだ。
あと、とにかく匂いが酷い。植物由来はずなのになんでカルキ臭するんだ、腐敗臭よりはマシかもだけど。
うえーっと嫌な顔をしていれば、地面に赤いシミができる。なんだなんだ?
「スカ……って、わ゛ぁあーーー?!?」
「さん、ご安心下さい、すぐ洗浄魔法かけますので」
「ありがたいけど、そのすごい鼻血止める方が先じゃないかな!!?」
私に言われて気付いたらしいスカリーくんがさっと鼻の下を片手で覆う。違う違う! 隠してほしいわけじゃなくて!
突然のことに私がパニックになっている間に彼が洗浄魔法を唱えてくれて、謎の粘液はきれいさっぱり消え去る。
それから彼は魔法で鼻血を止めていた。まほうのちからってすげー!
ただ出ていた時間は短かったけど、そのわりに結構な量が出ていた。だから立ったままだと、ちょっと辛いんじゃないだろうか。
「スカリーくん、貧血起こしてない? 横になった方がいいんじゃないかな、膝貸すよ」
「……いえ、大丈夫です。膝は、その、今は……死ぬので」
「死ぬの?!?!」
スカリーくん、膝枕されたら死ぬ呪いでもかかってるだろうか。ファンタジーな世界だからな、ありえなくはない。その場合トンチキすぎる内容的に何やったんだって話になるけど。
ひとまず呪いとか体質とかデリケートな問題だし、深掘りはしないでおこう。
「あの花、鑑賞用に使われるほど綺麗なものですから実を付ける前に摘まれてしまうのです。それを防ぐために人が一定距離よりも近づくと消化液を飛ばして威嚇するよう進化しておりまして……」
「そうだったんだ」
「主な食料である虫等には致命的ですが、毒ではないので人には粘膜に触れない限りはさほど問題ありません」
「……粘膜には危ないってことは、もしかして目に入ったりしたら失明してた?」
「いえ、めちゃくちゃ痛いだけです」
「充分嫌だな……」
なんにせよ危機一髪だったらしい。スカリーくんには感謝しても感謝しきれない。もう一度お礼を言った後、そろそろ帰りましょうかとのスカリーくんの提案に頷く。
どうせ帰るところは一緒だ。大丈夫だと言われたけど、ちょっと心配なので支えるためにも彼の手を握る。これならいざという時も安心。
そうして歩いた帰り道でスカリーくんはふらついていた。やっぱり貧血起こしてたんだろうな。繋いで正解だったね、うん!