二度目の正直
唇が離れた後、レオナ先輩に抱えられて私の足は宙に浮いていた。看板に気を取られすぎて見えてなかったのか、はたまた私達が乗り気になったから出現したのか。なんにせよ私達の死角にあったベッドへと自分は運ばれている。
それに私はホッとしていた。というのも、あまりに熱烈な口付けに、もしかしてこの体勢のまま抱かれてしまうのだろうかとちょっぴり不安に感じていたので。自分からお誘いしたぐらいなので先輩に抱かれることには異論はない。むしろ歓迎している。
ただ間違いなく体力差が著しい中で立ったままの初体験というのはいささか……いやだいぶ処女にはキッツイだろう。ロストバージン(ハードモード)とかもはや苦行なのでは? ともかくしょっぱなからガンガンいこうぜは普通に足腰が死にそうなのでご遠慮いただきたいだけだ。いのちをだいじにさせてほしい。
ベッドに横たわらされた途端、再び深く口付けられる。ムードを尊重した結果ではなく、単純に恥ずかしすぎてぎゅっと目をつぶる。あの顔面国宝をゼロ距離で味わって、私程度が平気でいられるはずがない。
唇や口内をなぞる先輩の舌は私のそれよりもざらざらしている。舌自体はやわらかいけども無数の突起で覆われているせいだろう。祖母の家で飼っていた猫もこんな感じだったな。確かネコ科の動物は肉をそぎ落とす為にこのような形状になっているらしい。
ただ祖母の飼い猫に舐められると痛みを覚えていたが、手加減してくれているのか、先輩の舌にはもっとしてほしいとしか思えなかった。
呆けていたから気付かなかったのだけれど、いつの間にか混ざり合った唾液が顎を伝っていて。それを先輩は舐め取った。とても小さな刺激のはずなのに、なんだか背中がぞわぞわする。決して嫌な感じではないんだけど……。
頭の芯が痺れてぼーっとする。体が熱くて、心臓がかつてない勢いで跳ねていた。はぁーはぁーと荒い息をしている私の口を先輩はまた塞ぐ。何度も重ね合わせられている間にジャケットもシャツもボタンを外されていた。
出てきた使い古しのスポブラにクイッと先輩が指を引っかける。こんなことになるなら可愛い下着を買っておくべきだった、くっ。
「すみません、色気の無い下着で」
「布には興味ねえ、脱がせば一緒だろ」
「でもプレゼントとかでもラッピングがちゃんとしてる方がワクワクしませんか?!」
まあちゃんとしたの買うお金とか無いんですけど……小さく呟く私を先輩は心底憐れんだ目で見る。先輩にこの目をさせるってよっぽどだと思う。
それよりとっさに口を出たけど、これすごくムード壊してない? 自分の失態に今更気付いてあわあわ慌て始めた私の額へレオナ先輩がキスする。ニヤリと先輩の不敵な笑みに心臓がまた高鳴っていた。
「なら次は俺好みのを見繕っておいてやるよ」
「……えっちなやつですか?」
「さあ? どうだろうな」
できればワイヤー入りのしっかりした作りのやつがいいな……と、これまた色気のないことを考えているうちに、ブラを上へずらされる。
露わになった胸にレオナ先輩の手が伸びた。膨らみを緩く掴まれる。埋めるようにしながら撫でる繊細な指使いに「う、ゃ」と猫のような声が漏れた。
くくっと楽しげに笑いながら先輩は胸に顔を近づける。彼の髪が肌に擦れて、そのくすぐったさに思わず息を吐く。胸の先端を先輩の舌に舐め上げられて、びくんと大きく体が跳ねた。ざりざり、続けられる舌の動きに私の中で熱が溜まっていく。固くなったそこを転がされて訳も分からぬまま背筋が反る。火照っていく体が怖くて先輩の頭を押しのけようとするけれど、彼は引くどころかもっと追い詰めるかのように先端を咥えて、じゅうと吸いついた。
軽く立てられる歯の感触にひっひっと引きつったような情けない鳴き声を上げる。下腹部が重たくなって、じんじんするのが怖くてたまらない。唇に挟まれながら引っぱられ、一際高い声が出た。
ベルトを外されてズボンを抜き取られる。ショーツも脱がされ、その時にさっさと足を閉じれば良かったのに咄嗟のことで対応できなくて。呆けている間に先輩の体が挟まれて左右に大きく開かれてしまった。そのことで私が身悶えている間に先輩は上の服を脱ぎ捨てる。
がぷと唐突に肩口へ噛みつかれる。先輩からすればだいぶ手加減してるんだろうけど、私としては結構痛かった。先輩の口が離れた後になんとなく触ったところ、しっかり歯形が付いているみたいだった。マーキングかマウンティングか、なんにせよ垣間見えた先輩の獣性にくらくらしてしまう。
獣、そう意識して、ふとある懸念が頭をよぎる。このままするんですか?と考えた通りの疑問をぶつければ、先輩は眉をしかめる。
「おいおい、ここまで来ておあずけするつもりか」
「……? えっと、後ろからじゃなくていいのかなって」
ライオンの交尾は見たことないけども、おそらく猫と同じく後ろからするのだろう。だったら先輩としてもその体勢でする方が自然なのではないか、そう思ってついたずねてしまったわけだ。余計なお世話かもしれないけれど、彼の負担は少しでも減らしたかった。
申し出た私に先輩はこの行為が始まるきっかけを口にした時のように目を丸くしている。でもすぐさまフッと笑って、先輩は私の頬を撫でてきた。
「お前は後ろからされてえのか」
「……できれば今の方がいいです。先輩の姿が見えないのは……その、怖い、ので」
「なら変に気を回そうとするのは止めることだな。そのままのお前を見せろ」
「さっきから私、変な声いっぱい出してるけど、それもいいんですか……?」
「自分の手で雌が悦んでるのに嫌がる雄がいるわけねえだろ。そんなこともお前はわからないのか」
「しょうがないじゃないですか。私、先輩が初めてなんですから」
こういった事どころか、なんなら初恋すら先輩なのだ。そりゃ女友達の話を聞いてる限り、自分はだいぶ疎いのではと思わなくもないけれど。だとしても経験者として年長者として寛大に受け止めていただきたい。
主張してむくれる私に「奇遇じゃねえか、俺も同じだ」と先輩は口角を上げている。発言の意味がわからず、たっぷり数十秒置いてようやく理解した私は疑いの目で先輩を見る。
「仮にも王族が安易に胤ばらまくわけねーだろ」
それはそう。でもやっぱりどこか信じがたい。先輩みたいな百戦錬磨の女入れ食い放題セクシー部門担当が初めてだなんて。だけど、だとしたら、きゅっとなった胸元に手を添える。
「……俺が女を知らなくて不安か?」
先輩の瞳が憂いを帯びて揺れている。それに私は首を横に振って「嬉しいです」と先輩の頬を両手で包む。彼に言われた通り、そのままの言葉で伝えれば先輩の瞳が安堵に染まる。
続けて、すりと頬ずりしたかと思えば、彼は私の掌へ口付けて。唇にも顔を寄せてきた。
「あっ」
膣の少し上にある粒をかりかりと引っかかれる。びくびくと体を震わす私を観察しながら、途中、先輩は自分の口に含み濡らした指で撫で回す動きへ変化させた。
びりびりすると普通に言ったつもりなのに、その声は舌足らずで妙に高くなっている。下腹部から浸食してくる甘ったるい痺れに悲鳴じみた声で私は喘ぎ続けていた。
膣口に指が這う。ぬるぬると自分でもわかるぐらいそこは濡れていて、何度も先輩の指が実感させるかのように滑らせてくるのが恥ずかしい。
そうこうしているうちに、つぷと先輩の指が中に入り込む。多少の異物感はあっても痛くも怖くもなかった。探るように動いていたかと思えば「こっちに集中してろ」と中の指はそのままに親指で粒を押しつぶされる。強烈な刺激に先輩が言った通り、親指の方へと意識が向く。そのうち中でも同じぐらい反応してしまう場所を先輩は見つけて、そこを重点的に押し込まれる。
溜まっていた熱がどんどん膨らんで目の前がちかちか点滅する。どうやって逃がせばいいのか、わからないままそれは視界と共に弾けた。全身に鳥肌が広がって、足がピンッと攣ったように伸びる。あの激しい波のような感覚が過ぎ去ってもなお頭がぼんやりする。何が起こったのか理解できず、ハテナマークを浮かべるだけの私を先輩は満足げに笑っていた。
「さっきの、なんですか……?」
「オーガズム、快楽の最高潮。さすがのお前でも"イく"って言葉ぐらいは聞いたことあるだろ、それだ」
「な、なるほど……?」
場違いな発言の気もするけど、もう自分でも何を言ってるのかわかってない。でもただ、今まで先輩に教えられていたのは快楽で。つまり私は気持ちよくなっていたという事なんだろう。今更過ぎるけれども本当にわからなかったんだもん!
恥ずかしさにう゛ーっと唸る私に先輩はキスする。優しい唇の感触にうっとりしていれば「いいか?」と耳元で囁かれた。さすがにここまで来たら、それが何を刺しているかはわかる。もしかしたら勘違いしてるかもと若干の不安はあるが、たぶん間違ってないと思う。頷けば、先輩がカチャカチャとベルトを外し始める。うん、よかった、あってた。
しばらくして膣口に固くて熱いものが宛がわれる。直視はできない、私は注射の針も見れないタイプだ。
そんな余計なことを考えて気が紛れていたのが功を奏したのか、それとも先輩がたくさん慣らしたからか、おそらく後者だろう。あっさり一番太そうな部分が入って、ゆっくり中が押し広げられていく。半ばで強い痛みから呼吸が下手くそになったタイミングで先輩が唇から息を吹き込んできて。上手く力が抜けたんだろう、気付けばぴったりとお互いの下腹部がくっついていた。
「れ、おな、せんぱい」
「……いてえのか」
「ちがうんです、うれしくて」
始めて拓かれたせいだろう、圧迫されているおなかが苦しい。でもそれをかき消すほどの幸福感に思わず泣いてしまった私を先輩は不安げに見つめている。濡れた目尻を涙ごと舐め取られる。近づいた先輩の首へと腕を回す、少しだけこうしてくっつきたい。
私のささやかな夢がこんなにも幸せなものだなんて知らなかった。これが叶えられたのはあの時、先輩が守ってくれたからだ。ありがとうございます、すきです、れおなせんぱい、その私の呟きはあまりにも言葉足らずだったと思う。でも先輩は察してくれたようで優しくキスしてくれる。
「……動くぞ」
私の中が先輩の形に馴染んだ頃、彼が腰を引く。私がシーツをぎゅっと掴むのに対して、先輩は私の腰をしっかり掴んでいた。
再び進んでくる熱が中を丁寧にこそぐ。ゆるやかに律動を繰り返すうちにだんだん滑らかに動くようになってきて、奥の方を責められるようになってきた。奥をこつこつと突かれながら粒を押し込まれると怖いぐらいに気持ちよくなってしまう。
きっとひどくだらしない顔を晒してるだろうけど、私はもうそれを取り繕えない。先輩もちゃんと気持ちいいのかな。白く明滅している視界で見た先輩は私と同じくらい汗だくで息を荒くしていて、私しか見えていなかった。
幾度と飛んでいってしまいそうな意識を必死で繋ぎ止めながら先輩にしがみつく。ぐっと体重をかけられ、奥へと先輩が入り込んだ。ぐるる、先輩が絞り出すように唸ると同時、おなかに熱いものが流れ込んでくる。じんわりと広がって染みこんでいくぬくもりが心地良い。
先輩の体がのしかかってくる。ぐりぐり胸へ擦り付けられる彼の頭、キュートなお耳が肌をくすぐるたびに意外とやわらかいんだなあと霞がかった頭で考える。甘えているのか、先輩も尾も太ももに巻き付いてきた。
繋がったままの先輩の熱は固いまま。……男の人は出したら縮むんじゃなかったっけ?
微かな知識を頼ってみて、そういえばライオンは一日の交尾で四十回以上射精するという、かつて中学の同級生の男子が披露していた豆知識まで蘇ってしまった。私、終わる頃まで生きてるかな……。
戦々恐々、それでも密かに覚悟を決めていたところ、ずると先輩の熱が中から引き抜かれる。あ、あれ……?
「寝てろ」
身を離した先輩に頭を撫でられる。疲れ切っていた私はその言葉に甘えて眠りに就いたのだった。
◇
「レオナ先輩、さっき誰かいたんですか?」
目が覚めた時、私はレオナ先輩の部屋で寝かされていた。起きがけに先輩から「飲んどけ」とドピンクの液体を差し出されたのにはびびったが、避妊薬とのことでありがたく頂戴して。
なお薬は魚にチョコレートでもぶっかけたのかというほど、ひたすら甘いのに生臭いという嗅覚が理解を拒む味だったが、そのおかげで無事に今の平穏な日常があるのだから文句は言えない。
そんなこんなで私達はいつもの日々に戻ってきた。先輩と後輩の関係に、恋人が追加された形で。なので今日も私は植物園へ先輩に会うために足を運んでいる。
ただ私が来た時、いつも昼寝している先輩が珍しく起きていて。なんとなく尋ねた私に先輩は後頭部をかきながら答える。
「でけえ虫がいた」
「おおう」
「始末してあるから安心しろ」
その言葉に胸をなで下ろした私は持ってきていたバスケットを開いて、中のサンドイッチを先輩に渡す。だけど横着な先輩は受け取らずに口を開くだけ。しょうがないなあ、意外と甘えたな恋人の口元へとサンドイッチを運ぶ。
その直後「フハハハハ! 何度でも蘇るさ! そこに良質なレオ監がある限り!!」と飛び出してきたボロボロの妖精にまたしても例の部屋に閉じ込められることを私達はまだ知るよしもなかった。