つまり、とこしえ 01
トレイン先生のことが好きだ。それが間違っていることはわかってる。
自分の父親どころか、祖父ほど歳の離れた人に恋愛感情を持つことは異常だと。でも私は昔からそれほど年を重ねた男の人にしか心惹かれなかった。
おそらく家庭環境が原因なんだろうなあとは思う。祖父にめいっぱい大切にされる……と、おじいちゃんっ子まっしぐらな環境で育ってきたもので。
私がトレイン先生に惹かれたのは、生活に困窮していたのを助けてもらったのがきっかけだった。クルーウェル先生やバルガス先生も同じく学園長を絞めてくれたり手助けしてくれたのだけれど、先生は娘さんがいるせいか、特に気に掛けてくれて。
ツイステッドワンダーランドへ来る直前に祖父が亡くなっていたのも影響しているのだろう。気付いた時にはこの通り。誰にも相談できず、私はこの恋心を一人で抱え込んでいた。
NRCじゃなくても、この恋心は非難の対象だろう。悪いもの、人に迷惑をかけるもの、許されないものだ。今すぐ捨てるべきだと思うほど、肥大して膿んでいく。
同年代の子達は皆、恋はキラキラしていて楽しいものみたいに口を揃えて言っていたけれど理解できない。だって私のこれはそんな美しいものじゃなくて。
せめて誰にも気付かれないうちに葬らなければ、そう決意した矢先に顔見知り程度の相手だったリリア先輩に私の恋心は暴かれた。
◇
人気がない場所だったとはいえ、いきなり逆さ吊りで現れた先輩に「おぬし、トレインに惚れておるじゃろ」と追求され、私は——怒り狂った。
あの時は自分でもどうにかしてたと思う。どうも自己否定の日々によって知らず知らずのうちにストレスを溜め込んでいたらしく、先輩に突き付けられた瞬間、決壊したのだ。
言われなくたって、この気持ちが間違ってることは自分が一番わかってる。でも仕方ないじゃないか。憧れてしまった、好きになってしまった。差し伸べられた手に愛を抱いて、その想いを心の支えにして何が悪い!
髪を振り乱し、目尻をつり上げながら私はみっともなくリリア先輩に八つ当たりしていた。てっきり私は彼が先生への恋心を非難しにきたものだと思っていたから。
『ふむ……思っていた通り、随分と鬱憤が溜まっているようじゃな。どれ、その調子でわしに吐き出してみよ』
だが、私の予想をリリア先輩は良い意味で裏切った。あれだけ見苦しい姿を見せた私に先輩は穏やかに提案してきて。
呆気に取られた私はそれから先輩に促されるまま、様々なことを語っていた。
トレイン先生が好きなこと、自分の恋愛対象が初老以上なこと、好きになったきっかけ。誰にも話すつもりはなかったから、まとまりのない口ぶりだったろうに、先輩は気長に話を聞いてくれて。
『心細い時に優しくされた、それが好みの男だった、なら惚れるのも無理はなかろう』
相手の一番欲しい言葉を与えられるのは才能なのか、はたまた年の功によるものなのか。どっちにしてもリリア先輩は私がずっと欲しかった言葉を与えてくれた。
ただ嬉しさよりも恐ろしさが勝つ。だって何故そんな優しい言葉をかけられるのか、わからない。この恋は間違ってて、それに私は先輩にあんな酷い態度を取ったのに。
『随分と自罰的になっておるが、お主の主張通り何も悪いことはない。相手がその気じゃないのに執拗に言い寄るならまだしも、密やかに想いを寄せるだけで罪になるなら、大抵のロマンスは生まれておらんぞ』
『……じゃあ、どうして先輩はこの話題を出してきたんですか』
本当に訳がわからない。諭すつもりでも、からかうつもりでもないなら、なんで追求してきたんだ?
意図がわからず私は思わず先輩に胡乱げな目を向けてしまう。さっきよりも失礼な真似をしているが、やはり先輩は気にした様子もなく「実はのお」と切り出す。
『マレウスはわし以上に色恋沙汰に疎くてな。もし恋愛相談をお主からされたら、間違いなく友人からの頼みと張り切るわ、無知故にとんでもないことをやらかす。だから、その前にわし相手に発散してもらおうと思っての』
『……私、誰にも話すつもりなんてなかったんですが』
『そうは思っていても、一人で抱え込むのはなかなかに辛いものじゃ』
リリア先輩の言葉を否定できなかった。現に私はこうして限界を迎えて、先輩に無礼を働いてしまった。それに話を聞いてもらったおかげで、心が軽くなっている自分がいる。
『これからも、ぜひお主の話を聞かせてくれんか。共に恋バナに興じおうではないか』