大人のごっこ遊び
きっかけは私の何気ない一言だった。
「宅配のお兄さんって良いですよね」
「えっ」
ある休日の昼下がり、ラギーさんと自宅で夫婦水入らずで過ごしていたところ、玄関のチャイムが鳴った。
そういえばエペルが林檎送ってくれるって言ってたな〜と思っている間に「くんはここにいてね」と言い、ラギーさんが取りに行ってくれて。
林檎がめいっぱい詰まっているだろうダンボールを持って戻ってきた彼を見て、ふと思っていたことが口を出た。
「ど、どういうことッスか、くん。まさかもう既にアイツの毒牙にかかって……」
「アイツ、どくが……?」
世間話を振られただけにしては、いやに動揺するラギーさん。その反応に疑問を抱いて確認したならば、思いも寄らぬことが発覚した。
ラギーさん曰く、最近うちの担当になった宅配のお兄さんだが、私を見る目が怪しかったと。自分でもなーんか嫌な目つきだなあとは感じていたが、私の思い違いではなかったらしい。なんならご近所さんの中には既に手を出されてる人もいるんだとか、こわっ……。
あーだからここのところ、ラギーさん、軽い荷物でも積極的に対応してくれてたのか。なるほど納得。
いざとなったらイデアさんから貰ったスタンガン(改造済)とか、ツノ太郎がくれたお守り(火口に落とされたとて無傷で済むレベルの防御魔法付きらしい)があるとはいえ、警戒するのに越したことはない。私も気を付けないとな……。
前提が長くなったが、そんな状態で私があの発言をしたことで誤解を招いてしまったのである。
私が良いと思ったのは『宅配のお兄さん』という概念であって、あの人自身には1ミリも興味がないのに。
「……つまりくんは配達員の男に魅力を感じるってこと?」
「大体そんな感じです。もっと明け透けに言うと、宅配のお兄さんやってるラギーさん妄想してグッときてました」
「ふーん……」
概要をかいつまんで説明すれば、なんとか誤解はとけたようでひとまず胸をなで下ろす。
絶対にラギーさん、配達員のお兄さん、似合うと思うんだよな。一時期話題になった佐○男子は顔採用らしいけど間違いなく通るだろう甘いルックスとか。袖まくりから見える逞しい腕や浮き出た血管に。あと人の懐にスルッと入り込むコミュニケーション能力の高さも持ち合わせてるし。
もし彼が自分の地域の担当とかになったら、小分けしていっぱい頼んじゃってただろうなあ。普通に迷惑客じゃん。よかった、ラギーさんが配達員じゃなくて旦那さんで。
「オレ、持ってるッスよ。配達業者の制服」
「えっ」
「本当は貸与なんだけど、バイトしてた期間長かったから譲渡してくれたんッスよね。作業着だから何かに使えそうだなって残してて、すぐに出せるんだけど」
ラギーさんの予想外の一言に、妄想からぐいっと現実へ引き戻される。
既に実装済だと……?! まあ宅配業者って時給良いってよく聞くもんな。お金儲けに余念の無いラギー先輩なら全然ありえる。でもまさか手に届く範囲にあるとは思ってもみなかった。
「……着てるとこ見たい?」
「見たい、すごく見たいです……!!」
「すごい食いつきッスね。けどタダじゃないッスよ。交換条件を」
「のみます」
「まだ言ってない。どんだけ見たいんッスか」
「とりあえずズボンにマドルねじ込めばいいですか?! 食らえ! NRC時代に戸籍がないから銀行に預けられない中ビクビクしながら貯めたなけなしの全財産!」
「発想がスケベ親父なんスよ。あとさすがに君からはそういう胸が痛くなるようなお金もらえないッス」
若干呆れの入った視線が向けられる。これははしゃぎすぎ以外にも警戒心死んでるけど大丈夫かコイツって気持ちが含まれてるんだろうな。そう思われても見たいものは見たい。
「まあ、ともあれ交渉成立ってことで。じゃ着替えてくるからイイ子で待ってるんスよ」
◇
「はい、どうッスか? なかなか様になってるでしょ?」
「ボーテ一兆億点……」
「バカの点数じゃないッスか、なんにせよお気に召したようで」
水色を基調としたユニフォームを纏って現れたラギーさんが、あまりにも理想の宅配のお兄さんだったことに挙動不審になってしまう。似合い過ぎてて一周回って恐怖すら感じる。爽やかさと力強さとかっこよさの欲張りセット、こんなの正気でいられるはずがない。
「さぞおモテになったことでしょうね……やっぱこのバイトしてる時、逆ナンとかされました?」
「ないッスね」
「世間の女性見る目なさすぎじゃないですか」
「そもそもオレが務めてたところ、ノルマ厳しすぎて本当に荷物渡してハイ次!って感じだったんで」
その分、給与ははずんでくれたんスけど、とラギーさんは続ける。
配達員の人って積極的に交流を深めている(世間話とか犬撫でたり)イメージだったけど、なるほど物理的な問題かあ。
「そんなのだから口説くのはおろか、ましてやセックスなんかヤってる暇ないッスね。……例のアイツみたいにコモンマーモセットでもない限り」
「ああ、あの配達員の人、コモンマーモセットの獣人なんですね……」
コモンマーモセットは動物の中で一番交尾の時間が短い生き物である。つまり最も早漏、その時間なんと五秒。確かにそれなら噂が立つぐらい業務中でもヤれるのか、いや働け。
人間はともかく野生動物にとって交尾は命懸けだ。最中は無防備になる為、短くしようと進化するのは仕方ないっちゃ仕方ないのかもしれないが、それにしたって突き詰めすぎではないだろうか。
なんでこんなことを知ってるのか言えば、NRC時代にチンパンジーの先輩にしつこく絡まれてキレた結果である。チンパンジーは三位で、そのことで罵ったら嘘のように大人しくなったので調べて良かったなと思っている。言ってるところ目撃したラギーさんをときめかせられたらしいし(獣人は強い女性が好きなので)
検索ワード[チンパンジー・弱点]でまさかあんな男子高校生にクリティカルを決められる情報が得られるとは、ありがとう検索エンジンくん。
ちなみにワースト三位はお猿さんの仲間が独占、上位十位もほぼほぼお猿さんである。一応、人間は入ってない。一応。
「そういえばラギーさん、話は変わるんですが交換条件って……」
眼福からの恍惚もほどほどにお礼の確認にうつる。
妥当なところは私も何か着せられるとかだろうか。まあもっと凄いことでもラギーさんがしてほしいなら頑張るけども。
私の質問で途端にニヤァーッと悪い笑顔を見せるラギーさん。今更ながら話を聞く前にOKしたのは早計だったかもと後悔するが、もう手遅れである。
「オレ、ごっこ遊びがしたいんスよねえ」
「ごっこ遊び」
「くんが欲求不満の新妻役で、オレが配達員の間男役」
可愛い単語に対して役柄が不健全すぎる。それってつまりイメージプレイってやつなのでは?
予想外のご要望にたじろぐ私にずずいっと迫るラギーさん。ギラギラ輝く瞳にハイエナは肉食獣であるという事実を改めて認識させられる。
「ちゃーんオレは君のお願い叶えたッスよ。だからオレのお願い、聞いてくれるよね。くん♡」
◇
リビングで私は腕に抱えたラギーさんのスウェットへと顔を埋める。さっき着替えたばかりだからか、はっきり感じるラギーさんの香りにお腹の奥がきゅうと熱くなった。変態チックだと思うけど、彼が出した追加オーダーをこなすにはこれが一番てっとり早いだろう。
あのおねだりの後、すぐさま始まるのかと必死で心の準備を整えようとしていたのだが、ラギーさんから『一度オレが外に出てチャイムを鳴らしたら始まり』と。
で、それまでの間にオナニーしておくように言われてしまった。なんでそんな必要が?!と困惑する私に、ラギーさんは「その方が欲求不満感出るじゃないッスか」と当然のように告げた。
まあ新婚さんなので、そんな欲求不満になる暇は全くないっちゃないんだけども。演技力に自信なんてないし、ここは素直にラギーさんの注文通りにしておくべきだろう。恥ずかしいけれどラギーさんが喜ぶなら。右手を下腹部に伸ばす。
「ん、んっ……」
自慰のやり方なんて知らない。だからラギーさんの手付きを思い出しながら秘部を指でなぞる。
なったことないからわからないけれど、欲求不満の人妻なら大人のオモチャを使ってるのが自然なのかなと思うけれど、あいにくそんなものはうちにはない。
だからひたすら指で自身を慰め続ける。すると、どうだろう。彼とのセックスを妄想していたせいか、はたまた手本が良かったのか。ぐちぐちと次第に水音は大きくなっていく。
この調子ならイくのも時間の問題、そうぼんやり絶頂の予感がよぎったその時だった。ピンポーンとチャイムが鳴り響く。
寸止めされたことで悶々とした気持ちになりながらインターホンへと向かう。今日はもう何かが届いたり来客の予定もない。だから間違いなくラギーさんのはず。それでも念のため確認すれば、案の定ラギーさんが小さな画面に映っていた。
今行きます、と答えた私の声は震えていなかっただろうか。これは期待なのか、興奮なのか、どっちもなのか。とにかくパタパタ、スリッパの音と共に玄関へ。
微かに震える指で鍵を開け、ドアノブを捻る。扉を開けた先には小さなダンボールを持ったラギーさんがいた。
「お届け物でーす。ここに判子もらえます?」
「えっと、サインでも大丈夫ですか」
「大丈夫ッスよ。はい、これ使ってください」
渡されたペンで伝票にサインする。自分で書いておきながらブッチの文字にまだちょっと照れくささを感じた。
こんな小物まで用意して本格的だなあ。でもここからどうやってあのプレイに流れ込むんだろうか。ラギーさんが提示したシチュエーションはいかにもAVとかでよくありそうって感想は抱いているものの、あまり見た事がないので殆ど確証がなくただのイメージにすぎない。偏見とも言う。
「ありがとうございました」
そうこうしているうちに荷物を受け取り終わってしまった。
何か私がそれらしいことを言うべきだったんだろうか。欲求不満っていうぐらいなんだから誘い込むとか。でもそんな指示出てなかったしなあ。
ぐるぐる考え込んでいた私だが、ガチャンと鍵が閉められる音で我に返る。そこには私を抱く時の表情をしたラギーさんがいた。あ、雰囲気変わったな……。
「悪い奥さんッスねえ。こんな発情した雌の匂いプンプンさせて、オレが来るまでにナニしてたんスか?」
「えっ、あの、私……」
「それもやらしー顔してさぁ。襲ってくれって言ってるようなもんじゃないッスか。でもそうなっちゃっても仕方ないッスね。旦那さんってば結婚して間もないってのに単身赴任だなんて、ねえ?」
するりと腰を撫でられる。性の匂いを感じる手付きにぞわぞわと身を震わせていれば、彼の手がお尻へと移動する。ぐにぐにと強く揉まれて「きゃんっ」と犬みたいな悲鳴が出た。
箱が手から滑り落ちる。拾うべきなのかもしれないが、それすらできる余裕がない。
「送り主、これアダルトグッズの会社でしょ? 箱のサイズからしてバイブかディルドッスかねえ……。君みたいな昼間から盛ってるスケベな奥さんが、こんなオモチャで満足できるんスか?」
熱く固くなったそれを私のおなかへ擦り付けながら、ラギーさんは私の耳元で囁く。
パッとラギーさんの体が離れる。「あ……」それに思わず出た声は明らかに物欲しげで、羞恥心から顔を手で隠す。
そんな私をラギーさんは黙ってじっと見つめるだけ。きっと私が答えるのを待っているのだろう。ちゃんと言わなきゃと思うのに、言葉にはできそうにない。だから、ふるふると首を横に振って意思表示をする。
「ふっ、んうぅ……♡」
了承した瞬間、噛みつくようにキスをされる。指と同じく器用な舌がじゅるじゅると音を立てながら私の口内を蹂躙していく。
的確に腰砕けにしてくる口付けをなんか凌ごうとラギーさんの胸元に縋る。って違う違う、えっと人妻なんだから、いや実際にラギーさんの妻なんだけど、そうじゃなくて、ああもう考えがまとまらない!
でもたぶん私のこの反応はプレイ内容にそぐわないのはわかる。頑張れ思い出せ、かつてマブが私が男だと勘違いしてた時にオンボロ寮に預けてたAVを……! 興味本位で見たけど、どっちのだったか忘れたが、人妻モノもあったはず……!
「だめ、こんなのダメですッ。私には愛する夫が……ひぅッ♡」
なんとか捻り出したそれっぽい台詞を口にすれば、トップスをずらされて肩に噛みつかれる。ラギーさんの固い骨も砕く牙の感触に一瞬怯えるも、痛いのと気持ちいいを両立した力加減で責められる。
場所的に見えないけれど、きっと口を離された肌にはくっきりと歯形ができていることだろう。続けざまに舐めとられジンジンする。フーッフーッと荒い息をこぼすラギーさんはいつもよりも興奮している様子みたいだ。
「うう、ひどい。こんな跡、誰かに見られたら……。もういいでしょう、今なら忘れますから!」
「往生際が悪いッスねえ。惚れてる雌から誘惑されたんスよ、逃がすわけないでしょ」
参考資料が殆どないので直感で選んだ台詞だが、そのチョイスは間違ってなかったらしい。白ける気配は全くない。それにしてもラギーさんアドリブ力高いな……。
壁に手を付けさせられ、お尻を彼に突き出す体勢になるよう命令される。たぶんここで「いやあ、やめて!」と形だけでも嫌がるのがセオリーっぽい気がするけど素直に従った。
いやハイエナって雌の許可がないとエッチなことできないので、あんまりイヤイヤ言ってたら萎えちゃいそうだなって。あと欲求不満な人妻なら口では拒んでようが結局こうなるんだから、もうさっさと進んでても、さほど影響はないでしょ。
「ッ?! ……シシシッ、オレが来るってわかった上でこんなエロい下着付けておいて、そんな気なかったなんて言えないッスよねえ♡ もうとろとろだし準備万端じゃないッスか♡」
スカートをまくって出てきたセクシーランジェリーにラギーさんが息を呑んだのがわかった。
欲求不満な人妻感というか、ちょっとした意趣返しは無事に成功したみたい。本当はもうちょっと経ってからお披露目するつもりだったんだけど、このプレイの小道具として使った方が効果的かなって。
その目論見は半分当たりで、半分外れ。というのも、私の精一杯はすぐさま彼によって軌道修正されてしまったから。
ジジジッと音がして、その後にひたりと膣の入り口に固いものが押し当てられる。あ、と思った次の瞬間にはズプンッと一気に奥まで貫かれていた。
「〜〜〜んんッ♡♡」
「はー……ナカ、ぎゅうぎゅう締め付けてくるッスねえ♡ そんなに寂しかったんスか? こんなえっちな奥さんほっとくとか、君の旦那さん甲斐性無しにもほどがあるでしょ」
「ぁあっ♡ お、っき、おっきいよぉ♡」
「ありゃ、聞こえてないか」
ナカを押し広げていく質量はいつもより大きく感じた。容赦なく後ろから突かれて、頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。
これは夫婦の営みではなく、獣のまぐわいなのだ。普段よりもガツガツとした律動に、体勢に、男と女が本能を剥き出しにして交尾してるだけ。快感に溺れているくせ、それに少しだけ寂しさを覚えてしまう。
だがそのかすかな理性はすぐさま離散した。赤ちゃんの部屋をコツコツ叩かれ、衝撃から壁に痕が残りそうなくらい爪を立てる。腰をしっかり掴まれて逃げようがない。
「オレのぜーんぶ咥えちゃって、ちゅうちゅう吸い付いてきて、欲張りさんっすね♡ ここ、どんどんオレの形になってきてるのわかります?」
「ひぅ♡ だめ、だめです♡ 奥、ごりごりするの♡ びりびりするからぁ♡」
「ねえ、奥さん。旦那さんとするのと、オレとするの、どっちの方が気持ちいいッスか?」
「あああっ♡ わかんない、わかんないれすッ♡ ひゃうっ♡」
うなじを甘噛みされながら、すりすりとおなかを撫でられる。その間もばちゅばちゅっと激しく腰を打ち付けられ、彼の切りっ先で奥をこじ開けられる度に私は背を逸らして体を震わせてしまう。
「もうオレじゃなきゃ満足できないでしょ? 奥にたーっぷり出してやるから、オレの赤ちゃん孕むんッスよ♡」
「あっ♡ らぎー、さっ♡ らぎー、しゃん♡ すき、すきぃ♡ んぅっ♡ うみます、らぎーしゃんのあかちゃん♡ うみますっ♡ あああっ♡」
「〜〜〜ッ♡ あ゛、イ゛くッ。でる、でるっ!」
ぴったりと子宮口に、はまった熱がびくびくと大きく跳ねる。続けて子宮がたぷたぷになりそうなぐらい、どくどくと大量の精液が叩き付けられていった。
同時に果てたことで快感の余韻にぴくぴくと震えが止まらない。全部注ぎ終えたラギーさんが、体重をかけないように覆い被さってくる。
耳元で聞こえる興奮が隠しきれない荒い息に、ときめいた私はうっかり入ったままの彼を締め付けてしまって。それを叱るように耳を甘噛みされた。
「らぎーさん、ごめんなさい……最後の方、演技、忘れて……」
「あれ、むしろめちゃくちゃ可愛かったんで。全然アリというか、100点中200点だったッス……」
すりすりと甘えるように頭をすりつけながら、ラギーさんが私を抱きしめる。ラギーさんを満足させられたなら良かった。
……満足してもらえたんだよね? むくむくとラギーさんのラギーさん、また元気を取り戻しつつあるけども。
「じゃあ次は寝室で新婚らしくイチャラブ子作りッスね!」
「えっ」
「お願いが一つなんてオレ言ってないッスよ♡ 今度はごっこ遊びじゃないんで。いっぱい頑張ろうね、くん♡」