二度目はないって言っただろ 02

 人間として慕われていても、男として好かれているわけではない。
 監督生が己に向けている感情はそれで間違いないだろう。
 自分はこれまでまっとうな恋愛などしていないが、その判断が可能になる程度の経験は持ち合わせている。現国王と次期国王の狭間に産まれた女にとって己の存在は妥協点にちょうど良い。だから嫌というほど自分を代用品として狙った女の顔を見てきたのだから。
 惚れた女からの感情としては物足りないが仕方あるまい。今のアイツには色恋に浸れるほどの余裕がないのだ。これまで自分が築き上げてきた全てが存在しない、通用しない世界に身一つで投げ出されたのだから当然だろう。
 弱っている女は堕としやすいと言うが、それは傷つけられた直後だから使える手段であり、そもそも恋を知らない相手には通用しない。
 ただどんな形であれ、初めて自分が欲しいと思った女に好かれているのは悪くない。そもそも現状に甘えるつもりはなかった。今は好機を待つ。彼女が他者に目を向けられるようになるまで、食い応えが増えるよう育ててやるつもりでいた。

『セックスしないと出られない部屋』

 そうして着々と下ごしらえを進めていた最中のことだった。そのふざけた部屋に閉じ込められたのは。
 どこぞの不届き者の悪趣味に巻き込まれ、自分はうんざりする程度だったが、監督生は目に見えて絶望していた。
 この世界の女は強いが、それでも守られ尊ばれる立場にある。だがアイツの世界はどうも違うらしい。監督生自身は自覚していなかったが、以前聞いた話から考えるにアイツの世界においては女の扱いはあまり良くないようだった。
 そしてアイツはどうにもその感覚が抜けていないと考えられる。だからなんだろう。これだけの拒絶反応を見せながらも、アイツは自分に手込めされるしかないと思い込んでいた。

「私みたいなちんちくりんじゃ難しいと思いますが、どうかよろしくお願いします」

 己を卑下するアイツの瞳には諦念しか見えなかった。嫌な目だ、これまで何度も見てきたがそれでも慣れない。相手がこの女となれば尚更、不愉快だった。
 それにそういったお国柄とはいえ、自分の惚れた女を貶されては気分が悪い。
 俺を見くびるな。今のお前を食らうほど落ちぶれていない。怒りのままドアを破壊する。そんな俺の行動は考えていなかったのか、監督生は笑えてくるほど間抜けな顔を晒していた。

 部屋を出た後、アイツが駆けていく傍らで、誘拐犯であろう妖精を見つけて脅しをかけた。これで懲りればいいが、あまり期待はしない方が良いだろう。あの頭の悪い部屋に運ぶような奴だ、小賢しくとも賢いとは考えがたい。

「レオナ先輩」

 懸念とは裏腹にあれからは何事もなく、今まで通りの日常が戻ってきた。端から見れば平凡で退屈な、俺にとっては何よりも好ましい日々が。
 一月過ぎた今日とて、いつもの場所で横たわる俺の傍に監督生が座り込む。語りかけてくるやわらかな声に心地よさを覚えながら、時折相づちを打ってやる。
 正直なところ、コイツと番う機会を失ったことを惜しまなかったと言えば嘘になる。だがもしあの時、無理強いをしていれば、この女の心は確実に壊れていただろう。
 きっと俺の事をむやみに避けることはせずとも、もう二度と会いに来ようとはしなかった。当たり前になってしまったこの幸せはあっけなく崩れ去っていたことだろう。この出来事を知った誰かに弱虫と情けないと貶されようと、この陽だまりのような笑顔を守れたことが誇らしかった。

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