Ace Out

「この年で処女なのが恥ずかしい、ねえ」

 私が相談の体でエースにこの話を持ちかけた時は、もっとマイルドな言い回しをしていたのに。なんでわざわざこんな直接的な表現にするのか。
 改めて自分がとんでもないお願いをしていることを突き付けられたようで、なんだかきまりが悪い。
 ……実のところ、彼に話した抱かれたい理由が嘘なせいもあるんだろう。

 エースの家に遊びに来て酒盛りしていた中、私は酔った勢いもあり、思い切ってそれを口にした。
 でも経験が無いのが恥ずかしいなんて微塵も思ってない。実際に体験したらこんなものかって感じるかもしれないけど、でも私はむしろ初めては大事にしたいと考えていて。
 ただ学生時代からずっと好きだったエースに抱かれたいが為に、こんな狂言をでっち上げたのだ。

 数年来の親友から、とんでもない話を願われているにもかかわらず、エースは至ってマイペースだ。動揺も焦りも全く見受けられない。
 エースは意外とツッコミというか、常識的な反応を見せるタイプだから、もっと怒られると思っていたのに。
 どうにも気まずくて逃げるように缶カクテルを口元で傾ける。だがタイミングが悪い事にもう空になっていたらしい。あまり強くないけど、新しいの開けるか……と余っていた缶に手を伸ばす。

「一個だけ教えてよ。もしオレが断ってたら他の男にも頼んだ?」
「……こんなこと、エース以外に言えないよ」
ならそう言うと思った。ってことで、これはおあずけな。お前酒弱いし、それどころじゃなくなるじゃん」

 持っていたカクテル缶は未開封のまま没収され、彼の後ろへと遠ざけられる。どうやっても手は届かない。つまり話を逸らすことはできないようにされて。
 願ったのは私の方だけども、本当にその気になってくれたのか。あんな色気の欠片もない、誘惑とも呼べないお粗末な何かで。
 時間差で混乱してきた私にエースが口付ける。レモンじゃなくて、さっきまでエースが飲んでいたお酒のサクランボの味。彼もまた同じぐらいの甘さを感じているんだろうか。
 「ここだと狭いし」と寝室へと促される。彼の家に泊まりに来た時、いつもベッドを譲ってもらったから何度も入ったことがある。最初の頃はドキドキしたけど、もう慣れてしまうぐらいに。
 でもそれでもなお、今日はかつてないほど心臓を跳ねさせてしまうんだろうな。そんなことを考えながら、私は彼の手を取ってゆっくりとソファから立ち上がった。

「かわいい下着付けてるじゃん。最初からそのつもりだった?」

 私のトップスを脱がせてエースがからかうように質問してくる。それに私はふるふると首を横に振った。
 下着はいつだって彼と会う時はとびきりのを付けてるから嘘じゃない。良い下着を着けてると、ちょっとしたおまじないになるというか、なんだか少し自信が持てるのだ。
 それからエースに抱かれたいとずっと思ってたし、計画してたけど、実行できるなんて思ってなかった。エースが乗り気になってくれるなんて全く予想してなかったのだ。
 「バカ言わないでよ」とか咎められるか、悪趣味なジョークとして流されて終わりだろうなって。そうしたらやっと長いこの片思いにも蹴りが付けられると思ってたのに。

 エースの唇が私の口を覆う。この短い時間で何度キスしたのか、もうわからない。何度も妄想していた以上に気持ちよくて胸があったかくなって、それからすごくドキドキする。
 唇を軽く吸われて無意識のうちに声が出る。エース、キス好きなのかな。私はすごく好きみたい。きっと相手がエースだからなんだろう。
 少し手こずりながらもブラのホックが外される。……意外だった。器用な彼のことだから、てっきり片手でスマートに外されると思っていたから。
 うっかり者の私はそれをつい口にしていたらしい。ちょっぴりエースの眉間に皺が寄る。

「初めてのわりには上手くいった方だと思うんですけどー」
「……はじめて?」
「そう、お前と一緒」

 彼の衝撃発言にびっくりしていれば、誤魔化すようにまたキスされた。
 にわかには信じがたい。だって私が知ってる範囲ではエースに彼女はいなかったけど、それでも昔から彼は女の子にモテまくってる。だから、きっと私と違って経験豊富なんだろうと胸が痛かったのに。
 ……我ながら酷い奴だと思う。けど彼が私を初めての相手に選んでくれたことが嬉しくてしょうがない。

「あっ」
「あんな大胆なことしておきながら、お前すっごいドキドキしてんじゃん」
「だって、緊張、する」

 するりとエースの指が小さな膨らみの輪郭を撫でる。そんなささやかな触れ合いでも爆発しそうな心臓の動きが伝わってしまったらしい。
 揶揄する彼に正直な気持ちを口にすれば「ま、オレも同じような感じだろうけど」とエースは返してきた。今日の彼は随分と素直だ。私が緊張しすぎているから気遣ってくれているのかもしれない。
 エースのそういうさりげなく優しいところが好き。彼の傍はすごく心地よくて、ずっと一緒にいても、たくさん話しても全然足りない。きっと今日のことが終わっても私はエースを諦められないんだろう。むしろもっと好きになってしまう気がする。
 だから自分は本当にバカなことをしてしまったなと思う。心よりも先に体を繋げたら、その程度の関係になってしまうって、女友達が言ってたのにな。それでも止めたいとは思えなかった。
 優しく胸全体を撫で回される。くすぐったいような、むずかゆいような不思議な感覚。やわやわ揉まれるようになると更にその感覚が強まっていく。
 は、と短い息が漏れる。ぷくと膨らんできた胸の先を優しく擦られる。コリコリと固くなってきた感触を楽しむように転がされると、はしたない声が抑えられなくなっていく。

「お前、普段オナニーする時、あんま胸触んないの?」
「え、うっ、その、そういうこと自体、しない。なんか怖くて」
「……今も怖い?」

 彼の綺麗な赤色がしっかりと私の目を見ながら確認してくる。全てを見透かされているような気持ちになって落ち着かないけど、だからこそ「エースだから怖くない」と言葉にした。
 それから自分からエースにキスしてみる。触れるだけのエースがしたのと比べて随分軽いもの、だというのに胸がバクバクと飛び跳ねている。
 彼と素肌で触れ合いたくて、エースのシャツに手を掛ける。上に引っぱるがうまくいかない。そんな不器用な私を見かねて、エースは自分で服を脇へと脱ぎ捨てた。
 続けて汚しそうだからと私のスカートが下半身から抜き取られる。ショーツ一枚の頼りない格好にいっそう緊張が募る。

「エース、あの、ぎゅってして、ほしい」
「ん。こんな感じ?」
「うん……」

 エースの体で包み込むように抱きしめられる。ぴったりと剥き出しの肌と肌が触れ合うのがひどく心地よかった。えっちする上では必要ないことなのに、応えてくれたエースの優しさに胸がきゅっとなる。
 やっぱり好きだなあ。緊張がほぐれたタイミングを見計らって、名残惜しいけども「ありがとう」と体を離した。

 ついにショーツに手がかかる。するすると下ろされていって、誰にも許したことのない場所がエースの目に入った。
 外気に触れて冷たさを感じたのは自分でもわかるぐらい濡れてしまっているからなんだろう。羞恥心から顔が熱くなっていく。
 でもエースがしやすいように、自分の心に逆らってなんとか足を左右に開く。ちゃんと私の意図は伝わったようで、足の間にエースが身を割り込ませた。

「すっげー濡れてる、そんな気持ちよかった?」
「わ、わかんない……」
「自分でも触らないなら、そりゃわからないか。まあ一から教え込むのも悪くないよな」

 秘部を撫でられて腰の辺りが疼く。感じたからこそ濡れているというのは知識としてはわかっていても、いまいちピンとこなくて。いい年した大人がそれはどうなんだと思いつつも、正直に白状する。
 ごまかしてもいいことはそんなにない。というか何かと勘の鋭いエース相手に嘘が通用するなんて思うのは大間違いである。
 素直に言ったものの、エースの機嫌を損ねた気配はなかった。むしろなんだか楽しげなような。
 その真意を探りきれないまま、愛撫が再開される。エースの長い指がゆっくりと中に入り込む。中に何かを入れるのは初めてだったけれど、痛みを感じることもなかった。
 それは指が動き始めても同じで。エースの指が私の中をまさぐるたびに、ぐちゅぐちゅと大きな水音が立つ。
 息が上がる。おなかの奥が熱くて切ない。埋まった指にかき回されて、何度もびくびくと体を震わせてしまう。

「ははっ、気持ちよさそーな顔。もっとヨくしてやるから」
「ま、待って。ひゃっ」

 エースの顔が秘部へと近づく。そんなとこ、と言いかけた言葉は膣の上の突起に吸い付かれたことで強制的に遮られた。強すぎる刺激に腰が跳ねる。
 突起を吸い立てられながら、指でも中を責められて。ちかちかと目の前が明滅する。何か大きなものが来る。漠然とした不安感から彼の名前を何度も呼ぶ。
 そして一際強い感覚が全身を駆け巡り、頭の中が真っ白になる。それが収まったかと思えば、とくに意識してないのにポロポロと涙が勝手に目尻からこぼれていった。何が起きたのか、わからないけど。

「……かわいいね、お前」

 嬉しそうな顔をしながらエースが頭を撫でてくれる。良い子と褒めるような手付きからして、たぶん悪いことではないんだろう。
 手を離したエースは自分のベルトに手をかける。今まで気付いていなかったけれど、彼のズボンの膨らみに、見てはいけないものを見てしまったような気持ちになって、慌てて目を逸らした。
 本当にしちゃうんだ。今更過ぎるけど改めて現状を理解して体温が上がっていく。

、オレの方を見ててよ。ね?」

 視線をどこに向けていたらいいのか迷っていた私はエースに誘導されるまま、彼の顔を見つめる。
 ぴたとお互いの粘膜が触れ合っても、私の目は彼の表情だけを追い続けた。丸い先端がつぷと中に埋め込まれる。ぬぷぬぷと馴染みのない音を立てながら、大きくて硬いものが私の中を満たしていく。
 一瞬の痛みの後はビリビリと弱い電流のような感覚が絶えず私を襲う。時間をかけて、彼の先端が私の最奥に辿り着いた。
 未知の体験に震えていれば、エースが口角を上げる。過去に幾度となく見てきた、ヴィランらしい笑みだった。

「……えー、す?」
「お前のお願い聞いたんだからさ。、あんなくだらない嘘吐いてないでちゃんと言ってよ」

 ——オレが好きだから、オレに抱かれたかったって。
 促された言葉に私は目を丸くする。彼の指摘は何も間違ってない。だけど言えない。言ったらきっと私達の関係は変わってしまって戻れなくなって。

「オレもつくづく詰めが甘いって言われるけど、お前も大概だよね。本当にあの理由で突き通すなら嘘でもオレ以外に抱かれに行くって言わなきゃ」
「ッそんなの、言いたくない……」
「知ってる。お前はそういう奴だって。でもさ、それぐらいの駆け引きもできないから、お前、逆に騙し討ちされてんだよ」

 何の事かわからなくて戸惑っていれば、エースの熱を受け入れたままのおなかを撫でられる。
 それでも彼の行動が何をしてしているのか、やっぱり理解できなくて。ただエースに触れられている部分の温度に酔いしれていれば「付けてないんだけど」と囁かれた。
 ようやく彼の意図を把握するも、しっかりと腰を掴まれてて逃げようがない。ゆるゆるとエースが熱を私の中で行き来させる。

「お前に話持ちかけられた時からそのつもりだった。もうわかってるだろうけど、理由、聞きたい?」

 だったら先にお前が言えよ。そう彼のチェリーレッドは私が頷くよりも先に訴えてくる。
 私が言わなかったら意地でもエースは言わないだろう。そのくせ絶対に私を捕まえて逃がしてくれないのだ。最低だ、酷い。でも。

「えーす、すき」
「オレも好きだよ、
「ずっと、ずっと、えーすが、すき」
「……オレだって、こんなムチャクチャな事やらかすぐらいには拗らせてるっつーの」

 さっきまで内心で彼への不満をこぼしていたくせ、私の唇はするっとエースへの愛情を示していた。それにエースはちゃんと理由という名の告白を返してくれて。嬉しくなって更に呟けば、エースもまた口を滑らせた。
 言っとくけどお前があの話持ちかけてきた時、かなり焦ったんだからな。と、そんな素振り一切見せてなかったのに。
 エースが腰を打ち付ける。引いて、押して。自分ですら触った事の無い場所にエースが触れてくる。深く深く繋がって、それに今まで感じたことのないほどの幸福感が湧き上がる。
 キスしながら小刻みだった動きがだんだん遠慮が無くなっていく。ぐりぐりと奥を擦るような動作になり、頭の奥がびりびり痺れて、喘ぐだけしかできなくなる。
 さっきと比べてエースの息が荒い。激しくなっていく打ち付けにぎゅっと彼に縋り付いた。
 奥の奥深くまでくっついたなら、その場所からごぷりと音が鳴る。同時に熱いものが私の中を濡らした。
 二人の呼吸音だけが空間を満たす。心地よい疲労感に浸るよう、しばらくの間、私達は静かに重なり合っていた。どのくらいそうしていただろう。

「……こればっかりは授かり物だけどさ」

 ゆっくり身を起こして、エースが私の左手を取った。

「その前にこっちは絶対貰うから」

 それから薬指に唇を寄せて彼は私に宣言する。勝者の笑みを向ける彼に私は「ふつつかものですが」と微笑み返すのだった。

back