さよならバッドエンドロール 01
魔法執行官は多忙だ。
だけども先輩達は学生時代からの親友の結婚式だと知ると、快く休暇を用意してくれた。俺達の事は気にせず目いっぱい楽しんでこいと。良い職場に恵まれたんだと思う。
でも今回ばかりはその優しさが辛かった。本日、花嫁となる親友は僕がずっと想いを寄せていた女性でもあったから。
「……すごく綺麗だ」
「ほんと? デュースにそう言ってもらえて嬉しいなあ」
花がほころぶように彼女は笑う。嘘偽りない、心からの言葉だった。
今日という晴れ舞台に向けてウェディングドレス纏う彼女は想像していた何倍も綺麗だ。
だからこそ、どうしてその隣に立てるのが僕じゃないのだろうと胸が苦しくなる。僕は彼女と同じ道を歩けない。
「お願い聞いてくれてありがとね、デュース」
「かまわないさ。他でもないマブの頼みだからな」
式まであと一時間。彼女の控え室へと訪れた僕は新郎よりも先にの美しい花嫁姿を見ている。
その事に一瞬、優越感を覚えても、すぐさま悲しみにかき消されてしまった。
なんてことはない。改めて彼女は他の男のものになるのだと、その真っ白なドレスはそいつの色に染まる為のものなのだと、現実を突き付けられただけ。
いつも愛用しているハンカチを差し出す。しっかりアイロンを掛けてきたが、少しくたびれてきたそれを祝いの場に持ってくるのはマナー違反だったかもしれない。でもこの役目を果たすにはこれ以外考えられなかった。
ハンカチを手に取った彼女は懐かしそうに目を細めて「まだ使ってくれたんだ」とこぼす。
当たり前だろう? お前からの贈り物を、それもわざわざイニシャルを刺繍してくれたのに、捨てられるはずがない。
「前にも聞いたが、僕の物で本当に良かったのか?」
「うん。本当は幸せな結婚生活をしてる人から借りるらしいけど、私が一番乗りだしなあ。だったら夢を叶えたデュースが近いかなって」
彼女が行おうとしているのはサムシング・フォー、結婚式における慣習だ。
古いもの、新しいもの、青いもの、それから借りたもの。この四つを身に付けて結婚式を挑むと幸せな花嫁になれるのだと。
古いものはおそらくベール、新しいものは手袋で、青いものは慣習に従って見えない場所に、指輪の裏に小さなサファイアを埋めているのだと聞いている。
そして僕から借りたハンカチを身に付けて完成と。
彼女の幸せを素直に祝えない僕の物では縁起が悪い気もするのだが、そんなこと言えるはずがなかった。
「……ごめん。嘘ついた。デュースのハンカチ以外、考えられなかった」
「え?」
「ハンカチって別れの意味があるから、だからデュースからハンカチを借りようって。そしてちゃんとこの気持ちにお別れしようって」
嫌な予感がした。きっとこれ以上、聞いちゃいけない。早く逃げないと。そう思っても自慢の足は震えるばかりで一向に走り出してくれやしなかった。
そうしている間に紅で美しく整えられたの唇がゆっくりと動く。
「今だから言えるけど、私、本当はずっとデュースのことが好きだったの」
——頭が真っ白になった。息の仕方がわからない、心臓がギリギリと痛む。
「デュース、気付いてなかったでしょ」いたずらに成功した子供のよう、無邪気には笑う。僕とは真逆の晴れやかな表情だった。
ああ、お前の言う通りだ、気付いてなかった。気付きたくなかった。
ごめん、。僕は祝えやしない。胸の奥で抱えてきた彼女への愛情が澱む。最後に僕へ生涯とけることのない呪いをかけたお前の幸せを願いたくない。