NOは聞かない効かない
「その、デュース、今日、大丈夫だから生でしていいよ」
ベッドに移動する前に渡した物とはまた別の、追加のクリスマスプレゼントに、私のブラウスのボタンを外そうとしていたデュースが勢いよく顔を上げる。
「いいのか」尋ねる彼の美しい緑色の目はギラギラ滾っていて、もし撤回しようにも絶対させてくれない気配を感じた。ただ二言はない、並々ならぬ雰囲気を背負う彼に若干気圧されながらも頷く。
クリスマスを相手の家で過ごして、夜を、いわゆる性の六時間と呼ばれる時間帯に正しくそういった事をしようとしているとなれば、それは世間ではカップルという認識になるのだろう。
だが私とデュースは恋人ではなくいわゆるセフレという間柄であった。
何故性別を超えた親友同士だった私達がそんな関係になってしまったのかと言えば、ありがちかつお恥ずかしながらお酒でやらかしたのだ。
あれはデュースの家で酒盛りしていた時の事。私とエースとデュース、三人の交友はお互い働き始めてからも続いており、予定を合わせては誰かの家で宅飲みしていたのだけれど、その日はエースが突然仕事で来れなくなってしまって。
私は学生時代から密かに想いを寄せていた彼と二人っきりになってしまったことに緊張するあまりついつい飲み過ぎてしまって、途中でデュースが何度も止めてくれたにも関わらず酔い潰れてしまった結果……ざっくり説明するとハメを外してハメてしまっていたのである。
飲み過ぎると記憶が飛ぶタイプだったようで全く覚えていなかったが、ベッドの上で私は素っ裸だし、抱きしめる彼もすっぽんぽんだったし、腰と言えない部分が痛かったし、どろりと中から何か垂れてきてたし、アッこれアカンやつというのはすぐにわかった。
そして逃げようにも彼の腕にガッチリ固められてて身じろぎ一つできないままでいたところ、デュースが起きてしまって。早々に土下座を決めてきた彼に「責任を取らせてほしい」と言われたのだ。
お互い酔っていた上での事故、かつ何より大好きな彼と責任なんて形で結ばれるのが嫌で、でもよっぽどの理由でない限り、頑固で誠実な彼は引いてくれないだろうと考えて私は「好きな人がいるから無理」と断って。
その好きな人は他でもないデュースなのだけども、さすがにこれには彼も「わかった」と納得してくれた。その時のデュースは凄い形相をしていたのだけれど、たぶん他に好きな人がいるのに酔って親友相手に処女を散らす私の馬鹿さ加減に呆れてたんだろう。
とんだ尻軽だと思われたのかもしれない。というのも、それからも二人で飲むたびに体を重ねるようになって、いつの間にかお酒がなくてもえっちするようになり……今こうしてガッツリセフレ関係を結んでしまってる感じからして。
「ん……でゅーす……」
後頭部を彼の手で固定されながら口付けられる。
えっちのさい、デュースはいつも始めにキスをする。ほぼほぼ何も覚えていない一回目の時も同じで、それだけはハッキリと記憶に残っている。それがまるで恋人同士みたいで切なくなるのに、でも嫌じゃなくて嬉しいのだから私も難儀な性格してるよなあ。
キスしている時は目をつぶるのがマナーだとよく耳にするけど、自然と閉じてるものだと体験してからは思う。だってあの綺麗な顔をこんな間近で見るのは心臓に悪い。好きだからこそ余計にそう感じるのだろう。
口内に入り込んだデュースの舌がぬるぬると動きまわる。歯の裏側、上顎、気持ちいい所へと重点的に舌を擦りつけてきて。縮こまっていた私の舌を突いて差し出すように促してくる。それにおずおず舌を伸ばせば、すかさず絡み取られた。ぴちゃぴちゃ粘膜と唾液が絡まる音がいやに響く。
頑張って鼻で息をしてるけれどキスの激しさに呼吸が追いつかない。手加減してと彼の胸を叩くけど、そんな私の訴えは抵抗のうちにも入らないようだった。唾液はいっこうに飲み込めず増していくばかり、混じり合った二人分のそれは口端から顎へと伝い落ちていく。唇が解放されたのはすっかり酸欠による涙と唾液で顔がぐちゃぐちゃになってからだった。
首筋にきつく吸い付かれる。私の肌の上に赤い跡が次々と散らばっていく。昨日が仕事納めで、そして今が冬で良かったと心底思う。この時期ならば違和感のないタートルネックもマフラーもこの情事の痕を隠してくれるから。
ぷちぷちと最初の頃と違って慣れた手付きでブラウスのボタンをデュースが外していって、しばらくして彼の動きがぴたりと止まる。
「、これ」
「デュース、こういうの好きかなって……嫌だった?」
「嫌な訳ない……」
悪くない手応えに奮発した甲斐があったなと心の中でガッツポーズを決める。服の下に仕込んでいたのは黒いシースルーのベビードールだ。胸はモチロンのこと、まだロングスカートで隠れているけれど下に履いてるショーツも透けてて、これ着ている意味ある?って感じの。その上、バスト下から裾にかけてのスリットまで入っているので本当に防御力が低い。ただいっぱい触ってほしいから肌触りにはこだわって。
デュースは下着とかそういうのあまり気にしないタイプかなと思っていたけれど、セクシー度が高いものを付けてた日はいつも以上に激しかった。だからせっかくのクリスマスだし、かなり大胆なデザインにしてみたところ、私の貧相な体には似合ってない気がするけど、デュースが気に入ったならセーフセーフ!
全貌が見たかったのか、手早くスカートも脱がされる。私から服を抜き取った彼がごくりと喉を鳴らした。
さっきトイレに行った時にタイツを脱いでおいて本当に良かった、じゃないとちょっとマヌケだっただろうから。履かずに彼の家を訪ねるのは無理だ、この時期にスカート一枚はさすがに寒すぎて風邪ひく。
「やっ♡」
「もう立ってるな」
くにくにと布越しに胸の先端を摘ままれる。デュースの言うとおり、そこは既に触ってほしそうに膨らんでいて。こんなえっちをする為だけの下着を身に付け、興奮していることを、期待していたことを突き付けられているようで恥ずかしくてしょうがない。
彼の両手に包まれた胸が弄ばれ形を変える。彼に言い寄る女の子達と違って揉みごたえが足りないだろうにデュースは飽きもせずいじくりまわして。ぱくりと布越しに胸の先を口に含まれ、吸い付かれたり、緩く噛みつかれたり。甘噛みとはいえ歯を立てられるのは怖いし痛いのに、デュースのせいですっかりそれも快感に変わってしまって。
どんどん彼に染まっていったこの体はもうきっとデュース以外に抱かれても満たされないんだろう。こうして手遅れになる前にこの関係を終わらせるべきだった。でも私は都合の良い女に成り下がっても、彼に抱かれたかったから。私いつからこんな馬鹿になってしまったんだろう。恋は人を愚かにする、デュースがもたらす快感にぼやける思考の中で、どこかで聞いた誰かの言葉が頭をよぎっていった。
「、なんだかいつもより感じてないか? もうぐちゃぐちゃだぞ、ここ」
「あっ♡ やぁあっ♡ い、いわないでぇ……♡ んっ♡ ひ、ぁあ♡」
下着の隙間から差し込まれたデュースの指が秘部を撫でる。軽く滑らされてるだけ、なのにぐちぐちと濡れそぼっているのにかあと顔が赤くなっていくのがわかる。
愛液を陰核へと塗りたくるように濡れた指でくるくる撫でたかと思えば、つぷと一本目が胎内へと埋め込まれる。わざと浅い所を行き来するそれにくぽくぽ淫らな音がしていた。
中で折り曲げられた指が弱い所に当たる。咄嗟にびくついた私を見て、ぐっぐっとデュースはそこを執拗に押し込んでくるものだからあっという間に私は気をやってしまった。
二本、三本、彼に慣れ親しんだ体は増える指を難なく銜え込んで。物足りないとばかりに勝手に腰が揺れる、そんなふしだらな自分が嫌なのにデュースが興奮してくれるから止められない。
あつい、とデュースが服を乱雑に脱ぎ捨てる。続けざまにトランクスをずり下ろして。鍛えられた体の美しさと相反する凶悪なそれから、つい視線を逸らす。何度も目にしてるし、なんなら根元まで体で銜え込んでいるけれど、まじまじと眺められるほどの強靱なメンタルを私は持ち合わせていない。酒で痛覚が鈍っていたとはいえ、初めての時よく私あれを受け入れられたなあと今更ながら考えてしまう。
「……本当にこのままでいいんだな?」
「いいよ。大丈夫、だから」
押し倒され、脱がされず横へずらされた下着から出たぬかるみにデュースの固く育った熱を押し当てられる。ぬるぬると秘裂に擦り付けられれば、早くとばかりに膣口が吸い付いて。その浅ましさすら彼には興奮材料らしく、獣じみた目をデュースは見せていた。
衝撃に備えてぎゅっと頭元のシーツを握りしめる。本当は抱きつきたいけれど、そんな恋人みたいな真似はできない。私にはそんな資格なんてないから。
「あっ♡ あ、ああ……♡ でゅー、す……♡」
ずぷずぷ緩やかにデュースの熱が私の中を暴いてくる。いつもより性急な愛撫のせいで、まだほぐれきってない内壁では彼の大きすぎる熱を一気に受け入れることはできなかった。
生身の彼の熱を受け入れるのは初めてぶりだった。あの夜はしっかり生中を決められていたが全く覚えていないので、私としては今が初めて味わっているようなもので。温度も形も質量も、いつもより明瞭なそれらにまるで喜んでいるかのよう、きゅうきゅうと私の内壁は彼の熱にしゃぶりついていた。
奥まで差し込まれてお互いの下生えがくっつく。続けてすりすりと恥骨を擦り合わされる。それによって陰核をこすられるが、溢れた愛液でぬるついていたおかげで痛みはなく、ただただ気持ちいいだけだった。
腰を引き寄せられ、屈んできたデュースが唇を合わせてくる。舌を絡め合わせながら、腰を押し込むようにして動くせいで、より深く熱がねじ込まれていく。
密着してくる体に思わず抱きつきそうになるけれど、なんとか堪えていっそう強くシーツを握り込む。きっと指先は力を入れすぎて白くなってしまっていることだろう。
こつこつとデュースの熱の先端が子宮口に当たる。その度に反射的に声が出る。甘ったるくて、ふしだらな、自分にとっては耳障りこの上ないそれは男である彼にとってはたまらないものらしい。ただでさえ大きな熱がまた中で質量を増す。
ぐっと子宮口に彼の先端がめり込まれた瞬間、喉が引きつって目の前が真っ白になる。絶頂に激しく収縮する中、その一番奥深くで彼の熱が膨らんで震えていた。
「、ッ……!」
「ひあぅ♡ あ、つい♡ あつい、よぉ♡ でゅーす……」
奥に叩き付けた精を子宮に染み込ませるかのよう、ぐりぐりとデュースの熱が押しつけられる。それに応えるかのよう、私の内壁はきゅんきゅんと彼の熱を締め付けて。まるで、もっと彼の子種が欲しいとねだってるみたいだ。
みたい、じゃなくて、その通りなのだろうけど。デュースの赤ちゃんができてほしいと何度思った事か。セフレの分際でそんなの口が裂けても言えないけれど。
いつも通りこの一回で終わるはずもなくて、それからのことはあんまり覚えてない。体位を変えて何度も何度も一番奥にデュースの熱を注ぎ込まれて。その最中で、繰り返し何かを頼まれていたような気がするが、頼まれていたかすらも記憶が曖昧だ。
途中で気絶してしまったので定かではないけれど、おそらく私達は性の六時間をその名の通りの形で過ごしたのだった。
◇
「……無理させてすまなかった。生とかあのえろい下着で、つい興奮して」
「あ、謝らないで。別に怒ってないから……」
目が覚めたらまたしてもデュースが土下座を繰り出してきた。その勢いに動揺しつつも宥めれば、デュースは私の前に座り直す。でもなんだかしょんぼりしたままだ。
ちゃんと後処理はしてくれたようで、お互いの体液が飛び散っていたシーツは綺麗になっていたし、私の体もさっぱりしている。ただ服は着せてもらえてないし、中に流し込まれたものはそのままのようでさっきからどろりと垂れてきているのだけれど。
シーツで体を隠す私に対して、デュースは下着一枚。どうせならちゃんと着込んでいてほしかったけど贅沢は言うまい。
まるで怒られた直後のわんちゃんみたいだなあと元気のない彼を眺めながら、ふとある事を思い出す。これはデュースの為にも言っておいた方が良いなと。
「あのね、デュース。女の子の『生でも大丈夫』は信用しない方がいいよ。あれ普通は『できちゃったら責任取らせるから』が前に付くし。私は念のため後で薬飲んでおくからいいけどね」
これだけかっこいい彼の事だ。合コンとかに出れば、そりゃあもう女の子に狙われることだろう。下手したら出席してる女の子のターゲット総取りになりかねない。
今もあまり私以外の女の子を得意としないデュースがそんな積極的に手出しするとは思えないけど……相手を酔わせてハッスルしようとするのは何も男の人だけではない。むしろ合コンに来るような女の子は肉食系が多いからなあ、女の私が言うのもなんだが女は怖い生き物なのである。
彼の女性関係にセフレ風情が口出しするなと言われればそれまでだが、セフレであると同時に私は彼の親友でもあるのだ。親友がやべえ女に掴まるのがさすがに見過ごせない。
親友としてアドバイスする私にデュースはしょぼくれていた姿から一転して、真剣な表情を見せる。くっと私の腕を掴んで彼は。
「飲まないでくれ」
「えっ……いやいや、ダメだよ! できにくいとはいえ、確率はゼロじゃないし……セフレに赤ちゃんできたら困るでしょ?」
ごく当たり前の事を私は口にしただけ。なのに自分で言っておいて、なんだか悲しくなってくる。
それをごまかすようにへらと笑うがデュースの表情は変わらない。まっすぐあの綺麗な瞳で私を見つめている。
「困らない。むしろ嬉しいし、助かるんだ」
「は? えっ、ちょ、ちょっ、ちょっと! デュース……!?」
再びベッドへと押し倒される。彼の言葉の意味がわからない、行動の意図もわからない。理解できないことばかりでぐるぐる目を回す。
混乱のあまり動けない私のおなかをすりすりとデュースが撫でる。、と呼ぶ声は情事の時のようにひどく甘い。彼の手付きに、声色に、余韻が抜けきっていない体が震え上がった。
「お前の好きな男がどれほどの奴かは知らない。でも僕の方が、のことを知ってる。お前の好きな物も、苦手なことも、きっとよりも僕の方がの体のことはわかってる」
頭から爪先まで私の体で彼が見てないところも触ってない場所もない。それどころか、私自身が届かない場所まで彼は潜り込んでいる。デュースの言うとおり、私の体は彼に知り尽くされていることだろう。
突然の事ながら言い当てられたそれを恥じて思わず顔を背ければ、強引に元の位置へと戻される。互いの視線がしっかりと交わる。
「僕の方がよっぽどその男より恋人らしいことしてるだろう。そいつはこんな風にとクリスマスを過ごした事なんてないはずだ。は僕以外の男なんて知らないんだから」
「でゅー、す」
「なのにお前は僕を選んでくれない。でもさすがに子供ができたら、否が応でも僕を選ばせられる」
彼が撫でるその下はデュースの子供が宿る可能性を秘めた場所で。このまま彼が離してくれなければ、その確率はもっと上がってしまう。なのにどうやっても私が逃げられる気配はない。逃がすわけがないと熱を帯びた瞳が教え込んでくる。
「なあ、もういいだろう。孕んでくれ——僕が一番お前を愛してるんだから」
その瞬間、行為の最中で幾度となく繰り返された言葉は、彼の心からの欲と愛を告げるものだったのだと、ようやく私は思い出したのだった。
back