そして二人はいつまでも幸せに
エースと付き合い始めてすぐの頃にクルーウェル先生から聞いたのだが、NRCにはカップルにちょっかいをかけたがる妖精さんがいるらしい。
妬んで別れさせようとかじゃなくて、むしろ恋人達がイチャイチャしてるのを見るのを好み、そういった事をしないといけない状態へ強制的に持ち込むのだと。
先生達ですら敵わないレベルの魔力を持つらしく、対策はできないらしい。悪いようにはしないはずだが、心構えだけはしておけと。
その情報を事前に聞いていたおかげで初めてちょっかい……キスしないと出られない部屋に閉じ込められた時、パニックにならずに済んで。ただし完全に目を付けられたらしく、それからも私達は何度も妖精さんのいたずらに巻き込まれてきた。
ついさっきも『相手に対して我慢していることを暴露しないと出られない部屋』に閉じ込められて、またかぁなんて言って。
◇
「ん、んっ、えー、す……」
私の自室にやってきた途端、ベッドに二人してなだれ込む。くっつけられた唇は興奮のせいか、いつもより格段に熱い。
元より明日までグリムが遊びに行っているから、エースが泊まりに来る予定で。だからこういった事になっても何も問題はなくて、おかげでお互いブレーキはかかってくれない。かけたくない。
いつもみたいに接触の指示が出されたわけじゃないから、触れ合いという触れ合いは部屋を出てここに来るまで手を繋いだことぐらい。
なのにこんなにも気分が盛り上がってしまっているのは他でもない、あの部屋での出来事が原因だった。
今日閉じ込められた部屋の扉には赤と白の鍵が一つずつ付いていて、これまでの経験上お互いが条件を満たさないとダメなパターンだろうなと。
妖精さんが好きなのはいちゃついている姿だ。だから恥ずかしかったけど思い切って「私の為に我慢せず、もっとエースの好きなように抱いてほしい」と暴露すれば白い鍵が外れて。
それにエースはもだえていた私へ「へえー、ってばオレにめちゃくちゃにされたいんだ」とからかってきたけど、あれはたぶん照れ隠しだったんだと思う。照れてる時に憎まれ口を叩くのは彼の癖だから。
そんな感じで私の分はすぐに解決したけれど、エースの方がなかなか達成できなかった。わからないのだけど、たぶんえっちな事なんだろうなあって単語と共にと○○したいといっぱい言ってたけど、赤い鍵はピクリともしなくて。
もの凄く悩んだ様子を見せた末にエースは「……お嫁さんになってほしい」と言い出した。思わず変な声を私があげたと同時に、赤い鍵は一瞬外れるような動作をしたが、またガチャンとロックがかかって。
エースにしてみれば、かなり恥を忍んでの発言だったはず。だからエースは開かない事に「なんでだよ?!」とブチ切れていた。私は内心喜んでいたんだけども。だって嬉しいでしょ、好きな人が自分との結婚考えてくれてるとかさ! なんとか顔に出ないよう隠してんだけど、たぶんバレてるだろうなあ……。
どんなに怒っても状況は変わらないと悟ったのだろう、しばらくしてエースは再び考え込んでいた。随分経ってからエースは顔を逸らしながら言ったのだ。
——オレの赤ちゃんを産んでほしい。
ひどく小声のそれを彼が言い終えると同時に赤い鍵も床に落ちた。もう出られる、だけど私もエースもなかなか動けなかった。そうしてるうちに依然顔を逸らしたままのエースの耳が赤くなって、私の顔にも熱が溜まっていって。
私の手を彼が掴みにきた時、一瞬見えたエースはかつてないほど紅潮していた。そこからはお互い無言のまま、オンボロ寮に足を進めて。無意識のうちに気持ち早足になっていたのは致し方ないと思う。
だって、欲しかった。エースの事も、彼が望んだものだって。エースの好きにされたかった。
考え込んでいるうちに私のシャツははだけていたし、エースはズボン一枚しか纏っていない状態で。無造作に放り投げられた制服に明日しわくちゃだろうなと思っても、咎める気は起こらなかった。もう余計な事を考える余裕もないのだ。
瞼を閉じる間もなく唇を塞がれる。細められた赤色の奥に見えた欲望がちりちりと私の胸を焦がしていく、唇の隙間からぬるとエースの舌が差し込まれた。
キスはそのままにブラジャーを外されて、エースの手が私の胸を這う。口内で動く彼の舌が上顎をなぞり、反射的に鼻にかかった声が漏れていった。やわやわ優しく揉みしだく掌が熱くて、触れられたところから溶けてしまいそうだった。
主張し始めた胸の先端をきゅっと摘ままれる。いつもならいっぱい焦らされるのに、エースも私と同じで余裕がないのだろうか。
エースの唇が私の胸へと移動して、先端がぱくりと彼の口の中に吸い込まれる。空いた手がズボンの上から太股を撫でる、布越しの感触がもどかしい。手の動きはそのままに舌は私の乳首を転がしているのだから、快感にぼんやりする頭で器用だなあと思う。
ぱぱっとズボンが取り払われ、クロッチの上からエースが指先で割れ目をなぞる。濡れてる、と私の耳元で囁くエースの吐息はひどく荒くて、だからか意地悪された腹立たしさよりも彼が欲情している嬉しさが勝ってしまった。
下着が足から抜き取られる。普段よりも性急な愛撫にもかかわらず、そこは彼がさっき指摘した通り、しとどに濡れていて。ただ不安なのか、入ってきた指は浅いところを行き交うばかりだった。
おなかがせつない。その言葉と共に私の目から、ぽろと一粒涙が滴る。エースが私の目尻を舐め取り、指が奥へと沈められた。
馴染ませるように往復する指にふうふうと甘ったるい息が勝手に漏れる。く、と曲げられた指が弱い所を的確に抉る。中を探られたまま、陰核を捏ねられれば、あっけなく私は果てた。
「えーす、いれ、て」
「付けるからちょっと待って」
がちゃがちゃとエースがベルトを外す音を聞きながら、横目で視界の端にあったゴムを見る。おそらく私が回想していた時にベッドの引き出しから取り出していたのだろう。ベッドの上へばらまかれたそれは少なくとも五個はあった。
エース、いっぱいする気なんだ。きゅう、とおなかが疼く。封を切って手早くゴムを装着すると、エースは少しばかり強引に口付けてきた。もう入れてほしいと思っていたけれど、そのキスが嬉しくてうっとりと目を蕩けさせてしまう。
足を左右へ開かれ、エースの熱が膣口へ宛がわれる。先端が触れたことでくちゅりと濡れた音が立つ。
「ひああっ」
一気に胎内へ滑り込んできたそれに悲鳴じみた嬌声を上げる。いつもならゆっくり拓いてくれるのに。衝撃にはくはくと唇が空ぶる。
足を持ち上げられて、更に深く潜り込まれる。一番奥に辿り着いた状態で揺さぶられ、先端が何度も叩き付けられる。強すぎる刺激に喘ぐ声が抑えられなかった。
待って、と制止をかけたのにエースの腰は動き続ける。ごりごり内壁を抉られて、一度達して敏感になった体はすぐに高みへと押し上げられてしまった。
絶頂の余韻で体を震わせていたなら、エースが最奥へ先端を押しつけた状態で動きを止める。おなかを撫でられ、意図せず私の中はエースを締め付ける。きゅうきゅうと物欲しそうに蠢くのが恥ずかしいのに自分では制御できない。
「、オレの赤ちゃん産んでよ」
こうなってしまったきっかけをエースが再び口にする。私達を遮る膜をちゃんと自ら身に付けていたのに、慈しむようにエースは私のおなかをさする。ちぐはぐな言葉と動作、でもそれはエースの優しさで、だから喜ぶべきなのに。一ミリにも満たないそれが邪魔だと思ってしまった。
頷く私にエースが微笑む。嬉しそうな彼の顔に胸がときめいてしまう。シーツを掴んでいた手をエースがほどいて、指を絡ませてきた。握り返せば律動が再開される。
とんとんと子宮口を執拗にいじめられて肌が粟立つ。くぽくぽと先端がはまって、その度に軽く意識が飛んでしまう。
「えーす、だし、て。なか、だして……」
届かないとわかってるのに思わず口にしてしまう。それとほぼ同時にエースが唸って中の熱が膨らんだ。
だらしなく開いた私の口へエースがキスをして、中の熱が抜けていく。でも寂しがる暇はなかった。もう口を縛るのも億劫だとばかりにシーツに使用済みのそれを投げ捨てて、新しい分を装着したエースが再び貫いてきたから。
達して、付け替えて、また奥まで穿たれて。前の部屋みたいに媚薬を飲まされたわけでもないのに熱に浮かされている。数え切れないぐらい肌を重ねたのに、今日はいつまでたっても引いてくれない。
すっかり彼の形になってしまったおなかを何度もみちみちとエースの熱が満たしてくれるけれど、子宮はからっぽのままだ。それが、ひどく、さみしい。
「も、やだ、ごむやだぁ」
何度目だっただろう。私の中で突然何かがぷつんと切れて、気付けばそんな泣き言を口にしていた。ダメなことだとわかっても我慢できなくて。
ただぐずつく私をあやすようにキスしてくれたけど、エースは頑なにゴムを手放してくれなかった。それに「えーすのばか」とか「いじわるしないで」とか、ずっと彼に泣きつきながら「わたしもエースの赤ちゃんほしい」と甘え続けて。
◇
——昨晩の私はどうかしてた。
「お前いつまでそうしてんの?」
ゴムから零れた精液でぐちゃぐちゃになっていたが、エースの洗浄魔法で綺麗になったシーツを使って蓑虫状態になっている私に呆れたように彼が声をかける。
もぞもぞと顔だけ出して見た彼はいつも通りの表情だ。エースだってとんでも発言してたのになんでそんな平然としていられるの。これじゃ恥ずかしがってる自分がばかみたいじゃないか。
自分ばっかりが動揺している。それが悔しいけれども少しばかり頭は冷えた、被っていたシーツを体に巻き付けつつ起き上がる。あれについて彼に言わなきゃいけない。
「……昨日はごめんね。それから、ちゃんとしてくれて、ありがと」
「まあお前オレの気持ちも知らずに散々罵ってくれたよね」
「う゛っ。それについては本当にごめん……」
ねちっこい言い方をされたものの、別に怒っているわけではないらしい。目の前に座っていた彼は私のおでこに口付ける。
それからぎゅっと抱きしめてきた。ぴったりくっつけた体から伝わってくる鼓動は布越しでも伝わるほど大きく、ひどく早い。
「お前がああ言ってくれたのは嬉しいけどさ。本気だからこそ、中途半端なことしてダメにしたくないんだって」
「ほんき」
「……なに、その反応。冗談であんな事言ったと思ってたわけ?」
「わ、私でいいの? 私のことエースのお嫁さんにしてくれるの? 私、もしかしたら、急に元の世界に帰っちゃうかもしれないのに」
もう帰るつもりはない。でも来た方法がわからない以上、前触れもなく帰されてしまう可能性は0じゃない。
エースに恋をしてからずっとそれが怖くてしょうがなかった。エースが願ってくれたことは嬉しい、でも私は。顔を彼の体に押しつけ、私は不安からつい彼にしがみつく。そんな私の背をエースはあやすように優しくたたく。
「お前知らねーの? あの妖精の話」
「カップルにちょっかいをかけたがるっていう話だよね」
「あれ、続きがあってさ。あの妖精に悪戯されたカップルは永遠に結ばれるんだって。何回も空間操作しでかすほどの大妖精だし、だからもしお前が元の世界に戻されてもすーぐこっちに戻されるよ。ただでさえあの妖精、オレ達の事気に入ってるし」
「そうなの……?」
「それに例え妖精が協力してくれなくたって、オレが絶対迎えに行くから」
お前はただオレを信じて一緒に生きてくれればいいの、と。彼の言葉に嬉しさにじわりと涙が浮かぶ。そんな私を「泣き虫」とからかいながらも、エースは優しく強く私を抱きしめた。
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