つまり、とこしえ 02
「ほうほう、それはときめいてしまうのう〜!」
「……そうですね、すごくドキドキしました」
提出した魔法史のレポートで、特に力を入れた部分に気付いて褒めてくれた。教師からの生徒に対する、至って普通の対応。けれど先生に恋してるせいか、とても嬉しくて胸の高鳴りが止められなかった。
こればっかりはわかってもらえなくてもしょうがない。そんな心持ちで話したけれど、同意してくれた先輩に自然と笑みが浮かぶ。
放課後、時折設けられるリリア先輩との恋バナタイムだが、随分と回数を重ねてきた。
始まって数回は校舎の空き教室で話していたが、もしかしたら誰かが盗み聞きされるかもしれないという理由でオンボロ寮の談話室へと場所を移して。
それにしてもツノ太郎のお目付役である彼をこんなことの為に一生徒が独占して良いのか。念のためにツノ太郎に確認したが「かまわない」とあっさりOKを出してくれた。
ただ今度からは先輩を寮に招くことを話すと「僕とセベクとシルバーで可能な限り止めるが、お前の方で茶菓子は忘れず用意しておけ……!」と力説してきた。言われた時は疑問に思ったが、初めて先輩が持ってきたお手製の茶菓子(本人談)を見て納得したし、絶対に切らさないようにしている。
……リリア先輩との時間は楽しい。だから見ないふりをしていたけれど、さすがにいいかげん向き合うべきだろう。
「リリア先輩。もう無理に私との時間を作っていただかなくても大丈夫ですよ」
「む? お主はわしとのやりとりを楽しんでいるように見えたが……わしの気のせいだったかの」
今回で終わらせようとする私にリリア先輩がしょぼんとしてみせる。そんな風に言ってもらえるのは嬉しいけど……。
最初はツノ太郎の暴挙を防ぐため、リリア先輩が私に気持ちを吐露させなければなかった。でも理由を知った以上、私はツノ太郎に相談することはなくて。だからもう先輩が無理に私の話に付き合う必要はない。
それで名残惜しいけど切り出したのに。予想外の返答に反応に困ってしまう。
「私は先輩のおかげで楽しいですよ。でも私が提供できる恋バナって、叶う見込みも叶えるつもりもないし普通から外れてるから……聞いていて退屈じゃないですか」
「そのように卑下する必要はあるまい。お主の恋はなんとも人間らしくて好ましいぞ」
人間らしい恋? 首を傾げる私に先輩が目を細める。
先輩曰く、動物の恋は繁殖を前提としたもの。狼やフラミンゴといった一部の種族を除けば、常により相性の良い異性を追い求める。片思いの概念はあっても長くは続かず、ましてや遺伝子を残すのに不適切な相手に想いを向けることはない。
人間も動物の一種だから同じ傾向にあるが、人間の恋は時に本能を凌駕する。人は時に命を継げぬ相手でも愛し、たとえ応えられないとしても想い続けられる。正しくお主のように——
爛々と瞳を輝かせながら先輩は語る。私の恋は先輩がそう言ってくれるほど、たいそうなものじゃない。だけど反論するのは間違っている気がして口を噤む。
「そもそも恋ほど理屈が通らないものもあるまい。理不尽の極みじゃ。気付かぬうちに居座って手遅れになってから主張してきたかと思えば、恋なんぞすっかり忘れきった頃に雷を落としてくる」
「……おじいちゃ、いえ祖父も同じようなこと、言ってました」
「ふむ、お主の祖父はなんと?」
「友達が彼氏にしたいって騒ぐ同級生とかアイドルを見ても何とも思えなくて、それで祖父に相談したんですが……『恋なんて予想外のところから突然湧いてくる天災みたいなものだから、気に病まなくて良い』と」
「くふふ、なかなかに的確な表現じゃのう。その通りじゃ、下手したら天災よりもタチが悪い。それでも止められぬのだから、ままならぬものよ」
軽快な返し、楽しげに私の話に耳を傾けてくれる姿が、在りし日の祖父と被る。
見た目は全く違うのにな。雰囲気とか表情が驚くほど似ていて、これまで以上に私はリリア先輩に親しみを覚えていた。
「発言を聞く限り、お主の祖父はトレインのような固いタイプではないのか?」
「外行きの顔は先生に近かったんですけど、孫の私相手だと結構なんというか、おちゃめでしたね……」
もごもごと言い淀んだ末に、なんとか言葉を選び出す。
外ではカミソリが服を着たような男と言われていた祖父だが、その反動なのか、はたまたこっちが素だったのか。私の前ではわりとはっちゃけてたなと。
どうしても頭によぎるのは毎日見ていたユニークな姿ばかりで。リリア先輩に似てると思った手前、なんとなく気まずかった。
「私の前でも平気でおならしたり家の中だからってパンツ一丁で過ごすし、結構子供っぽいところがあってオセロで勝つまで戦い挑んできたりダジャレ連発したり」
「なんじゃ、わしによう似たタイプか」
「……えっと、その、愛情深くて物知りなところとか、あとテレビゲームがめっぽう強いところとかはリリア先輩に似てますね」
「残念ながらどんなに年を食ったところで、男は永遠のエレメンタリースクール生じゃ。年々落ち着きがあるフリは上手くなるがな」
あー元の世界で『男とは永遠の小学5年生』って聞いてたけど、こっちにも似たような言葉があるんだなあ……。ちなみに女の場合は中学生らしい。なんかわかる気がする。
アナログというか向き合ってするようなゲームは「次の手を一生懸命考えてるの可愛いさに気を取られてなあ……」と私相手だと弱々な祖父だが、頭が切れる人だったから他の人となら将棋とかも強かったし、さっき言った通りマ○カとかス○ブラに至っては毎回私がボロ負けしていた。
そういえば私以上に流行に敏感というか、新しいもの好きなところも先輩と同じだったなあ。
「トレインにもそういうところあるじゃろ」
「確かにルチウスが関わると先生、なりふりかまわないですよね。そうやってルチウスに振り回されてる姿が可愛いと思っちゃったりします」
「わしだってキュートなんじゃが?????」
「えっ、そ、そうですね……?」
言い寄られた勢いに釣られてつい肯定してしまう。なんで先輩、急に張り合いだしたんだろうか。うーん、まあリリア先輩かわいさにこだわってるところあるから、それかなあ……。
その後は特筆することもなく、他愛な話を交わすうち、あっという間に楽しい時間は過ぎていくのだった。