ムードブレイカーシュリンプKOEBI
とんでもねえことになってしまった。
ガンガンガンガンとさっきから頭上で鳴り続けている打撃音をBGMに私は冷や汗をたらす。この難聴になりそうな勢いで打ち付けられている拳にちょっぴりびびっているのもあるが、大体は現状のせいだ。
詳細は省くが、フロイド先輩とロッカーに閉じ込められている。しかも閉じ込めた妖精曰く、どちらかがイかないと開かないらしい。
自分で言ってて何言ってんだって感じだが、それを裏付けるかのようにフロイド先輩がずっとドアを叩いているが壊れる気配は全くない。先輩のバイオレンスに屈しないとは強化魔法でもかかっているんだろうか。
なんにせよ、このままではフロイド先輩の拳が先に壊れてしまいそうだ。先輩には気の毒だが仕方ない。
「フロイド先輩、ちょっくら私一発ヤってみるのでご自分の目と耳、塞いでおいてもらっていいですか?」
「まって」
私の提案を聞いて、先輩がおそらく人魚特有であろう威嚇声を止める。
ブチギレてたからもしかしたら聞こえないかと心配していたが、無事に届いたようで何より。
一気に畳みかけようと意気込んだところで、ふと私はあることに思い当たった。
「あっ、ウツボって匂いに敏感だから鼻摘まんでおいてもらった方がいいですかね? できるだけ音立てないようにするんで」
「小エビちゃん、ストップ!!!!!」
先輩のクソデカ声に耳がキーンとなる。
そういえば音について、ふと思ったのだが……。身長差とロッカーの狭さのせいで、私はフロイド先輩の雄っぱいに頭を預ける形になっている。で、そこから伝わってくる心音が爆速過ぎて心配だ。
ここクッソ暑いからなー、心拍数がおかしくなるのも致し方ないだろう。
蒸し暑苦しいこの環境はフロイド先輩にとっては毒でしかない。寒かったらまだマシだったのに。
「小エビちゃん……どうしてその発想に至ったか、確認させて」
「人魚の生態はよくわかってないんですが、先輩、今は人間の体なので絶頂したら射精しますよね」
「ン゛ンッ、うん、するけど……人魚の時でもするよ、オレ雄だし……」
「となると先輩がすると服とか汚れますが、女は絶頂したところで出すものないので。ということで私がしますね」
「ちょ、小エビちゃん!! なんでそう変な方向に思い切りがいいんだよッ?!」
「妥協って大事なので」
ここでのトラブル続きの生活で私は学んだのだ、割り切りってやつを……。というのは半分本当で半分嘘。
この状況が続くとフロイド先輩が危ないかもしれないから早く脱出したいのだ。妖精のイタズラである以上、外部からの救助を待つのは現実的じゃない。だけど気温とか変身薬のことを考えるとモタモタしていられないだろう。もしかしたら体調悪くなりかねないのにオナニーなんてさせられない。
でもそれ言ったらフロイド先輩、絶対気にするよな〜〜。自分がやるって言いだしかねない。人のせいにすんなとかキレてくれるならまだしも、あいにく私は自分で言うのはちょっと恥ずかしいが彼に気に入られている。
ようはもうキレられる段階を通り過ぎて、ノリが合う遊び相手的ポジになるくらいには彼の好感度を稼ぎすぎてしまっているのだ。そして私は私でフロイド先輩をラブとしての意味で好きである。
なので正直、好きな人の前でオナニーとかシンプルに地獄だけども、先輩の命には替えられねえ!
先輩としても後輩のオナニーショー付き合わされるのはごめんだろうが、今回ばかりは腹を括ってほしい。
さして身動きを取れないのをいいことに、私は早速ベルトを緩めて、己の下着の中へと手を忍ばせた。
「んっ……」
できるだけ抑えると約束したのに、陰核を引っかいたことで思わず声が漏れてしまった。くっついている先輩の体がビクッと跳ねる。
ウツボは臆病で言ってたし驚かせてしまっただろうか。まあそりゃビビるよな、後輩がいきなり目の前で公開オナニー始めたら。
なので今度こそ失敗しないように唇を噛みしめる。地味に痛いけどもこれなら声がこぼれてしまう心配はないだろう。
「小エビちゃ、ん」
先輩の甘いテノールに戸惑いが満ちている。でも今はそれに「ごめんなさい」と返してあげる余裕がない。
いやぁ自分がやるとは決めたものの、実のところ処女だし、ついでにそんなオナニーなんてしたことないんだよな。なんならイったことなんて一度もない。
陰核触ってりゃ、なーんか気持ちいいなぐらいの性経験しか持ち合わせてなかった。
クッ、なんで私はエロ漫画に出てくるような感度バツグン自己開発済ドスケベヒロインじゃないんだ!
不器用な自分に苛立ちつつも指を動かしてオナニーを続ける。だが残念ながら、この刺激に慣れ始めているみたいで。あと緊張しているせいもあるのか、だんだん鈍くなっていく快感に焦りが生まれていた。
「……小エビちゃん、オレ手伝っていい?」
私があんまりにも、もたついていたからだろうか。それまで沈黙を貫いていたフロイド先輩が控えめに訊ねてくる。幸い、とろくさい私に怒っている声ではなかった。
まさかの申し出に驚きつつも頷く。頭の動きでそれがわかったのか、じゃあと言いながら先輩は私の顎に手を添える。
くっと上向かされて。こんな狭い空間なのに器用にも屈んでいるのか、先輩の顔が近い。これまでにない至近距離に気を取られていれば、唇を塞がれた。
あ、あれ、ちゅー?! これキスされてる?! なんでぇ!?
「……小エビちゃん、唇怪我してるじゃん」
すりすりと唇を撫でられる。自分でも知らないうちに噛みすぎていたのか、薄く血の味がする。
自覚したから地味に痛み出したが、そんなことよりも。
「せ、先輩、なんで、今ちゅーして……」
「オレ手伝うって言ったじゃん……やだった?」
「嫌じゃないですけど、こう手伝いって言うからには乳でもガッってされるのかなって」
「こんな時に言うことじゃないけど、小エビちゃんお願いだから、もうちょっと雰囲気大事にして」
「あと……ちゅーするの、すごく気持ちよかったので、先輩が嫌じゃなかったら、もう一回してほしいです……」
「振れ幅大きすぎるんだよ、小エビィ!!」
なんかいきなりキレられた。でも再び触れてきた唇は優しい。
先輩の長い舌が口内をかき回す度、甘ったるい声が漏れてしまう。でも抑えたくても先輩の舌を噛んでしまうことになるので、さっきみたいに噤むことはできそうにない。
キスで得る快感に頭がクラクラして陰核への刺激がおろそかになる。でもさっきよりも絶頂が近づいている感覚はあった。
唇はひっつけたまま、先輩の手が私の下腹部へ触れる。やってることはそんなに変わらないはずなのに、先輩の指だと思うと過剰なまでに意識してしまう。
気持ちよすぎて怖い、こんなの知らない。体中に電流が巡るような感覚につい先輩の体にしがみつく。腰がびくびく震えたかと思えば、一拍置いてふっと力が抜けた。
先輩の手が離れても頭の中がふわふわしたまま。緩く巻き付いたままの私の体を先輩がきゅっと抱きしめる。じゃれあう時みたいな締め方じゃない。胸がむずかゆくなるような、そんな力加減だった。
「……あの、先輩、さっきはついおねだりしちゃいましたけど、私とキスしてよかったんですか?」
この世界だと唇へのキスはかなり特別なものらしい。まあ元の世界でも特別なんだけども、こっちだともっと神聖視されているみたいなのだ。神聖視というか、御伽噺ちっくというか、ファンタジーというか、とにかくスペシャルな扱いを受けている。
これについては人間でも人魚でも共通の価値観だと聞いている。だから今更ながら不安になって訊ねた私へ先輩はすりと甘えるように頭を寄せた。
「小エビちゃんじゃなきゃムリ。そういうことだから、出てからちゃんと言わせてね。小エビちゃん」
「ああ、私のおなかにゴリゴリ当たっている状態で告白するのは締まらないですもんね!」
「オイ小エビ、デリカシー!!!!!」