望むところだ

「エース、このぬるぬるって洗濯したら取れると思う?」
「お前、いくらなんでものんきすぎない?! おい、離れろってば!!」

 私は今、自室のベッド上で触手にぐるぐると巻き付かれている状態である。肌や服は溶けてこそいないが、触手から滲み出ている粘液まみれ。そして恋人のエースは私を救出すべく触手を引き剥がそうとしているのだけれど、びくともしないようだ。
 これがどこぞの見知らぬ触手なら私も怯えて泣き叫んでいただろうが、この子はエースの一部みたいなものなので、今こうやって甘えられていても、うーん服とシーツはクリーニング行きかなあと悩むぐらいで嫌悪感はなかった。
 先生の話を聞く限り、酷いことをされるわけじゃないだろうし、こうしてこの子が絡んできているのは私への好意からなのだ。私がかろうじて自由になっている手でヨシヨシと撫でると嬉しそうに頬ずりしてくるぐらいだし。

 こうなっている原因はエースとフロイド先輩のペアが作った薬のせいだった。
 今日の魔法薬学は『魔力を具現化する薬』で、他の人は体にまとった炎や水の形で現れる中、エースは背中から触手が生えた。なんでも先輩がいつもの気まぐれで、リリスの粉という本来とは違う材料をぶち込んだ結果らしい。知らずにイヤイヤ飲まされたエースは解説だけで済んだものの、先輩はクルーウェル先生にこっぴどく怒られてた。あれは5バッドボーイ位のお怒り具合だった思う。たぶん貴重な材料だったんだろうな。
 先生曰く、触手として具現化したそれは本人の性質が反映されるが、独立した意志を持つためコントロールできない。リリスの粉は惚れぐすり等の恋愛にまつわる薬に使われる材料で、今回の品もその影響を強く受けていると。そして私とエースが恋人関係にあるのは周知の事実だ。
 なのであの場に居合わせたメンバーは触手が私にあはんうふんな展開を繰り広げるのでは……?!と期待していたようだが、実験室での触手は私にそっけなくて。
 なーんだと私とエース以外は肩透かしを食らっていたが、二人きりで過ごしていたら突然この子が荒ぶり始めて……今に至る。
 エースはわりとシャイなのか、人前でいちゃつこうとしない。だから実験室で冷たい態度を取られたのは周囲に人がいたせいなんだろう。あんなところで公開プレイ始まったら、さすがに先生が止めるだろうけど一生もののトラウマになりそうだから、ちゃんと羞恥心があってくれて助かった。
 あと元々、今日はエースがオンボロ寮に泊まる予定だったのだ。おそらく彼もそういったことをする心積もりだったので、この子にも影響が出たんじゃないかなと推測している。
 背中のうにょうにょは気になるけどお互いベッドに上がって、正にそんな雰囲気になっていたのもあるだろう。

「ちょっ、離せよ!」

 私が色々思い返している間にエースまで絡み取られてしまった。邪魔するな、という事なんだろう。
 それにしても同時に二人を捕獲するとは随分パワフルだなあ。万が一フロイド先輩に触手が生えていたら、魔力量とか体格的にエースのものより一回り大きくなってそうだ。触手は本能的に動くらしいし、この子でこれだけ力強いのだから、もしそんなので締められていたらと想像しただけで怖くなった。

「ヒッ、キモッ! めっちゃヌメヌメする! 、お前なんでこんなのに全身まとわりつかれて平気なわけ?!」
「なんか慣れちゃった」
「適応力高すぎるでしょ!!」

 粘液が服に染み出してきたのが不快なんだろう、暴れながらエースが叫ぶ。ベッドが壊れそうだから落ち着いてほしい。もうこのぐらいのトラブルは日常茶飯事の生活を送っているので大抵のことは受け入れられるというものだ。クレームは日々面倒ごとを持ち込みがちな学園長にお願いします。
 観察してわかったが、この子は随分伸縮性に優れているようだ。一本でぐるぐるとエースの胴体と両腕をまとめて押さえつけているところからして。ベッドは狭く私達の距離はさほど開いてないこともあり、おかげであまった他の触手は全員私を担当している。
 どうでもいい話だけど、エースに巻き付いてる一本って貧乏くじ引いてるよね。私としては代わってあげたいというか代わってほしいポジションなんだけどな。いやだってあんなにもエースにぴったりくっついてるんだよ、状況的に美味しい気がしない?

「んっ」

 首筋を這われて思わず声が出てしまう。私の首をなぞり上げた触手は鼻先へとやってきた。
 なんだか甘い匂いがする。嗅いだ覚えがある香りだなあと考えて、やがてチェリーパイの匂いだと気付く。こんなこと言っちゃなんだが、深みのある赤色と肉肉しい質感という見た目に対して、この可愛らしい香りはちょっとミスマッチな気がしなくもない。
 さっきまで叫んでいたエースからはもうくぐもった声しか聞こえなくて。どうしたんだろうと彼の方へ意識を向ければ、更に伸びた触手が猿ぐつわのように彼の口を覆っていた。足も、新たに増えていた触手に動けないよう縛られていて。
 でもエースもやられっぱなしじゃない、口を担当する子に思いっきり噛みついている。見るからに痛そう。やっぱりあの子だけめちゃくちゃ不憫じゃない?
 ツンツンとさっきの触手が私の唇をつつく。エースが舌を入れたがる時のおねだりみたい、なんて思いながらおそるおそる口を開いた。やっぱりそのご要望だったらしい。開くとほぼ同時にゅるりと口内に触手が入り込んだ。
 舌に絡みつきながら触手がじわじわと甘い液体を分泌する。匂いと同じく味もチェリーパイだった。まあこれならアルコール抜きのリキュールみたいな感じと思えばイケるかな……。
 少し迷いながらも口いっぱい溜まったそれを飲み込めば頭がくらくらと揺れた。体が熱くなって視界が潤む。酩酊によく似てるらしいこの症状には覚えがあった、魔力酔いだ。
 魔力量に差がある者同士での性行為は弱い方が相手の魔力にあてられ、酔っ払ってしまうらしい。今でこそ慣れたものの、初体験を迎えてしばらくの間は私も悩まされたものだ。
 なので多少なりともエースの魔力に耐性はあるはずなんだけど。まあいくら耐性があっても、今のこれって魔力そのものを直飲みしてるようなものだろうし……そりゃあ酔うよね。
 にゅるにゅる、私の口内をまさぐりながら、別の触手がパジャマの裾から入り込む。パジャマのせいで見えないが、何本にも分かれているっぽい細いものがブラジャーを捲り上げた。粘液を擦り付けられた素肌が熱を持つ。胸に、背中に、お腹に、無数の触手が這いずり回っていた。

「あっ♡ あ、あっ♡」

 固くなった乳首をころころ転がして、巻き付けた触手で絞るようにぎゅっと締め付けて。そんなちょっと痛いぐらいの刺激も快楽を覚えてしまう。まるで弱い電流が走り続けているかのよう、全身がびりびりと痺れていた。
 感触こそ違うけれどエースと同じ責め方に気持ちが昂ぶっていく。彼の好みじゃない、小さくて面白みのない胸。それでも飽きずにずっと触ってくれるのが嬉しい。
 えーす、えーす、うわごとのように彼の名前を口にする私をエースは一心に見つめている。興奮しているのか彼の耳は真っ赤になっていたし、ズボンの下が大きく膨らんでいた。でも私が触手に身を委ねているのは気にくわないらしく、こちらに向けられた目つきはひどく鋭い。
 エースの視線に喧嘩を売られたと触手は認識したようだ。ワンピース型のパジャマだったことから下りてきた触手によって、するっとショーツが抜き取られてしまった。そして続けて触手達はなすがままになっていた私の体を持ち上げて、エースへ見せつけるように足をM字型に広げた体勢で固定する。

「んぐっーー! ん゛んんーーー!!」
「こら、だめっ、いけず、しない、の」

 完全に挑発してるとしか思えない行動にエースは青筋を立てていた。これには私も少しばかり酔いがさめて抵抗するが、もう触手的には後に引けないらしい。
 秘部に近づいた一本の先端が花びらのように開く。その動作は可愛いけども開いたその中はびっしりとイボがひしめき合っていて、ちょっと怯えてしまった。中のフォルムといい、色といい、先日エースと見たホラー映画の怪物そっくりなんだもん……。
 イボの面で咥えるように膨らんでいた陰核が包まれる。その状態でごしごしと擦られて目の前に星が散った。反応が気に入ったのか、執拗に陰核ばかりを刺激される。ぼんやりする意識の中でエースもよくこんな風にいじめてきたなあと思い返す。
 そういえばこの子はエースの魔力で、これまでずっと活動し続けているんだよね。えーす、と口にしながら彼の頬に手を伸ばす。

「えーす、だい、じょう、ぶ?」

 私が彼と話したがっていることに気付いたからか、私を責めていた触手達が動きを止める。あの状態じゃ喋ろうにも喘ぐばかりだっただろうから助かった。それからエースの口の触手もしゅるしゅると身を引いた。
 実験室のツンツンとした態度といい、かなり空気の読める子だなあ。さすがエースの分身(仮)まあ本人は認めないだろうけど……。
 なんて風に密かに感心していれば、エースは微妙な顔を見せている。私が質問してからずっと彼はこの表情だった。

「オレの心配してる場合じゃないでしょ」

 私が触手の行動を咎めなかったからこの状況になっているわけで。だから「大丈夫に見える?」と嫌味の一つも言われるかなーと思っていたのだけど、エースの声には心配が滲み出ている。

「でもえーすの、まりょくで、うごいてる、から」
「オレもよくわかんないけど全然消費されてないから……お前本当に気持ち悪くないの?」
「うん。けど……」

 エースとくっつけないのがさみしい。そう私がぼやいた途端、まとわりついていた触手が勢いよくうねる。なになにどうした。びちびちと荒ぶった後、ぎゅーっと私を縛る力を強める。思い当たらないけど、もしかして逃げると思われたんだろうか。ただただハテナマークを頭に浮かべる。

「あーどうりで魔力使わないわけだよ……」

 何もわからん私とは対照的にエースは何か悟ったらしい。彼が顔を赤くしてる理由もさっぱり見当が付かないんだけど。一人で納得してないで私にも教えてほしい、会話は大事だよ。
 しゅるしゅるとエースの拘束が外れる。さっきまでの暴れようが嘘のようにエースは動かない。とっさに開こうとした口へキスするみたいに彼を巻いていた触手がくっついてくる。

「……ねえ、。全部受け止めてくれる?」

 触手が荒ぶった理由も、エースが急に大人しくなった訳も、わからないことだらけ。
 でも最初からそのつもりだ。頷く私にエースは嬉しそうな顔を見せて。唇の子が口内へと入り込んだ。その子がしばらくにゅるにゅる掻き回して抜けた後、エースも続けてキスしてくる。唇が離れたなら今度はエースの指にきゅっと乳首をつままれた。

「やっ♡ えーす、おっぱい、らめ♡」
「お前おっぱい触られるの好きじゃん、さっきだって気持ちよさそーにしてたし」
「ん、んっ♡ ひ、ぅ♡ ぐりぐりらめ、なの♡ あっ、あ♡」

 エースが胸を愛撫するなかで、先端がロールブラシのようになっている触手が秘部の溝を撫でる。私の愛液と触手の粘液が混ざってぐちゅぐちゅと音を立てていた。
 途中、再び内部が凸凹になっている子が陰核に近づく。それの邪魔にならないようブラシの子は膣の浅い所ばかりを弄るようになった。
 膣口をちゅこちゅこと擦られ、陰核への愛撫が再開されたこともあって、秘部はどろどろにふやけきっている。そこへ細い触手が群がって体液をすすり始めた。もっともっととばかりにその子達は奥へ進んでいく。
 中の肉を広げる触手がどぷりと液体を吐き出す。口に流し込んだ時のように魔力を注いでいるらしい。かあっとただでさえ熱い体が更に温度を上げる。
 エースにいじめられている胸がジンジンする。気持ちいい、イってもイってもエースも触手も止まってくれない。体の奥を舐められているかのような感触に頭が真っ白になる。子宮口を直に撫でられ、暴力的なまでの快感にがくがくと腰が震えた。
 ずるり、と中に居た触手が抜けていく。あわせて私を愛撫していた触手もエースの手も離れて。質量を失い、丹念にほぐされた中はひくひくと物欲しそうに疼いていた。
 イきすぎた弊害だろう、指先にすら力が入らない。どうしようと思っても動くのは頭だけ。でもその回転も普段よりひどい鈍い。
 ただただぐったりしている私の体を触手が持ち上げる。彼と向き合うようにエースの足の上へ移動させられたかと思えば、ひたりと柔らかくなった秘部に熱くて固いものが触れた。

「えっ、ああああっ♡」

 ずんと一気に最奥までエースの熱に貫かれる。衝撃から咄嗟に正面の彼に抱きつけば、目尻から生理的な涙がぼろりと落ちた。もっとくっついてやるよ、そう囁いたエースがぎゅっと私を抱きしめ返す。
 ゆさゆさ揺さぶられ、叩き付けられる快楽から狂ったように喘ぐことしかできない。勝手に出てくる涙とか飲みきれなかった涎とかで、ぐちゃぐちゃの可愛くない顔をしているだろう私にエースは何の躊躇もなくキスをする。それが嬉しくて意志とは関係無く、胎内の彼の熱を締め付けてしまう。
 子宮口をコツコツと優しく突き上げられる刺激から、エースにしがみついていれば、ぬるついたものが尻たぶを撫でる。それは後ろの穴にぴたとくっついてきて。粘液の効果なのか、あっけなく侵入してきた。
 本来触られることのない器官を触られ覚えた恐怖は一瞬で快感に塗りつぶされる。排泄器官でありながらまるで性器になったかのよう、そこは快楽しか拾わなくなっていた。
 荒い呼吸と粘っこい水音が部屋中に響く。前と後ろを同時に責められ、処理しきれない快楽に今にも脳が焼き切れてしまいそうだった。
 お腹の中、エースでいっぱいになっちゃってる。そう実感しただけで気持ちよくなってしまうのだから、もう救いようがない。あえて激しくする必要はないと悟ったのか、前も後ろも律動を緩やかにしている。それでも私の快感の許容量をはるかに振り切ってしまっていた。
 ぐぽ、と子宮口に先端がめり込む。息が詰まった瞬間、どくどくと熱の塊が子宮内へ注ぎ込まれてきた。それにあわせてか、後ろの触手も飛沫を撒き散らす。奥に塗り込むようにエースが腰を動かすのを感じながら、私は白む意識を手放した。

「どうせお前、オレが説明しなきゃクル先に聞きに行くでしょ」

 私が目覚めた時、エースの触手は綺麗さっぱり消えていて。あの粘液も具現化できなくなったらしく、服もシーツもくしゃくしゃの皺だらけにはなっていたが、ぬるついてはいなかった。
 ただし私と彼の体液ばっかりはどうにもならず、エースがすっかり上達した洗浄魔法で後始末してくれたようだ。
 起きたはいいが疲れ切ってベッドから動けない私へ、脇に置いたロッキングチェアに座ったエースが水の入ったグラスを渡す。そういえば喉も嗄れてる、もう最後の方とか叫んでたからな……。
 ありがたく頂戴した後、私の顔をながめながらエースがぽつりとそれを切り出した。
 触手自体は消えたけれど色々と疑問だらけで。確かにこのままではエースの言うとおり後で先生に質問しに行っていただろう。もちろん、行為のうんたらかんたらとかは、ぼかした上でだよ。でもたぶん先生にはバレるだろうから彼が解説してくれるに越したことはない。

「材料からしてあの薬で具現化したの、魔力だけじゃないんだよね」
「魔力だけじゃないって言うと……」
「というか、大半がそっちでさ。殆どそれの力で動いてたから、大して魔力は消費されてなかったってこと」

 そう言うとエースはマジカルペンを見せてくる、はまっている魔法石はいつもの綺麗な赤色のまま。ブロットらしきものは一切見当たらない。その事に胸をなで下ろす。
 つまり魔力じゃないけど、他の何か強いエネルギーを持ったもので大部分を構成されていたという事なんだろうけど……。

「あの触手を具現化してたのって結局なんだったの?」

 口ぶりからして、なんとなくエースは言いたくないんだろうなとわかっていた。でもごまかされてあげるつもりはない。
 私のその気持ちを察したのだろう。はあと重い溜息を吐いて、観念したようにエースは口を開く。

「……オレのお前に対する、恋とか、愛とか、そういうの」

 エースの回答になるほどと納得する。
 どうにもこの世界では愛とか恋は大きな力を持つものとして扱われているらしい。時に魔法ですら説明できない奇跡すら起こすのだと、授業で習ったのは記憶に新しい。
 どちらかといえばRSAっぽい発想だなあと思っていたけど、NRCでも通用するというか、この世界の共通認識のようだ。
 考えを巡らせて、ふとエースの顔を見る。その表情はなんだかやけに暗い。エースの性格的にてっきり照れてるのかなと思ったけど、どうやらそうではないようだ。

「……綺麗なもんじゃないとは思ってたけど、ここまで汚いとかさすがに予想外だわ」
「エース」
「あんなドロドロしてて、お前のこと縛りつけて、お前の全部奪いたがって、おぞましいとか」
「嬉しいよ、私。あんなにも思っててくれてるのも、私の事たくさん欲しがってくれるのも」

 全部受け止めると誓った、だから私は知りたかったのだけれど。どうやらエースは自分の想像とはかけ離れた感情に、私が音を上げると思ってたらしい。そうでなくても引かれるかもと怯えていたんだろう。
 あまり私を舐めないでほしい。というかあの触手可愛がってたぐらいなのに何を不安がってるのか。正体を知った今、なんとなくだけど、だからこそ私はあの触手に好意的だったのかなとなんとなく思う。

「私、エースのこと好きだよ。エースが知ってる以上に重いからね。エースが望んでくれるなら絶対に離してあげないし、離れないから」

 言い切る私に、エースは泣きそうな顔を一瞬だけ見せて、強く抱きしめてくる。
 もしかしたらエースの負担になるかもと黙っていたけれど、あれほどのものを見せてくれた以上、教えてあげるべきだろう。

 ——本当は私、もう元の世界に帰れないんだ。まあ帰れても帰るつもりないけどね。

 エースを安心させるべく、私はゆっくりとそれを口にした。

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