さみしくないよ
「ハロウィンでもねーのに、なんか変なカンジ」
朝起きたら兎の耳と尻尾が生えていた。鏡を見る前にそれに気付いたのは頭が重かったのと、お尻の違和感と、ついでに隣ですやすや眠っていたエースにも色違いだけども同じものが存在していたからだ。
こういったことが起こるとなると魔法薬の効果が大半を占めるのだが、あいにく昨日は薬学も錬金術の授業もなかった。心当たりはないが、ひとまずクルーウェル先生に相談しようとスマホを見たところ、学園から一斉通知で連絡が来ていて。
なんでも先日食堂で出されたメニューの中に『ウサギダケ』という兎の獣人と化してしまうキノコが混入していたらしい。私とエースはバッチリそのメニュー食べちゃっていたのである。なおこのキノコの効果で生態が変化しており、思わぬ行動に出てしまう可能性があるため、ウサギダケが入ったメニューを食べたものは外出を禁じると書いてあった。
獣人族はキメラみたいなことになってて焦る気持ちはわかるが一日で収まるから落ち着けとも書いてあった。そういえばジャックも食べてたな……今日一日サバナクローとオクタヴィネルはアイデンティティーの崩壊に大変なことになってそうだ。
ともあれ困惑しているだろう友人に思いを馳せていたところ、エースが起きてきたので、この事を話して冒頭の台詞に繋がったという訳だ。
今日は本当はデートの予定だったのに……まあ仕方あるまい。なんて言っては見たものの、がっかりするあまり朝ご飯すら食べる気になれず、未だベッドから下りることすらしていないのだけれど。
同じくベッドの上に座ったままのエースの頭の上でぴこぴこと黒いウサミミが揺れている。耳の形、艶やかな黒色、ふわふわの毛並み、それらにある事を思いだしてしまい私の目に涙が浮かぶ。
「ぴょんきち……」
「だれ」
「元の世界で飼ってたうさぎ。ちょうどエースの耳がそっくりで懐かしくなっちゃった……」
思わず感傷に浸る私にエースは少しばかり何か考えてるような素振りをして、頭をこちらへと突き付けてきた。彼なりに慰めてくれているのだろう。わざわざ触りやすくしてくれたその好意に甘えて、おでこから耳の付け根に向かって撫で上げる。
「いや、でこじゃなくて耳でしょ、そこは……」
「だってうさぎは耳触られるの嫌がるし……」
ぴょんきちは顎の側面を撫でられるのも好きだったなあと早速実行に移す。それにエースは最初こそ解せぬ……って顔をしていたけども、だんだん目が細めていって。リラックスしてる時の表情に思わずじっくり眺めてしまう。
今更だけどれっきとした男子高校生のくせに私の彼氏はなんでこんなにもウサミミが似合うんだ……ええいこのエース・顔が良いッポラめ。
猫耳も似合うんだろうなあ。そう思い馳せながらなでなでを続けていれば、ゆっくりエースの瞼が開く。そしてなんだか含みのある顔をして。
「ふあっ?!」
「寮で飼ってこそいないけど、ハートの女王の部下にうさぎがいたらしくってハーツラビュル生はうさぎの生態も学ばされるんだよね」
ここ、きもちいいでしょ?と言いながら、エースは手のひら全体を使って繰り返し私の背中を撫で上げる。確かに気持ちいいけど、これは私が彼に施したものとはまた違うような。
そうしてるうちにパジャマと下着を少しずらして出していた尻尾の付け根をくすぐられる。それにぞくぞくと腰の辺りから甘い痺れが上がってくる。意図せず背中が反っておしりを突き出すような体勢になってしまった。
これ、確か雌のうさぎが発情してるときの仕草だ。うっかりおしりを撫でた時のぴょんきちが同じ動作を取っていたので良く覚えてる。友達の家から赤ちゃんうさぎの時に貰い受けたせいで間違えていたが、ぴょんきちは雌である。
えっちする時の手付きでおしりを触られる。昨日もいっぱいした上まだ朝なのに、交尾の受け入れ体勢を取っていることが恥ずかしいのに、勝手に体が動いてしまう。
耳を甘噛みされてびくんと体が跳ねる。うさぎにとってスキンシップが苦手な部位のはずなのにいやだとは全然思わなかった。
「うさぎって性欲強いからさ」
しょうがないよな、なんて言い訳にもならない詭弁を口にしつつ、エースは私のシャツに手を差し込む。プウプウ、ご機嫌なぴょんきちの声が私の喉から鳴っていた。
◇
「ひ、あぁ♡ しっぽ、やっ、やらぁ♡」
「こんな目の前でふりふりしてんのに触るなとかひどくない?」
「あっ♡ らめ、らめなの♡」
私のささやかな抵抗を無視して、エースは尻尾を撫で回す。あれから私は四つん這いにされ、本物の動物みたく後ろからエースに貫かれていた。体勢のせいで彼の顔は見えないけども、声色からしてとっても意地悪かつ楽しそうな表情をしていることだろう。
ただでさえ敏感な耳はうさぎのそれになったせいで余計に刺激を感じ取るようになってしまっていて。ふう、と熱い吐息をかけられるだけで甘ったるい声が出る。なのにエースはのしかかって緩く噛みついてくるのだからたまったもんじゃない。
うさぎの耳は集音器の構造になっていて。だからだろう、いつもより情事の音を拾ってしまい、そのせいで余計に高揚させられていく。
促されてもいないのに腰を上げておしりを振って、そんな自分をふしだらだと思うのに止められない。するりと腰を撫でられて、反射的に彼の熱を締め付けてしまう。
「うさぎってヤったら絶対赤ちゃんできるんだって」
おなかを撫でながらエースはそんなことを耳元で囁いてくる。今のお前もそうなのかな、と彼は呟いたけれど、もしそれが本当だったとしても避妊具に遮られている以上、確かめることはできない。
エースに孕ませるつもりは端からない。なのに種付けするかのように奥をぐりぐりと先端を押しつけてくる。根元まで入っているせいで、彼のお腹に挟まれた尻尾に振動が伝わって甲高い声が上がってしまう。
がくがくと太股が震える。私がもうイってしまいそうなのがわかったからか、エースは先端を残して引き抜いて浅い所ばかりを擦ってくる。気持ちいいけど、この刺激では絶頂には足りない。
焦らされて焦らされて、へたり込みそうになった瞬間、奥をごりっと抉られ、体が仰け反った。びくびくと全身が痙攣する、なのにエースは激しく腰を打ち付けてきた。
「えーす♡ やっ、イってる、イってるから♡ あっ、あ、あ♡」
「ね、奥出してほしい?」
——オレの赤ちゃん産んでくれる?
断続的な絶頂で頭の中はぐちゃぐちゃだ。なのにエースの言葉を私はしっかり認識していて、その上コクコクと首を縦に振っていた。
とんとん、と優しく奥を叩かれる。さっきの強すぎる快感に比べて、緩やかな刺激。でも何度も達した体にはその甘さがちょうどよくて。ぐっと奥へ先端をめり込ませた状態でエースが熱を吐き出す。
でもゴムを換えたら、すぐにまた私の中に入り込んできて。まさしく獣の交尾たるそれは夕方頃まで続いたのだった。
◇
「……エース、私、何か嫌な気持ちにさせちゃった?」
「は? なにが?」
夜になって学園のSNS上ではちらほら回復していく人達が見える中、私とエースはまだウサギダケの効果は切れていなかった。
私の質問にエースは何もないけどと言わんばかりの表情をしている。うさぎはわりと表情豊かでわかりやすいにも関わらず、このポーカーフェイスはすごいと思う。だけども。
「耳後ろにぺたんって付けてるから」
うさぎって態度にもめちゃくちゃ出るんだよなあ……。私の言葉にエースが固まる。無意識だったらしい。いくら彼が器用とはいえ、普段は反応しない部位だ。取り繕えないのもしょうがないだろう。
指摘した動作はうさぎが悲しんでる時によくするものだった。あの子達の場合は顔にも出るんだけどね。
飼育経験および知識がある私相手では誤魔化せないと気付いたのだろう。エースの目が泳ぎ、何か言いたげに唇が薄く開閉を繰り返す。視線を逸らしたまま、エースはぽつりと呟いた。
「……お前が、」
「うん」
「ぴょんきちに会いたいのかと思っただけ」
そりゃ会いたいに決まってる。そう考えてある事に気付く。私が言うのを忘れていて、そしてエースが誤解した上でぼかした言い方をしているからわかりづらいけど、つまり元の世界に帰りたがってると考えたのだろう。
それで不安になってしまったと。ならば、ここはハッキリ弁解するべきだ。
「まあ、いつかは会いに行くよ。五十年後ぐらいになるだろうけど」
「え?」
「ぴょんきち、こっちに来る少し前に亡くなっちゃってるから。お父さん達には悪いけど、両親に会うのも天国行ってからかな」
「……お前それでいいの?」
暗に帰る気はないと伝えれば、エースが尋ね返してくる。
彼は認めないだろうけど怯えるほどなのだ。私を帰したくはないのだろう。なのに確認してくるのは彼自身が家族に恵まれているからこそなのだと思う。
だからこそ私は決めていた言葉を口にする。
「エースが私に家族をくれるんでしょ?」
微笑む私に少しばかり驚いた後、エースが「そうだけど」とそっぽ向く。台詞こそ素っ気ないけど、彼の白い頬は赤らんでいたし、何より大きな耳がピンと立って喜びを盛大に表現してくれている。
うさぎは寂しいと死ぬという噂は俗説らしいけど、この寂しがり屋のうさぎさんと私は一生を共にしていきたい。なんて思いながら、未だ照れている彼に私はぎゅっと抱きついた。