その約束は色褪せない

 本日、私は恋人のラギー先輩に誘われて学園外にある農園へとやってきていた。
 先輩が紹介してくれた日雇いのアルバイトの為だ。魔法が使えずともできる割の良いバイト、と聞いて即座に食いついたそれは果実の収穫のお手伝いだった。
 雇い主のおばあちゃんこと、ミミさんが今いる山の一帯で育てているその果実は魔法で収穫すると枯れてしまうんだとか。だから一つ一つ、手で収穫する必要がある。ただ逆に手作業であれば多少乱暴でも問題無いらしい。繊細なのか丈夫なのか、よくわからない果実だなあ……。
 それはともかく、とにかく人手が必要なこのバイトだけれども、参加者はラギー先輩と私だけ。普段はいつもは自分とミミさんの二人でやってるくらいだから大丈夫と先輩は言っていたけども、ならばむしろ私は邪魔になるんじゃないだろうか……。
 なんて不安は抱えつつも先程から私はもくもくと果実の収穫を続けていた。

「よしっ、これで言われた範囲は収穫できたかな……?」

 目の前の木は緑の葉っぱだけが青々茂っている状態だ。落ちないよう気をつけながら脚立から下りる。
 きょろきょろと周囲を見渡し、状況確認。うん、ちゃんと担当部分の果実はちゃんと刈り尽くせたようだ。果実でいっぱいになっているだろう籠に、収穫が終わったら入れてと言われていた通り脚立を突っ込む。
 脚立なんか入れたら果実が潰れそうなものだけど、この籠はマジックアイテムであり、入れた物が亜空間収納されるようになっているのでそこは心配しなくていい。ただ中身を確認したり、取り出せるのは持ち主のミミさんだけなので細心の注意を払いながら使ってる。
 あれだけの果実が入っていったというのに背負っても籠の重みしかない、脚立も突っ込んだのに。助かるけどちょっと怖い。
 先輩達は別のエリアにいるのだろう。人気は全くなかった。そもそもこの山には熊避け兼ドロボウ避けの為、ある程度以上の大きさの動物はミミさんが許した人以外は入れないよう結界が張っており、現在山にいるのは私と先輩とミミさんだけ。人気を感じたら逆にこわいんだよなあ……。
 色々考えながらも集合場所へと向かう。もし終わってなさそうならお手伝いしないとな。

「二人ともありがとねえ、助かったよ」

 私が集合場所に戻った時にはもう二人とも帰ってきていた。手伝おうと意気込んでいたのにむしろ私が最後だった。
 二人とも私が任された範囲の三倍ぐらいを担っていたはずなのに。本当に私必要だったかな……? 微妙な気分になりながらも、バイト代と収穫した果実をいくつか渡される。取れたてだけあってツヤツヤとキレイで良い匂いもする、これはグリムへのお土産になりそうだ。

「ミミさん、くんと山の中ちょっと散歩してもいいッスか?」
「おや、ラギーちゃん、デートかい? いいねえ。好きなだけ使っておいき」

 すぐ帰るのかと思いきやミミさんにお礼を告げて、先輩は私の手を取る。そして迷わず恋人繋ぎの形になったのを見て、ミミさんはニコニコしながら了承してくれた。先輩とは今までもっと凄い事をしてきたのに、これですらちょっと恥ずかしい。
 先輩は繋いでない方の手に件の果実を抱えている。先輩の「道中で食べましょ」との提案に頷いて、私は彼の後ろを付いていく。

「先輩、どこに行くんですか?」
「ついてからのお楽しみってことで」

 さくさく、先輩は慣れた様子で山道を歩いて行く。歩き始めて数十分、途中の木陰で一旦休憩を挟むことになった。
 木の幹へもたれかかるようにして、二人並んで座り込む。先輩がさっきの果実を一つ渡してくれた。

くん。この果物、食べたことあります?」
「いえ、見るのも初めてですね……。こいみのか、っていう極東のフルーツだっていうのはミミさんに聞いたんですが」
「意中の相手に食わせると両思いになれるって言い伝えがあるから、その名付けられたらしいんスけど、詳細が気になるならミミさんに聞いてくれます? オレ、食えるか食えないかぐらいしかわからないんで」

 そう言って先輩はがぶっと果実に齧り付く。なるほど、丸ごと食べれるフルーツなのか。彼のお手本に習って口に運ぶ。
 が、全く歯が立たない。何コレ固い。歯形すら付かないのだけれども……。

「あー……くんの歯だと食えないか。ちょっと貸して」

 苦戦していた私を見かねて、先輩が果実へ牙を食い込ませる。それから半分に割ったところ、瑞々しいピンク色の小さな粒がたくさん出てきた。なんとなく柘榴に似てるなと思っていれば、先輩が粒を一つ摘まんで私の口元へと持ってくる。
 先輩の指を囓らないように粒を口に含む。その瞬間、甘酸っぱい香りと味が口中へと広がった。

「……おいしい」
「オレはそのまま食えるから忘れてたけど、これ、普通は棒とかで叩き割って中だけ食うんスよね」
「そうなんですね」
「ミミさんも自力じゃ魔法使わないと割れないから、旦那さんが生きてた時は割って食わせてもらってたらしいッス。そういや、あの時なんか気をつけろって言われたけどなんだったっけな……」

 少し考え込んでいた先輩だったけども、命に関わることではなかったから大丈夫だと結論付けていた。生死とお金に関わらない事だとわりと先輩ガバガバですよね。
 それこそ彼らしいっちゃらしいんですけども。なんて物思いに耽っていれば「皮はオレ食べるんで、中身だけ食べて」と促される。先輩の優しさに甘えて中身を食べ進める。

「じゃあそろそろ行きましょ」

 食べ終わり少し一休みした後、ラギー先輩が立ち上がる。

「……くん?」

 だが私は立ち上がれなかった。肌が火照る。今まで休んでいたはずなのに、急激に心拍数が上がった心臓から、どくんどくんと嫌な動悸がする。息が上手く吸えない、はっはっとまるで夏場の犬のような荒い呼吸を繰り返す。
 体の中でも特におなかが熱くて、ぐるぐると内側で熱が渦巻いて落ち着かない。体温のせいだろう、全身から吹き出した汗が気持ち悪い。

「ら、ぎー、せん、ぱい……」
「どうしたんス……あ゛っ」

 何故か潤んだ涙腺に視界がぼやける。息苦しさを堪えながら、先輩に助けをもとめようとすれば、何かを思いだしたかのような声を彼は上げて。
 体を抱きかかえられる。先輩が私の肌に触れた瞬間、びりっと電流のような感覚が体を襲った。突然の事に混乱したまま、先輩は木々の中へと入っていく。まるで人目を避けるかのように。
 私を木の幹にもたれさせ、先輩はジャケットを脱いで地面へと敷く。そして再び抱え上げられた私はそのジャケットの上へと横たわらされた。

「せんぱい……?」
「後で説明するんで」

 ごめんと謝って先輩は私に口付ける。唇が触れただけ、なのにもう口の中をかき混ぜられた時みたいに気持ちいい。これで先輩の舌が入ってきたらどうなっちゃうんだろう。
 ふわふわする頭でそう考えているうちに口内を先輩のざらついた舌が舐め始める。敏感な所をかすめる度にびくびくと体が痙攣して。上手く飲み込めなかった唾液が口角から垂れていった。
 唇が閉じられない。自分の吐息はあの果実に侵されたかのように甘かった。首筋をべろりと舐めあげた後、先輩は零れた唾液も同じく舌で絡み取る。

「んっ、んん……」

 ジャージの下に着込んでいたシャツの中にラギー先輩の手が入り込む。
 いつもならすぐに脱がすのにどうしてだろう。熱に浮かされた頭で必死に考えたところ、外だから、という答えが出た。外、そう、ここは私達が普段むつみ合うような場所じゃない。
 その事に気付いたものの、昂ぶってしまった体の前には抵抗しようがなかった。胸をいじくりまわす先輩に私はただ嬌声を上げるばかり。
 鎖骨の辺りまでシャツを捲り上げられ、ついでにブラジャーもずらされてしまった。剥き出しになった膨らみに先輩は緩く歯を立てる。恥ずかしいという気持ちとは裏腹に立ち上がった胸の先端を彼はちゅうと吸い付いた。

「ひあっ。だめ、せんぱい、だめぇ……」

 こんな所で気持ちよくなっちゃだめなのに。引き剥がそうと胸をしゃぶってる先輩の頭を押すけども全く力が入らない。そうしているうちに体が跳ね上がって目の前が真っ白になる。
 達した衝撃に気を取られている間にズボンとショーツを脱がされる。望んでない状況なのに私の秘部は濡れそぼっていて、垂れた愛液が敷かれた先輩の上着を汚した。
 足の間に先輩の頭が埋まる。一番敏感な場所に軽く口付けられ、喉が引きつった。だめと制止の声を吐ききる前に先輩が突起を舐め上げる。その刺激に再び私は絶頂を迎えて。
 まだ高みから戻って来れていないのに先輩の愛撫は止まらない。秘部へと舌が入り込み、じゅぽじゅぽと音を立てるようにして抜き差しされる。

くん、本当にごめん」
「え……? ッぁあ、あ!」

 何度も絶頂させられ、意識が飛んでいた。我に返った私へ先輩は謝る。その謝罪の意味は尋ねる前に、中へと突き立てられた熱の塊によって強制的に理解させられた。
 今までとは違う感覚、いつもよりもハッキリわかる先輩の熱と形。先輩は避妊具を身に付けていなかった。
 普段なら子供ができてしまうと恐れていただろう。でも謎の情欲と快楽に犯された頭はそれでもいいと思って、衝動をぶつけられている子宮はむしろ望んでいるかのよう疼いている。
 気持ちいい、気持ちいい。もっともっと先輩が欲しい。腰を掴んで先輩は私の体を揺さぶる。先輩の律動に秘部だけじゃなく頭の中までぐちゃぐちゃにされる。突かれるたびにバチバチと瞼の裏で火花が飛んでいた。

「せんぱ、い……せん、ぱい。きす、して……ください……」

 私の要望に先輩は口付けてくれる。おかしくなった私の体はそれだけでまた達してしまって。体力の限界が来たのだろう、意識が薄れていく。
 先輩が唸ると同時、ずるりと私を貫いていた質量が抜ける。びゅくと太股の辺りにかけられた熱の飛沫を感じながら、私の意識は暗闇へと落ちていった。

 ——懐かしい匂いがする。やわらかく、やさしい、この香りは。

「あっ、起きたッスか?」
「……先輩? えっと、ここ……は……ッ?!」
「うわっ」

 「いきなり起き上がったら危ないッスよ」と先輩の正論はごもっともだが、今の私はそれどころじゃなかった。
 先輩に膝枕してもらっていたようだけども、目の前の絶景に寝転んだままでいられるはずがない。ひらひらと散った花びらが風に乗って私の元へと届けられる。どこからどう見てもそれは元いた世界ではよく見た、春の光景だった。

「なんで、ここに桜が……」
「ミミさんがこいみのかと一緒に譲られたんだとか。ただの花だから最近まで忘れてたんスけど、くんの話聞いて思い出したんスよ」

 もしかして、先輩が見せたいものってこれだったのか。そういえば以前、私は桜について先輩に話した記憶がある。一番好きな花なのだと。故郷にしか咲かないからたぶんもう見れないのだろうとも言った。
 だが元の世界では見た事のない大きさだけども、確かに目の前の木は桜に違いなかった。懐かしさに思わず涙ぐむ。

「……ありがとうございます、ラギー先輩」
「喜んでもらえて良かったッス」
「ところで……さっきの件なんですけど……」
「まあやっぱり流してもらえないッスよねぇ!!」

 さっきの醜態を思い出し、おそらく赤面しながら尋ねる私にヤケクソ気味に叫ぶ先輩。さすがにうやむやにできないですよ……。
 観念したように先輩は語る。さっきのアレはこいみのかによるものらしい。あの果実は想い合っている相手から手ずから食べさせられた場合、催淫効果が発生する。抱かれた場合はすぐに治まるが、放っておくと何時間も苦しむことになるんだとか。魔法植物怖い。
 先輩はその事を最初バイトし始めた頃に聞いていたが、当時の彼は恋愛に興味がなかった為、すっかり忘れてしまっていたと。
 しかもこんな状況でするつもりなど一切なかったのでゴムなんて持ってきている訳もなく……。
 以上が事の顛末である。話し終えた先輩は耳を畳んで、目に見えてしょぼくれていた。

「ラギー先輩、それはもう仕方ないですよ。緊急事態ってことで」
「……くんは相変わらずお人好しッスねえ」
「というか、外でするのとかはちょっと思う所がありますが、先輩とするのは嫌じゃなくて、むしろ凄く好きなので。だから、本当に気にしないでください」

 正直な気持ちを伝えれば、先輩は頬を指で掻く。彼の肌は今も私達の上を舞っている桜のように薄く色付いていた。どうやら照れているようだ。まあ私、今思えばかなり恥ずかしい事言ってるもんね……でも後悔はないのでよしとしよう!
 さっきの今で腰が立たない為、先輩に背負ってもらってミミさんの元へ向かう。その途中「また来年も一緒にここでバイトしましょ」と言う先輩に私は嬉しさを隠しきれない声で「もちろん」と約束したのだった。

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