新婚夫婦におやすみのキスは通用しない

 すぴすぴ、隣から立つ小さな寝息に唇が緩む。
 は眠りが深いタイプらしく、これだけガン見してても彼女が目覚める気配は一切ない。ちょっとばかし彼女の頬をふにふにと軽くつまんでも、無防備な寝顔をオレに晒したままだ。
 セックスした次の朝、ちょっとばかしよりも早く起きて彼女の寝顔を眺める。そんな恋人時代からの至福の一時をオレは結婚してからも続けていた。
 もちろんには秘密だ。だっての性格を考えると絶対「よだれとか垂れてるかもしれないから見ないで……」って恥ずかしがって、下手したら寝室を別にされるかもしれないし。その時は毎晩夜這いかけるけど。
 今更だよなあ。オレ、もっとお前の恥ずかしい姿をもう数え切れないぐらい見てるじゃん。でもこれも言ったらロクなことにならないだろうなって思うから、やっぱりバレないように気を付けないとね。
 頭を撫でれば、もにゅもにゅと唇を動かすものの、やっぱりは寝入ったままだ。昔からは寝付きが良かったけど、昨晩もたっぷり"仲良く"したせいもあるんだろう。
 男は射精したら眠くなるものだけど、女の子もイくと眠気に襲われるらしい。事後にイチャイチャしたいのにすぐ眠くなっちゃう……と、はよくしょんぼりしてる。真剣に悩んでるのに!って怒られそうだから彼女には言えないが、その姿は正直めちゃくちゃ可愛い。
 彼女の気持ちはよくわかる。オレも一人でした後はめっちゃ怠いし、すぐ寝たいもん。まあ後処理しないと起きてから泣き見るから体に鞭打ってやるんだけどさ。
 ただこれがセックスとなると全然違ってくる。何回出してもオレのせいでトロトロになってるを見てるとすぐ復活して、つい頑張っちゃうし、後処理するのも苦痛じゃないし。
 そんなわけで、学生の頃は寮長に叱られないギリギリを攻めながらイチャついてたし、結婚してからは一年間ホリデー以外殆どイチャつけなかったのを取り戻すように毎晩励んでいる。

 それにふと思う。新婚だからってはしゃいで、ついがっついてるけど、ちょっと求めすぎじゃね?
 が応えてくれるから甘えてたけど、ここ一ヶ月ほぼ毎晩ヤってるわけで。結婚してるんだから体目当てな訳ないけど、現状を顧みるとそう誤解されても仕方がない状況な気がする。
 しっかりしてるんだけど、って結構オレに対して流されやすいところあるんだよな。オレとしては助かるというかありがたいけど、無理させたいわけじゃないし……。
 今日からしばらく我慢してみるか。軽くの口にキスして横たわる。目覚ましが鳴るまで、あと二十分。いつものように何事もなかった風に装ったオレは掛布の中でを抱きしめ、瞼を閉じた。

 それからオレは心持ち頑張った。おはようのキスも、いってきますのキスも、ただいまのキスも控えめにしたし、お風呂一緒に入ろーぜってワガママも言わなかった。髪を乾かすのうなじにムラッとしても、ちょっかいかけなかったし。
 そうして迎えたベッドタイムでのおやすみのキスも、いつもならキスしながら服を脱がしたりするけど素直にキスだけで終わらせた。
 ここまでパーフェクトじゃね? 正直めちゃくちゃムラムラしてるけど、ここはグッと抑えて、後は寝るだけ……。

「エース」
「ん、どうしたの?

 掛布に潜ろうとしたオレを引き留めるように、がオレのパジャマの裾を掴む。不安げな表情にただ事ではないと判断したオレは話を聞く姿勢を取った。
 オレはこの時まで忘れていた。オレの奥さんはチョロいわりに一筋縄には行かない女の子で——

「今日はしないの……?」

 オレの情緒をめちゃくちゃにする天才だってことを。
 パァンと理性が弾ける音を脳内で流しながら、その覆しようのない事実をオレは思い返していた。

 今日は朝からエースの様子がおかしかった。
 彼のお願いで始まった日課のキスが普段より軽かったり、いつも隙あらばかまってくるのにそれもない。だからといって別に態度が冷たくなったりしたわけじゃないけども、それでもあまりに急な変化になんだか不安になってしまった。
 極めつけは結婚してからずっと毎晩えっちしてたのに、おやすみのキスをしたらエースが本当に寝ようとしていて、だから、それで、つい。

「ひ、ああっ♡ えーす♡ あぅっ♡ んあッ、あ、あ♡」
「こーら♡ 逃げんなって」

 気持ちよさに無意識で腰を引いていたのだろう。それを見とがめたエースがガッチリと腰を掴んで、更に深く私の中を穿ってくる。
 もう私は何回もイっていて、エースも二回出してるのにいつも以上に興奮している様子の彼の熱はいっこうに収まる気配がなかった。今夜はえっちしない雰囲気だったのに、なんで普段のえっちよりも激しいんだろう。
 考えても快感に溶けた思考回路じゃ答えは見つからない。エースのなすがままに揺さぶられるたび、考えていたことが次々と落ちていく。残るのは頭が痺れるほどの快感と、エースに対する好きという気持ちだけ。

、オレとのセックス、好き?」

 口を開いても出てくるのは喘ぎ声で、ちゃんとした言葉は返せない。だから頭を振って肯定すれば、ちゅうと唇を吸われる。それにえっちしながらキスされるのがすごく好きな私は思わず中をぎゅっと締め付けてしまう。

「毎日こんな風にお前のことめちゃくちゃにしてるけどイヤじゃない?」

 もう一回頷く。いやじゃない、たった一日無くなりかけただけで我慢できなくなるぐらいには。
 私の答えにエースの口元が弧を描く。もしかしてエース、いっぱいしすぎだと思ったのかな。それで今日はやめておこうとしたの? だったら大間違いだ。

「えーすが、こんなにえっちにしたんだから、せきにんとって」
「……ハハッ、じゃあお前もオレのこと煽った責任取ってよ」

 楽しげに笑うエース。でもその瞳はしっかり欲情を滾らせていて、感じ取った視線の熱さにぞくぞくと背が震える。今夜はいつもと違って眠れないのかもしれない。だとしても何の後悔もないどころか歓喜に沸く私は再び近づいた彼の唇をただただ受け入れた。

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