君だけのダークヒーローになりたい 04

「今回は好きな映画のジャンルかあ……」

 勉強机に向かいながら、私は時折聞こえるグリムの寝言よりも小さな声で呟く。
 その独り言のきっかけとなった日記にはオルトくんが最近見て良いと思った映画の感想が書かれていて、その最後にさっきの質問が記載されていた。
 オルトくんとの交際と同時に始まったこのやりとりも早一月。最初こそ慣れないことにぎこちなさもあったけど、今ではわりとスムーズに進められているように思う。それから当初と比べてかなりオルトくんの文章に感情が含まれるようになった。
 「恋人関係はまず交換日記から始めるって調べたんだ」と言われた時は面食らったけれど、続けてきてよかったなあ。
 カリカリ、夜のしじまに音を響かせながら回答を記していく。こっちの世界の恋愛ものは大体好き、どれも明るくて優しくてハッピーエンドに終わってくれるから。ただ先日見た世界か恋人かを選ばなきゃいけない話で両方守り切ったのはちょっと笑っちゃった。
 そこまで書き終えて手が止まる。元の世界なら確実に片方が選ばれて苦々しい終わり方をするんだろうな。そんな私も今はもう迷うことなく、オルトくんを選ぶけれど。でもそれは選べるならの話だ。
 唇を噛みしめ、私は思わずオルトくんから貰った花の髪飾りに手を伸ばしていた。フェアリー・ギアのスペアから作ったそれは大ぶりのお花のデザインで。学校でも私生活でもかかさず身に付けていた。縋るように触れた手はかたかたと震えている。

「……やだなあ」

 忘れてはいけないけれど、思い出したくないことが頭をよぎったことに顔をしかめる。絶対じゃなくても言わなきゃいけない、でも言いたくない。相反する気持ちで心がぐちゃぐちゃになっていく。
 オルトくんが日記の締めにいつも書いてくれる『さん好きだよ』の言葉を指でなぞる。この日記のおかげでオルトくんのことをたくさん知れた、私のことをたくさんオルトくんに教えられた。そのことが嬉しいのに素直に喜べない。
 だって私はもしかしたら、想像して、ぎゅうと胸が痛む。彼が与えてくれる愛に私の答えは「ありがとう」だけ。本当は私もオルトくんが好きだって言いたい。だけど口に出してしまったら最後、その日が訪れてしまった時に耐えられなくなってしまいそうで。
 ——もし私が世界の、書きかけた文頭を消す。そして私は『今度、私に合いそうな映画教えてほしいな』と当たり障りのない言葉で文末を閉じた。

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