夢じゃない

「ッ……ん……! ぃ……!」

 誰かの声とゆさゆさ揺さぶられる感覚にゆっくりと瞼を開ける。視力は問題無くとも、寝起きの視界はぼやけていて、それに頭も回ってない。だから状況を認識するのにしばし時間がかかってしまった。

「……デュース? あれ、ここは……?」

 昨夜、私は確か自室のベッドで眠りに就いたはずだ。なのにどうして私は見知らぬ部屋の床に転がっているのか、そして何故デュースと共にいるのか。
 尋ねる私にデュースもまた同じなのだと、気付けばここで眠っていたらしい。お互いパジャマ姿な所からして寝ている間に移動させられたのだろう。誘拐の二文字が頭に浮かぶが、辺りに私達以外に人気はなかった。
 警戒しながらデュースと共に周囲を確認する。部屋には私達二人が眠っても大丈夫そうなベッドと鍵のかかった扉があるだけ。せめて窓があれば割って出られただろうが、見渡す限り壁しかない。完全なる密室である。
 というかベッドがあるんだからせめて床じゃなくてそこで寝かせてほしかったと思うのは贅沢だろうか。固い床によってバキバキになった体につい恨み言の一つも出てしまう。
 誰が何の為に私達をここへ連れてきたのか、どうやったら脱出できるのか。膝をつき合わせて、デュースと二人で頭を悩ませていたところ、突如私達の間に一枚の紙が現れた。何の考えもなしに私はそれに目を通して。
 バシン、とデュースが紙の上へ手を叩き付ける。見るなと彼が行動で示した時にはもう私は紙の内容を読み終えてしまっていた。
 赤らんでいるだろう私の顔を見て察したデュースがドアへと向かう。さっきも二人で散々弄くり回したがびくともしなかったのに、彼は再びドアをこじ開けようと行動に移し始めていた。紙に書かれていた言葉を頭の中で繰り返しながら、私はなんとしてでもドアから脱出しようと躍起になっている彼をしばらく眺めて。

「……デュース」

 ガチャガチャと音を立てるだけのドアノブを必死で回すデュースの背中へ声を掛ける。そして私は彼の名前に続けて「いいよ」と口にした。
 私のその言葉にデュースが驚いた様子で振り向く。いつの間にかベッドの上へ私が移動していた事にいっそう彼は慌てていた。それも仕方ないと思う。あの紙の言葉が真実ならば、ここは『子作りしないと出られない部屋』なのだから。
 私達はまだ学生で、それも恋人ですらない。それにデュースはわからないが、私に至ってはそういった経験もなかった。ただ一つ幸いなのは、私は彼へ想いを寄せていた。部屋の指示に従える程度には。

「……監督生には好きな人がいるんだろう?」

 さすがに本人を前にデュースが好きだとは言えなかったけども、以前エースも交えて行った恋バナで、彼は私に想い人がいるのを知っている。
 だからデュースはこんなにも必死でドアを開けようとしてくれている。その優しさが嬉しいけど、同時にこの恋には見込みがないのだとわかって、勝手ながら私はショックを受けていた。
 そして彼には悪いが、私はいっそうムキになってしまっていた。どうせ報われないなら情けが欲しいと。気持ちが手に入らないなら体だけ……なんて、自分でも馬鹿馬鹿しいと思いながらも気付けば「デュースは私が相手じゃイヤ?」とずるい聞き方をしていた。
 ぴくりと肩を跳ねさせたデュースがドアから離れて。

「……僕でいいのか?」

 ベッドの上へ彼が乗り上げる。私としっかり視線を合わせて尋ねる彼の緑はあまりにも透き通っていて。おかげで疚しさを抱えた私はそのまぶしさに直視できそうもなかった。
 言葉の代わりに、そして彼が見逃さないように大きく頷く。それに彼はゆっくりと私をベッドへ組み敷いた。

『その、すまない。あいにく僕はこういった経験がないんだ……。でも、できる限り優しくする、から』

 彼が行為に至る直前、口にした言葉がぐるぐると頭の中を巡ってる。合わせられた彼の唇が的確に理性を溶かしてくる様に、絶対嘘だと思ってしまっているから。
 キスどころか男の人と付き合ったことのない私が言うのもなんだけど、絶対にデュースのこのキスは上手い。私の舌を絡み取ったかと思えば甘噛みして、まるで私の口を食べるかのようなそれに何も考えられなくなっていく。
 さっきまで疑惑の眼差しを向けていたが、経験者なのではという考えは次の瞬間どこかへ消えていった。というのも、私のパジャマのボタンを外そうとするデュースの手が震えていたからだ。
 ぎこちない手付きを思わず眺めていたなら、その最中に彼と目が合う。「自分相手ならなんて事ないのにな」と困ったようにデュースが笑う。緊張が滲み出たその声はどこまでも固い。
 時間はかかったものの、ボタンを外し終えた彼が前衣を割り開く。触っていいか?と改めて確認を取るデュースの言葉に頷いた。

「……やわらかいな」

 寝る時はブラを外してる。だからキャミソールを捲りあげたならばすぐさま彼に胸を晒す形になってしまった。
 膨らみにデュースの指が埋まる。うごめく彼の手によって私の胸が形を変えていった。だんだん色付く胸の先が、自分がこの行為に興奮しているのだと突き付けてくる。
 見ていられなくて目を閉じていれば、ぬると生暖かい感触が胸の先に走り、慌てて瞼を開く。考え無しの行動だったが、視界に入ってきた光景に見なければ良かったと後悔を覚える。

「あ、ぅ」

 デュースの口に含まれていて見えないが、彼の舌に転がされているそこはピンと尖り固くなっていることだろう。自分でも聞いたことのないような声が漏れて、思わず両手で口を押さえる。
 私のその行動にデュースの顔が胸から離れる。舐め回された先端は彼の唾液でてらてら光っていて実に卑猥だ。

「監督生、声聞かせてくれないか」
「や、やだ、こんな、へんなの」
「変じゃない。頼む」

 恥ずかしいのに、嫌なのに。デュースがあまりにも真剣な表情で訴えてくるから、気付けば手を外してしまっていた。下ろした手でぎゅっとシーツを握り込む。そうでもしないとこの状況に耐えられそうもない。
 脱がすな、と声をかけたデュースが下着ごと私のパジャマのズボンをずり下ろす。これからもっと凄いことをする、そうわかっているのに恥ずかしさで死んでしまいそうだと思った。
 バサリ。羞恥心から縮こまりそうな体を必死に押さえていたならば、デュースが自分のパジャマを乱雑に脱ぎ捨てる。初めて間近で見た彼の逞しい体に心臓が強く跳ね上がった。うっすら汗ばんだ肌に荒い息が彼もまたこの状況に興奮していることを伝えてくる。でもこれは彼が望んで至った行為じゃない、だから嬉しく思ってしまうのはだめなのに。

「んっ」
「……痛いか?」
「だ、大丈夫」

 デュースの手が私の下半身へと伸びる。自分でも殆ど触った事がない場所だから不安だったのだけれど、これまでの愛撫のおかげでちゃんと濡れていて、彼の指を難なく受け入れた。
 彼も勝手がわからないんだろう、慎重にデュースの指が中を行き来する。一本、二本、三本、徐々に増やされて。それに私はただただ甲高い声で泣くばかりだった。十分に中がほぐれた所でデュースが指を引き抜いた。

「監督生」
「あっ……」

 大きく膨れ上がったデュースの熱が宛がわれる。ぬるついた粘膜が擦り合せられる感覚にぞくりと背筋が震えた。
 余裕の無い彼の表情に見惚れていたなら、ずぶりと規格外の質量が中へと打ち込まれ、目の前に星が飛んだ。体内から引き裂かれるような痛みにボロボロと勝手に涙が零れ出る。
 いたい、くるしい、唇を噛みしめていなければ悲鳴を上げていたことだろう。なおも奥へと入り込んでくるそれに、かぶりを振って何とか耐え忍ぶ。

「でゅー、す」

 動きを止めた彼の両頬を手で包む。ぽと、ぽと、彼の目から落ちた雫が私の肌に落ちる。
 デュースは何も言わない。私の手を外したかと思えば、彼は指を絡めるようにして繋ぎ直しシーツへと押しつける。そしてゆっくりと私へ口付けた。
 どうして彼は泣いているのだろう、それなのにどうしてこんなにも優しいのだろう。ただでさえ思考能力の落ちた頭ではわかりそうにない。

「ん、ん」
「かん、とくせい」

 デュースが腰を打ち付ける。ぴりぴりと引きつるような痛みの中、微かに違うものがあった。彼が動くたびにそれは積み上がって膨らんでいく。
 今まで知らなかった衝撃に頭の中がぐちゃぐちゃになる。その中でもやっぱり彼が好きだという気持ちだけはハッキリ形を保っていた。好き、デュースが好き。でもこんな事になってしまった以上、もう友達ですらいられないかもしれない。
 そんな事を考えていたからか。気付けば私は「すき」と想いを口にしていた。それにデュースはせっかく泣き止んだのに、またくしゃりと顔を歪めて。

「すまない。それでも僕は、お前が、」

 とくり、と体の奥で熱い飛沫が放たれる。その感覚に溺れてデュースの言葉を認識できないまま、私の意識は暗闇へと落ちていった。

——というわけで、今常飲してる薬の効果で妊娠しないから大丈夫だよ」

 あまりにも体内の魔力が少ない場合、この世界だとその事が原因で体調不良を引き起こすことがある。本来はそれを防ぐ為の薬なのだが、副産物で避妊効果もあるのだと私は用意してくれた学園長から聞いていた。
 だからこうして部屋から脱出し、オンボロ寮に場所を移してもなお思い詰めた表情をしているデュースを安心させる為にもこの件を話したのだが……。

「あれは不幸な事故だったんだよ。デュースは何も悪くないから、ね?」

 自分は気にしてないし、犬に噛まれたと思って忘れようと促しても、彼の顔はいっこうに浮かないままだ。
 真面目なデュースの事だ。致し方ない状況だったとはいえ、私の初めてを奪ってしまったことに責任を感じてるのだろう。あんな形とはいえ、私は好きな人と初体験できて、嬉しいと思ってるぐらいなんだけどなあ……。
 でもそれこそ言ってしまったら拗れるに違いない。今だってマブの関係性ぐらついているのに、これ以上悪いことにはなってほしくない。

「……監督生、本当にすまない」
「デュース、私は大丈夫だから」
「僕は他に方法がなかったとはいえ、監督生が僕を初めての相手に選んでくれたことを喜んでる」
「……え?」
「監督生はエースが好きだって知ってるのに……僕は最低だ」

 なんだか聞き捨てならない言葉が次々出てきたんだけども。理解が追いつかずハテナマークを浮かべていれば、デュースが私の両肩を掴む。まっすぐ見つめてくる彼の緑色には混乱しきった私だけが映っていた。

「最低なのはわかってる。けど好きだ。お前がエースを好きだとしても、それでも僕は監督生が好きだ。だから、どうか僕を選んでくれ……」

 デュースが悲痛な声で訴えてくる。情報が多すぎて頭がパンクしそう。どこから訂正すべきなの、これ。
 ただ、力を込められすぎて痛む肩が、このまさかのハッピーエンドが夢じゃないことを、しかと証明していた。

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