他愛無い 02
性交は古来より魔術において儀式としての側面を持つ。
だから監督生と初めて結ばれた夜、夢の中のカリムが彼女の記憶を辿ることになったのはさしておかしいことではなかった。
彼女の記憶から、彼女の幼馴染の姿を眺める。かつて彼女が恋い焦がれてきた男を。そして観察するうちにカリムは首を傾げる。
——どうしてのことが好きなのに、彼女の想いに応えないのだろう?
人の感情を読み取るのにカリムは長けている。ジャミルのようなあまりにも近しい人間はともかく、それ以外の、客観的に見ることができる相手ならば、彼が言う人を見る目は本物だった。
だからすぐにわかった。監督生が男を思うように、男もまた彼女を愛しているのだと。
故に疑問を抱く。てっきり彼女のように何かしらの誤解をしているのかと思った。
でもどう見ても男はの気持ちに気付いている。別に、病に冒されて老い先が短いから……といった様子も見られない。考えても考えても答えは出なかった。
何故、欲しい物が必ず手に入れられるのに、わざわざ遠ざける真似をするのか。その非合理な行動を選んだ理由が、生粋の商人であるカリムには理解できなかった。
カリムの見立て通り、幼馴染の男は監督生を愛していた。でも同級生にからかわれたくないと照れ隠しでずっと流していたのだ。ただ高校が離れたことで次の告白は受けるつもりだった。
十年間ずっと彼女は自分が好きだった、ずっと告白してくれた、自分も彼女が好きだった。だから安心しきっていたのだ。思い通りの明日が来ると信じていた。もうそんな未来は訪れないことを男は知らない。一生知ることはない。失われた理想に溺れるだけだ。
「絶対に買えないものだったのにな」
もし男が彼女の心を受け止めていれば、きっと自分の恋が実ることはなかっただろう。
欲しくて欲しくて仕方なかった。でもそれはアジーム家の財をもってしても手に入るものではないのだから。ひとたび嵌まっていたのなら、例え片割れの自分が相手であろうとも、彼女は揺らがなかっただろう。
でも男は手にしなかった。そして彼女は自分の財ではなく言葉で心を預けてくれた。真実の愛はもう己の手の中、誰にも譲る気はない。
目覚めたならば、きっと彼女はまた自分が愛を口にした時のようにはにかむのだろう。それに心を躍らせながらカリムは瞼を開ける。
おはようと微笑んだ時にはもう長らく悩ませてきた男のことは彼の頭からすっかり消え失せていたのだった。