そこには愛しかない
「じゃあ何、今のお前は出会った頃の体ってこと?」
「うん、たぶん……そういうことになるんだと思う」
数年分若返ってしまった私から経緯を聞いたエースは明らかに困惑した顔を見せていた。それも仕方ないと思う、だって理由がわかっている張本人の私ですら「なんでやねん」って感じだし。
買い物の帰りに弱っていた妖精を見かけて助けたところ、お礼と称してこの魔法をかけられたのだ。彼女は恋愛にまつわる妖精だったのだが「貴方の恋をより良いものにしてあげる!」と張り切られた結果こうなったわけで。
真実を知ったらエースが恥ずか死しそうだから咄嗟にごまかしたけど、彼女をもたらした本当の効果は私にとっては嬉しいものだった。でも、そのメリットを打ち消すぐらい解除方法が厄介なんだよなあ……。
「お前、あの頃から見かけあんまり変わってないね」
「私の民族は他の国の人から見ると年取ってもわからないらしいからなあ」
ペタペタとエースが私の頬に触れる。お肌のハリでも確かめられているのだろうか。たぶんそこもさほど変化していないと思うけど、ちょっと不安になってきた。
ふーっと少しばかり落ち着いたようにエースが息を吐く。ぽんぽんと彼が私の頭を撫でた。
「まあ中身まで戻ってなくてよかった」
「説明するのややこしいもんね」
「それもあるけど……自分がその立場でもどうかと思うのに、女の子なら尚更キツいでしょ。今の関係性はともかく、ほぼ他人の大人に手出されるなんてさ。ましてやお前、初めてなんだし」
解除方法を伝えた時エースは目を白黒させていたけども、発言からして今は腹をくくったらしい。まあ私達はそういう事をするのが当たり前の関係性……つまり夫婦なのだから、ちょっとばかし抵抗はあってもできるわけで。
妖精さんの言葉が真実なら性行為をするしか私は元の姿に戻れない。そして効能的に今の私の体は処女になってしまってる可能性が極めて高い状態だった。
エースと交際ゼロ日婚を決めた私だけど、彼と結婚するまで男性経験なんて無かった。というか男の人とお付き合いした事すらない。……学生の頃からエースが好きだったから。
4年生になった直後、元の世界へ戻る方法はないと学園長に断言されてしまった。その後、養父となった彼の温情で大学には通わせてもらえたが、魔力の無い私がロクな所に就職できるはずがない。おかげで明らかにブラックだなあと思う企業にしか内定がもらえなくて。
私のその予想は間違っていなかったらしく、入社する数日前にエースと一緒に飲んでいた時に就職先を告げたところ、顔色を変えた彼から「今すぐ内定辞退しろ」と止められてしまった。
そう言われても働かなければ生活していけない。なので渋っていたら「じゃあオレに永久就職して」と役所に連れて行かれ、酒の勢いもあって気付けば彼と籍を入れていた。なお本来の内定についてはいつの間にか無くなっていた。
後日、聞いた話によるとエースに「保護者ならちゃんと監督しろ」とブチ切れられた学園長が直々に就職先へ断りの連絡を入れたらしい。詳しいことは分からないけども権力者である学園長より願われた以上、逆らえなかったようだ。
そんな経緯だったから私はこの結婚生活に期待していなかった。私は好きな人と夫婦になれたわけだけど、エースは先のない友人を不憫に思っただけなのだと。だったら彼が本当に好きな人と結ばれるまで虫除け頑張ろう、そう密かに決意した。
ところがどっこい蓋を開けてみればどうだろう。仮面夫婦になると思いきや結婚初夜からめちゃめちゃ抱かれた。その後も毎晩抱かれた。今でこそ何とか慣れたけど性欲処理にしては甘すぎるそれに最初の頃はひどく困惑したものである。
さすがにしばらくして、好きとかそういった言葉は告げられていなかったけど、きっとエースと両思いなのだなと気付いて。
「、行けそう?」
「大丈夫だよ、エース。だから、また私の初めての人になってくれる?」
「……そういう煽るようなこと言わないでくれない?」
確認してくれる彼に自分の気持ちを正直に伝える。ならば何故か照れた様子のエースに抱きかかえられた。優しくできなくなるじゃんと彼は言うけれどいつだってエースは優しくて。きっとこの後も変わらないだろう。
エースが寝室に向かって足を運んでいく。ぺたりと頭を寄せたエースの胸から聞こえる心音はドクドクといつも以上に弾けていた。
◇
「あーやっぱここも戻ってるか」
私の胸に手を這わせながらエースは小声でそれを口にする。悲しいかな、大きさはあの頃から全く変わっていないと思うんだけど……。ふにふにと胸を緩く揉む彼の手に私は短く息を吐き、くすぐったさに身をよじる。
「やわらかさとか感度とか、全然違うなーって」
「んっ」
確かにいつもならとっくに主張しているはずの胸の先はまだ膨らみきっていない。ただ彼の指に優しく捏ねられたら、すぐにいつものはしたない姿になってしまっていたのだけれど。
初めてに戻っているからか、それとも幼い姿になってしまっているからなのか、普段よりもエースの手付きは緩やかだ。ふしだらだから言えないけど、その優しさをもどかしく感じてしまう。体は忘れてしまっても頭はあの快感を覚えてしまっているから。
胸を触る手はそのままに耳にキスされる。それから耳全体を甘噛みされたものの、いつものようにびくびく体が震えることはなかった。ただじわじわとむずかゆさに似た薄い快楽が広がっていく。
するりとエースの手がおなかを撫でて、そのまま足の間へと伸びていった。割れ目を下から上へ彼の指がなぞる。普段よりも小さいけれど、くちゅと立った水音に頬が熱くなった。
愛液で潤った指が陰核をそっと刺激する。優しい愛撫だけれど襲ってくるのは強い快感で、思わず息が上がる。
気持ちよさにぽーっとしていたところ、エースの指が確かめるように膣口へ浅く抜き差しされていた。ちゅぽちゅぽ、湿った音に恥ずかしくなり、ぎゅっと目をつむる。
「指入れるから」と囁かれ、ゆっくりと中へ彼の指が差し込まれる。異物感は多少あるけど、たっぷり濡れていたからだろう。痛みはなかった。
エースはすっかり私の体を知りつくしている。だからほぐすような動きをしながら、私の良いところを執拗に押し込んできて。勝手に浮いた腰がゆらゆら揺れて、はふはふと言葉にならない声を出しながら彼にしがみつく。そんな私の痴態に嬉しそうな顔を見せたエースは指を抜き差ししながら胸の先を吸い始めた。
熱が体にこもる。きゅうきゅうとおなかが疼き、意識が白み始めて。
「えーしゅ、イっちゃ、う、イっちゃうよぉ」
ぽろぽろ涙を落としながら絶頂の予感を訴えれば、寸前で指が抜かれる。気付いていなかったけれど、いつの間にか三本も入るようになっていたらしい。
濡れた手をティッシュで拭うとエースは枕元に用意してあったゴムを取り出す。それをくるくる手早く身に付けたなら、濡れそぼった入り口にエースの熱が押し当てられた。その質量を感じて体に力が入る。
「……怖い?」
その反応が怯えているように見えたみたいで、エースが心配そうにたずねてくる。本当の初めての時だって痛みはそんなに無かった。だけど少しだけ怖くて、でもそれ以上に嬉しい。
今言うべきじゃないかも。そう思ったけれど、終わった後に言えるかどうか定かじゃない以上、さっさと白状してしまった方がいいんじゃないだろうか。緊張から唾を飲み込む。意を決して私は口を開いた。
「エース、あのね、本当は私ただ若返っただけじゃないんだ」
「……どういうこと?」
「最愛の人が自分のことを好きになってくれた時に戻ってるんだって」
真実を伝えた私にエースが目を丸くする。それからじわじわと彼の白い肌が赤くなっていくのが暗がりの中でもわかった。顔を手で押さえながら、ぷるぷる彼は震えている。恥ずかしがって悶えてるエースには悪いけれど、勢いのまま私は更に言葉を紡いで。
「ちゃんと両思いだってわかってたつもりだった。でもどこか不安だったの。エースは優しいから、同情心から私と結婚してくれたんじゃないかって。私の気持ちに気付いて、だから夫婦としてふるまってくれたのかなって」
「……オレはどこかの誰かさんと違ってそこまでお人好しじゃないっつーの」
「私もずっとエースのこと好きだったの」
言い終えた私の唇をエースは優しく塞ぐ。何度かキスした後、彼は私をぎゅっと抱きしめてきて。そのぬくもりに涙が滲む。
エースが体を離しながら「一回しか言わないからちゃんと聞いてよ」と告げて。そんな彼は拗ねたように唇を尖らせている。いつもハキハキ話す彼にしては珍しくもごもごと口を動かした後「オレだってのこと愛してるよ、ずっと」そう伝えてくれた。
咄嗟にこぼれた嬉し涙を私の目尻から吸い取ったエースが再び秘部へと熱を押し当てる。私の「好き」を合図に彼が腰を進めて。
一瞬湧いた痛みは幸福感にかき消された。体はわかっていなくても心は覚えている。だから奥までぴったり入り込んだ彼の熱をもっと欲しいとばかりに私の中は吸い付いて。
「ずっとお前とこうしたかった」
深く吐き出した息と共にエースがぽつりと呟く。
お互い気付かないふりをしていたけれど、私達はNRCに通っていた頃は何度も二人でデートまがいの、いやデートを繰り返して。時折、手を繋いだりもしたけれど、本当の気持ちは隠し続けていた。
私も同じ気持ちだった。でもあの頃は来た時みたいに突然帰ってしまう可能性があったから言えなくて。4年になって帰れないとわかった頃はなかなか会えなくなって、卒業した後には自分がこの世界の女の子と違う事を理解して、余計に言えなくなった。
けど本当はずっと、ずっと、好きだって言いたかった。友達じゃできないこともいっぱいしたかった。だから今こうして身も心も繋げられたことに、あの頃の私が救われた気がした。
「えーす、すき」
ぐちゅぐちゅと音を立てながら、エースの熱が私の中を行き来する。私が痛がっていないことに気付いたんだろう。エースの腰の動きに遠慮がなくなっていく。
きっと今の私はひどくいやらしい顔をしてるのだと思う。だって私の表情を見たエースが悪い顔で唇を舐めていたから。奥をごりごりそがれて気持ちよさに頭がぼんやりする。
指を絡めるように手を繋がれた。ぐっと押し込むように深々と貫かれたなら目の前でパチパチ火花が散って。達した瞬間、膜越しに彼の熱が膨らむのがわかった。
ひくひく痙攣する中から熱が引き抜かれる。そのままゴムを始末していた彼を眺めていたならば、体が引き延ばされるような感覚に襲われた。どうやら魔法がとけたらしい。と言ってもあの頃からそんなに身長伸びてないから変わってないと思うけど。そう考えるとエース私が若返ったのよく気付いたな……。
「……あれ、戻った?」
「うん、そうみたいだね」
戻った瞬間を見ていなかったはずなのにエースは即座に見破ってきた。それだけ私を普段からよく見ているという事なんだろう。思わぬところに愛を感じて密かに照れていたなら、エースは再び私へ覆い被さってきた。
「えーす……?」
「オレのこと騙してた分、お仕置きしないとね。ってことで次はコレ無しな」
そう言ってエースはゴムの箱を見せつけてくる。お仕置きとついオウム返しした後、考え込む私をエースは意地悪な顔で眺めていた。うーん、ここはなんて反論すべきなんだろう。悩んだ末に私は正直に伝えることにした。
「それだと嬉しいからお仕置きにならないんじゃないかな……」
この後「煽るなって言ったじゃん!」といきなり怒りだしたエースにめちゃくちゃ抱かれながら、私は心の中で妖精さんにそっとお礼を告げるのだった。
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