かっこいいヴィル様いません 02

「アタシと付き合ってほしいんだけど」
「はい! わかりました! どこへですか?」
「定番のボケかましてるんじゃないわよ」

 なんてやりとりを経た後「アンタに恋人になってほしいってこと」と色気たっぷりに告白され、交際を始めて早三ヶ月。
 寮長の業務にお仕事、部活動などなど多忙ながらも先輩は私と過ごす時間を捻出してくれて。私が学園長の雑用で先輩との逢瀬を邪魔されそうになった時はサバナとポム寮の先輩(ビルカン?過激派と名乗っており、よくわからないが私達の交際を応援してくれているらしい)に学園長を縛りあげてもらい。
 そんなこんなで私達のお付き合いは順調に進んでいる……かのように見えた。が、残念ながら、私はこの交際において、ある悩みを抱えていた。

「……あら、ごめんなさい。外で待ってるから着替え終わったら教えてちょうだい」
「どっちのランジェリーがいいか? ……そうね、こっちのデザインの方が似合うんじゃない?」
「泊まっていけばいい? だめよ、毎日のケアもトレーニングも自室じゃないとできないもの」

 一番最初は鍵をかけ忘れ、着替えているところを先輩に見られた時。二番目は結構きわどい下着のカタログを見せながらアドバイスをもらった時。最後はオンボロ寮でおうち(?)デートをした別れ際に宿泊を勧めた時の台詞。
 一個目は完璧なハプニングだが、もう二つは私なりに恋人としてステップアップする為に行った作戦なのだが、どの場面においても先輩は涼しい顔で受け流していた。
 私の悩みというのはこの通り、びっくりするぐらいお付き合いが健全過ぎることである。三ヶ月あれば普通キスより先の段階にも踏み込んでいるものじゃないんだろうか。いやキスすらされたことないんだけどね!
 ハグは事故みたいなもので付き合う前に体験していたが、これじゃあんまり付き合う前と変わらないような。
 やっぱり私みたいな平凡な女ではそんな気になれないんだろうか。顔はともかく、おっぱいはそれなりに悪くないと思うんだけど。あーでも先輩、仕事柄もっとスタイル良い人を山ほど見てるからなあ。私の乳なんてただの脂肪の塊ぐらいの認識なのかも。

「はぁ……」

 悪い方へ悪い方へ考えてしまったせいか、歩みが鈍る。さっきまでこれから先輩と過ごせるからウッキウキしてたのに。
 のろのろ動いていたにも関わらず、気付けば目的地に辿り着いてしまっていた。腕時計を確認し、随分早く着いてしまったことを知る。立ったままもなんだろう、仕方ない。ため息混じりにベンチへ腰掛ける。

「何かお困りかい?」
「ひっ」

 真後ろから聞こえたCV石○彰に思わず座ったまま飛び上がる。
 直前まで周囲に人気はなかったし、気もそぞろだった。だから大げさなぐらい驚いてしまったのだけれど。
 心拍を落ち着かせるように胸を押さえていた私の正面へ彼は姿を現した。それにしても相変わらず裏切りそうな声してるな、この妖精。
 訝しげな私の前で佇む彼はどこか含みのある笑みを見せている。その顔が安心させる為のものなら大失敗だ、不信感しか覚えない。少し前、私とヴィル先輩はこの妖精に悪戯を仕掛けられた経験もあるので余計に。
 思わずファイティングポーズを取る私に、男女カップル応援したい妖精こと、このお節介妖精は「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか」と悲しそうな声色を出している。だけど目が笑ってんだよなあ……。

「彼との関係で悩んでいるんだろう? 僕ならきっと力になってあげられるよ」
「結構です」
「つれないなあ。まあ君の悩みは把握済なんだけどね。彼が自分に魅力を感じているのか、わからなくて不安なんだろう?」

 図星を突かれて目を見開く。言葉こそ出さなかったが、その行動を見れば的中したのは一目瞭然だっただろう。
 まるで舞台俳優のようにおおげさな動きをしながら、妖精は「なんたって僕は男女カップル応援したい妖精だからね。カップルのことならなんでもお見通しさ」と主張していた。その通りとはいえドヤ顔腹立つな。あとなんかやっぱ身振り的にも黒幕感あるなあ、学園長並みに。

「だから君にとびっきりのおまじないをかけてあげよう」
「いらないって言ってるじゃないですか、帰れ」
「遠慮なんていらないよ」
「人の話聞けや」

 うっかり口が汚くなるぐらいキレてみたものの、完全無視で妖精は私へキラキラした光を撒き散らす。魔法だってわかっていても鱗粉みたいでなんか嫌だ。
 目的を達成して満足げな顔をしているのにまたイラッとしつつも、どういう効果なのか確認する。私の質問に妖精は微笑んで。

「君の悩みが晴れるまで、彼の頭の上に昨晩君をオカズにした回数が表示されるだけだよ」
「なんて?」
「ああ、残念だけど時間が来てしまったみたいだ。アディオス!」

 私の思考を置いてけぼりのまま、妖精は一瞬にして姿を消す。あんなに的確に悩みを当てておいて、なんで対応策がそうなるんだ。妖精族ってマジでわけわかんないな……と遠い目をしていれば、足音が近づいてくる。
 この中庭の外れにまっすぐ向かってくるのは彼だけだろう。さっきまでの不快感はどこへやら。唇が緩む。とびきりの笑みを見せるように顔を上げた私は彼の姿を捉えた瞬間、硬直した。

「待たせたわね。さっきまで誰かいたの? 話し声が聞こえたような気がしたんだけれど」
「…………」
?」

 無言で顔をガン見する私にヴィル先輩は戸惑っているようだった。正確には彼の頭上の数字を見ていたわけだが。
 先輩の頭の上には『1』とカウントされていた。古のワードアートのようなレインボーの書体で。きっと今の私は某蜂蜜大好きな熊が書類を見る時のような表情をしていることだろう。
 妖精の言葉が真実なら、私は先輩の頭の中でエロい目にあったことになる。だがあいにく昨日はそんなことになるような出来事はなかった。
 せいぜいお風呂上がりに十分程度テレビ電話したぐらい。それも殆どお説教だった。質の良い睡眠のためにもパジャマはちゃんとしたのにしなさいと、エースのお下がりのTシャツを寝間着にしていたことをしこたま叱られたわけだ。先輩の美学によっぽど反していたのか、先輩は一切反論させないような気迫を見せていて。
 と、終始こんな感じだったので、先輩の夜のお供になるような要素は全くないように思う。なんかの間違いだろう、うん。

「すみません、ぼーっとしてました。あとヴィル先輩以外は来てないはずなんですけど」
「アタシの気のせいかしら……まあいいわ。隣、失礼するわね」

 一緒にベンチへ腰掛けて、いつものようにおしゃべりする。距離は近い。けれどまだ友人関係の時だって同じ事をしていた。
 ふと会話の最中で、ある考えが頭をよぎった。妖精の魔法はおそらく不発に終わったはず。でも、もしかしたら。もしあの魔法が本当なら、間接的な接触でアレだとするとスキンシップはもっと強力な刺激になり得ることだろう。
 だから淡い期待を込めて、ハンドマッサージと称して先輩の手に触れさせてもらう。といってもただちょっとばかし手を揉み込んだだけ、えっちな要素は特にない。
 なのできっと明日の数字はゼロか1のままで、それから効果が間違っていると判明するに違いない。

 『3』

 増 え と る
 なんでや工藤。思わず脳内の高校生探偵に問いかければ「知らんがな」と返されたが、コ○ンくんはそんなこと言わない。と、おおよそ5秒程度で解釈違いからのセルフツッコミまで済ますぐらいには私は動揺していた。

「どうしたの? そんなところに突っ立ってないで座ったら?」
「あ、はい。失礼します……」

 今日はヴィル先輩の部屋にお邪魔しているのだが、入り口で固まっていた私はソファの、彼の隣へ促される。この部屋に訪れるのは始めてじゃない。緊張しないと言ったら嘘になるが、それにしても手と足が同時に出るという何とも不審な動きを私はしていた。
 こんな連日、先輩と過ごせることなんて滅多にないから素直に喜びたいのに、妖精からのお呪いのせいで変に動揺してしまう。
 いやちょっと待て。私が勝手に思い込んでるだけで、まだあのお呪いが本物だって決定したわけじゃないし。むしろこんな風に焦る方が妖精の思うツボでは? 心の中で例のポーズを取りながらメンタルリセットォー!と叫ぶ。
 それにあんな数字よりも先輩の美貌の方がよっぽど目を惹くだろう。特にほら、今みたいに目の前にあったら他なんて何も見えな……。

「ミ゛ッ」
「……昨日も手を触ってて思ったけど、アンタどこも小さいしやわらかいわね」

 至近距離どアップで先輩の美貌を浴びた私はまたしても奇声botと成り果てていた。唇に添えられた先輩の指が感触を確かめるようにさする。あーっお客様!!いけません!!困ります!!!そういうなんか唐突なスキンシップは困ッーー!!
 混乱の末、ぎゅーっと目をつぶってヒンヒン言っていれば、むにっと緩く頬をつままれる。そしてクスクスと笑い声を先輩は漏らしていた。

「そんなに怯えなくても食べたりしないわよ」
「ホントに……? 私のほっぺた、マシュマロみたいで美味しそうって言われましたけど……」

 前、ヴィル先輩から貰った洗顔道具一式を使ったところ、肌がもちもちぷるぷるになって、思わず友人達に自慢しにいったのだ。
 ジャックとセベクは女性にむやみやたらに触れるのは……ってことで遠慮されたけど、他のメンバーは私の頬をつっついて、そのやわらかさにはしゃいでいたのだ。その中でも特に彼は楽しそうにしていたことを思い出す。

「…………誰に?」
「えっ? エペルですけど」
「へえ、そうなの。そう……」

 おおっとなんだか急に不穏な空気になったぞ……?
 ハッ今まで忘れてたけど、そういえば顔は美容的にあんま触っちゃダメって先輩言ってたから、もしかしてそれが原因……? ごめん、エペル。回想からうっかり名前を出しちゃったけど、決して君を売るつもりはなかったんだ……!
 その後、スクイーズと間違ってないかと思うぐらいに私の頬は先輩にむにむにされたし、夜に一年のグループメッセで『よくわからないけど異常にしごかれた、絶対いつか泣かす』と愚痴るエペルがいた。本当にごめん。

「どうしたの、。今日は随分あまえたね」

 オンボロ寮の談話室と、人目が付かない場所であることを良いことに、私は先輩に対し腕を組むようにして胸を押しつけていた。
 我ながら思い切った行動にドキドキする自身とは違って、涼しげに告げる先輩。その頭の上には『2』の数字が浮んでいる。
 明日の魔法薬学の小テストの自信ないとエース達へこぼしたのを、先輩に聞かれていて「ならアタシが教えてあげるわ」と、彼はわざわざこうして放課後に訊ねてきてくれて。
 それで思ってたより早く勉強が終わったのをいいことに、手のかかる後輩から恋人モードに切り替えた私は先輩にくっついているわけだ。
 私が何故こんな痴女じみたことをしているのか。別に深い意味はない。思いっきりいちゃつけるからそうしているだけであって、決して回数が減って残念に思ったとかじゃないのだ!!
 頑張ったわりに薄い反応にちょっと心折れそうになりながらも、おっぱいはそのままに頭を先輩にもたれかかる。

「……最近知ったんですけど」
「なあに?」
「私、恋人に結構ベタベタしたいタイプみたいで」
「奇遇ね。アタシも恋人に甘えられるの好きみたいなの」
「じゃ、じゃあハグしてもらっていいですか」

 絡みつかせていた腕をほどく。おねだりする私に、ふっと先輩は笑って抱きしめてきた。ついでにほっぺにちゅーされた。はわわ。
 チークキスは二回目だけど、ハグにいたっては三回目だけど、そんな簡単に慣れるわけがない。許可をもらったことだし、体をすりつけるようにしていっそうくっつく。

「先輩あったかくて気持ちいい……」
「……アンタって思ったこと口に出るタイプ?」
「えっ、私、何か言ってました?」
「やっぱりそうなのね。あの時だって…………なんでもないわ」

 はあ、と漏らした先輩の声は随分お疲れの様子だった。よくわからないが、腹の探り合いが横行しているこの学園において、さっき先輩が教えてくれた癖は問題しかない。気を付けないと。

「ねえ、。アンタ、アタシに何を隠してるわけ?」

 どうしてこうなった。
 学園長の雑用も終わったから、オンボロ寮に帰るか〜と意気込んでいた数分前が随分遠くに感じる。
 オンボロ寮へ繋がる橋の前で待ち構えていたヴィル先輩にちょっと来なさいと引きずられていった物陰。そこで私はカツアゲ……ではなく、壁ドンを受けていた。
 元々NRC生に助けを求めるのは無駄だが、だとしてもいつもはいるヤンキー(サバナ)の一匹でもたむろっていれば、先輩もこんな凶行には……。いや、先輩の場合、眼力で追い払いそうだな。サバナ生、だいたいヴィル先輩に逆らえないから。
 回想したところで状況は依然として変わらない。二日前と同じくズイッと近づけられた顔面国宝にだらだらと冷や汗が流れていく。

「ナ、ナンノコトデスカー?」
「声を裏返ってるわよ。それにアタシと話してるんだから、ちゃんとアタシの目を見なさい」
「ふぎゅっ」

 顎クイッ通り越して、顎むぎゅっの勢いで強制的に視線を合わせられる。荒々しい動作と、怒りの滲んだ目に思わず怯えて震えてしまった。だがその上にある『5』は私の心情も知らずに爛々と輝いている。虹色の発光つまりゲーミングカウンターが。

 昨日ヴィル先輩が教えてくれたおかげで魔法薬学の小テストは良い手応えだった。だからそのお礼を言おうと、始業前にたまたまメインストリートに先輩がいるのを見かけ、近づいた私は……その数字を見た瞬間、猛ダッシュで逃げた。
 自分でもなんで逃げたのかわからない。ただ被食者になりたいんか?と本能が訴えかけていたように思う。その後も授業の合間の休憩時間や移動で出くわしたが、全力で避けた。喧嘩でもしたのか?とデュースが異変に気付くぐらい、あからさまに逃げ回った。
 当の本人であるヴィル先輩からすれば、顔を合わせただけで避けられているのだ。そりゃあご立腹にもなるだろう。正確には顔ではなく数字なのだが。そんなこと先輩が知るよしもない。
 そして今回の件に加え、私は最近何かと挙動不審だったこともあり、疑惑が確信に変わって、これまでの不安が爆発したのだろう。多忙な先輩がこうやって私をとっちめる時間を作り出すぐらいには。

 手を焼かせて、めちゃくちゃ申し訳ない気持ちはある。でもそれ以上に申し訳ないことに私は先輩の数字がいっぱいになっていることが嬉しかった。私、先輩にとって魅力的なんだって。
 ただ適度なゴニョゴニョは健康に良い影響があると聞いているものの、一晩に五回は普通に体に悪いんじゃないだろうか。やり過ぎると亜鉛不足になるらしいし、そうなると肌荒れするらしいからなあ。
 まあそれは心配したところで伝えられないけど。一旦そこは置いといて、伝えられることは伝えておこう。

「その、先輩にとって、私は魅力的じゃないのかなと思って、わざと誘惑するようなことしてました……」
「それって、こないだのハンドマッサージや甘えてきたことかしら?」
「はい……」

 顎むぎゅしていた先輩の手が緩む。てっきりそのまま離してくれるのかと思いきや、更に持ち上げて顔を固定される。そして、唇にやわらかいものが触れた。
 頬に味わったから知っているはずの感触なのに、唇で受けるともっとやわらかく感じる。ぎゅっと咄嗟に先輩の制服に縋り付く。徐々に角度を変えるようにして口付けは深まっていった。

「アンタ、アタシをなんだと思ってるの」
「え、えっと……美の化身……?」
「悪い気はしないけど、そうじゃなくて、アタシはアンタの恋人でしょうが。だから、いつだってアンタが可愛くてしょうがないし、まんまとアンタの誘惑にドキドキしてたわよ」

 先輩の口から直接聞いて、長い間巣くっていた不安は完全に吹き飛んだ。
 もう一回したいですとワガママを言えば再び先輩と唇が触れ合う。離れた先輩の形の良い唇が好きよと私への愛を紡いで。先日よりも力強く抱きしめられた。

「あの、先輩、今から隠してきたこと白状するので、怒らないで聞いてほしいんですけど」
「ちょっと待ちなさい。さっきのが隠し事じゃないの?」

 腕をほどかれ、先輩の手が私の肩を掴む。頷く私に先輩は目に見えて動揺しているようだった。
 でも、さすが世界的俳優かつ、一応エリート校(治安E)のこの学園で寮長を務めるだけあってか、すぐに先輩は冷静を取り戻したようだ。わかったわと聞く体勢を取ってくれる。

「今から三日前なんですけど、さっきのことで不安になってたらあの妖精におまじないかけられまして……今はもう収まりましたが」
「ああ、ちょうどアンタの様子がおかしくなった日ね。それで何の魔法かけられたの?」
「先輩が前日私をオカズにした回数が見えてました」
「なんて?」
「それで初日は1で、一昨日が3、昨日が2、さっきまで5が表示されてたんですけど……先輩?」


「し、死んでる……」

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