二つの椅子の間に落としてくれ 02
このとんでも案件が通ってしまった後だが、その日は焼き上がったチェリーパイを食べて、順番にお風呂入って、自室とゲストルームに別れて眠る……とお泊まりにおけるいつものコースが過ぎていった。
まあ普段通りにできていたのは二人だけで、私はぎくしゃくしてたんだけど。むしろなんであの二人、あそこまで平然と居られんの? 私一睡もできなかったんだけど。
だが次の日、開店時間になった直後に私は二人の手にモストロ・ラウンジへと連行されることになった。私達を出迎えたフロイド先輩が「今日の小エビちゃん、カクレクマノミじゃん。ウケル」とかほざいていたので私はよっぽど酷い隈を刻んでいたのだろう。笑えねえよ。
二人が私と共にここへ訪れた目的だが、エースが密かに溜めていたポイントカードを使って、アズール先輩に私が吹っかけた条件で契約書を作ってもらう為だと。
いやなんで? アレってどう考えても二人にとって圧倒的不利な条件だよね? 二人からすれば口約束で終わらせるべきじゃない? だったらほら、こう……証拠とかないだろうって丸め込んでブチ犯して快楽落ちとかできるじゃん? そうなる前に舌噛みきって死んでやるけど。なんて色々と考えてみたが、一応これは私にとって都合の良い展開のはず。なのに……なんで、私の方が追い詰められてる気がするんだろう。
というか、そうなると必然的にアズール先輩が私達の関係を知る事となる。人魚は純愛主義と聞く、ならばそんな馬鹿げた願い付き合ってられるかって感じで却下されるに違いない。
「ええ、ではその通りに」
などという私の淡い希望は軽く切り捨てられた。アズール先輩は良くも悪くもビジネスライクだったのだ。己の主義に反そうが、対価に見合うならば何でも叶えてくれる男。ある意味一番信頼できるタイプですけども。それにしても「まあチョウチンアンコウの例もありますし……」とか言っていたのはいったいどういう意味だったのか。
だが私はまだこの時点では楽観視できていた。さすがにきっと誰かしらこの歪んだ関係に苦言を呈してくれる人がいるだろうと。まあ結論から話せば、誰一人突っ込んでくれなかったんだけど。人の恋路に下手に口出しするもんじゃないとはよく聞く話だけどね。総スルーとか想像できる? 少なくとも私はできなかったよ……。
エースもデュースも私達の関係を隠さなかった。むしろ積極的に広めていたように思う。実際そうなんだけど「二人とも私に二股掛けられてることになるから止めときなよ!」と言い聞かせたが、二人とも気にも止めなくて。
私が悪く言われるのは良いのだ。元の世界の血縁のせいでそういう目で見られるのは慣れてるから。男好きだの、淫売だの、そんな普通の女の子なら泣いちゃうような暴言だって今更傷ついたりしない。
でも私が不誠実なせいで二人がかかなくていい恥をかくのは嫌だった。恋愛的な意味じゃなくても、友達としても彼らのことが好きだったから。
ただ結局いらない心配だったんだけど……。私の不安は余所に忠告する人同様、ちょっかいかけてくる人もいなかったのだ。私達の関係を知ったところで「へえーそうなんだ、それより今度の魔法史のテスト範囲どこだっけ?」ぐらいの反応。この世界って道徳観念、存在してないの?
セベクは「妖精族が気に入った人間を何匹かで共有するのはそう珍しいことでもない」だし、エペルは「ミツバチと一緒だね」で、あの伴侶は生涯一人って決めてるジャックですら「合意の上ならタマシギみたいなもんだろ」なんて感じにさらっと受け入れてしまった。聞いた時は深く突っ込まなかったけどナチュラルに妖精族怖いんだけど、あとアズール先輩といい動物に例えるの流行ってんの?だとしても魚・虫・タマシギは調べたところ鳥だった……うーん、共通点イズ何?
そんなこんなでお付き合い開始二日目の契約書発行(強制)イベントが発生してからというもの、これといった問題も起きぬまま私達の交際は続行されてしまった。この関係自体が大問題なのにね、いやまじでどうなってんだこの世界。
学園長とて「不純異性交遊は良識の範囲でお願いしますね」と、戒めかなあ?レベルの発言しかしなかったし。不純異性交遊の時点でモラルがくたばってるんだよなあ……。一行で矛盾しないでほしい。【急募】ツッコミ。いや本当に。