一年後には言ってるけどね
就職して早三年、ともなると生活にもだいぶ余裕が出てくるもので。週末に彼氏とのデートを控えた私は興味本位で買った女性誌の特集ページと通販サイト相手に、にらめっこしていた。
悩むあまり、おそらく怖い表情になっているだろうけど、幸い一人暮らしなので見られる心配は無い。だから外で口にするには危ない独り言もするりと出てきてしまう。
「紐パン、紐パンかあ……」
『大好きな彼をもっと夢中にさせる特集』に載っていたテストで、私は受け身タイプと診断されたのだが、たまには貴方から積極的に迫ってみるのをオススメされたのだ。そしてラッキーアイテムが紐パンだった。
デート時の下着だけども決して手を抜いたりはしてない。でも世間で言うようないかにも勝負下着!といった大胆なデザインのものには手出ししていなかった。
エースわりとセクシー系よりかわいい系が好みだし、それにああいうのは胸もお尻も恵まれている人が着るもので、貧相な私が身に付けたらギャグでしょなんて思ってしまったから。
ただ男の人は紐パンにドキドキする人が多いらしいし、アイテム自体はセクシーだけど可愛いデザインの物もわりとあって、これならエース喜んでくれるんじゃないかなーなんて。
悶々とした気持ちを抱えて通販サイトを眺めているうち、なんとも彼好みに可愛く、かつ程よくエッチで、それでいてエースっぽいデザインのブラと紐パンのセットを見つけて、カートに突っ込んだ。
ただそこから怖じ気づいて、かれこれ三十分ぐらい通販のページを前に悩んじゃったりしているのだけれど、さすがにそろそろ腹を括ろう。えいやっ、と呟きながら注文確定のボタンを押す。
数秒置いて『ご注文ありがとうございました』の文字が大きく画面上に表示される。ああ、やっちゃった! これでもう後戻りはできない。あとはエースがドキドキしてくれることを願うばかりだ。
◇
「……、お前、調子悪かったりする?」
そしてデート当日。映画館に向かい始めた直後、エースが心配そうに私の顔を覗き込んできた。ぺたりと私の額に掌を宛がいながら「熱はないみたいだけど」と彼が呟く。
これに私は疑問符を浮かべずにはいられなかった。だってエースとのデートに備えて約束した日からずっと体調管理してきて、その甲斐あって今日はむしろ元気いっぱいなのに。なんでそう思われたんだろうと。
もしかしてメイク失敗してたかなあ。バッチリ決まってる!と自信たっぷりの出来なんだけども……!
「ううん。すこぶる元気だよ」
「まあ顔色は悪くないけど……なんか今日のお前やたらソワソワしてるから」
エースの言葉に思わずうろたえた。確かに落ち着きが無かったかもしれない。
とっさにスッと太股辺りの布地を押さえる。間違いなく意気込んで付けてきたこれのせいだろう。
ミモレ丈だから多少風が吹いた所で見えたりしないだろうけど! 簡単にはほどけないようにガッチリ結んだけど! 万が一ほどけてもすぐわかるから道端に落とすような事にはならないってネットには書いてたけど! でも慣れない感覚に不安だらけで、それが態度に出てしまったのだろう。
うーん、履いてきてなんだけど、こんな状態でデートに集中できるのかな。だったらいっそ……!
「エース、映画館の予約って、もう終わってる?」
「行ってから何観るか決めるつもりだったからしてない。やっぱ調子悪い? なら家まで送っていくけど」
元より邪魔にならないようにと道の端っこに連れてこられていて良かった。耳貸してとお願いすれば、不思議な顔をしつつもエースは中腰になってくれる。
念のため周囲を確認したが、獣人っぽい人はいない。聞こえたらちょっと恥ずかしいからなあ。ひとまず安心して私は彼に囁く。
『その……今日、私えっちな下着を付けてて』
「は?」
『それでなんか落ち着かないというか……だから二人っきりになれる所、行きたいなあ、なんて』
エースの耳元から口を離す。そしてダメ?とあざとくおねだりするつもりだったのだけれど、その体勢を取る前に彼に腕を掴まれた。
私を引き連れるようにしてエースが歩き始める。いつもより足早だけれど、ちゃんと私が付いていけるスピードだった。私の腕を取ったエースの掌は熱い。見覚えのある道のりに、本日の最終地点の予定だったエースの家に向かっているんだなあと彼に連行されながら私は呑気に考えていた。
◇
「んっ、エース、待って、まって! シャワー浴びたい……」
「そしたらせっかくのお楽しみ脱いじゃうんだろ」
「あ、それもそうか……えっと、じゃあ、せめて電気消してほしい……!」
「消したら見れないからダーメ」
彼の家に着いた途端、即座に寝室へと運ばれて。そこからのベッド上での押し問答は彼の唇で強制終了させられてしまう。
私の唾液で濡れた唇を拭わないまま「ほらバンザイして」とエースが促す。いきなりのディープキスに酸欠だった私は深く考えず素直にその言葉に従ってしまい、すぽんとワンピースを頭から抜かれてしまった。
件のランジェリー姿になってしまった私をエースはじっと見る。エースのお眼鏡に適えば良いんだけど……! 行為前とはまた別の意味でドキドキしていれば、エースが口角を上げる。
「へえー、ってば良いセンスしてるじゃん」
「気に入った……?」
「すっごい好み」
目を細めて上機嫌な声を出すエースに唇が緩む。
エースが自身の服を脱ぎ捨てて私と同じく下着姿になる。それから頬や鎖骨にエースは口付けてきて。
「ひゃっ」
「もうすっごい濡れてる。こんな状態で帰りどーすんの?」
クロッチ部分を指の腹で撫でられる。エースが擦りつける度、ぐちゅぐちゅと濡れた音が立って、それに顔が熱くなるのが自分でもわかった。まだ触られて間もないのに、なんで。
カリカリ、絶妙な力加減で布の上から一番気持ちいいところを引っかかれ息が上がる。いやらしい水音と切れ切れな自分の呼吸が混ざって重なって。下からの刺激だけでもたまらないのに、エースは食べるようなキスも一緒にしてくるから、いつもよりも速いスピードで昂ぶっていってしまう。
あんな事を言っておいて更に汚すような真似をするエースは今に始まったことじゃないけど意地悪で。私をいじめる彼は唇を歪めて、いかにも性悪な顔をしている。でも私の痴態に興奮しているのだと彼の瞳が伝えてくるから嫌な気はしなかった。
「お前に体目当てって思われないよう、がっつかないようにしてるのに。ってば、オレの気遣い、ぜーんぶ台無しにしちゃってさあ。こんな下着付けたり、あんな事言い出したり、あげくに触る前にぐっちゃぐちゃとか、そんな期待してたわけ?」
エースが責めるような口調で囁きながら、ぐりぐり指で陰核を押しつぶしてくる。気持ちよさに体を震わせながらも必死に頷く。この下着が届いた時からずっと、エース喜んでくれるかなって、いっぱいドキドキしてくれるかなって、そういうことばっかり考えてたから。
快感に潤んだ視界で彼の下腹部を盗み見る。エースの形に膨らんだそこにお腹がきゅうと疼いた。まだ慣らされてもいないのに早く欲しいと思ってしまう自分はなんてふしだらなんだろうか。
しばらくして私の視線に気付いたエースが「のえっち」と咎めて、陰核をきゅっとつまみ上げる。一際強い快感に腰がビクンと浮き上がった。
「着けたまんまでもわかるぐらい、ここ立ってんね」
布地越しに乳首を弄られる。あんなにいっぱい触られたらそうもなるだろう、なんならイかされてもいるんだし。
ぐいっとブラを上へとずらされて胸が剥き出しになる。下着の赤にも負けないぐらい色付いたそこはエースの指摘通りピンと尖っていて。触ってほしいとばかりに主張していた先端はまもなくエースの口の中へと飲み込まれた。
「ふ、あぅ、えーす」
軽く吸い付かれたかと思えば、エースの舌先が乳輪を丁寧になぞる。口での愛撫はそのままにもう片方は指でくにくにとまさぐられて。
勝手に出てきてしまう声を抑えようと口を押さえていたなら、緩く噛みつかれて引っ張るようにしてきつく吸われた。少し痛い位なのに、エースから与えられる刺激に慣れた体はそれが気持ちいいとしか認識できない。
首筋を舐めながら、エースは貧相な私の胸を揉みしだく。彼の大きな手は次第に下へと向かっていって。
「あっ」
「へーこれ飾りじゃないんだ」
しゅる、とパンツの紐を片方だけほどかれる。それにより布が捲れて秘部が彼の視界へと晒された。しとどに濡れていたせいか、外気に触れた途端ひんやりと冷たい感覚が襲ってくる。だからこそ彼の視線の熱さが際だって。
布をずらした状態でエースが秘部に指を差し込む。難なく飲み込まれていった彼の指は私の中をぐちゅぐちゅ掻き回して。ほぐしながらもエースは私を絶頂へと導いていく。
そしてまたあっという間に追いやられ、くたりとベッドに身を任せた私は短い息を繰り返す。ジンジン疼く下腹部を押さえながら、無意識のうちに私は腰を揺らしていた。
太股をしっかりと掴まれたかと思えば、続けて大きく足を開かされる。更に腰が軽く持ち上がる位、体の方へと足が押し込まれて。まるで小さい頃にやったでんぐり返しのような体勢だが、今の格好からすると懐かしむことなど当然できるはずもない。
とんでもない格好を自覚して、顔がかーっと熱くなっていく。言葉を失っている間に悪い顔をしたエースが私の腰の下にクッションを挟み込んだ。
いつの間に脱いだのか、あと付けたのか。ゴムを纏った彼の熱がぬかるみの中心へと宛がわれる。今にも私を貫こうとするそれに思わず手を伸ばすが、かすりもしないまま。
「ちゃーんと繋がるとこ見てろよ、」
「ま、まって! あ、あ、ああっ……」
ぬぷぬぷとエースの熱が中を押し広げていく。体勢のせいでいつもは見ることのない光景を目の当たりにしてしまった私は今にも羞恥心で神経が焼き切れそうだった。明かりが付いているせいで余計にハッキリわかってしまうのだから、本当に本当に死んじゃいそうなほど恥ずかしくて。
結合部を見せつけるようにしながら、エースは腰を振って。視界に映るそれはあまりにも刺激が強すぎると思うのに目が離せない。
エースの体重がかかっているせいか、普段よりも深く入ってきている気がする。今までとは違う箇所をごしごし擦られて、一番奥をぐーっと押し込まれて、意志に反して体が跳ね上がる。
押さえ込まれているせいでろくに身動きも取れず、太股を掴む彼の手に弱々しく縋ることしかできない。彼の熱がゆっくり抜き差しされる隣には中途半端に脱がされた紐パンがぶらさがっていて、行為に巻き込まれたが故にそれは互いの体液で更に濡れてしまっていた。
どんどん大きくなっていく水音。快感に頭がショートした瞬間、中がエースの熱をきつく締め付ける。一拍遅れてゴム越しに彼の欲が吐き出されるのを感じながら、私はゆっくりと瞼を閉じた。
◇
主に私の愛液で無惨な事になった下着は洗濯機の中。幸い乾燥機があるし、最悪エースの生活魔法を使えば、帰る頃には履いて帰れるだろう。
なお今の私は事後ということもあり、シーツ一枚纏っているだけの頼りない状態だけども、こればっかりはしょうがない。まあベッドの上だから、それほど問題にもならないしね。
「、やっぱりお前なんかあったでしょ」
気絶したけども一休み置いてまた押し倒されを繰り返し、始まった時間帯が早かったこともあり、結局私はあの後もエースに何度も抱かれることになってしまった。三ラウンド以降からは覚えてない。
事後特有の程よい疲労感と余韻から、ベッドの上で二人で寛いでいたならばエースが突如そう切り出した。たぶん私の一連の行動に何か思う所があったのだろう。
私の前に座る彼はふにふにと私の頬をつついてくる。仕草こそじゃれているだけだが、目は「さっさと吐け」と言わんばかり。エースって懐に入れた相手には世話焼きというか、結構心配性だよなあ……。
彼が不安になるような事は何もないのだけれど、ここは素直に白状した方がいいんだろう。本当になんでもないことだし。
「雑誌の特集でもっと積極的になった方がいいって書いてたから実践しただけだよ」
「なんで」
「……私達、付き合って結構長いから新鮮味がないとマンネリ化とかしちゃうのかなって、あと受け身がちだと飽きられるって」
話途中でむにっと頬をつままれる。何をするんだ、そんな気持ちで見たエースは唇を尖らせて見るからに拗ねているようだった。
ばぁーかと間延びした罵倒と共に軽いでこぴんが与えられる。少しばかり痛む額を押さえていれば、不機嫌そうなまま彼が口を開いた。
「お前これからそういうくだらない記事見るの禁止な、すーぐ真に受けるんだから」
「でも実際、私、恋愛に関する事ってエースに頼りっきりだし」
「お前といると落ち着くの、だけど学生の頃から退屈したことないから! それにお前は受け身って言うか、オレに合わせてくれてるんでしょーが。オレはお前のそういうとこが好きなんですけど」
怒っているのか、それとも照れているのか、私との関係を語るエースはやたら早口だった。むっとした表情がほんのり赤いところからして両方な気がする。そこのところ、突っ込んだら余計に機嫌を損ねそうだから言わないけども。
「……そうなの?」
「オレにここまで言わせてまだ赤の他人の書いたこと信じるわけ?」
「ううん。違うけど、ただそれならエースがしたい事とか、してほしい事とかはちゃんと言ってね。できる限りは善処するから」
「じゃあ、オレが中出ししたいとか言ったらどうすんの」
とんでもない質問に一瞬言葉を失う。あんまりにも突然強烈なワードが飛び出たからたまげてしまったけども、それはまあ許容範囲というか。万が一のことがあっても私もいい大人なので問題ないのだけれども。
結論は出つつもなかなか答えられずにいた私を突如エースが「ハッ」と鼻で笑う。きっと出会いの日と同じ見下し方だった。
途端に湧き上がる怒りは過去の分も詰み重なってきて、ぴきっと青筋が立つのがわかる。イケメンだからって何でも許されると思うなよ。そう睨め付けるつもりで顔を上げた。だけどつい拍子抜けするぐらい、エースはやわらかに微笑んでいた。
「じょーだん……お前がトラッポラになるまでは言わないって」
それだけ言い終えるとエースは私を抱きしめながらベッドへ倒れ込む。彼の体温はとても心地よかったけども、今日一番の爆弾を落とされた心臓はバクバクと唸っていて、私はなかなか寝付けそうになかった。
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