悪い子も愛があるならたまになら

 私とリドル先輩が付き合っていることは周知の事実である。
 だが彼の性格からして不純異性交遊はまずないとのことで、至って健全なお付き合いをしていると思われているせいなんだろう。リドル先輩と恋仲になった今も尚、ワンチャンあるだろと私に告白してくる男子は絶えない。
 中にはあんな堅物君相手じゃ欲求不満だろ?俺が相手してやるよとか寝言をほざく者までいる。基本的には「彼氏とラブラブなんで」と優しくきっぱり断るが、さすがにそういうヤツには「イキり童貞くんは利き手とよろしくしてろ、×××(リドル先輩の夢の中で出てきたスラングの進化版)」と中指を立てる形でお返ししている。
 だいぶ品の無い振るまいだが、そういったハートフルボッコワードを、私みたいなチビ童顔で外見だけは清純そうな女に言われるのは、かなり心にくるらしく大抵大人しくなるのだ。仕方あるまい。
 まあ稀に監督生がそんな下品な女性だったなんて失望しました!学園長のファンやめます!とか、聞こえなかったからもう一回言ってくれない??ハアハアなんてパターンもあるので油断はできないが。
 
 つまり、そのなんだ。大衆の目に見えるものだけが真実ではない。私だけじゃなく、彼も。
 私は見た目からイメージするような、あどけなさも無垢さも母のおなかの中に忘れてきた人間で。
 リドル・ローズハートは皆が思う通り品行方正な優等生だが、同時にとてつもなく嫉妬深い男でもあるのだ。

「ぁ……んぅ、ッ♡」

 原因は何か。おそらくだけれども、色々重なった結果なんだろうなと思う。
 1・2・3年生合同錬金術でパートナーにツノ太郎を選んだ件(リドル先輩は離れたところにいて誘いづらかった)とか、フロイド先輩にぎゅーっと絞められてるのを見られてた(よくあることだ、なおリドル先輩は救出してくれた)とか、デートに誘われた日に1年ズと遊びに行く先約が入っていて断ったとか、極めつけはリドル先輩がここのところ忙しく接触する機会がほぼなかったことか。

 放課後、私は予定が開いてたら先生方のお手伝いをしていることが多い。
 今日も先程まで私は、先生に依頼されて授業で使った道具を準備室へしまっていた。鍵は自動で閉まるから片付けたら帰っていいよと言われていたこともあり、オンボロ寮へ向かって廊下を歩いていたのだが。
 その途中で見るからに機嫌最悪のリドル先輩と出くわしたのである。
 なんだかまがまがしいオーラを背負っていた彼は夜とかに見かけたら怪異と勘違いしてもっとビビってたと思う。
 でも久しぶりに会えたことに喜びきっていた私は「リドルせんぱーい!」とウッキウキで近寄っていった結果、空き教室に連れ込まれ、あれよあれよと言う間に服をひん剥かれていた。

 普通に考えたら、あんなところにリドル先輩がいることがおかしいのだ。
 あそこは会議室や部室系統から離れてるので、放課後は殆ど生徒がいない場所で。図書館や運動場の通り道でもない。この時間帯なら先生方もあまり見かけないかも。
 だから推測するにリドル先輩は私を待ち構えていたのだろう。彼は私がよくこの手伝いをしているのを知っていたから。この捕まえる格好のチャンスかつ、組み敷くのに適したシチュエーションを。

「防音魔法をかけてあるから声は我慢しなくていいよ」

 静かに言い終えるとリドル先輩はぐっと体重をかけてくる。それによって中の熱が更に深い場所に埋まった。涼しい声色と私を犯す熱のコントラストに頭がくらくらする。
 一見気遣いのようにも思えるそれは実質「声を聞かせろ」というご命令だ。
 暗くない部屋にただでさえ沸き立つ羞恥を少しでも減らしたいのに、彼はそれを許してくれない。

「ふ……ぅ、あっ♡ り、どる、せんぱ、い♡」

 彼が私を揺さぶるたび、ガタガタと机が音を立てる。いつものリドル先輩のベッドでは聞くことのない音に非日常を実感させられ、体温が更に上がっていく。
 告白はリドル先輩からだったけれど、彼は付き合った当初「婚前交渉はしないよ」と宣言していた。
 彼の潔癖な性格からしてそうなることは容易に予想できたし、なんなら性嫌悪もある様子で。だからせめて卒業するくらいにはキスできたらいいなと繋いだ手に喜んでいたのだけれど。
 なのにどうしてこうなったのか。思ったより早いタイミングでファーストキスを終えてまもなく押し倒され、そのまま不純異性交遊に発展してしまった。しかも現在進行中でとんでもないことになってるし。
 しかと太ももを掴まれて、ガツガツ腰を打ち付けられる。いつも以上に余裕の無い動作、リドル先輩らしくない乱雑さが滲んでいても私の体は悦んで受け入れるばかり。
 剥き出しになった肩に先輩が歯を立てる。緩くとも食まれたそこは痛いはずなのに神経が壊れたのか、頭の中に走るのは気持ちいいという感覚だった。

「……キミって、酷くされるの好きだったりする?」

 そんなことはないと思う。思うけど、今のぐちゃぐちゃになってる自分にちょっと自信がなくなってきた。ただ、私は。
 繋がっているところの少し上の突起を撫でられ、びくんと腰が跳ねる。突然の強い刺激に思考も飛んでいった。抜かれて差し込まれて、そんな単純な動作の繰り返しにあられもない声を上げる。
 おなかの奥がぞわぞわする。どちゅと一番深いところまでリドル先輩が押し込まれて、一気に絶頂へと駆け上がった。
 それで起こった締め付けに誘導されたのか。リドル先輩が短く唸って精を膜越しに吐き出す。
 ずると落ち着いた彼の熱が胎内から抜ける感覚にすら喘ぐ私を「これ以上ボクを煽るのはおよし」と頬を赤らめた先輩が叱った。

「……ごめんよ」

 苛立ちに任せて私を辱めたという自覚はあるらしい。
 フラストレーションを解消して冷静になったのだろう。お互い身なりを整えたところで、ぽつりとリドル先輩は反省の言葉を口にする。
 よくよく考えたらなかなかハチャメチャされたな。なので本当は私は怒るべきなのかもしれない。でもなんだか内心で自分を責めてる様子のリドル先輩の姿にそんな気には到底なれず。

「リドル先輩。防音も施錠もしてくれてましたし、たぶん念のための目くらまし魔法もしてましたよね」
「え? あ、ああ……そうだね。よくわかったね」
「後はちゃんと避妊もしてくれてましたし」
「当たり前だろう! ボクはそんな無責任な男じゃない! ……いや今となってはあまり説得力がないだろうけど」
「わかってますよ、間違いなく将来責任取ってくれるだろうって。だからいいですよ。今回の件、許します」

 許すも何も本当はミリも怒ってないのだけれど。
 私の発言に納得がいかないというか、本当にそれでいいのかといった顔を見せるリドル先輩。たぶん彼のお母さんの苛烈な罰を受けてきた影響なんだろう。
 んーどうしたものかな。少しばかり考えて、ある案が頭に浮かぶ。

「悪いと思ってるなら、キスしてください。今回全然できなくて寂しかったので」
「……それじゃ罰にならないと思うのだけれど」
「罰じゃなくてこれはお詫びですよ、お詫び。それにさっきもそうですけど、好きな人には甘くなっちゃうものですよ。そういうものでしょう? リドル先輩」

 ふにゃふにゃ笑う私に普段自分がどれだけ恋人を甘やかしてるか思い当たったのだろう。そうだね、と小さく先輩がはにかむ。
 さっきまでの荒々しい手付きと違って、まるで砂糖菓子にでも触れるかのよう、手が頬へ添えられる。そしていつものようにリドル先輩は優しく私へ口付けた。

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