倍々返しは基本中の基本

「お前な〜〜……」

 いつかの縛りプレイ(物理)の再来に、エースが地を這うような声で怒りを露わにする。
 だが前回の反省を生かして、手首も足もガッチリほどけない結び方で椅子に縛り付けたし、マジカルペンは彼から離してあるし、ついでに目隠しもしてあるので怖い物はない。うそ、終わった後のお仕置きはめちゃめちゃ怖い。
 前回(椅子で縛り付けた上でのフェラとパイズリ)ですら連続潮吹きを決めさせられたのだ。今回の件に関してはどんな反撃を食らうのか、想像しただけで背筋が寒くなる。だが私は別方向にしか反省してなかった。
 あれだけの目に合わせれば懲りてもう二度としない、そんな風に思っていたからこそ前回と同じく今回もエースはあっさり引っかかって縛られるはめになっているんだろう。ハハハ残念だったね、エース! 貴方の恋人はわりと怖い物知らずだよ!
 ただでさえエースとしては普通のえっちを期待して泊まりに来てるだろうし、なのにあんな目に合わされるとなればどれだけ怒らせる事になるのか……なんて色々思う事はあるが、引くつもりはなかった。

「ご丁寧に目隠しまでしちゃって、お前、今度はオレに何するつもり?」

 後ろ手に結ばれた縄の感じを確かめているのか、軽く腕を広げようとしながらエースが私に尋ねてくる。
 目元が見えないせいで、彼の表情は口元から予測するしかない。唇から読み取るに彼は随分余裕そうだ。おそらく私がしでかすことなんてたかが知れてると舐めているんだろうな。
 確かに私は性的な事に積極的な方ではないけども……エースの事を気持ちよくしたいという想いは人一倍強いのだ。

「乳首責めとオナホコキ」
「は? ちょっ……ッ?!?」

 べろっと彼のパジャマの上を勢いよく捲りあげる。いつもなら引き締まった腹筋にドキドキするところだけれど、今日の目当てはそこじゃないのでスルーして、胸の突起へと指を這わせる。
 少し触っただけなのにビクッとエースは大きく体を跳ねさせた。私と違ってろくに触られたことがないのだから過剰に反応してしまうのも仕方ないと思う。

「……、コレほどいてよ。今なら許してやるから」
「やだ」

 許してやるなんて言ってるけど、絶対もう二度とこんな事ができないよう徹底的にお仕置きされるのが目に見える。だったらもうやれるところまでやった方がいいだろう。どうせ酷い目に合うんだし、エースを気持ちよくしてからでも遅くはない。
 突起から手を離して彼の胸板を撫で回す。大胸筋はシュートの飛距離に関わるそうで、うっすら付いている彼の筋肉を堪能するようにぺたぺた触り続ける。最初に焦らすべきなのは女も男も同じらしい。

「単にくすぐったいだけなんだけど、もう止めてくんない?」
「まだ序の口だもん」

 明らかに苛立った声で圧力を掛けてくるが屈してやるもんか。そんな余裕ぶってられるのも今のうちだけ。自分に言い聞かせながら、胸板の感触を味わうのを止める。勉強の成果、じっくり体感してもらうんだから……!
 いつもエースにされるみたいに乳輪の周りをすりすり指の腹で撫でる。気持ち悪いだの、もう止めろだの、口では嫌がっていたけれど、体は正直というやつなのか、次第に彼の胸の先は勃ち上がってきた。
 男の人だけどエースってば綺麗な乳首してるよなあ……。まじまじ観察した後、敏感になっているであろう彼の乳首へフーッと息を吹きかける。瞬間エースの肩が跳ねる。悔しげに歪んだ唇には血が滲んでいた。

「エース、唇噛んじゃダメだよ」

 ふにふに唇を押すがエースは何も言わない。彼の事だからボロクソに悪態を吐くと思っていたのに。もしかしたら口を開いたら喘いでしまいそうなのだろうか。
 そうだったらいいなと彼の唇に自分のそれを寄せる。ただ好きだからキスしたかっただけ。なのに反撃のチャンスと思ったのか、舌を差し込もうとする彼をなんとか凌ぐ。防衛に成功した私にエースは舌打ちしていた。まったく油断も隙も無いなあ!
 気を取り直して乳首の愛撫に戻る。触れるか触れないか、そんな力加減で彼の乳首をタッチする。単調にならないように時折優しく摘まんだり転がしてみたり捏ねてみたり。
 舌先でエースの乳首や乳輪を舐め回す。唾液をたっぷり絡ませるようして丁寧になぞれば、次第に抑えきれなくなったであろう甘い吐息が彼の口から漏れていった。す、すっごいえっちだ……!
 彼の色気に若干やられつつもアイスクリームでも舐めるみたいにコリコリしてきた乳首を更に責める。時々唇で緩く吸い付けば、エースの声がワントーン高くなった。目隠しのせいで彼の顔は半分以上見れないけれど、赤く色付いた肌にぞくぞくと興奮が止まらない。

「……エース、大きくなってる」
「ッ、うるさい……!」

 私の指摘にエースは乱暴に怒りを吐き捨てる。私に好き放題されているのが腹立たしいのか、それとも乳首で気持ちよくなってしまった事を認めたくないのか。きっと両方ともなんだろう。
 エースは凄く怒ってるけど、今の彼の姿が私は可愛くてしょうがなかった。気持ちよくなってくれて嬉しかった。
 一度エースから離れて、裸になった私は用意していたローションを掌へ広げる。本当はオナホで使うつもりだったけど、いっぱいあるからここで使ってもいいよね。

「ちょっ、なに……?」

 視覚を塞がれたエースにとっては聴覚だけが唯一の情報源だ。だからしっかり耳を澄ませているだろうけども、だからこそ彼は混乱しているようだった。ローションの蓋を外す音、取り出す音、捏ねる水音、どれも聞き慣れないが為に。
 冷たいとびっくりさせてしまうだろうから、手でしっかりと温めた後、エースの胸元にローションを広げて。エースがその感触にドキマギしている間に私は横座りで彼の膝の上に座った。

「エースがよくなってくれて嬉しい。あとね、私もエースのえっちな姿見てて興奮してるから……」

 ローションでぬるぬるになった彼の胸板に自分の平たい胸を寄せる。ぺったりと体を密着させながら、彼と同じように膨らんだ乳首を彼のそれに擦り合せて。
 刺激としては弱いけれど視覚情報としてはかなり強烈だ。更に興奮して、はふはふと荒く息を溢す私にエースは何か言いたげに唇を動かしていた。
 あんまり長い事乗ってるとエースに負担だろう。ほどほどで下りて次の準備に取りかかる。また違う物音を立て始めた私にエースはどことなく不安そうだった。

「大丈夫だよ、エース。なんか本物より気持ちいいらしいから!」

 パッケージに書いてあった謳い文句を元にエースを励ます。あいにく私には付いていないので実際に確かめたわけじゃないけど……。でも生でするわけだし、新鮮な気持ちで楽しめるかなって。
 もし私とするより良いって言われたらショック受けると思うけども、その時は色々頑張るつもりだ。
 だが私の宣言にエースは何やらムッとしたらしく唇を尖らせる。

「……別に気持ちよくなりたいからお前とセックスしてるわけじゃないんだけど」

 ——好きな子に触りたいだけ。
 あまのじゃくな彼らしかぬ素直な言葉に思わず硬直する。畳みかけるようにエースはいつもより落ち着いた声で言葉を続ける。

「ねえ、、触りたい」
「う゛う゛っ」

 ストレートなおねだりがあまりに愛おしくて聞き入れたくなってしまう。ぐらぐらと決心が揺らぎかけていた。でも、でも……!

「もう私もここまできたら後に退けないっていうか、だからごめんね! オナホコキします!」
「……あっそ」

 通用しないとわかった途端なくなった可愛げ。さっきのしおらしい様は100%演技だな、こいつ……。
 ということはやっぱり誘惑に負けなくて良かった。どうせお仕置きされるにしても未遂で食らうのと、やらかしてから食らうのでは全然心情的にダメージ違うし。
 それにおかげで良い感じに手心を加えようという気持ちはなくなった。これで手加減なしにできるなと意気込みながら、彼のズボンと下着を脱がす。
 再度ローションを掌で捏ねて彼の膨らんだ熱に塗り込んで。びくびく掌で脈打つそれと彼の「んっ」と甘い嬌声にドキドキさせられながらも準備を進めていく。
 一つ大きく深呼吸をして、箱から取り出しておいたオナホの入り口を彼の熱の先端に宛がう。にゅぷにゅぷ、ゆっくり透明のボディの中にエースが飲み込まれていく。隙間から事前にオナホに仕込んでいたローションがこぼれて卑猥な音を立てていた。

「……エース、痛くない?」

 エースは答えない。今の彼は固く口を噤んで、そっぽ向いてしまっている。ただ逃げるように引かれた腰に彼が感じているのは明らかだった。
 もっと気持ちよくなるようにぎゅっとオナホを握り込む。パッケージによると、そうすることで更に締め付けが良くなるらしい。
 力を込めながら上下に扱く。なんとか声は殺しているようだけれど、エースは喉を反らして体を震わす。手の動きはそのままに、身を乗り出して彼の乳首を舐める。
 にゅこにゅこ出入りする度に、ふーふーと彼は喘ぎを噛み殺しきれなくなっていく。快楽に必死に抗っているせいか、ぶるぶる震える腹筋がなんともセクシーだった。
 透明素材のおかげで猛々しくあらぶる彼の熱が丸見えだ。いつも私の中でこんな風に暴れているのか、そう考えた途端、おなかの奥がきゅんとなる。こぷりと溢れてきた愛液が内股を垂れていくのが恥ずかしかった。
 彼の足に添えていた手の下で太股が痙攣している。イっていいよと射精を促すつもりで扱くスピードを速める。
 それとほぼ同時にブチッと彼の背後で何かが千切れる音がして、強い力で乳首を舐めていた頭が彼の胸元から引き剥がされる。何が起こったのかわからなかった。
 私がそうして呆然としている間にエースは目隠しを外す。ついでに足も自由にしたところで、ようやく彼の手の拘束が外れていることに気付く。
 なんで、どうして、困惑が私の思考を占める。今回の結び方はわざわざ縄抜けできないものを選んできたのに。そんな私へ見せつけるように、エースは手に持った灰色の何かを反対側の掌へパシパシと緩く叩きつけていた。彼の二つのチェリーレッドは完全に据わっていた。

「デュースにさあ、詳細伏せて椅子に縛られた話したら「これ袖に隠せて便利だぞ!」ってヤスリくれたんだよね。万が一マジック失敗しそうな時の為に仕込んでたんだけど、まさかこんな形で使う羽目になるなんてね」

 なんでピンポイントに拘束された時に使えそうな持ってるの、現実逃避にそんな事を考えて元ヤンだからと脳内回答の一言で片付く。物騒!
 弧を描く唇、細められた瞳。だが目は完全に笑ってない。邪悪な笑顔のまま、エースはじりじりと壁際へ私を追い詰める。

「お前がたっくさん頑張ってくれやがったことだし、その分もたーっぷり可愛がってやるから♡」

 どんなに泣いて縋っても許さないからな、耳元で囁く声は始まりの時よりも低かった。
 青筋を立てたエースが私の体を抱きかかえる。そしてベッドへと向かう足取り。あれ、デジャウ。

「いやっ♡ えーす♡ イった♡ もう私、イっ〜〜〜ぁああッ♡」

 何度も何度も与えられた絶頂に泣き声混じりに喘ぐ私の最奥をエースは容赦なく抉ってくる。もうイきたくない、おかしくなってしまう。そう涙ながらに訴えても腰をがっちり掴んで手は離れてくれないし、律動は激しさを保ったままだ。
 これだけぎゃんぎゃん泣き叫んでいるのだ。涙に、涎に、きっと鼻水だって出てしまってるだろう。なんてみっともない。恋人にそんな醜態を見せてしまった事に死にたくなる。
 でもエースは私の決して可愛くない顔を見ても萎えないようで、幾度となくキスを繰り返す。えげつない腰とは裏腹に優しい口付けだった。
 ぷしゃっ、とまた勝手に私の体は潮を吹く。もうお尻の下のシーツは私の体液でびちゃびちゃだ。エースのお腹にだって数え切れないぐらいかかってしまった。

「ひううっ♡ えーす♡ おねがい、ゆるして、もうやらぁ♡」
「オレがさっき散々イヤって言ったけど、お前止めてくれなかったじゃん。だからだーめ♡」
「あっ♡ ごめんなさい♡ んぁあ♡ えーすぅ♡」

 ばかみたいに彼の名前を呼び続ける。そんな私の姿に少しは溜飲が下がったのか、ちょっとは機嫌が戻ったようだった。
 でも止めてくれる気はさらさら無いみたいで、エースはくっくっと私のおなかを掌で軽く押してくる。彼の熱で膨らんだお腹はただでさえその質量で圧迫されていて、両手で収まらないぐらい潮吹きした下半身はもう感覚がない。だからそんな事をされてしまったら、最悪の予感にさっと血の気が引く。
 咄嗟に彼の胸板を両手で突っぱねるが、元々弱っちょろい力は度重なる絶頂にいっそう失われていた。

「だめ、だめ、えーすだめ」
「大丈夫だって」
「だいじょうぶじゃない、もれちゃう、ほんとうにもれちゃうからぁ……」

 仕上げとばかりにぐっと更に力を込められ、私の膀胱は決壊した。ちょろちょろと潮とは違う生ぬるい体液が溢れてシーツを汚していく。勢いがなかったとしても体勢が体勢だから、もちろん彼の肌にもかかってしまった。

「ひっ、う゛ぅ……」
「泣かないでよ」
「ごめんなさい、えーす、ごめんなさい……」

 好きな人の前で漏らして、あげくにそれをかけてしまうなんて。
 そのショックからぐずつく私をエースはよしよしと宥めるように頭を撫でる。

「どんなお前でも嫌いになったりしないから、いいんだって」

 その言葉だけで随分と気持ちが楽になる。まるで魔法みたいだった。
 ちゅ、ちゅと私の目尻にエースが口付ける。お仕置きの途中、エースがゴムと一緒にさりげなく取ってきていたマジカルペンを一振りすれば、シーツに広がっていた私の粗相はまるでなかったかのよう綺麗に消し去られた。
 でもお互いの肌はまだ体液に塗れたまま。コレ終わったら洗ってやるから、そう優しく囁いてエースは私に微笑みかける。
 エースのお仕置きのせいでこんな事になっているのだからマッチポンプでは?とか、お風呂でもめちゃめちゃにされちゃうんだろうな……とか、色々思う事はあるのに、最後には目いっぱい甘やかしてくれる予感から私はへにゃと頬を緩ませるのであった。

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