喧嘩するほど仲が良すぎた

「ん、。おやすみ」
「……おやすみ、エース」

 おやすみのキスをするとすぐさま眠りに就いたエースの顔をじっと見つめる。しばらくそうしていたが、あいにくエースが起き上がる、なんて都合の良い展開にはならず。私の視線なんてものともせず立ち始めた寝息に諦めて、掛布の中へと潜り込んだ。
 ……ここ最近、ずっとこの調子だ。前までは私が体調不良だったり、生理中の時以外はおやすみのキスで健全におやすみなんてなることはなかったのに。ほぼ毎晩いっぱい……えっち、してた、のに。
 最初はあれ?と思ってもお仕事で疲れてるのかなと。でもまさかこんなに長い間レスになることなんて。学生時代は当たり前だった頻度だけど、彼との結婚生活を経て私は随分貪欲になっていたらしい。寂しくて仕方ない。
 残念ながら原因は思い当たらない。抱かれなくなった初日を思い出しても、特段おかしなことはなかったと気がする。あの時は本を読んでたら、うとうとしちゃってエースに起こしてもらったけど……もしかして、その時の寝顔がすごい汚かったりしたのかなあ……。
 なかなか寝付けず悶々とした気持ちで考えてみたけれど、やっぱり原因はわからず途方にくれるばかり。
 エース、私とえっちするの嫌になっちゃったのかな。辿り着いた結論に思わず涙ぐむ。だけど、まだ嘆くには早すぎる。だってまだ私からは何もアクションしていない。
 つい受け身になっていたけれど、自分でやれることはやってみよう。意気込みながら私は瞼を閉じた。

 ——明くる日、頑張った結果は惨敗としか言いようがない。
 すやすや眠るエースの隣で私は項垂れていた。ウナギ、ニンニク、山芋……とりあえず精の付くものと言われているものをお弁当と夕食に仕込んだり、自分からキスして甘えてみたり、思い切って「イチャイチャしたい」と言葉でお誘いをかけてみたり。
 それでエースが抱きしめながらちゅーしてくれたから、これなら……!と思ったところでのおやすみコール。そして後には中途半端に盛り上がってしまった私と気持ちよさそうに眠るエースが残された。

「……えーす」

 私はエースに抱かれたいのであって、セックスができればいいというわけではない。でも、もう限界だった。
 ずっとおあずけを食らっていたのと、周期的に一番ムラムラしている時期なこともあり、私の中の切れちゃいけない何かがパーンッと切れてしまった。たぶん理性とか恥じらいとかそういうやつだと思う。
 ペイッとエースのブランケットを引っぺがす。急な寒さからか、エースが身じろぐけれど起きる気配はない。それをいいことにエースのパジャマの裾も捲りあげる。
 ほどほどでいいと言いながらちゃんと付いてる腹筋を撫で回す。私のぷにぷにのおなかをよく彼は撫で回すのでその仕返しだ。充分に堪能したところで、手を彼の体の上部へと滑らせる。起きない方が悪い、と責任転嫁して彼の胸の赤色に触れようとしたその時だった。ガッと力強く手首が掴まれて阻止される。

「人の寝込み襲うとか油断も隙もないね、お前」
「……でもエース、狸寝だったよね」

 寝ていたにしてはあまりにもタイミングが良すぎる。本当に寝ていたならどれだけ乳首触られるの嫌なんだって話だ。人のは散々触るくせに、自分は触られるのすっごい嫌がってるけどさ。
 クレームに対しハッキリ指摘すれば「やっぱバレるか」なんて、ケロッとした顔でエースは暴露する。その表情に思わず睨み付けてしまったが、今回ばかりは許されるはず。

「それでオレの奥さんはなんでいきなりオレのこと襲ってるわけ?」
「…………エースと、えっち、したいから」

 いつもならわかってるくせにと怒っていたことだろう。でも羞恥心を欲情にかき消された今は素直になる方が簡単だった。
 私の言葉に「やっと言った」とエースが満足げに笑う。どういうことなのか、問いただすことはできなかった。起き上がった彼がキスを仕掛けてきたから。唐突な積極性に驚きながらも、ずっと待ち望んでいた行為の始まりを告げる舌の動きにすぐさま私は惚けてしまう。
 久しぶりだからか。軽く酸欠になるぐらいのしつこくキスされて、まだ準備段階だというのに私はヘロヘロになっていた。いやよく考えたらいつものことかも。

「えーす、さっきの」
「せっかく誘ったのにお前にお断りされて傷ついたから、お前がおねだりするまで止めてたってこと」

 どういう意味なのかと確認するより先にエースが答えを出す。だけどあいにく彼の主張に私は全く覚えがなかった。
 なので追求したところ、どうやら私はあのうたた寝から起こされた時に寝ぼけてエースのお誘いを断っていたらしい。そういえば夢でエースから人体切断ショーの練習に付き合ってくれと言われて断った覚えはあるけれど……。
 悩んだ時間がなんだったのだと思いたくなる理由と、エースも寝ぼけていたのはわかっていただろうに意地になって我慢していた事実に、かなり呆れながらも、それ以上にホッとしている自分がいて。
 エースも機嫌を直したようで、しれっと私を押し倒す。こう形勢逆転されてしまってはもう私が攻める余地はないだろう。でもそれを不満に思うなんてことはなくて、またしても寄せられた唇をただただ受け入れる。

「こんなムラムラしてるの、絶対あの料理のせいもあるでしょ」
「だ、だって、その気になってほしかったんだもん……」
「だからってやり方えぐすぎでしょ」

 ぐりぐりと大きくなった熱を太ももに擦りつけられる。今にもはち切れそうなぐらい固くなっているけれど、即座に挿入する気はないらしい。
 私的にはたぶんさっきちょっとだけでもエースを攻めたので充分濡れていると思うけど、そういう問題じゃないと強く否定されてしまう。

「オレはセックスがしたいんじゃなくて、奥さんを抱きたいの」
「……私と愛し合いたいし、大切にしたいってこと?」

 襲う直前に私もおなじようなことを考えていたので、率直に質問をぶつけたところ、エースは何も答えなかった。ただごまかすように何度もキスしてくる。図星を付かれて恥ずかしかったんだろうな、きっと。
 気を取り直し、私のパジャマの裾を捲りあげたエースがぎょっとした顔を見せる。それからごくりと喉を鳴らした彼は見るからに興奮していた。

「……これだけ着てベッドにいたら、おねだりなしでも襲ってたんだけど」

 私がパジャマの中に着込んでいたのは真っ赤なベビードールだ。デザインこそ可愛く、ついでにたくさん布を使っているが、その布はスッケスケ。ちなみにTバックのフロント部分も当然透けている。
 エースは紐とかおっぱい丸出しとかの、いかにもドエロいタイプより、こういうちょっと控えめな方が好きみたいだから。私としては刺激強すぎるぐらいなんだけども。

「本当は最初そうしようと思ってたんだけど……」
「恥ずかしくなった?」
「……こっちのシチュエーションの方がエース喜びそうだなと思って」
「確かに、まあ、そうだけどさ」

 エースのやる気スイッチに対する着火剤になればいいなあと考えて着込んだけども、思っていたよりも効果抜群だったみたいだ。
 いつもなら意地でも我慢して私の乳輪をねちっこくいじめるのに、今日はいきなり胸の先に吸い付かれる。それも布の上から。よっぽど余裕がないらしい。
 ぢゅうときつく吸われてちょっと痛いくらいなのに私は声をとろかしてしまう。続いて肩紐をずらされて胸を曝け出された。
 布地に負けないぐらい赤く、それからぷくっと膨れた乳首にエースが再びしゃぶりつく。片方を甘噛みされて、もう片方を指で捏ねられる。快感から思わず背中がそって、自然と彼に胸を突き出すような形になっているのが恥ずかしいのに止められない。
 丸出しになっているおなかをすりすり撫でられる。最初はくすぐったいだけのそれが、今では確かな快感と興奮を得てしまう。たくさん抱かれてきた中でいつもされているからか、まるで「これからオレでいっぱいにする」という宣言みたいだと。

、このまましていい?」

 クロッチをずらしてエースの指が秘部に触れる。どうやら、こちらの衣装は随分お気に召していただけたようだ。この調子じゃ嫌と言っても決行するだろうに、まあ言わないけれども。
 そのかわり「そのままして」と答えれば、中へとエースの指が入り込んだ。陰核と一緒に中の良いところをぐりぐり刺激される。とろとろと溢れる愛液は増やされた指もあっけなく飲み込んで。
 優しくも激しく、気持ちいい所を押され続け、私は爪先を丸めながら達してしまう。絶頂の余韻に腰をガクガクと震わせていれば、エースは指を抜いて、頭上のベッドボードへと手を伸ばす。
 その行動の意味を理解して、咄嗟にべしっと私は彼の胸を叩いた。私の突然の反抗にエースは驚いていたが、譲るわけにはいかない。

「そのまましてって言った」
「……そのまま、って」

 エースは下着のことを指してるのはわかっていたけれど、知ったこっちゃない。あれだけ私のことを振り回したのだ、今度はエースが振り回される番だ……私達の子供に。
 私のおねだりにエースは考え込んでいたけれど、しばらくして「じゃあ頑張らないとな」と結論を出した。それが今からの私に対するものなのか、はたまたまだ見ぬその子を可愛がる方なのか。きっと、どっちもなんだろう。
 足を持ち上げられて、ぬぷぬぷと生身の彼の熱が押し込まれる。なんだかいつも以上に大きい気がするのに、ぐちゃぐちゃにふやかされていた私の中は簡単に奥までエースを銜え込んでしまった。
 まだ受け入れただけ。なのにもうそれだけで私は軽くイってしまって。私がそんな調子だからか、エースも最初からガツガツと激しく突き上げてきた。
 次々と湧き上がる快感に目の前がチカチカしてる。無意識に締め付けてしまっているのか、エースが私の耳元で「さっきから締めすぎ、ずっとイってんじゃん」と囁いた。余裕のない彼の熱い声色にまた勝手に気持ちよくなってしまう。
 ラストスパートとばかりに打ち付ける彼の腰が早くなる。ごちゅごちゅと一番奥の奥に彼の先端がめり込むたびに、私の中がうねって。それに抗うようにエースの激しさが増す。
 ぎゅっと強くエースに抱きしめられながら同時に絶頂を迎えた。どくどく最奥で彼が脈打って、おなかいっぱいに温かいものが注がれる。全部全部欲しくてゆるゆる腰を振る私に「お前いつからそんなエロくなったの……」と唸っていた。
 私のふしだらな様子に彼は顔をほんのり赤らめているけれど、確実にエースの影響である。ごぽと逆流する収まりきらなかった精液が惜しくて、きゅうと入ったままの彼を締め付ける私にエースは再び欲情したようだった。ばちゅん、と思いっきり腰が打ち付けられる。
 こうして、私はこれまでの分も取り返すように、気絶するぐらい盛り上がってしまった。次の日、足腰が立たなくなって大変だった。仲直りえっちにしたってちょっと頑張りすぎたかもしれない。
 ただセルフ焦らしプレイを決めたエースのせいであり、一服(どころじゃない)盛った私のせいでもあるので、喧嘩両成敗ということで。

 でもまあ、おかげでいっそう仲良くなったので、たまには喧嘩もしてみるものだなあと、大きくなったおなかに耳を当てる夫の姿を眺めながら、約半年後の私はこのハッピーエンドを噛みしめるのだった。

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