恋するタイムパラドクス 04

「なんか凄い夢だったのはわかるんだけど、思い出せないんだよなあ……」

 朝食を終え、私達は早速レポートの執筆に取り組んでいた。今日と明日は休みで余裕があるとはいえ、こういうのはさっさとやるに限る。ただでさえ夢って忘れやすいものだしね。
 だが残念な事に起きて間もないにもかかわらず、というかもう起きた時点で私は夢の内容を忘れてしまっていた。ペンを顎に当てて、うーんと悩んでみるが全く出てこない。

「ねえデュース、昨日の夢、どんな感じだった?」

 ならばとテーブルの向かい側に座るデュースへ尋ねてみる。実は今回の件について彼にかなり期待を寄せていた。というのも朝からデュースはやたら上機嫌で。
 もしかしたら私が覚えていない夢は相当嬉しい内容で、それでこんなご機嫌なのではと推測していたからだ。

「悪いが昨晩の僕は何の夢も見てないんだ」
「えっ、そうなの? 参ったなあ……」

 だが現実は非情である。期待は大きく裏切られ、私以上に酷い状態だった。悩んだことで俯いた私はぐりぐりとメモの端っこでペンを走らせる。一瞬、視界の端で何か光ったような気がしたが、たまたま外から差してきた日の光だろうと気にとめなかった。
 成功していれば二人ともしっかり覚えているはずなのだが……。参考用に傍に置いていた教科書をめくる。効能等ざくっと確認してみたが、うん、合ってるよな。先生にもお墨付き貰っていたこともあり、調合内容には問題無さそうだった。となると、やっぱり私の体質のせいで無効化されてしまったのだろうか。
 かたやおぼろげ、もう片方に至っては見てないと来た。失敗した内容をレポートにするにしても原因がハッキリしない以上、書きようがない。

「何にせよ、クルーウェル先生に相談しなきゃだめそうだね」
「その必要はねえよ、俺は覚えてるからな」

 違和感に顔を上げる。……どうやら、さっきの光は彼が色変え魔法を使ったことによるものだったらしい。あれだけ苦手としてたのに、一発で成功するなんて凄いと褒めてあげられる気概は今の私には無かった。
 脱色されたかのような金髪、異なる一人称、乱暴な口調、そしてあくどい顔。そんな目の前の彼の現状が引き金となり、あやふやだった記憶がハッキリと輪郭を持ち始める。同時に思い出してしまった醜態に私の体は温度を上げていった。

「なんだちゃんとお前も覚えてんじゃねーか、
「こ、ここぞとばかりに名前呼びやがる……」
「そりゃあな。"僕"が言っただろ、ずっと好きだったって。俺はあの日からずっとお前が好きだった、一日たりとも忘れたことなんてねえよ」
「……ソウデスカ」

 私からすればさっきの今の話だが、彼からしてみれば長い間、煮詰めてきたのだろう。やけに熱の籠もった台詞だった。だが羞恥心のあまり、私は素気ない返答しかできやしない。普通に恥ずかしくて死にそう。というか時間軸どうなってんだ。
 こうやって黒歴史を出してきてまで、私を追い詰めにきてるのは件の夢の仕返しなのだろう。いや私、別に君をわざと泣かせようとしたわけじゃないですけど!
 でもあいにくデュースもかの闇の鏡に選ばれたヴィラン、やられた以上はやりかえさなければ気が済まないらしい。

「そのまま書きゃあいいだろ、夢の中で私は過去の俺と『仲良く』しましたって」
「んなこと書けるかーーーー!!!!!」

 半泣きで叫んだ私の言葉がオンボロ寮を揺らす。それにデュースはたいそう意地の悪い笑みを浮かべるのだった。

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