いただきますワンモア

 エースに押し倒されていた。軽くキスされたかと思えば彼の唇はどんどん深く口付けてきて、それに夢中になっていれば胸元を暴かれてくにくにと先端を弄ばれる。胸だけでイきそうなんだと意地悪な顔と声でエースは攻めたてて、彼の言うとおり私はその指がもたらす刺激のみでびくびく身を震わせてしまった。絶頂して間もないにもかかわらず、エースは私の秘部へと顔を埋めて更なる快感の渦へと突き落とす。もうほしい、と何回言っただろう。彼の唾液と自分の愛液でぐちゃぐちゃになったぬかるみにエースが熱の塊を押し当てる。いつもと違って生身のそれに驚いた瞬間、私の体は熱に貫かれて……目が覚めた。
 本日の授業が終わりオンボロ寮へ帰ってきた私は、今日はグリム出かけてるし、ちょっとうたた寝してから夕飯にしようと思ってベッドに潜り込んだのだが、思っていた以上にぐっすり眠ってしまったらしい。疲れていたのだろうか、外はもう真っ暗で月がはっきりを見える状態だった。
 ……私はなんて夢を。つい先程見てしまったふしだらな映像に頭を抱える。先日エースが泊まりに来たばかりなので、欲求不満ではない、と思う。なのになんで私は、それも本来と違って避妊せずにとか。自分の潜在的な欲を思い知らされたようで顔が火照る。
 なんだか、おなかの奥がそわそわする。あと下着の中が気持ち悪い。思わずショーツ越しに触れた秘部は布に染みるほどしっとり濡れていて、頭が痛くなった。おなかは空いてるけれど、熱に浮かされたこんな状態ではご飯を作る気には到底なれそうもない。というか、それ以外のこともできそうになくて。
 エースとそういった関係になるまで私は全然性的な事に興味が無かった。そして彼と体を重ねてから抱くようになった欲はずっとエースが解消してくれたから、今までしたことなかったんだけど……。
 でも彼がここにいない以上、この劣情は自分で片を付けるしかないのだ。

 部屋着も下着も脱ぎ捨てた私は男物のTシャツ一枚の状態でベッドの上へ戻ってきていた。
 今私が身に纏っているこのTシャツはエースが泊まる時パジャマ代わりにしているものだった。しばらく泊まる予定はないから、洗濯物が少ない日に洗おうと思っていたのだけれど……素肌に着ちゃってるし、もしかしたら汚しちゃうかもしれないから、これが終わったらすぐ洗わないとなあ。
 布を鼻へと寄せる。オンボロ寮に置いてあるボディソープと、その中に漂うエースの香りに胸がきゅんとなる。全身を覆う残り香に、まるでエースに包まれてるみたいだと思った。

「ん……」

 夢では直だったけど、服の上から胸の先を摘まむ。……もう膨らんでる。それを恥ずかしくなりながらも、彼の手付きを思い出しながらいじって。けどエースほど器用じゃないからか、あんまり気持ちいいとは思わない。エースが触ってたらすぐに変な声出ちゃうのに。
 直接的な快感は殆ど得られなかったけれど、エースとの情事を思い出していたせいか、腰の辺りがむずむずしていて。胸から手を離して、Tシャツの裾から秘部へそろりと腕を伸ばす。ぐちゅり、水音と指先から感じる濡れた感触に見えなくても酷い状態になっているのはわかった。
 試しに指を一本入れてみる。たっぷり濡れていたおかげで痛みもなくするっと飲み込まれてしまった。いつもエースここからどうしてたっけ。

「ひあっ」

 確か……と上の方を擦った途端、びりっと電流のようなものが体の中で走った。思わず指を引っ込める。たぶんさっきのは気持ちいいってことなんだと思うけれど、恐怖が勝ってさっきの部分を避けながら指を動かす。エースとたくさんしてきたからだろうか、緩い快感は拾うことができた。
 頃合いを見て入れる指を増やす。いつもこの後もらえるものは今日に限っては存在しない。でも私の指は中をほぐすような動きをしている。だって私はその触り方しか知らない。

「えーす、えーす、すき、すきなの……」

 彼の名前を口にするとひどく興奮した。きゅうきゅうと中が私の指を締め付ける。行為の最中にかけられたエースの言葉や、私の体で感じている彼の姿を頭に浮かべながらさっきよりも激しく指を抜き差しする。
 あと一歩が足りない。だから入れている方とは反対側の手で花芯をきゅっと摘まんでみる。その瞬間、目の前がチカチカと白く光った。中の締め付けがきつくなって、ぶるりと太股が震える。
 くたりとベッドに身を預けながら荒い呼吸を繰り返すことしかできない。指を抜いてTシャツの胸元に縋る、シーツで愛液を先に拭うべきだったと汚してしまった事を悔いた。
 横たわったまま瞼を閉じる。ちゃんと発散したはずなのにさっきよりも体が昂ぶってる気がする。あつい、たりない、こんなわがまま言っちゃだめなのに。
 彼の匂いに包まれているのに、エースの温度がない。その事が寂しくてたまらなかった。

「えーす……」
「何?」

 ただただ快感の波が引いていくのを待っていたその時だった。聞こえるはずのない声に慌てて身を起こせば、ベッドのすぐ傍にエースが立っていた。
 私が何をしていたかなんて一目見れば丸わかりだろう。もはや言い逃れできない状況かつ、何度も彼にはこれ以上の痴態を見られてきたというのに、服の裾を下に引いて隠そうと悪あがきする自分がいた。
 エースがスリッパを脱ぎ捨てて、ベッドの上へと乗り上げる。二人分の体重にベッドがミシと嫌な音を立てて軋んでいた。

「お前スマホ見てないでしょ」

 彼の指摘に枕元にあったスマホを確認する。ちょうど私がうたた寝していた最中にエースからメッセージが入っていた。顧問の急用で明日の休日練習なくなったから泊まりに行くわと。
 その後も何度か時間をおいて、私が起きる直前ぐらいまで送られてきている。最後は「今から行く」だから、既読すらつかない状態にまた何かトラブルに巻き込まれていると思われたのかもしれない。以前、グリムの留守中に風邪でぶっ倒れていた事もあったからなあ……。実際はただぐっすり眠っていただけなのに、心配させて申し訳なかった。

「ごめん……」
「メッセージに気付かないぐらい、ずーっと楽しんでたわけ?」
「ち、ちがう。その前は寝てた、から」
「どーだかなー」

 それ以上の弁解は彼の唇に塞がれてしまった。キスはそのままに胸の先を服の上から、かりかりと引っかかれる。同じ位の力加減なのに、もたらされる快感はさっきの比じゃなかった。
 くにくにと指先で遊ばれて押しつぶされて腰が震える。それに釣られて零れていく甘ったるい声も息も彼の口へと飲み込まれていった。

「んんっ」
「お前さあ、下手くそ過ぎ」

 唇が離れると同時、エースの指はまだ潤んだままの中へと埋め込まれた。自分のとは違う太い男の人の指、彼の指だということに興奮してきゅうと中が疼く。先程自分がした時には避けていた部分をぐっぐっと押されて、声にならない声を上げて私は果てた。

「こうやってすぐイけんじゃん、なのになんでここ触るの止めたわけ? おかげでオレめちゃくちゃ廊下で待たされたんだけど」
「え……?」

 果てたばかりで頭が上手く回らない。だから彼の言葉を反芻して、なんとか認識した末に私は戸惑った。キスを仕掛けてくる前の質問からして、彼はさっき来たところだと思っていた。でもこれじゃ、かなり早い段階から見られていたんじゃ。

「あの、エース、いつから見てたの……?」
「お前がオレの服の匂い嗅いでたところからだけど?」

 それ、ほぼ最初からじゃないか! はくはくと口が勝手に動くのに羞恥心から声は出ない。ぶわっと顔が火でも出そうな勢いで熱くなった。
 ううと涙目になる私にエースは意地悪な顔をしている。ねえ、と呼びかけられる。いつもなら嬉しいそれが今はひどくおそろしい。

「オレの質問にも答えてよ」
「ん、ん、やっ、そこ、やだぁ」
「ほーら、はーやーくー」

 埋め込んだままの指でぐいぐいと再び刺激される。更には耳元で囁くようにして促してくる。エースが与えてくれる快感にも、彼の声にも弱い私は当然答えられるはずもなく、がくがく体を震わせていた。だけどイけないよう絶妙に手加減されて、直前の状態での寸止めが続いている。その苦しさに私はぐずつくしかなかった。

「やぁ、も、ほしい、えーす、いじわる、やらぁ……」

 泣き言を言いながら彼の方へ倒れ込むように縋り付けば、エースの指が中で折り曲げられる。ぐっと食い込んできた指先にバチバチと火花が目の前で散った。全身がぶるぶる震える。
 彼に身を預けながら余韻に浅い呼吸を繰り返していれば、数回緩く中を擦った後、エースの指が私の胎内から抜けていった。

「で、は何が欲しいの?」

 さっきの疑問に対する追求は満足したのか、新しい質問が投げかけられる。
 絶対にわかってるのに。ちらりと見た彼の下半身は大きくなっている、エースだって同じ事を思ってるだろうに、なんで今日はこんなに意地悪なんだろう。
 愛液にまみれてない方の親指で私の唇をなぞる。うっすらと性格の悪そうな笑みをエースは浮かべていた。

「えーすの、いれて。えーすと、いっしょに、きもちよくなりたい」
「じゃあさ、今日はお前が付けてよ、これ」

 そう言ってエースはズボンのポケットから取り出した小さなパッケージを私へ手渡す。戸惑いからそのゴムと彼の顔へ視線を行き来させる。だがエースはただただ笑ったままだ。

「オレと一緒によくなりたいんでしょ? だから付けて、これないとできないしさ」

 これは絶対に譲ってくれないパターンだ。だからおずおずと彼のベルトを外して、ズボンのファスナーを下げる。続けてパンツを脱がせば、すっかり大きくなったそれが飛び出してくる。
 見るのはこれが初めてじゃないし、というか口でご奉仕したこともあるけれど、それでもやっぱりこんな間近で見せつけられるのは恥ずかしい。
 もたつきながらも包装を破って中身を取り出す。これどっちからはめればいいんだろう、そう悩んでいたらエースから「今持ってる方の下側から当てて」と指示が飛ぶ。
 他にも言われたことを守りながら、するすると根元まで被せていく。これでいいのかわからなくて、確認の意味を込めてエースの方へ上向けば頭を撫でられる。それに喜んでしまう自分の単細胞ぶりに我ながら呆れてしまった。

「ん、あ、あ」

 横たわって脚を広げれば、エースはちょっと驚いた顔を見せて。でもすぐにまた意地悪な笑い方に戻ってしまった。
 ただ「いいこ」と囁かれて、くぷんと切っ先が埋め込まれる。そして、すんなり奥まで入り込んで私の一番弱い所を刺激する。
 体の中にエースを感じているけど、もっと全身で彼の存在を味わいたい。だから思いっきりエースに抱きつけば、咎められるところはなく、むしろ唇を合わせられて。
 このままじゃ動きにくいよなあ。そう思って自分で腰を振る、はたから見ればみっともない姿だろうけど私に思いつくのはこのくらいしかない。ぬちぬち、ふしだらな水音が私をかき立てる。ぎこちなく腰を動かす私にエースは目を丸くしていた。

「……そんなに欲しかったんだ」

 欲しかった、いっぱい欲しかったよ、エース。返事をするよりさきにぐっと腰を掴まれ、思いっきり奥へと突き上げられる。突然の衝撃に背中が仰け反った。そのまま激しい律動を続けられ、視界が点滅する。
 きもちいい、そして奥までエースに満たされてることがひどく嬉しかった。興奮した表情、余裕の無い顔、私しか知らないエースの姿におなかの奥が熱くなる。
 揺さぶられて穿たれて、ピンと爪先が伸びる。奥に宛がったまま、腰をぐるりと回された瞬間、一際強い快感が流れ込んできた。あ、と思ったときにはもう達していて、中のエースをきつく締め付けてしまっていた。
 低い唸り声をあげてエースが吐精する。自分が付けた膜に遮られているから流れ込むことはない。なのにまるで子宮へ飲ませるかのようにエースは奥へと擦り付けてくる。
 しばらくしてエースが中から抜けていく。まだ興奮が冷めてないのか、エースの目元や頬は紅潮していて何とも言えない色香を感じた。

「まだ欲しい?」

 おなかの上をエースの指がなぞる。ハートの形を指先で描く彼は目を細めている。まだほしい、潤んだ赤色はそう訴えかけてきていた。
 ここでもういいと言えば、今日いっぱい意地悪された仕返しになるだろう。でもそんな事よりも彼を喜ばせたい。だから「いっぱいほしい」と素直に口にすれば、嬉しそうにエースは微笑んだ。

「で、結局さ。お前なんで焦らしプレイみたいなことしてたわけ?」

 夕食中にそんなこと聞くか?
 だいぶ遅くなってしまったし、激しい運動のせいもあり、お腹はぺこぺこで。だから意気揚々と食事に手を付けようとしていたのに出鼻をくじかれた。
 というかこの話、もう終わったんじゃなかったの?
 今の私は信じられないものを見る目をしてしまってると思う。だがエースは全く気にしている様子はない。気にして。

「お前みたいなぶきっちょが焦らしプレイみたいな高度な事できるとか思えないし」

 我が彼氏ながらシンプルに失礼である。ただ今のエースの発言や態度を見る限り、意地悪ではなく単純に疑問に思っているだけらしい。
 何も深い理由なんてない。ただなんとなく怖かっただけ……それでエース、納得するんだろうか。若干躊躇ったものの、他に良い理由なんて浮かぶ訳もなく私はそのまま口に出すことにした。

「別に気持ちよすぎて怖かっただけだよ」
「オレに触られる時は平気なのに?」

 エースの質問に頷く。原理はわからないけど、その通りだったから。それにエースは「ふーん」と気のないような返事をしながらも、何か考え込んでいる様子だった。
 もういいだろうか。また顔が赤くなってるのは自覚しつつも、料理を掬おうとしたところ、エースに「ねえ」と呼ばれた。

「食べ終わったらもう一回してもいい?」
「なんで?!」

 ご飯前にも散々へろへろになるまでしたのに。反射的にツッコんだ私は間違ってないと思う。
 そんな私からエースは少し視線を逸らす。その頬は微妙に赤らんでいて。

「……また興奮したからだけど」

 ——嬉しかったんだから、しょーがないじゃん。
 ぽつりと呟かれた言葉はなんとも単純でわかりやすい。またという事はこれは二度目で、一度目が何を指しているのか、意図せず理解してしまう。
 そういえばエースって照れ隠しに意地悪する癖あったなあ……と思い出した私は迷った挙げ句「エースのすけべ」と悪態を吐きながらも彼のお誘いを拒まなかった。

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