我慢比べ

 もし、たとえ私が女子にしては高身長の170cm台であったとしても、セベクにとっては小柄な女の子に変わりない。ならば頭一個分どころじゃ済まないほど、彼と身長差がある私はもちろんそこに該当するわけで。
 かたや190cmも夢じゃないムキムキ、かたや平均身長に負けてる中学時代から帰宅部。性別も手伝って、私達の体格差はとんでもないことになっている。しかも、ただでさえ妖精族の血を引く彼にとっては純粋な人間は脆弱な生き物という認識である。
 そんな感じなので付き合い始めた当初、セベクは私に触れることをひどくためらっていた。たぶん彼の中で私の耐久性は豆腐ぐらいだと認識していたのだろう。おかげで手を繋ぐのすら苦労したものだ。
 そりゃあ私と彼じゃグリズリーとハムスターぐらい戦闘力違うだろうけど。いくらなんでも躊躇しすぎである。
 あまりのじれったさにどこからともなく登場したリリア先輩に「早う、ぶちゅっとせい!」と何度キレられてたことやら。うん、まあこの件については色々思うところはあれど深くはツッコまない、考えるだけ負けだと思うので。
 おかげで手を繋ぐのもキスも私から強引に迫る始末。ただスキンシップを重ねるうちに彼もだんだん私に対する触れ合い方を理解したようで、くっついてくるなー、ハグされたなーとか考えているうちにあれよあれよという間に抱かれていた。性的な意味で。
 ステップアップならぬジェットコースターな進展具合にスペキャを決めたのは記憶に新しい。
 セベクは私を壊してしまうんじゃないかと不安で手出しできなかっただけで、結局彼も年頃の男の子だったわけだ。別に嫌とかそういったわけじゃない。凄いびっくりしただけ。
 それからも私の負担になるからということでセベクはわりと我慢しているみたいだ。でも結局すぐに限界を迎えてしまうことも多くて。

「なあ、……」
「乾かし終わるまで待って」

 わざわざ洗面所まで来て、ドライヤーを使っていた私の背後から抱きついてきた彼をしれっとあしらう。何分ここでちゃんと乾かしておかないと明日の朝が面倒なことになるもんで。
 根が素直な彼は私から離れて、背後でそわそわとせわしなく動き回る。昔飼っていた犬がこんな動きをしていたなあと懐かしくなりながら急いで髪を乾かす。待ち遠しいのは結局私も同じなのだ。
 おまたせと片付けて振り返った私に対する、彼の嬉しそうな顔と言ったら。これから起こるであろう出来事が嘘のようにかわいらしい。
 どんなに気が急いていても、根っからの紳士な彼はさすがにここでおっぱじめるような真似はしなかった。寝室に行くまでの間、手でも繋いでもらおうとしたのだけれど、辛抱たまらんとばかりに抱きかかえられる。このお姫様抱っこの体勢のまま、彼はベッドへ向かうつもりらしく早足で廊下を過ぎていく。
 つい先日したばかりにしては大変な事になりそうだと思いながら、私は安定するように彼の太い首へしっかりと腕を回した。

 セベクの大きな口に唇を覆われる。これじゃキスというよりも捕食と言った方が正しい気がする。
 お互いキスが好きだけど、私達は立ったままだとあまりできない。私が背伸びしたところで彼の顎にすら唇が届かず、セベクからすることになるが、そうなると彼の首が痛む。
 座った状態ならば、あれだけあった身長差はキスにさほど支障が無いほど縮まるのだ。正直に言うと彼の座高を知った時は凄くショックだった。どれだけ足長いんだ、たぶん股下1メートルぐらいあるでしょ、こわ……。
 話を元に戻そう。というわけで、普段あまりキスできない分、セベクはここぞとばかりに行為の時は口付けてくる。今みたいに。
 噛みつくような荒々しいキス。紳士的な彼らしくない、でも情熱的なセベクらしいそれが苦しくも気持ちよかった。息もできないほどの激情をぶつけられて火が付いたように体が熱くなる。
 彼に散々貪られ膨れてしまっているだろう唇をセベクの親指がなぞった。私を見つめる目はまだ足りないと訴えていて、声を出す間もなく再度口を塞がれる。最初の頃の触れるだけのキスを懐かしんでも、怖いとか嫌だとかは思わなかった。
 パジャマのボタンを外されながら、露わになった首筋にセベクが緩く噛みつく。続いて肩口に。リリア先輩に教えられたのだが、甘噛みは彼の種族特有の愛情表現らしい。
 なおその事を知るまで、お付き合い当初からやたら手を甘噛みされるのに対し、私が密かに怯えていたのはセベクには内緒だ。なんか知ったら、すごいショックを受けてしょげてる彼の姿がありありと目に浮ぶので……。
 下着姿にされた私は彼のことを脱がそうと思い、セベクの服に手を掛ける。だけど時間が惜しいとばかりにセベクは手早く自分で服を脱ぎ捨てた。そのタイミングで彼の太腿の上に跨がるようにして座らせてもらう。
 キャミソールを捲り上げられ、大きく外気に触れた事で肌が粟立つ。剥き出しになった膨らみをセベクは下から支えるように手を添えた。手のひら全体を使って私の胸を揉み込む。
 手で胸の感触を楽しんだ後、セベクは私の胸へ頬ずりしてくる。普段あれだけストイックな彼が『ふかふかだ……』と甘える姿はギャップがありすぎて変にドキドキしてしまう。
 大きく口を開いてセベクが私の胸の頂きにかぶりつく。銜え込む直前に見えた鋭い牙が当たらぬよう気遣いながら、セベクは頂きへ舌を這わしていた。ちゅうと吸って、舌先でつついて、時折歯を立てて。
 内股に固くなった彼の物が擦り付けられ思わず腰が揺れる。濡れている下着を擦り合わせるうちに、興奮した様子の彼が下着ごと秘部を突き上げてきた。ぐりぐりとねじ込むように秘部に食い込む下着越しの熱がもどかしい。

「本当はこのまま繋がってしまいたいのだが……」

 ふーふーと荒い息を溢しながら、目で訴えかけてくるセベクに私は無言のお願い通り身を少し離す。
 どんなに欲にまみれても、ちゃんと私の為に耐え抜いてくれる。そんな彼にまた好きが膨らんでいくのがわかった。彼の素敵なところを知るたびに私は何度も彼に恋してる。
 下着を脱ぎ捨てると用意していたらしい避妊具をセベクは身に付けて。私もその間にショーツを足から抜く。そして再度、彼の足へと跨がった。
 キスを一つして、腰を上げた私は彼の熱に膣口を押し当てる。溢れている愛液のせいで何度か滑ってしまったが、つぷりと先端が入り込んだ。
 これだけ濡れていても、彼のは大きい(彼以外のは知らないけどたぶん凄い大きい方だと思う)からだろう。なかなか奥へと進めない。きっとセベクは辛いだろうけれど、時間をかけて深い所まで潜り込んでいった。
 私達ほど身長差があるとこの体位ぐらいでしかまともにセックスできない。腰の位置が合わなかったり、(セベクは問題無いと言っていたけど)彼の足の負担が凄かったり、私を押しつぶしそうで怖いらしかったり。
 お前に辛い思いをさせる、と初めて抱かれる直前に言われて。確かに私の負担は大きいのだろう。でもそれ以上に彼の優しさと愛情が嬉しくて、嫌な気持ちなんて一つもない。
 セベクの逞しい体にしがみつきながら激しく揺さぶられる。何度も突き上げられて、中の弱い所を擦られて。じゅぶじゅぶと彼が抜き差しするたびに立つ音が卑猥だと思いながら、それにかき消されない程の大声で喘いでしまう。
 セベクと彼の名前を呼んだ瞬間、私は気をやってしまって。つい締めつけた中に彼の熱が大きく膨らんだのをうっすら感じながら意識を飛ばした。

「すまなかった」
「え、何が?」
「今日こそ少しは自制するつもりだったのに……いや言い訳は見苦しいな」

 行為を終え、私を包み込むベッドのぬくもりや彼の優しい声に眠気を誘われていたその時だった。突然与えられたセベクの謝罪にやってきていた睡魔が吹き飛ぶ。全く謝られる覚えがなく聞き返す私に心底申し訳なさそうな顔をセベクは見せる。
 あれから三回抱かれたことに私はいつも通りだと受け止めていたが、どうもセベクはそうじゃなかったらしい。あんなにノリノリだったのに。
 少し考えた後、隣で横たわるセベクの頭を胸に抱える。突然のことに「何をする?!」と彼は目を白黒させていたが、おかまいなしでその髪を撫でた。
 最初こそ大きな声を上げたものの、セベクは大人しく私に撫でられ続けている。しばらくして、彼にしては珍しくか細い声で呟いた。

「……僕は人間の、それも女性のことは殊更わかっていない。だからお前に無理をさせていてもきっと気付かない」
「大丈夫だよ、セベクが私のこと大切に思ってくれてるのはわかってるから」
「お前は僕に甘すぎるぞ……」

 彼の訴えに眠気が混ざる。間もなくうとうとし始めた彼の瞼が閉ざされた。おやすみなさい、といつもなら絶対届かない彼の額に小さくキスをして私も目を閉じる。
 本当にセベクはわかっていない。もはや彼が我慢できるようになったら、きっと私の方が我慢できなくなるのだと。その事に彼が気付くのはいつになることやら。

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