さよならバッドエンドロール 02
朝から夫の機嫌が悪い。
と言っても手酷く当たられたりはしていないんだけども、ずっとバックハグを決められていて身動きが取れずにいる。
昨日のデュースは随分遅くに帰ってきたようだ。いつの間にか隣で眠っていた彼は私が起きた時、深く寝入っていて。
だから放っておいたのだけれど、私が一通り家事を終えたならば、デュースは起きてきたのだが……。
別にデュースは寝起きが悪いタイプじゃない。なのに彼はなんだかムスッとした顔をしていて。何かあったのかと思いつつも「おはよう」と言えば、そのままデュースは無言でひっつき虫状態になり今に至る。
肩口にぐりぐりと額を擦り付けてくるデュース。いつも甘えるなら前から顔を胸に埋めてくるのに。若干重いけどおっきな猫ちゃんもどきはグリムで慣れてる。
私のおなかへ腕を回し、まるで離さないとばかりにデュースはぎゅうぎゅう強く抱きついてくる。何か伝えたいことでもあるのだろうか。
でも言ってくれなきゃわからん、ということでひとまずアイロンを続ける。
「……は僕のお嫁さんだよな」
「じゃなかったらこうしてデュースのパンツにアイロンかけてないし、婚姻届を出した日にはしゃぎすぎて持ってたハンカチ全部に・スペ―ドって刺繍したりしてないと思うなあ」
なんでデュースがそんな質問をしてきたのかはわからない。でも私がデュースの嫁の・スペードである事は間違いないのだ。
断言すれば思う所があったのか、のろのろ彼が身を離す。
良かった、一応魔法式の安全装置が働いているとはいえ、アイロン持ってる時に絡まれるのはちょっと怖かったし、やりづらかったから。
すぐ傍で彼が待っている気配を感じた私はさくさくとアイロンを終わらせて、デュースの方へと向き合う。
まあいかにも会話しますみたいな体勢取っておきながら、何を言うかは全く考えてなかったんだけどね。
若干悩み始めたところで、ふと棚の上にあった結婚式の時の写真が目に入る。
「お義母さんから譲り受けたイヤリングと、新しく学園長が買ってくれた靴と、ガーターに付けた青いリボンと、グリムから借りたリボン……のおかげかどうかはわからないけど」
私達の結婚にはサムシング・フォーに加えて、彼の誕生日に結婚式をあげた為ジューンブライドと花嫁が幸せになれる言い伝えをこれでもかと詰め込んだ。
でも私が幸せな理由はきっとそれだけじゃない。デュースの手をぎゅっと握る。
さっきアイロンをかけた中には学生時代、付き合い始めに私が贈ったハンカチが未だ混ざってる。慣れない手つきで何度も補修しながら、彼は今もそれを大事にしてくれている。
私との思い出も、私の事も大切にしてくれる、そんなデュースだから思うのだ。
「私、目の前の素敵な旦那さんのおかげで幸せなお嫁さんやってるよ」
僕が世界で一番お前を幸せにする、その約束が破られることはないだろう。