つまり、とこしえ 04
「すみません。お見苦しいところを……」
「よいよい。すっきりしたか?」
「……はい」
リリア先輩に裸の感情をぶつけるのはこれで二回目だ。今度こそ全部吐ききったのだろう、ずっと淀んでいた胸は軽くなっていた。
もしかして前回では解消できていなかったことにリリア先輩は気付いていたのだろうか。自分じゃ全然わかってなかったのに。
「いつでも話は聞くが、我慢して溜め込むのはもう止めておけ。お主は我を出すべきじゃ。おそらくお主なりの処世術なんじゃろうが……この世界じゃと女子は少しワガママで気が強いくらいの方がいい」
「……最初、先輩に八つ当たりした時みたいに?」
「もっとガンガン決めてよいぞ」
「あの癇癪、我ながらかなり酷いと思ったんですが」
「あんなの癇癪のうちに入らんじゃろ」
「えぇ……」
あれでその評価ってツイステッドワンダーランドの女性はどれだけ苛烈なんだ……。
この世界で出会った女性達を思い返す。イライザ姫、マルヤさん……あと男の人だけど先輩の身近にいたのはツノ太郎……うん、なんか納得しちゃったな……。
「さて、わしとしては今ぐらいの時間帯が本領発揮なんじゃが……。そろそろお暇しようかの」
「わかりました。今日はありがとうございました!」
「あ、帰る前に一つ確認しておきたいんじゃが」
先輩のあまりに広すぎる許容範囲に遠い目になっていた私だが、彼がベンチから立ち上がったのを機に我に返る。
三歩ほど歩んだ後、何かを思いだしたらしい先輩が振り返った。
「とりあえずお主の母親を全力で呪ってもよいか」
「よくはないですね?!」
「心配せんでもよい。こうちょちょいっと死ぬより辛い運命を歩むようおまじないするだけじゃ」
「効果音に対してハードすぎる!! なんでそんな物騒な発想になっちゃってるんですか!?」
妖精族は人間とは思考が違うのは知っていたけど、だとしても唐突な申し出に混乱は避けられなかった。
なんで帰ろ〜から呪っちゃお〜にシフトしたんだ。え、言おうとした矢先に私が泣き出したせいで動揺して忘れてた? ごめんなさい。いやでも、本当になんでそんな考えに至ったんだ……。
「シルバーを育ててからというもの、よその子供含めて、もう子供が可愛くてのう。なんで、いたいけな幼子へ、かのような仕打ち万死に値する」
「……リリア先輩。もしかして今、激おこだったりします?」
「ましてや、ことさら気に入った相手が被害に遭ったとなるとなあ……カム着火インフェルノは免れんのう」
そう呟いたリリア先輩は瞳孔ガン開き、シンプルに怖い。あまりに怖くて、先輩が私を気に入ってくれていることを素直に喜べずにいる。これでカム着火インフェルノなら激おこスティック(以下略)とかどうなるんだ。というか先輩、ギャル語わかるんだあ……。
私としては別にあの人のことはもはや恨んでないというか、私の人生に関わらないでくれたら別に生きてようが死んでようが好きにすれば?の気持ちなんだけど。
いやでも、もし私がこのまま元の世界に戻れなかったら、私がおじいちゃんから引き継いだ遺産があの人に行く可能性があるのか。
確か何年か経ったら失踪宣告が通る。その手続きは推定相続人が可能なんだけど、母は条件満たしてるんだよなあ。腐っても実母だし。
いやでも私、まだ正確には遺産引き継いでないんだっけ? 成人するまでは弁護士の先生が後見人になってくれてるのは知ってるけど、どういう扱いになるんだろう。
ただ私が遺産引き継いでなかったとしても、あの人が祖父の娘だと遺産相続の対象になっちゃうよね、たぶん。父親は死んでるっぽいので心配しなくていいだろう。
母の顔は綺麗さっぱり忘れてるし、周囲もまったく母と父のことに触れないので、実はおじいちゃんがどっちの祖父か知らないんだよね。興味もなかったし……。
そう考えると私とおじいちゃんは絶対血が繋がってるって確信できるレベルで顔そっくりなのは幸いだった。いや万が一、母の顔を覚えててもわかんねーわ。あの人、ずーっと鬼みたいな形相してたし。
うーん、大伯母様と大叔父様が遺産引き継いでくれるならいいけど、あの人にはびた一文渡ってほしくないなあ……。
おじいちゃんのことだから、そこら辺、抜かりなく手を打ってくれてそうな気もするけど。
色々考えた末に「もうめんどくせえ!」という結論を叩き出してしまう。こういうとこ、たぶんおじいちゃんの血筋なんだろうなあ。思考を放棄した私はリリア先輩と見つめ合いながら、ぐっと親指を立てて。
「先輩、いっちょ良い感じにやってもらっていいですか!」
「わしに任せよ!」
なお、リリア先輩のおまじないの成果を私が知るのは少し先の事である。