ミルクはこぼれなかったから

「えーす、て、にぎって……」

 シーツを掴んでいた手をほどいて、がオレへと手を伸ばす。しっかり恋人繋ぎになるよう指を絡めれば、ぎゅっと握り返された。その仕草と、ふにゃと嬉しそうに緩むの顔にキュンと胸が打ち抜かれる。
 最近になって知ったのだけれど、はわりと甘えん坊らしい。つい一月ほど前に起きたあの事件がなければ、オレは今も彼女のこの一面を知ることはなかったんだろう。

 オレとは先月のある日、媚薬を飲んだ上でセックスしないと出られない部屋に閉じ込められた。この媚薬っていうのが厄介で、相手への愛情の大きさと効果が比例するというものだった。
 一人が飲めばよかったんだけど、に飲ませるつもりは一切なかった。単純に魔力の無い体に対する魔法薬の影響がわからない危険性と、はただでさえ感じやすいのにオレのこと大好きな以上、彼女が飲んだら絶対可哀想なことになるだろうから。
 だからといってオレが飲む気もなかったんだよね。だってさ、間違いなくかっこ悪いところ見せることになるだろうし、のことめちゃくちゃに抱いて負担かけるのわかってたし。
 なので、なんとか薬を飲まない方向にオレは進めるつもりだったんだけど、は「自分が飲む」と譲らなくて。
 言い合いの末、泣き出した彼女が吐露した言葉によって、オレは自分の気持ちがに一切伝わってなかったことを知った。
 オレ的には恥ずかしいながらダダ漏れだって思ってたのにさ。けどの自己肯定感の低さのせいか、はたまたオレのポーカーフェイスが優秀だったのか。現実はさっぱり通じてなかったし、過去の自分の言動を思い返したら誤解されても仕方なかった。
 オレとしては好きな子相手に格好付けたり、口にすることで実感して内心ウッキウキしてただけなんだけど。見事に噛み合ってなかったというか、悪い方へガッチリ嵌まってたんだよな……。
 この時ばかりはプライドとか照れとか普段捨てられないものも吹っ飛んでいたように思う。その位、はオレにとってかけがえのない存在で、絶対に手放せなくて。だから、もうこれは言葉で挽回できる段階じゃないと判断したオレは例の媚薬をここぞとばかりに一気飲みした。
 あとは言わずもがなで。にめちゃくちゃ思いの丈をぶつけた結果、晴れてオレ達は本当の意味で通じ合うことができたのだけれど。

「ふあっ♡ あっ、あ、あ♡ えーす、えーす♡」
「どこもかしこもぐずぐずじゃん。そんなにオレとのセックス気持ちいい?」
「はふっ♡ き、もちいい♡ えーすの、きもちいい♡ んんっ♡」

 腰を動かすたびには可愛い声で喘ぐ。手を握り込む前よりもちょっと大きくなった声に可愛いと思う気持ちとムラムラが同時に噴き上がった。
 感情をぐちゃぐちゃにされた仕返しにが弱い奥をぐりぐりいじめても彼女は喜ぶだけで。あとオレがまた情緒をかき混ぜられるだけなので緩い律動に切り替えた。感情的にも、いじめてもぎゅーっと締め付けてくる彼女の中のせいで肉体的にも、早々に搾り取られそうで。
 あの一件からはオレに甘えるようになった。いつものしっかり者の彼女を知ってるせいで、オレしか見れないそのギャップで正直頭おかしくなりそうなぐらい興奮してる。前は嫌われないか怖くてできなかったみたいだけど、オレの我ながら重すぎるだろと引くほどの想いを知って安心したらしい。全然いいんだけどさ、あれに怯えるどころか安心するってお前本当にオレのこと好きだね。また心音のテンポおかしくされたことはナイショ。
 の甘えただけども、セックスの時は特に顕著だ。今みたいに手を繋ぎたいとか、キスしたいとか、ぎゅっとしてとか、可愛いわがままをよく口にする。オレはわりといじめっこだって自覚してるし、欲望に駆られる時もあるけど、その時ばかりはちゃんと必ず叶えるようにしていた。
 今でこそひたすらいちゃついているが、から聞いた話によると、あの事件でオレの気持ちを知らなかったら別れ話を切り出されていたらしい。もしまたを不安にさせるようなことをしたら、そんな最悪の未来が待っているかもしれない。だからこそせめての信頼故のおねだりだけは絶対見逃さないようにしないとね。

「えーす♡ すき、すきっ♡」
「……オレも好きだよ」

 本当はまだ好意を言葉にするのはちょっと恥ずかしい。言い終えたら思わず前してたみたいにキスで締める。それに手も、彼女の中に埋め込んだ熱もぎゅっと握り込まれた。その二文字は他のどんな言葉よりもを喜ばせるんだって思い知らされてるみたいだ。そしてさすがに毎度のことなので、やっとオレも素直になりつつある。
 オレの口から愛情を引きずり出したは嬉しそうな、幸せそうな、気持ちよさそうな、とにかくオレが好きってことを詰め込んだ顔を見せてくる。あの事件より前は見た事がない表情だ。前までのはどこか切なさや寂しさを覗かせていたから。
 あーオレのバカ。こんなにもトロトロにできるなら、もっと早くに言っておけばよかったじゃん。といっても過去のことにどうこう言ってもしょうがないけどさ。
 とりあえず今は目の前の可愛い彼女をたっぷり堪能して。それからがオレに告白してくれたみたいに、オレも勇気を振り絞って彼女が離れられなくなっちゃうぐらい、の一番欲しがってたセリフを言っちゃおかな。

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