蟻に砂糖を預けたら 03

「監督生、うちの副寮長と付き合い始めたって本当か?!」

 ある日の放課後、ハーツラビュルの談話室でエースと話していた時だった。たまたま通りがかったらしい同級生が強引に割り入ってくる。
 トレイ先輩への想いを認めたとはいえ、何もアプローチはできていなかった。だがそれと同時期から私と先輩が交際しているという噂が流れるようになっていて。
 おおかたあの試食会が原因だろう。私の一方的な片思いと思い込まれる(事実だけども)のはともかく、さすがにカップルと誤解をされては先輩も困るだろうと、せめて試食会だけでも控えるように申し出たけども、先輩が「こっちの方が都合がいいだろう?」と断られてしまった。

「私と、トレイ先輩は、その……」

 こんな風に直接訊ねてくる人も少なからずいるが、先輩は積極的に噂を否定することはない。私は可能な限り否定している、そのわりにはあまり信じてもらえないんだけど。
 なんとか言葉を捻り出そうとした瞬間、ぽんと後ろから肩を叩かれる。真向かいに座るエースがなんだか微妙な顔をしていた。

「楽しく喋ってるところ悪いな。監督生、明日一緒に行くトリックアート展のことなんだが」
「あ、エース、ごめん。ちょっと待っててね。それで、先輩どうしましたか?」

 ナナメ前の空いていた席にトレイ先輩が腰掛けたので、エースに一言断って先輩との会話に入らせてもらう。明日はオンボロ寮に迎えに来てくれるそうだけど、その時間の再確認とのことだった。ちょっとグリムの都合で変更が必要になるかも……と決めた時に相談していたからだろう。
 先輩との話を終えた時には、さっき質問していた相手はいなくなっていた。正直あの問いかけは答えづらかったので、助かったと安心している自分がいる。
 そんな私にエースは呆れた表情で「あーかわいそー」と呟いていた。確かに先輩に話しかけられたので浮かれて、忘れてたのはちょっとひどかったかな……。
 今度顔合わせた時にでも謝るか。そう考えていたところ、エースがふーっと大きく溜め息を吐く。

「監督生。お前さ、次の告白は絶対OKするよ」
「何言ってるの、エース。私は恋人を作る気なんて……」
「じゃあオレが正解したらチェリーパイおごりな」

 否定する私にエースは堂々と言い放つ。そんな彼の今の態度はイカサマする前提でカードゲームを仕掛けてきた時と同じだった、絶対に負けるわけがないと信じ切ってる顔。
 エースの視線がトレイ先輩にうつる。ニヤッと悪い笑みをエースは浮かべていた。

「トレイ先輩もそう思ってるっしょ?」
「ははっ。随分と自信満々だな、エース」
「オレ、基本的に勝てる勝負しかしない主義なんで」

 エースの宣言にトレイ先輩は眼鏡を持ち上げながら、エースに負けず劣らずの顔で「そうか」と笑っていた。この時点の私にとってはどういうことか、さっぱりわからなくて。
 ただ、やたらエースが上機嫌で、トレイ先輩も嬉しそうで。そんな中、空気を読まず今月の生活費が厳しい私は絶対おごってたまるかと固く決意する。

 ——なお、賭けの勝敗だけれど休み明け、エースにお手製のチェリーパイをふるまうことになった……私の、恋人が。

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