だって鍵は開いたまま

 これまでの経緯は省くが、私の隣でエースが頭を抱えている。
 提示されてるにもかかわらず理解できてない私も途方に暮れているのだけれども、彼に至ってはそれ以上に悩んでいるように見えた。これってそんなに難しい条件なんだろうか?
 スーパーのセールチラシとかでよく見る字体で刻まれた『どちらかが相手をイかせないと出られない部屋』の看板を見つめながら、私は首を傾げていた。
 行くってどこへ? どこかに行こうにも現在進行形で閉じ込められているというのに。うーん、なんとなくだけど行くって意味ではなさそうだよな。文面からして、私かエースが相手に何かしろって解釈でいいんだろうか。その何かがわからないんだけど。
 なんにせよ、このまま考えてるだけではいつまで経っても脱出は叶わない。少なくともエースはわかってるみたいだし、ここは提案してみるか。

「エースから私にするのが難しいなら、私がエースにしようか?」
「絶対やだ……ってかお前、絶対何するかわかってないだろ」

 クッ、バレてる。そのせいもあってか、私の気遣いは間髪入れずに切り捨てられた。その反応速度からしてエースがとにかくされたくないのはわかった。
 でもそうなると新たな疑問が浮かぶ。なんで私にしないんだろう。彼の性格からして、そんな嫌な事ならいつもの口八丁手八丁で逃れようとするだろうに。
 もしかして、する方もされる側も苦痛を伴う行為なんだろうか。それならエースの悩みようにも納得がいく。
 具体的な行為がわかってないこともあって下手に口を挟めずおろおろする私へ、眉間に皺を刻んだままエースが唇を開いた。

「……脱出に必要なことだから確認するけど」
「うん」
「お前ってどれぐらいオナニーする?」

 予想外すぎる質問に私は硬直した。もしかして、いや、もしかしなくても、あの看板が指示していることって……えっちなことなのでは?
 だってそうじゃなきゃあの意外と常識人でツッコミ気質なエースがこのタイミングで、こんなことを訊ねてくるはずがない。
 なので私がすべきは彼の質問に正直に答えることなんだろう。だが言えるはずがない。そもそも全然したことないのが一つ、あと好きな人にそんなこと恥ずかしくて言えない!!
 でも答えなきゃ。だってエースは別に私を辱めようとかそういうのじゃなくて、脱出しようって真剣に考えた結果なんだから。なんとか首を横に振って経験がないことを示すと、渋い表情のままエースはがりがりと頭を掻いていた。
 看板の文面とエースの質問を脳内で照らし合わせ、私は一つの推測を立てる。だとすれば、きっと私が脱出のためにできることはこれだけ。
 死んじゃいそうなぐらい恥ずかしい、でも彼は優しいから私が言わなきゃいけない。はずかしい、はずかしい。羞恥心に支配されながらも意を決して口を開く。

「エースが、私にして」
「……何されるかわかってないくせによくそんなこと言えるね、お前。怖くないわけ?」
「エースの言うとおり、わかってないよ」

 でも怖くない、恥ずかしいだけ。そうこぼす私に呆れたような目を向けて、エースは観念したように息を吐いた。

 壁に背を付けて座り込んだエースに後ろから抱きかかえられる。最後まではしないから、と言われたけども逆にそれ以外のことはされてしまうんだろうか。まあ私の場合、それ以外が何かわかってないんだけども。
 エースの吐息が耳に当たる。そのくすぐったさに身をよじる間もなく、ベストのボタンが外されていった。
 後ろからなのに器用なせいか、ごくごくスムーズにベストが脱がされて。続けてブラウスも同様にリボンタイの下まで開かれた。プチと聞き慣れた音がして、ブラが緩む。
 すりすりとエースの指が胸をさする。これがおっぱいと言えるぐらいの大きさがあればともかく、私のまな板では重量感を味わうことすらできないだろう。がっかりされてそうなものだけれど、エースは飽きた様子もなく、ふにふにと微かな膨らみをまさぐっていた。
 ぴったり背中にくっついた彼の体から聞こえる鼓動はさっきよりも早い。それにただでさえドキドキしていた私の心臓も更に唸っていることだろう。私の胸が薄いのもあって、指先からでも伝わってしまっているんじゃないか。

「あっ」
「こうされるの、痛い?」
「い、痛くないけど、むずむずする……」

 固くなってきた胸の先をエースの指がくにくにといじる。彼のあの綺麗な手がこんないやらしい動きをしているのも、自分の乳首が充血して赤くなっているも恥ずかしくて見ていられない。
 この体勢ならエースには見られないと思っていたけれど、よくよく考えたら身長差のせいで全然のぞき込める範囲じゃないか。そう気付いてしまい、体温が急上昇するのが自分でもわかった。
 無意識のうちに掠れた声と吐息が漏れる。最初に感じたむずむずはだんだん強くなっていた。おなかの奥が熱くてもやもやして変な感じ。それをそのまま伝えたところ、エースはなんだか言葉に詰まっていたようだった。私、何か変なことを言ってしまったんだろうか。

「……、こっちも触っていい?」

 とんとん、とクロッチ部分に当たる場所をズボンの上から指先で軽く叩かれる。
 自分でもよくわからない場所だし、それに少なくとも友達に触らせるような場所じゃない。だから葛藤しながらも小さく頷いた。
 カチャカチャとベルトを外される音がやけに大きく聞こえる。ズボンのチャックを下ろされて前を寛がされた。ショーツの中にエースの手が入り込む。

「お前って感じやすい体質なんだ」

 エースが触れた秘部から、くちと濡れた音がする。そうして囁かれた言葉に私は身を縮こまらせた。エースは好都合と言っていたけれど、自分のふしだらさを突き付けられてるようで。
 溝にはめ込むように二、三度滑らせた後、私のせいで濡れた指をエースは少し上にずらす。瞬間に起きた、びりっと強い刺激に思わず体が跳ねた。

「えーす、そこ、やだっ」
「あっこら、暴れんなって」

 おなかに腕を回されて彼の方へ引き寄せるようにして押さえつけられる。その体勢のまま、エースはくるくると指の腹で私が嫌がった突起を刺激し続ける。
 その度にびりびりと電流のような感覚が巡って、徐々に体の力が抜けていく。私の抵抗がなくなったからなのか、私を抑えていた方の手が胸へと向かう。
 乳首をカリカリと軽く引っかかれ、もう片方の手で下の突起を優しくトントンと指先で叩かれる。知らない感覚に頭がぐちゃぐちゃになって、自分でも気付かぬうちに涙が滲んでいた。

「あっ、えーす、なにかくる、きちゃう、あぅ、こわい、こわいよぉ」
「それで間違ってないから。ほら、オレのせいで気持ちよくなってるとこ見せて」

 ぐっと突起を押しつぶされて、ぶわっと全身から汗が噴きでる。一瞬、目の前が真っ白になって、びくびくと体が痙攣していた。
 心地よい気怠さに彼の体にくたりともたれかかる。頭がふわふわして何も考えられない。ぎゅっと抱きしめられて「かわいかった」と囁かれる。それとおでこに与えられたやわらかな感触が夢じゃなきゃいいなあと思いながら、重い瞼を閉じた。

 私が気を失っていたのは十分くらいだったらしい。目を覚ました時、まだあの部屋のままだったし、ついでにエースに抱きかかえられた状態だった。服は整えてくれていたけれども、残念ながら夢じゃないのだとまだ体に残る熱っぽい余韻が訴えてくる。
 おそらくイくって感覚なんだろうアレを味わっていたせいで全く気付かなかったが、鍵が開く音はしたと彼は言う。だったら後は脱出するだけなのだけれども。

「……お前が今、考えてること当ててやるよ。これからオレとどんな顔で過ごせばいいんだろ、でしょ」

 図星を突かれた私は更にだんまりしてしまう。
 だって、だって仕方ないじゃないか。必要だったとはいえ、あんなことされてしまったら、もう彼の前で平常心でいられる自信がない。エースはともかく私には無理だ。ただでさえ好きなのに、今以上に意識した態度を取ってしまうに違いないだろう。
 でもエースにとって私は友達だから。恋愛のいざこざを嫌がる彼に、そんな迷惑極まりない反応見せたくない。となると、なんとか、できれば経緯ぼかしてクルーウェル先生に忘却薬作ってもらえるように頼みこまねば。

「友達だから気まずいって思うなら、こういうことしても問題ない関係になればいーじゃん」
「セフレはちょっと」
「なんでそうなるんだよ、ばか! 恋人になろうって言ってんの!!」
「…………やだ」

 私の拒絶に、エースが息を呑む音が聞こえた。おなかに回された腕に力が籠もる。

「本当に好きな人にお情けで付き合ってもらうなんてやだ。そうなるくらいなら、友達でいられるように頑張るから」
「ッ、ばーーーか!!! ガールフレンドでも面倒くさがってるオレが責任感から彼女にするなんて言うわけないだろ!!!」

 そもそもNRCに責任感なんて言葉が存在してると思うなよ!と説得力ある発言に納得させられる。それもどうなんだ。
 思わずセルフツッコミを入れている間に横抱きにされて。エースのちょっと赤い顔に「私も好き」と言いかけたところでキスされる。
 その後もいっぱいキスしているうちに、看板が『イチャラブセックスしないと出られない部屋』に変わっており、叫ぶエースに今度は私から抱きついて。ただし再びお題をクリアしても鍵が開く音はしなかった。

back