二つの椅子の間に落としてくれ 01
「じゃあ三人で付き合えば良くね?」
「そうだな。うん、それがいい」
「…………は?」
今から数分前のこと、私はエースとデュースの二人から告白された。
あれは……と回想するにしては先程過ぎる話なんだけど、いつものようにお泊まりに来ていた二人に夕飯を振る舞った時のこと。今日のタイムセールで大活躍してくれたデュースをねぎらう意味でたくさん卵料理を作ったのが、それに感極まったらしい彼がいきなり真剣な顔で「やっぱり僕はが好きだ」と口にしたのだ。
といっても私はこの時点ではデュースの告白を単なるジョークだと思っていた。あまりに唐突だったし、エースも同席していたし。あいにくそれまで告白をしたことも、されたこともなかったが、そういった雰囲気ではないことぐらいはわかる。
だから「そんな事言ったってデザートはプリンにならないよ」と返すつもりだった。暖まったオーブンの中でチェリーパイに焼き目がつき始めてる状況だったから。
「エース、お前は僕のこの気持ちを勘違いだと言っていたが、やっぱり僕はが好きだ」
「は?」
なんでここでエースが出てくるの。
どういうことなのか。混乱しながら説明してくれとデュースの向かい側へ視線を向ければ、頬杖を突いたエースは面白く無さそうな顔をしている。
「なーんだ、気付いちゃったか」
「わかっててはぐらかしたのか、マブなのに酷いな」
「だってオレもの事好きだし」
「は??」
混沌に更なるカオスをぶっ込むな。かろうじて口から出ていく一文字に精一杯その思いを込めたが、状況は一向に改善の余地なし。私を置いてけぼりにして火花を散らす二人に口端が引きつる。少なくともやだ私マブから好かれすぎ?とかジョークを言える雰囲気ではなかった。
そうでなくても冷や汗が止まらない。なにせ私はもし万が一、この二人から告白された時には絶対断ろうと心に決めていたから。
「というわけなんで、、オレと付き合ってよ」
「さっき言った通り、お前が好きなんだ。だから僕の恋人になってくれ」
私の左手を握りこむエース、右手首はデュースに掴まれていた。二人とも逃がしてくれる気はないらしい、だからってステレオで告白すんな。
前持って雰囲気があったなら、あるいは一人ずつなら、ちゃんと心の準備を整えて対応できていたと思う。二人をごまかせるほどの言い訳を口にできていたはずなのだ。
だが現状はどうだ。このずるい男共は選択の余地も思考する間も与えてくれやしない。この一瞬でキャパシティをオーバーさせられた結果、私は馬鹿正直に白状してしまっていた。
「ごめん、私、二人とは付き合えない! 二人ともが好きなの! どっちとか選べないんだよ!」
断るという本来の目標は達成したものの、隠し通すべき本心を暴露してしまったことに青ざめる。ああもう何やってんだ自分。
そう、私はエースとデュースに恋していた。二人の事が男の人として好きだった。気付いた時は自分の不誠実さに反吐が出たし、きっと知られたら二人と友達でいられなくなってしまうだろうと。やっぱり自分はあの人の子供なのだなと悲しくなった。
だから絶対に誰にも悟らせるつもりはなかったし、万が一両思いになったとしてもこんな気持ちで応えるのはあまりに失礼だから断ろうと決めていたのだ。
それでこれからもずっと友達でいようと。けどこんなロクでもない女と知られてしまった今、元の関係を続けるのは難しいだろう。軽蔑されても仕方ない。ぎゅうと痛むのは胃か心臓か、自業自得だけども彼らに嫌われたであろう恐怖から二人の顔が見れなかった。
「じゃあ三人で付き合えば良くね?」
「そうだな。うん、それがいい」
「…………は?」
回想終わり。思い返してもなんでこんなことになってるのか、さっぱりわからない。
たっぷり数秒置いて返したはずなのに、やっぱり私の口から出たのはその一言だけ。ちょっと待て、私まったく飲み込めてないんだけど、何二人とも納得した顔してるの。
「いやいやいやダメでしょ! 二人とも自分達が何言ってるのかわかってる?! 二股かけられるってことだよ、ガッツリ浮気じゃん!! 私、二人にそんな酷いことしたくない!」
「選べねーならしょうがなくない? それに他の奴だったら何が何でも蹴落としてたけど、デュースなら別にいいかなって」
「僕もエースならかまわない。それにフられるくらいならどんな形でも結ばれたい」
「二人とも倫理観死んでるの?」
今時の若者怖い。いや私も今時の若者なんだけど。話が通じない。二人からあの人と似たようなものを感じて頭を抱えた。
突如はたと思い当たる。こんなイケメン共のことだ。私と違ってあの人みたく恋愛経験豊富で、故に恋愛観もとち狂ってるんだろう。だったらその点を突いてやればいいんじゃないか?
微かに見えた勝機を胸に私は意気込む。なんとか二人の提案を覆さなければ、と。あといいかげん手離してくれないかな……。
「そりゃあ二人はカッコイイから、過去に彼女とかいっぱいいて、そういう爛れた恋愛に慣れてるのかもしれないけど……」
「はあー? お前が初めての彼女ですけど〜」
「……僕に至っては初恋だぞ」
「いっそうダメじゃん! 初カノ初カレってもっと甘酸っぱいもんでしょ!! こんな不健全な関係あってたまるか!!!」
そしてしれっと彼女にカウントするんじゃない、トラッポラ。私さっきから全力でお断りしてるでしょうが。
下半身が緩い奴は大嫌いだが、これほどヤリチンでいてくれと願ったことは初めてだ。いっそセフレになってくれと言われた方が百倍マシだった、それなら次の日から兄弟みたく生ゴミを見る目を向けるだけで済む。
さっきから叫びすぎて喉が痛い。ついでに頭も痛い。それは悩みによるものなのか、はたまた酸欠だからなのか。
現実逃避しはじめていた私だがそれも長くは続かなかった。握られていただけの左手が恋人繋ぎにされ、無防備な右手にデュースが唇を落とす。驚くあまりヒュッと喉から変な音が鳴った。左右からの視線が私に集中する。
「オレ、お前のこと本気で好きだよ。だからの恋人にしてよ、絶対に幸せにするから」
「初恋は叶わないと言うけど僕はじゃないとダメなんだ。僕の最初で最後の人になってくれ」
顔面の有効活用とプロポーズじみた言葉やめてくれ。私が面食いな上おねだりされると弱いのわかっててやってるだろ、タチ悪いな!あ〜〜いやだいやだって思ってるのになんでこんな所ばかりあの人に似ちゃったのかなあ。血の繋がりがただただ憎い。
思考回路をぐっちゃぐちゃにされながらも、どうにか打開策を頭の中で練る。しばらくして幸いにも一つだけ浮かんだ。
きっとこれはヤりたい盛りの十代男子にはキツいだろうと。その代わり私の貞操はヤバいかもしれないが、二人が絶対交際するという意志を曲げない時点で既に危機的状況だし。浮気とか絶対許せないけど、だからこそ名案に違いない。
「付き合うに当たって二つ条件。それが飲めないなら付き合えない」
「条件、ねえ。一つ目は?」
「二股かけようとしてる私が言うとあれなんだけど、浮気しないで」
「当たり前だろ。で、二つ目はなんだ、?」
「……結婚するまで処女はあげられない」
比較対象がアレなので私の基準は若干狂ってると思うが、それでも好きな子と付き合いながら手を出せないというのは男性にとっては耐えがたいものだということは知ってる。彼女がエッチさせてくれないから浮気したなんて話ザラだし。
勝算はあった。そんなの無理ってことでお付き合いの話自体が破綻するも良し、付き合い始めたとしてもどうせ欲求不満に耐えきれず破ってくれるだろう。って油断は禁物だな、どうせなら逃げ道を完全に塞いでおかないと。
「浮気したり無理矢理私の処女奪ったりした時点で強制終了、連帯責任で二人とも別れるから」
うん、これで完璧だろう。二人にバレないよう、そっと息を吐く。
こんな理不尽な条件飲むほど二人ともバカじゃない。それで良いのだ、二人にわざわざこんな見えてる地雷踏ませたくない。二人には私みたいな可愛げも魔力もない女より、もっと可愛くて魔法が使えて一途な女の子がお似合いだ。それに私の今の夢は大事な親友達の結婚式で「お幸せに!」ってお祝いすることなんだから。
だがそんな呑気な事を考えられていたのは二人が顔を見合わせるまでのほんの一瞬だった。
「その話乗った」「上等だ、二言はないな?」
「……え?」
なんで二人とも笑ってるの?私滑らない話とかした覚えないんだけど、むしろロクでもない条件吹っかけたよね?
ニマーっと二人して浮かべた悪い顔にたっぷりあった自信が途端にしぼんでいく。にぎにぎと恋人繋ぎしている指を絡ませながらエースは言う。
「ってばバカだよなあ。まあそんなところが可愛いんだけど」
「まったくもって同感だな」
訳がわからない。混乱が丸々顔に出ていたのだろう。おなかが真っ黒ですと自己申告してるかのような笑みをしたデュースが私の耳に触れる。くすぐったさと、えもいわれぬ恐怖に「ひっ」と短い悲鳴が私の口から零れていた。
「抜け駆けできない、つまり足を引っ張れないんだ。じゃあ僕とエースはどうすると思う?」
「……知ら、ない」
「ハハッ、ってば相変わらずにっぶいな〜。正解は『手を組む』でした〜」
怯える私を楽しげに二人のヴィランが嗤う。二兎追うものは一兎をも得ず、じゃあ二人で一兎を追うなら?
「……勝負で一番怖いのって仲間割れからの潰し合いなのにな」
——エースの嘲笑いながらの呟きにようやく私は自ら数少ない逃げ道を塞いだことに気付いたのだった。