体も心も未来だって

「あの、エース」

 頭の上にあるベッドフレームに両腕を繋ぐ形で私は拘束されていた。身をよじってみたけれど私を縛るその紐は全くびくともしない。 
 私を見下ろすエースの視線の冷たさにカタカタと体が震える。縋るような目を向けているだろう私に彼は何も言わなかった。私の格安ベッドと違って、二人分の体重を受けても彼のこの大きなベッドは嫌な音を立てない。今から起こるできごとも問題無く受け止めるのだろう。そう、ベッドが壊れたから中断なんて優しい展開は起きやしないのだ。

 なんでこんなことになってしまったのか。理由を聞いた人はきっと全員私が悪いと口を揃えるだろう、私だって同意する。分かっているのだ、自分がやらかしたことぐらいは。
 NRC在学中に結ばれた私とエースは卒業して社会人に出た今も交際を続けていた。エースのお試しと言う名でちゃっかり結婚を目論んでるだろう同棲したいコールを何とかやりすご……しきれなくて、私の仕事が落ち着いたらと約束させられたりしながらも、忙しくも未だ仲良く過ごしていたのだけれど。
 つい先日、エースが勤める会社の重役の娘さんが私を訪ねてきた。そこでエースと別れるように説得されたのだ。私はエースのことを愛してる、だから彼女が感情的に話を進めたなら私も耳を傾けなかっただろう。
 でも彼女は私とエースが付き合っていく上でのデメリットと別れた場合のメリットを理性的に説明して。おそらく彼女は恋人の座の後釜を狙っているだろうけど、それを加味しても納得できるだけの事実を突き付けていた。
 だとしても以前の私なら突っぱねていたと思う。でも今の私は最近知ったある事から彼女の忠告を受け入れてしまう精神状態にあった。
 それで私はメッセージで一方的に別れを告げて逃げたんだけど速攻捕まった。ちなみに逃げたのはつい数時間前だ。なんでこんな一瞬で特定されたのか。気になっても怖くて聞けやしない。

「なんで逃げたの」

 現実逃避のように回想していれば、エースが光の無い目で私を見つめていた。ハイライト戻ってきて。ふざけてる場合じゃないのはわかってるけど、そうでもしないと正気を保てそうになかった。
 尋ねる彼の声は今まで聞いたことないくらい低い。唇が震える、絞りだそうとした声すら出なくて。

「どうせあの女の言うこと真に受けたんだろうけど」
「あの女って」
「とぼけないでよ。いきなり恋人から別れ話されて呆然としてたら『エースさんの彼女は快く了承してくれましたよ』なんて報告されてんだよ、こっちは」

 ア、アホーーー!思わず叫んでしまったが、この事については私悪くないと思う。いかにも賢そうに話していた彼女は想像以上にバカだったらしい。もしかしたら作戦が思ったより上手くいって浮かれちゃったのかもしれないが、それにしてもバカ過ぎる。おかげでエースが女性をあの女呼ばわりした衝撃すらぶっ飛んでしまった。
 なんで自白しちゃったの。自分の方が優秀で美人だから行けると思ったの。ちょっと考えたらわかるでしょ、あんだけえげつないモテ方して美女よりどりみどりにも関わらず、私を本命に選んで、こっちから別れを告げるような小細工しないとフリーにならない男だぞ!なんなら彼の同僚から「さんのこと間接的とはいえ、しょっちゅう惚気られてるんですよねー」なんて言われるぐらいには私にぞっこんだぞ!!……自分で言ってて恥ずかしくなってきた。
 彼女が行うべきは自分の犯行は隠しつつ、慰めるていで傷心しているところを漬け込むパターンだけだと思う……それでも上手くいく想像ができないのはなんでだろうね。

「とりあえず、もう二度とこんなバカやれないようにしないとな」
「お、おてやわらかにお願いします……」
「そんなこと言える立場だと思ってんの?」

 思ってない、一ミリも。咄嗟に出た懇願は彼の神経を逆なでしてしまったようだ。我ながら彼女のことを言えないぐらいにバカかもしれない。

「あっ、あっ、あっ♡」

 今日はエースに会う予定じゃなかったから上下バラバラの下着だった。なので理由を伏せつつ脱ぎたくないのだと言ったけれど「これお仕置きだから」と聞き入れるしかない発言と共に容赦なく脱がされてしまった。私が嫌がっていた訳を知ったエースは「別に気にしないってば」と呟いて「一々気にしてたらお前も大変じゃん、これからは毎日見るんだから」と続けていた。どういうことなの。
 きゅっときつくつままれた唾液塗れの乳首を激しく扱かれる。彼に可愛がられ続けてきた体は多少痛いぐらいの刺激にも快楽を得てしまう。もう胸だけで一度イかされてしまっていたせいもあるんだろう。
 いつもなら彼の腕にすがれるけども今日はそうもいかない。それを寂しく思っているうち、エースの手が胸から離れた。すすすとエースの手が下腹部に伸びていく。下生えにかかるその少し前で止まって、手のひら全体でくっくっと私のおなかを押し込んできた。

「あっ♡ それ、だめ♡」
「逃げないでよ、ちゃーんとヨくしてやるからさ」

 気持ちよくなりすぎるから嫌だと私がお願いしたから、いつもは挿れて私が前後不覚のふにゃふにゃになるまで触らないのに。今日はとことん意地悪するつもりらしい。
 すりすり撫でられて、時折優しく押し込まれる。じわじわとおなかが熱くなっていく。そうやって高めた後に掌で揺さぶられて信じられないくらい気持ちよくなってしまう。こんこんと指先で叩かれた瞬間、おなかの奥がきゅーっとなって腰が浮く。はあはあと荒い息をこぼしながら再び絶頂したのだと気付いた。

「シーツまで濡れてんじゃん、下着も濡れすぎて意味ねーし」

 私のショーツをするすると脱がしながらエースが呟く。そうやって私を辱めるために煽ってるとわかっていても、恥ずかしがらずにはいられない。せめてもの抵抗にジタバタと足をばたつかせるもあっさり押さえ込まれてM字型に広げられてしまった。その上、魔法で閉じられないように固定される。おおう、わかってたけどエースこれめちゃくちゃ怒ってるなあ……。
 つぷりと彼の指が秘部に入り込む。怒ってるけれど、その手付きはいつもと同じく優しかった。彼はこういった時に私を傷つけないよう、普段から爪を丸く短く切ってくれている。昔、手品のため指のケアに気を遣ってる彼らしくない深爪具合を不思議に思って尋ねたことで、それを知った。
 そう、エースは優しいのだ。彼は好意を言葉にすることは苦手みたいだけど、その分ちゃんと行動で示してくれる。日常でも、見えないところでも。そんなエースだからこそ大好きで、そして彼女の話を聞いて身を引かなきゃと思ってしまった。

「あっ♡ ひぅっ♡ えーす♡ んっ、えーすぅ♡」

 胸を吸われながらいつの間にか三本になっていた指を抜き差しされる。じゅぽじゅぽエースの指が動くたびにいやらしい音がする。今日は一段と大きく聞こえるのはいつもより溢れている私の愛液のせいなのか、それとも彼がわざと音が立つようにしているのか。
 どっちにしたって私が腰砕けになっていることには変わりない。おなかの中の気持ちいい所と一緒に陰核を押しつぶされて脳内が爆ぜる。またイってしまった。でも休む間もなく更に責めたてられ続けて。何度も何度も目の前が明滅して、どんどん息が上がっていく。
 しばらくしてエースの指が私の胎内から抜き取られた。長く膣内をかきまぜていたエースの指は愛液でどろつきふやけている。結局どのくらい絶頂したのか。ようやく解放された私はぐったりしながら鈍くなった頭で考えるも思い出せなかった。
 カチャカチャとベルトを外してエースが大きくなったそれを取り出す。びくびくと脈打つその熱の塊に今まで与えられてきた快感を思い出して体温が上がってしまう。
 するりとエースの手のひらが私のおなかを撫でる。そして彼は生身のままの熱をほぐれた膣口へと宛がった。くぷと膨らんだ部分が肉を割ったことにひくりと喉が引きつる。

「エース、だめ、それはだめ……おねがい、やめて……」
「やめない」

 ハッキリ冷たく言い放ったエースは表情が抜け落ちていて、温度のない美貌にぞっとする。普段の彼から考えられないその顔はまるで別人のように見えた。
 そうしてるうちに更に彼の腰が進んで先端が埋まってしまう。身をよじって逃れようとするけど腕も足もびくともしない。やめて、やめてと、ひたすら言葉で拒絶を繰り返しても体は受け入れていく。私の中に隠れきって、もうすぐ全部見えなくなる直前に私は限界を迎えた。

「エース、赤ちゃんできちゃうから、おねがい、抜いて」
「だからやめないってば。そのつもりなんだから」

 想像していなかった言葉に気を取られた瞬間にぐちゅんと残りが奥まで入り込んだ。子宮の入り口を叩かれて、ひゅっと音にならない声が私の喉から漏れた。あんなに逞しいものを私の中はなんでこうも易々と受け入れてしまうのか。今考えるべきではない疑問が頭をよぎる、そうでもなきゃこの現実に耐えられそうもなくて。

「だめ、なの。私がお母さんじゃエースの赤ちゃん魔法使えないから」

 ——貴方の子供は魔力を持たずに産まれてくる可能性が極めて高い。
 お医者様にも彼女にも宣言された事実は少し考えればわかる話だ。でも私はもうすぐ迎えられるかもしれない彼との結婚に浮かれて、その可能性を忘れてしまっていた。そういった意味でもブライダルチェックに行ったのは間違っていなかったんだろう。
 エースが好き、それだけを理由に彼や子供にいらぬ苦労を押しつけるところだったんだから。
 ふーっとエースが大きく息を吐く。そんな彼の目はひどく冷めていた。

「それだけ?」

 呆れたような声色だった。すりすりと彼の熱を受け止めているおなかをエースはさする。

「そんなのNRCに通ってた時から考えてたし、対策だって卒業する頃には用意してたっつーの」
「……な、んで」
「今でこそお前は元の世界に帰らないってわかったけど、そうじゃなかった時の最終手段」

 卒業間近に元の世界への道は完全にふさがっていると発覚して。だから私はこの世界で生きていくと誓った。でも、もしそれがわからなかったら、もしくは帰れたとしたならば、エースは。

「お前わかってなかったもんな。オレにこんな感情抱かせておいて。まあオレも気付かれないようにしていたけどさ」

 オレはお前にとって優しい男じゃないんだよね。そうぽつりと呟いて、エースは律動を始める。もう制止の言葉は口にできなかった。
 彼の大きな手が腰を掴んでゆっくりと前後する。私の良いところへ執拗に擦りつけて。彼の傘になっているところに引っかかった中の肉がめくれる感覚に全身が総毛立つ。
 きすして。掠れつつある嬌声の中でねだったそれはあまりにも小さかった。けどエースは聞き逃さなかったみたいで深く口付けてくれる。彼はああ言っていたけどやっぱりエースは優しい。ぐちゅりと粘着質な水音が響く。彼が背を丸めたことで体重がかかって、いっそう奥へ熱が押し込まれた。
 ゆさゆさ揺さぶられて子宮口をこんこんと執拗に叩かれる。ノックされるたびに軽くイってしまって、緩んだ口元から涎が垂れる。
 エースも限界が近いのか。だんだん腰の動きが激しくなっていく。私に赤ちゃんを産ませるための準備をしている。そう理解した私の中は嬉しそうに彼の熱を締め付けて。
 そんな中、彼の指が陰核を捏ねながら、熱を子宮口にめり込ませた。爪先がきゅっと丸まって、甘い痺れが全身を駆け巡る。過ぎた快感に目の前が白む。
 エースが短く唸った直後、びゅーびゅーと熱いものが最奥へ放たれた。全部出し切るまでぴったりと先端と子宮口をくっつけて、やがて奥へ塗りつけるように腰をゆるゆると動かしていた。

「えーす、うで、はずして……ぎゅってしたいよぉ……」

 強い快感から何とか戻ってきて、少し霞みが残る思考回路が一番最初に弾き出したのは寂しいという気持ちだった。それにエースが指を鳴らす。私があんまりにも情けない声を出したからか、どうやら拘束の魔法がといてくれたようで腕と足がふっと軽くなった。
 下はまだ繋がったままだ。だから細心の注意を払いながら体を起こす。

「……痛い?」
「ううん、大丈夫。ごめんね、エース」

 エースに腕を取られ、縛っていた手首を優しくさすられる。心配ないのだと示すように抱きつけば、当たり前のようにエースは抱き返してくれた。少しだけ身を離してキスをする。それと同時にくんっと下から突き上げられる。
 中が痙攣して、さっき出されたものが奥から垂れてくる。揺さぶられるたびに押し出された精液が泡立ってぶちゅりと音を立てた。絶対に離さない、エースが耳元で熱っぽく囁く。甘やかながら、どろどろと暗く重い。きっと人を堕とす悪魔はこんな声をしているんだろう。
 でも滲むその恐ろしいほどの執着が私にとっては望ましい限りで。だから彼にしがみつきながら何度もエースの上でびくびく跳ね、彼の子種を胎の奥で飲む込む。もう逃げない、逃がさない。彼で満たされた胎をさすりながら私は静かに誓い立てた。

「どうせ縛るなら、オレにとってもお前にとってもそれが一番良い方法じゃん」

 朝起きた時、私の薬指には赤い石の埋め込まれた指輪がはめられていて。そう告げた彼はサラッとした態度とは裏腹に耳が真っ赤になっていた。思わずそちらへガッツリ視線を向けていれば、照れているのをごまかしたかったらしく突然耳を甘噛みされる。
 朝なのに不健全過ぎる意地悪をしばらく続けた後「もちろんこっちも頑張るけど」と、おなかを撫でられて。エースが悪い顔で笑う、つられるように私も微笑む。そして私達は再びシーツの海へと身を投げ出すのだった。

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