君だけのダークヒーローになりたい 01
「オルト、何書いてるの?」
「兄さん、机借りるね」と一時間ほど前、僕の部屋にオルトがやってきた。その時、自分はベッドでソシャゲのイベントを走っていたから、普通にOKを出したのだけれど。
完走して別のゲームへ移ろうとした時、ふとペンを持ったオルトが机の前で悩んでいるのに気付く。
授業で出された宿題か、はたまた映画研究会から渡された課題か。ただ今は外部からのアップデートはできないとはいえ、これまでにインプットしたデータがなくなったわけじゃない。だから知識だけを必要とする問題であれば、なんなく終わらせていただろう。となると自己意識を利用した……自分の考えを述べなさい、といった内容では?
心を得てからのオルトは日々進化しているとはいえども、その問題はまだ対応が難しいだろう。そうやって悩む時間すらオルトは楽しんでいるようだけれど、兄としては考え込む弟を放っておけず、つい声をかけてしまった。
もしかしてこれって邪魔になるのでは。話しかけてからちょっぴり後悔したが、オルトが気分を害した様子はない。むしろなんだか嬉しそうな。
「さんとの交換日記だよ!」
「えっ、交換日記……?」
「うん!」
「これまた珍しいことに挑戦してるね」
思わぬ回答に目を丸くする拙者にオルトは「あまり例がないから、何を書くべきか迷ってるんだ」と弾んだ声で答える。
残念ながら今回の件については力になってやれなさそうだ。拙者にそういうことする友達がいなかったから、というわけではない。断じてない。
そもそもアニメや漫画でたびたび出てくるため、オタクの間では当たり前に知られているが、交換日記はあの引きこもりすぎて謎に包まれまくってる極東特有の文化だ。だからただでさえ情報が少ない上に、日記という性質上あまり内容が明かされることがない。その日のできごとをまとめたりするらしいけど……レポートとはまた違うだろうし、そんなこんなで自分も参考になるような情報を提示できそうになかったのだ。
どういうきっかけで始まったのかは気になるところだが、なんにせよオルトにとっては良い教材になるだろう。日記を付けることで自分の心情を思い返したり、整理したりできるものだしね。
そういえば監督生氏って元いた世界で住んでた国が極東によく似てるって言ってたな。それで交換日記に覚えがあって、オルトの学習に役立つと思って持ちかけてくれたのかもしれない。彼女、なんだかんだお人好しなとこあるし。
「さんと恋人になったからね」
「そっか。監督生氏と恋人に………………恋人ォ?!?!?!」
「恋人関係はまず交換日記から始めるべきだって描いてあったから参考にしたんだ!」
斜め上過ぎる回答に思わずスペースキャットを決める。拙者の弟がバリバリのリア充だった件、陽キャなのは薄々気付いてたけど!
ハッいや待って待って待ってオルト、僕を置いて話を進めないで。兄ちゃんまだ混乱デバフかかってるから。気が付いたら映画研究会に入ってた時といい、なんでそんな思い切りがいいかなあ?!
そりゃあね、監督生氏と僕達は客観的に見ても親しかったけどさ。きっかけになったキーホルダー事件を始め、陽キャからの避難所代わりにオンボロ寮のゲストルーム使わせてもらったり、僕らやアズール氏と一緒に四人用ボードゲームやったりとか、拙者達が冥府の門開閉する前から何かと交流してたからね(あの頃は女の子だって知らなかったから、嘆きの島で彼女をスキャンして知った時は目玉飛び出すかと思った)
僕がわりと心開いていたせいか、僕経由で知り合ったオルトも監督生氏と仲が良くて。編入してからも彼女はオルトをよく気に掛けてくれていたけども。
けどいつの間にそんなリア充に進化なんてことに。まあ監督生氏だったら、別に義妹になるのもやぶさかじゃないけどさ。正直言うと、ついさっき推しカプ選手権トップに躍り出た。
例えうちの寮生にバレてもリア充迫害運動なんてことにはならないだろう。むしろロボ×女の子のカップリング尊……と拝む生徒の方が圧倒的多数だ。確か監督生氏のクラスにも過激派がいたぐらいはず。万が一、可愛い弟の恋路を邪魔するような奴が出たとしても兄ちゃんが許しませんがァ?!
色々考え込みすぎて、もはや「アッ」「エッ」「ソノ……」と陰キャの鳴き声しか出せなくなっている拙者にオルトは満面の笑みを見せる。
「本当は兄さんが持ってた恋愛シュミレーションやアダルトゲームを参考にしようとしたんだけど『ギャルゲやエロゲを参考にする男はゴミ』って女性の意見が多数だったから、最近女性の間で高評価だった少女漫画を参考として取り入れたんだ」
「待って待って情報量が多い、情報量が多い!!」
前者はともかく後者は見ちゃダメでしょ、未成年! そりゃあ拙者わりと倫理観語れるような立場じゃないけど、オタクならばレイティングは守るべき精神はありますので!
というか、さらっと秘蔵のコレクション見つけてたこと報告しないでほしい。こういう時どんな顔すればいいの。笑えばいいと思うよと言ってくれる人はいない……。拙者ヒロインじゃないので。
あと少女漫画を参考にしたのはわりと正解だと思う。ちょっと奥手ではあるけど……周囲のアドバイスよりかはよっぽど有益に違いない。この学校に通ってる連中なんて殆どが恋愛経験ゴミカスクソ童貞だけだろうし、そういう拙者も非モテ陰キャなんですけどねぇ!
「とりあえずスキャンだけではわからないさん個人の背景が知りたいな。となると心理的ハードルを低下させる為にも、僕から情報開示した上で質問するべきだよね」
そう呟いてオルトは真っ白だった最初のページにペンを走らせていく。
ちゃんと過去にインプットした心理学のデータを生かしつつ、好奇心や知識欲を発揮してる……。好きな子のことを知りたい、人間なら普通に持つ感情だろう。それがプログラミングされたわけではなく、オルトから生まれているのだと気付いて思わず涙ぐむ。
はあ〜〜まさかリアルに推しカプができるとは……一生推そう……。弟の成長を喜びながら、僕は二人の恋路を温かく見守ろうと心に決めたのだった。