終わりよければ全てよしよし
「、良かったらこのバイト僕と応募してみないか?」
ウルトラゴージャス寮事変によって、毎月少なからずかかっていた修繕費用を生活費に回せるようになった。とはいえ、金銭面での不安はまだまだ尽きない。
元の世界に帰らないと決めたわけじゃないが、帰れる見込みは当面なく。もしかしたら、この世界で一生過ごさないといけない可能性だってあるのだ。
そう考えると今後に備えてできるだけ貯蓄をしておきたい。グリムはともかく、魔法を使えない上に異世界人の私がまっとうな職に就けるとは思えないし、お金はいくらあっても困るものじゃない。
シフト増やすのもありかな〜……と午後の授業までの間、教室でモストロラウンジのシフト表とにらめっこしていれば、雑誌を広げたデュースが話しかけてくる。
どれどれと提案された内容を確認したところ目玉が飛び出るかと思った。私の動揺ぶりに反応したエースが後ろから覗き込んで息を呑む。念のためもう一回確認するが見間違いじゃない。
「最低保障、十万マドル……?!」
肝心のバイトの内容だが、主催者が用意したゲームにパートナーと共に挑み、成功すれば更に追加報酬が与えられるとのこと。ゲームについては当日まで隠されており、参加には事前の面接で合格する必要があるとはいえ、破格の報酬だ。
しかも十五才以上であれば魔法を使えない人間でもOKときた。ただし一つだけ気になることもある。
「その、僕とカップルのフリをするのが嫌じゃなければの話なんだが」
応募要項にはマジックで書いたかのような極太の書体で『※カップル限定!』と記載されていた。
だからなんだろう、照れくさそうに頬をかきながらデュースが申し出てくる。返事はもちろん決まっていた。すうと大きく息を吸う。
「かまわん!」
「、お前って妙に思い切りいいよな。使いどころ間違ってるけど」
大声で返事した私にエースが呆れたように呟く。それから「まあ当然か」と私にだけ聞こえるように彼は続ける。
エースの言うとおりだ。なにせ私はデュースを男の人として意識しているから。彼と疑似とはいえカップルになれるなんて渡りに舟である。
なお当然、人の機微や場の空気を読むのに長けたエースが、私のデュースに対する想いに気付いていないはずもなく、おかげで気恥ずかしいったらなんの。
ただ「見ていてもどかしいから」と私の恋が成就するよう手伝ってくれるのには大変感謝してる。でもそう考えると不思議だった。エースから見ても今回のこれはチャンスのはずだ。なのに口出ししてくるなんて。
どういうことだろう、思わずエースに視線を送る私に彼は小さく溜め息を吐いていた。
「こんな美味しすぎる条件、いくらなんでも怪しいでしょ。絶対めんどーなことに巻き込まれるって。ただでさえお前ら厄介ごと引き寄せるタイプなんだからさ」
確かにエースの言うとおりだろう。ただ後者に関しては一言申したい、シャンデリア事件とイソギンチャク事件は二人が持ってきたよね。
というか元の世界だったら私も絶対応募しようなんて思わなかっただろう。金銭的な余裕があるからというより、エースが言うとおり怪しいなあと警戒して。
だってさあ、ゲームはゲームでもデスゲームさせられそうじゃん。R18Gは絶対お断りしたい、こちとらピチピチの未成年なので。
ただこっちの世界にはデスゲームの概念がないのと、安心材料かつ今後の事を考えると引くに引けない理由により、止めておくという選択肢は私の中になかった。なので後はデュース次第なんだけども……。
「ああ、そういうことなら大丈夫だぞ、エース。全世界展開の雑誌の広告だからな、さすがに詐欺とか悪質なものは弾かれているだろう。それにこのバイトの募集がかけられるの初めてじゃないんだ。今回で五回目だが、毎回応募者が殺到してる」
元の世界の先輩に聞いた話によると(辞める人が多すぎて常に人材が足りないため)何度も募集をかける企業は高確率でブラックらしいけど、このバイトだと逆に信用できる理由になるのか。デュースが出した情報、そして不定期開催かつ主催企業から私はそう推測して。
なるほどと納得する私とは対照的にエースはまだ渋い顔をしている。……エースって意外と心配性だよね、言ったら恥ずかしがって怒るから言わないけど。
「大体さあ、会場が島の外じゃん。休日とはいえ箒にしろ、交通手段使うにしろ、会場に行くことすら難しいでしょ。次の日授業あるし」
「それなら心配いらないよ。間違いなく学園長が魔法の鏡の使用許可くれるから」
「どういうことだ、?」
エースに言われて初めて気付いたんだろう。ハッとしていたデュースが首を傾げながら訊ねてくる。それに私は募集記事の主催者の名前をトントンと指先で叩いて示した。
主催者はカネモッチー財閥。ツイステッドワンダーランドにおいて数本指に入る大企業だと聞いている。
「今のカネモッチー財閥の代表は公の場に殆ど顔を見せないんだけどさ。学園長としてはぜひともお近づきになりたいんだって。NRCの卒業生だからなおさら」
その発言でエースは大体察したようだった。だが肝心のデュースには全然伝わらなかったらしい。彼は依然として疑問符を浮かべたままだった。そんなところも愛しく思ってしまう私はなかなか重症だと思う。恋は盲目だからしょうがないよね!
ともあれデュースの為にもう少し噛み砕いて説明することにしよう。
「学園長はカネモッチー財閥の代表と懇意になりたい。なのに彼の母校の学園長という接点があってなお、それが叶わない相手なんだよ。だから可能性は低くとも、私が橋渡しになれるかもしれないなら喜んで協力してくれるよ」
「ああ、そういうことか」
ぽん、と手を叩き、今度こそデュースは納得したようだった。わかってもらえたようで何より。
さすがにもうすぐ授業が始まるので、話の続きは放課後まで持ち越して。そして授業が終わったら、二人で学園長へこの件について許可を貰いにいったところ、案の定学園長は大喜びで魔法の鏡の使用許可を出してくれた。
そこからは書類を送付したり、面接に行ったり、この辺りは特に面白い話でもないから省略させてもらおう。
あ、ただちょっと気になることもあったな。私とデュースは別々で面接を受けたのだけれど、何故か面接の後しばらくデュースは私に対して挙動不審だった。
守秘義務があるので詳しくは言っちゃいけないんだけども、もしかしたら面接官から「相手のどういったところが好きか」とか聞かれたせいで、ちょっとばかし私を意識してくれたのかな……。それとも私が思いっきり惚気たの聞かれたとか……?
それはひとまず置いといて、私達は無事お眼鏡にかなったらしくバイトに参加できる事となった。おそらく学園長のようにぜひとも代表と関係を持ちたいのだろう、今回の倍率も凄まじかったにも関わらずだ。ちょっと誇らしい気持ちにもなる。
そして私達は提示された日時にバイト先へ向かったのだけれども……。
「それでは今からお二方には手コキカラオケで90点台に挑戦していただきます」
前金の十万円を受け取った後、私達はおなかぐらいまでの高さのカーテンがかかったパイプで区切られたスペースへと案内されていた。そして先程の台詞と共に係の人からデュースにマイクが渡される。
カラオケはともかく手コキって何? デュースわかる?と聞こうとして彼の様子がおかしいことに気付く。顔を赤くしたかと思えば、今にも倒れそうなぐらい青ざめたり。今にも泣きそうな顔でデュースは私を見る。
「、ごめん、僕ゲームがこんなことだって、知らなくて」
「えーっとその様子だと、デュースは手コキが何かわかるってことでいいのかな。何か危ないことなの?」
「ひとまず、その単語はあまり口に出さないでくれ……」
「えっ、言うのすらまずい言葉なの? 名前を言ってはいけないあの人的な感じ?」
「誰なんだ、名前を言ってはいけないあの人……」
ツイステッドワンダーランドとはまた違う魔法世界の
デュース曰く言葉にするのもよろしくない案件らしいが、私達は今からそれをこなさなければならないのだ。知らないことにはしようにもできないんだけど……。
何とかして聞き出したい私をよそにデュースは「だから面接でオカズとか回数とか聞いてきたのか……」と謎の納得をしていた。よくわからないが、どうも私と彼では面接で聞かれた質問が異なるようだ。
仕方ないので少しでも状況を理解しようと周囲を確認する。カーテンの内側にはスツールが一台と謎の液体が入ったボトルが置かれている。あとは案内される前に装着することになったこの腕輪も関係しているんだろうか。うーん、せめて爆弾とか入ってませんように。
私が途方に暮れていたからだろう。係の人が「詳しい説明が必要ですか?」と申し出てくれたのでお願いする私にデュースが焦っていた。その理由を知ったなら当然だけども、この時の私は助かった〜!としか思っていなかった。本当にごめんね、デュース。
「手コキとは勃起状態の陰茎を手でしごく行為のことです。ですので、デュース様が一曲歌われる間、様には彼の陰茎を手で扱いていただきます」
何を言われたのかさっぱりわからなかった。いや本当はわかっていたけども頭が理解を拒む。何かヤバイ薬でもキメてるのかな、この人……と私が思ってしまったのもしょうがないだろう。
あんまりな内容から私がスペキャしているのに気付いているだろうに係の人は説明を続ける。無慈悲すぎでは?
「デュース様のお話を聞いた限り、お二人はまだ性的経験を積んでいらっしゃらないようですがご安心ください。未経験の方でもゲームが支障なく遂行できるよう、そちらの腕輪の操作魔法によりサポートいたしますので。なおそちらの腕輪につきましてはゲーム終了後、速やかに回収いたします」
つまり無理矢理でも手コキとやらをさせるし、意地になろうがゲームが終わるまでは外せないぞってことだよね。なんだその呪いの腕輪。何一つ安心できないが??
私以上にパニックになって、逆に何も言えなくなっているデュースの様子を見て、少しだけ平静を取り戻す。正直まだ混乱しているが、このまま流されるわけにはいかない。何とか知恵を振り絞った私は係の人へ質問を投げかけることにした。快く了承されたことで、既に負けたような心持ちになりつつ口を開く。
「その手コキカラオケってつまり性的接触になるんですよね」
「そうですね」
「私達、未成年なのでそういうことやっちゃだめなんじゃ……」
「様、そのための
うん、なんとなくそんな気はしてた。確実に今の私は死んだ目になっていることだろう。
しっかり受け取ってしまった以上、もう私達に逃げ場は無い。こんなことに行動操作という、とんでもねえテクノロジーを利用する連中である。思案するまでもなくわかる。逃げたところで絶対無駄だし、悪い方にしか転ばないだろう。
「ちなみにこちらカネモッチー財閥代表である主様の『イケメンが大好きな彼女によって無様な姿を晒しているのを完全な第三者視点で見たい』というご意向に添ったものとなります。主様は別室のモニターにてお二方のゲームを観覧しております」
「代表の方、イケメンに親でも殺されたんですか?」
「まあ主様はちょっぴり性癖が変わってらっしゃるかもしれませんね」
めちゃくちゃ歪んでるだろ。内心でツッコミながらも決して口に出さなかった私はかなりエラいと思う。
気は進まないけれど……こうなってしまった以上はしょうがない。腹を括った私が彼の名前を呼べば、デュースはびくっと体を震わせた。私よりも遙かに大きな男の子だというのに、まるで小動物みたいに怯えている。
だから彼の不安が少しでも和らぐよう、できる限り優しい声で彼の名前を口にした。この状況に頭を抱えてはいるが、私は別にデュースに対しては怒ってはいない。
わざとならばともかく、完全に彼は善意で私の為にこのバイトを持ちかけてくれたのだ。そのことに感謝こそすれ怒りなど覚えるはずがなかった。
きゅっと彼の手を両手で包むようにして握る。私の行動にびょっと再び彼の体が跳ねた。
「これからデュースに恥ずかしい思いさせちゃうことになるけど……ごめんね」
「、あの、手……」
「さすがにお、おち……手を繋ぐよりも先にアレ握るのはちょっとなんだかなあって……デュース、嫌だった?」
「嫌なわけない!!!!!」
「うわっ声デカ」
デュースの突然の絶叫に耳がキーンとなる、間違ってもこの至近距離で浴びる声量ではない。
まあとりあえず握手を拒否されたわけじゃなくて良かった。今のノリで次は男性器を握……いや手からアレっていきなりハードル上がりすぎなんだわ。
今日だけでだいぶセルフツッコミ上達したなあと半ば現実逃避しながら、私達は諦めてゲームの準備を始めるのだった。
◇
「ひえっ」
いざ尋常に勝負、と覚悟を決めて挑んだはずだった。だがデュースがズボンごと下着を落とした途端、ぶるんと勢いよく飛び出してきたそれに私は怖じ気づいてしまう。
なんかやたら大きなアレのことをモンスターコックっていうらしいが、彼のそれはまさに怪物と言っていい大きさだと思う。他の人の見たことないから比べようがないけど、でも絶対初心者向けじゃないことはわかる。こちとらバリバリの生娘だぞ、手加減しろ!
というか、なんでまだ何もしてないのに既に臨戦体勢なのか。普通は性的興奮を得て始めてこんな風になるんじゃないの、よくわかんないけど。そりゃ最終的には大きくしないとダメだから助かるっちゃ助かるんだけども。
怖い物見たさというやつか。つい凝視していた私に「あんまり見ないでくれ……」と消え入りそうな声でデュースがお願いしてくる。こんな爽やかイケメンなのに下半身はえげつないんだ……。あまりの温度差に風邪ひきそう。
ただこうして固まっているだけではいつまで経っても始まらない。おそるおそる彼のそれを握る。熱くて固い。けど弾力があって、びくびくっと手の中で脈打つ様にまるで生き物みたいだなんて感想を抱く。
私達の準備が整ったからか、イントロが流れ始める。デュースが一番得意とする曲だ。腕輪のサポート機能なのだろう、音楽に合わせるようにして私の手が勝手に動き、彼のそれを擦りだした。手に付けていたローションのおかげで嫌になるくらいスムーズに扱く。
「れっ、つ、あ゛っ♡ ご、うああっ♡」
敏感なのか、歌い出しからもうデュースの声は切れ切れになっていた。手の甲に血管が浮くほどマイクを握り込んで、デュースは歌詞を読み上げる。だが殆どが喘いでいるようなものだった。
スツールに座っている私はそのままだと両手の中のそれに視線が行ってしまうため、顔を逸らすように上を向く。歌詞が表示されている液晶を齧り付くように見つめるデュースの顔は可哀想なぐらい真っ赤になっている。
最初の時点でびびるぐらい大きかったのに、私の手の中で彼のそれはさらにむくむくと大きくなっていく。えっ、まだ大きくなるの、こわ……。
「デュース、二番入ったよ! がんばれ! がんばれ!」
「それ、だめだ♡ ッ♡ あっ、あああ♡」
どんどん声が掠れていく彼に対し、せめてもの励ましのつもりで声援をかける。私が追い詰めてるのに何言ってるんだ。頭の片隅に残った冷静な私がツッコむけど、本体の私が冷静じゃないのだからどうしようもなかった。
ぐぢゅぐぢゅとやり始めた当初よりも酷い音が鳴っている。ドバドバ出てきた彼の体液が潤滑油となってしまっているのだ。
少しでも刺激から逃れようとしてるのか。デュースは体をくねらせているがあまり効果はなさそうだ、引けた腰ががくがくと震えている。どんどん声が裏返る回数が増えてきていた。息を乱す彼の表情はなんとも切羽詰まっていて。部活でトラックを走り終えた時よりも今の彼は汗を吹き出していた。
「もっ、イくイく、イくッ♡ ~~~ぁああ゛ッ♡」
デュースが限界を訴えた直後、びゅーびゅーと先端から勢いよく出た飛沫が私の掌を汚す。私としてはもう止めてあげてよぉ!という気持ちだったが、腕輪はどこまでも無慈悲だ。一滴残らず絞り出せとばかりに扱き続けている。
少し柔らかくなっていたそれがまたぐんっと大きくなって。くぱくぱと動く先端から透明の液が滲み出ていた。そして完全復活、でも取り戻せたのは下半身の元気だけで、彼自身はもうへろへろになっている。
それでもなんとか歌詞を読み上げているがリズムには乗れていないし、蚊の鳴くような声通り越して虫の息。ねじれたリズムで踊ったりなんてことはまずできないだろう。
曲が終わると同時にカシャンと腕輪が外れて床に落ちる。ドラムロールが鳴り響き、液晶に大きく『35点』の文字が表示された。そりゃそうだろう、ほぼほぼ最初から殆ど歌えてなかったしね……。赤点を免れただけでも温情だろう、やらせたことは鬼畜の極みだけど。
ただデュースは表示された得点を見て、張り詰めていた糸が切れてしまったらしい。呆けた顔の彼の綺麗な緑からボロボロと涙が流れていった。咄嗟に立ち上がった私はたぶん係の人が置いただろうタオルで手を拭いて、立ちすくんだまま静かに泣き出した彼をぎゅっと抱きしめる。
「デュース、おつかれさま」
「、ごめん、僕、ぜんぜん、うたえなくて」
「気にしないで、大変な思いさせてごめんね。それと私の為にいっぱい頑張ってくれてありがとう」
宥めるように彼の背中をぽんぽんと叩く。しばらくしてデュースはおずおずと控えめに私の背中へ腕を回してくる。続けて私はちょっと腕が辛いけども、安心させようと彼の髪を繰り返し何度も撫でた。
「デュース様、様、よろしいでしょうか」
彼が落ち着いた頃、いつのまにか近づいてきていた係の人が話しかけてくる。外側にいる係の人からは見えないだろうけども、慌ててデュースがズボンを上げていた。
あーそういえば脱ぎっぱなしだったな……というか下半身丸出しのままで私達ハグしてたのか。うーん、締まらないなあ……。
気を取り直してデュースと一緒に係の人へと向き合う。それに係の人は小さな紙を差し出した。
「こちら、特別賞の主様の名刺となります。ここからは保護者様の手腕となりますが、きっかけとしては充分かと」
係の人の話からして、これは面接の時に聞かれた「金銭以外でご希望の報酬はありますか?」に対する景品なのだろう。他の人が上品な言い回しで財閥との繋がりが欲しいと匂わせる中、私は上手い文言が浮ばず、馬鹿正直に「保護者と代表者の方が交流できるよう取り計らってほしい」と答えたのだ。
これで学園長との交渉に対する強力なカードを得たわけだが……特別賞ってどういうことなんだろう。私が考えている間にデュースが「あの、特別賞ってどういうことですか?」と質問してくれていた。
「主様ですが、実は醜態晒した上に彼氏のせいでゲーム失敗して追加報酬ゲットできなくても全く気にしない、そんな深い愛情を感じるカップルが性癖でして。なので『よしよし見せてくれたのサイコー!』との事でこちらを渡すようにと」
「イイ趣味をお持ちですね……」
おかげで恩恵を受けたとはいえ、嫌味の一つも言いたくなる。気が抜けたせいか、急にドッと疲れがやってきた。名刺をポケットにしまってデュースの方へ向く。
「デュース、帰ろっか」
「あ、ああ。そうだな……」
「本日はおつかれさまでした。またのお越しをお待ちしております」
二度と来るか。係の人へ愛想笑いを決めながら、心の中で叫んだ。
◇
学園へと戻った私達は学園長に帰ってきた報告と接点ゲットしたことを匂わせ、オンボロ寮へと向かっていた。本当は鏡の間で解散でよかったのだが、デュースが送っていくと言ってくれたからその言葉に甘えている。
お互い疲れているからか、いつもと比べて口数は少ない。なんとなく生まれてしまったこの距離も気まずさに拍車をかけていた。
「あんなことがあったけど、できればこれからも友達でいてくれないかな」
そうこうしているうちにオンボロ寮に到着し、彼と別れる前に私はそれを口にする。あまりにも都合が良すぎだろうか。
言い終えて後悔する私にデュースは「当たり前だろう。でも僕のお願いもきいてくれないか」と提案してくる。彼を大変な目に合わせておいて、自分の方が得しているのだ。私が叶えられることならなんでもする、そう言った私の手をデュースはぎゅっと握り込んだ。
見るからに緊張した顔で、そしてじわじわと彼の頬が赤くなっていく。私をじっと見つめるその視線はなんだかひどく熱い。
「僕もお前の手を握りたかったんだ」
「デュース」
「仮じゃなくて、ちゃんとした恋人同士になってくれないか」
「……うん。よろしくお願いします」
「ッシャァ!!」
嬉しそうにデュースが吼える。門の前だから大丈夫だと思うけど、もしゴースト達に聞こえていたら、なんだなんだ?と集まってきていたことだろう。でも私達は二人きりのまま、さっきとは打って変わって良いムードを作り上げている。
友情崩壊の危機からのまさかの大逆転ハッピーエンドだけども、この交際が始まるにあたって私には一つ大きな懸念があった。
「……デュース、やっぱりエースには付き合い始めたこと説明するよね?」
「そうだな。アイツ相手に隠せる気はしないし、それにエースは僕の気持ちを知っていて、と付き合えるよう色々手助けしてくれたんだ。だから報告するのが筋だと思う」
そうか、エースは私達が両思いだと知っていたのか。それで日頃からあんなにも「さっさと告白しねえかなコイツ……」みたいな目を向けていたんだなと納得する。
別にエースに報告することが嫌なわけじゃない。むしろ彼に感謝を伝える為にも知らせるべきだ。ただ……。
「このタイミングで僕らが付き合ったとなると絶対バイトの詳細について根掘り葉掘り聞いてくるよな」
そう、交際のきっかけがトンチキ過ぎるのが大問題なのである。時期をずらせばいいだけなのかもしれないけど、何かと察しの良い彼はすぐに気付くだろうし、バイトの件でめちゃくちゃ心配かけてるからなあ……騙すのは気が引ける。
でも口が裂けても言えないだろう。手コキカラオケがきっかけで結ばれました、とか。引くだけならまだしも、ああ見えてわりとロマンチストなところのあるエースはショック受けそうだし。
「まあ一応バイトの内容に関しては漏らさないでねって言われてるし、エースには悪いけど守秘義務で押し通そうか」
「そうするしかないな、うん」
守秘義務という口実を与えてくれたバイト先に感謝……なんてものはなく、むしろ恨みがましく思いながら、私はぎゅっとデュースの手を握り返した。
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