君が望んだハッピーエンド 03
ちゃんはたぶんオレのこと好きなんだろうな。
その事に気付いたのは比較的早い段階だったと思う。でもオレはそれに気付かないフリをして、彼女のことは気の合う可愛い後輩として扱い続けた。
だって、ちゃんって突然会えなくなっちゃうかもしれない子だからさ。オレお別れするのには慣れてるけど、全く辛くないわけじゃないんだよね。
だからちゃんを特別な女の子にするのは嫌だったんだよ。なんかさー、ちゃんの場合は他の奴より別れがきつくなりそうだなって。きっと特別にしちゃった後、彼女が元の世界に戻ったりしたら、立ち直れる自信がなかったんだよ。
……まあ、その通りだったよね。なーんでオレってば気付かなかったんだろう。そんな風に思う時点でもう特別だったんだ、って。
四年に進級した時点で疎遠になって、卒業したら完全にオレとちゃんの接点は切れちゃった。オレから連絡すれば、きっと彼女は応えてくれたのにね。
ただオレは彼女のマジカメを追い続けていて。そうこうしているうちに彼女に恋人ができたことを知った。
彼女と一緒に映っていた男はどこか見覚えのある、というかぶっちゃけオレに雰囲気が似てる奴だったんだよね。あ、やっぱりちゃん、オレのこと好きだったんだなって、確信して、それから。
「……オレってば、バカだなぁ」
手遅れになってようやく、自分の気持ちに気付いちゃった。心臓が張り裂けそうなぐらい痛くて、そんなつもりなかったのに泣いちゃって。自分で潰した両思いに死ぬほど後悔した。
これまでと違ってどうやってもどんなに経っても彼女のことを吹っ切れなかった。ずっと引きずったまま、オレは彼女のマジカメを眺め続けて。
彼女が結婚したらさすがにこの気持ちにも諦めがつくと思ってたんだよね。今考えれば絶対無理だったろうけど。
——彼女と再会したのは本当に偶然だった。
久しぶりに会った彼女はあの頃よりも綺麗になっていて、だけど今にも倒れそうな酷い顔をしていた。オレが声をかければ彼女は迷いを見せて、でも最後にはオレを頼ってくれて。
昔は彼女のそんな気遣い屋なところにオレは助けられていたけれど、もう限界だったんだろうね。あの気丈な彼女がボロボロ泣いて助けて、って。
最低だけど、オレめちゃくちゃ嬉しかった。どんな厄介事でも、どんと来いってね。思ってた以上にヤバかったけど、結果的に巻き込まれて良かった。馬鹿なオレを丸ごと受けとめてくれた彼女には感謝しかない。
「うわっ、通知ヤバ」
スマホの電源を入れて、目に入った通知の数に驚く。咄嗟に出た声は大きく、心配になって隣を見たものの、ちゃんはすやすやと気持ちよさそうに眠ったままだった。
どれもこれも式の直前にアップした写真に対するもので。改めてその写真を見返して、最高の一枚だと実感する。
『#ウェディングドレス #今日は結婚式 #オレくんのお嫁さん #世界で一番綺麗だよ』と付けた写真には花嫁姿でとびっきりの笑顔を見せるちゃんが写ってる。この写真を確認して「ケイトさんじゃなきゃ撮れませんね」と返してくれたちゃんはとても愛しかった。
写真を褒めたり、オレ達をお祝いしたり、返しきれないほどのコメント欄をスクロールしていく。好意的なコメントの中に、いくつかおかしなコメントが混ざっていた。
「どういうことだ」「はどこにいる」「俺の彼女だぞ」真っ黒のアイコンがごちゃごちゃ喚いてる。元のアカウントはブロックしておいたんだけどなあ。迷惑行為で通報して、もう一回ブロックする。
「……ケイトさん」
「あ、ごめん。眩しかった?」
まとめた皆への返事をツイートした時だった。いつの間にか起きていた彼女に声を掛けられる。念のためスマホの電源を切って、ベッドサイドに適当に置いた。
この短い期間で変わった呼び名がなんだかくすぐったい。シーツを体に巻き付けて起き上がった彼女はふるふると首を横に振る。
「眠れないんですか?」
「んーん、ちょっとマジカメチェックしたかっただけ。今から寝よっかなって」
ぎゅっと抱きしめれば、素肌が触れ合ってさっきまでの事を思いだしてしまった。腕の中の彼女はやわらかくて良い匂いで。あーちょっとこれやばいかも。
どうやって鎮めようかと悩んでいれば、ケイトさんとオレを呼んで彼女が唇をひっつけてくる。積極的な行動のわりに赤い顔の彼女は、気遣いもあるけど、満更じゃないって感じ。
良い子で悪い子。そんな彼女にメロメロになりながら、オレは彼女をもう一度シーツの上へ泳がせる。
オレくん、君みたいな
だからオレしか知らない、一番可愛い彼女の姿は見せてあげられないや。ごめんね。でも、何も問題ないよね。
君はちゃんが別の男と結ばれるのが見たかった。ちゃんは好きな人に大切にされたかった。オレはちゃんがずーっと欲しかった。
——なら、これはまごうことなく、とびっきりのハッピーエンドでしょ?