死んでも言えない

「……は?」

 意外にも常識人のエースのこと、私のお願いに彼がこの反応を見せるのは予想通りだった。だからこそ、たくさん予行練習してきたのだけれど……いざ本番(現在進行形)では全く練習の成果を発揮できていない気がする。
 だって今も、もう一度口にしようとしているのだって、かなりぎこちない。それでも何とか絞り出す。

「だ、だから、その……む、胸触ってほしいの。エースに」
「……お前、自分が何言ってるか、わかってんの?」

 いつもよりも低い声色にびくつく。そっと確認した彼はひどく険しい目つきをしていて思わず息を呑んだ。どうしよう、これ絶対に怒ってる。
 困惑させてしまうのはわかっていたけれど、まさか彼を怒らせてしまうとは思っていなかった。例え断られるとしても茶化されて終わりだろうなって。
 でも彼が怒るのも仕方ないと思う。私の胸に触りたくなるような魅力は全く存在してないから。けれど、残念ながらこればっかりはエースにしてもらわないと意味がないのだ。

「手間だろうし、こんな胸じゃ楽しくないと思うけど、でも」
「そうじゃないでしょ。男にそんな事頼むのが間違ってるって言ってんの、ましてや好きな奴がいるなら尚更」

 好きな人が振り向いてくれるように大きな胸になりたい、男の人に触ってもらえば大きくなるらしいからエースに手伝ってほしい。
 私の頼み事の全文はこうだ。私が恋してると知って気遣ってくれるエースには悪いのだけれど、実のところ、男の人の前には(好きな)がつくし、その好きな人は他でもないエースである。
 本当はこんなお願いをするより先に告白すべきなんだろう。でもこの胸がコンプレックスになってどうしても言えそうにない。自分でできることは全部試したが、まったく効果は出なくて。だからといって、これでは本末転倒なのもわかってるけど。

「ごめん。でもエースにしか頼めないの。だから、おねがい……」

 一度口にしてしまった以上、もう取り返しは付かないのだ。後には退けない。ダメ元で頼む私にエースは鋭い視線を崩さない。
 はあ、と大きく息を吐いたエースは冷めた表情のままだ。腕組みをしている彼は爪先で床を叩きながら、私へ質問を投げかける。

「オレが何をしても文句言わない?」
「い、言わない!」
「……お前ってば救いようのないバカだね。まっ、そこまで覚悟してるならやってやるよ」

 確かに自分でも馬鹿やってるなとは思うけど評価ボロクソ過ぎでは?
 だがどう考えてもまっとうな事を言ってるのはエースだし、例え私に分があっても口達者な彼に勝てる気は一ミリもしない。なのでベッドの上へと移動したエースの手招きに反論することなく従って。

「やっ。やだ! もう、だめ……! えーす、おわりっ、おわって……!」
「文句言うなって」
「ひあっ、んん、んぅ……」

 エースに後ろから抱きかかえられる形で、私はかれこれ三十分エースに胸を触られ続けていた。
 下着は着けたままだし、ブラウスだって脱いでない。なのに私はエースの手さばきにすっかりできあがっていた。今は絶対鏡を見たくない、あとエースが背後にいてくれたのは幸いだった。きっと今の私はかつてなくみっともない顔を晒しているだろうから。
 自分でマッサージした時はなんともなかったのに。最初は好きな人に触ってもらえることにドキドキして、そこからちょっとむずむずするなあと思って……気が付いたらこんな状態になっていた。

「服着たままなのにお前感度良すぎでしょ、どんだけ弄ってきたわけ?」
「ち、ちがう……!」
「何も違わないじゃん」
「自分で触ってもこんな事ならなかったもん! エースが、エースが、触るからぁ、あっ」
「……ふーん、オレのせいなんだ」

 私の必死の説得に対してのエースの答えは怒ってる声色ではなかった。でも彼の手付きがさっきよりも激しいものになる。
 身悶えて今にも暴れ出しそうだったからだろう。エースの片腕がお腹に回されホールドされる、これじゃ逃げられない。

「何にせよ、こんなんで弱音吐かれてちゃ困るんだけど。そのうち直で触るんだし」
「えっ、直って」
「どうしても都合が付かない日以外はやってやるからさ。さっさと慣れた方がお前の身のためだよ」
「ひえ」

 エースからのアドバイスもとい宣言に、今更ながら私は自分がまずい選択をしてしまった事に気付くも、自分から言い出したせいで撤廃できるはずもなく。
 その日は結局、更に三十分触られて、ようやく解放されたのだった。

「監督生、お前やっとエースと付き合い始めたのか?」
「えっ」

 エースによる育乳マッサージが始まって数日経ったある日のこと。
 学校で二人っきりになったタイミングでデュースがそう尋ねてきた。彼は私がエースに恋をしていることを知っていて、普段から相談に乗ってもらっている。だからそういった質問をしてきても何らおかしくはないのだけれども。

「最近エースがオンボロ寮に通い詰めてるってグリムに聞いたんだ。だからそう思ったんだが……」
「残念ながら付き合って、ないね」

 なおグリムも私のエースへの恋心を知っている。しかもやたら協力的で、エースがやってくる日は「まったく世話が焼けるんだゾ」と言いながらハーツラビュルやらサバナクローへと泊まりに行ってくれるほどである。私の親分は大変頼りになる、終わったらバイト頑張ってツナ缶たくさん買ってくるね……。
 ただそれに甘えて、お付き合いよりやばいことをしてるんだけども。もちろんそんなただれた状態になってるなんてこと、純粋に応援してくれているデュースやグリムには口が裂けても言えないので言葉を濁す。
 たぶん知ったら知ったで「それより先にやることがあるだろう」と冷静にツッコまれそうな気もするけど。なんだかんだデュースって頭の回転は悪くないからなあ……。グリムも意外なところで常識的だから引かれそうだ。絶対バレないようにしないと。

「そうなのか……僕は悪いようにはならないと思うけどな」

 デュースはそうやって励ましてくれるが、今の私にはまだエースへ恋人の立場を求められる勇気が無い。例え、もっととんでもない事をしでかしていたとしても、だ。この話はエースが現れたことで打ち切られて。
 そして放課後、いつも通りオンボロ寮のベッドの上でジャケットを脱いでいた私にエースが質問を投げかける。

「そういえばお前さ、さっきデュースと何の話してたの? 随分楽しそうだったけど」
「えっ、えっと……ヒヨコの雌雄判別の話、かな?」
「いくらなんでも、もうちょっとマシなごまかし方あったでしょ。……へえ〜、オレには話せないんだ」

 話せるならとっくに告白してる〜〜〜!なんて、言えるはずもなく黙り込む。エースもそこから終わるまで何も喋らなかった。
 ただ、その日のマッサージはこれまでで一番ねちっこくされた。どうして。

「んっ、ふぅ、あ、あ、あっ……」
「なー、。下着越しじゃわかんないんだけど、これ効果出てんの?」
「ひぅっ、やっ、えーす、耳元で喋らないでぇ……」

 ブラウスも取っ払われ、下着の上からエースが胸を揉む。いっそう感じるようになったエースの手の温度と、そこからもたらされる刺激に思わずぎゅっと目を瞑ってしまう。
 こんなみっともない声聞かせたくないのに我慢できない。どうしよう、エースはただマッサージしてくれてるだけなのに気持ちよくてしょうがない。
 彼の質問に答えようにもエースの耳元での囁きに、考えていたことは全部吹き飛んでしまった。耳が弱いのもあるけれど、それ以上にきっとエースの声が好きだからこんな事になってしまっているのだろう。

「感度は良くなってるけどさ。ちょっとは大きくなったわけ?」
「ん、んん、あッ、えーす、あっ、ぁ……」
、話聞いてる?」

 ぐいと強引に顔をエースの方へと向けられる。あまりに突然の事で取り繕えなくて、それどころかしばらく何が起こったのかも分からなかった。
 私の情けない表情を見てエースが眉を顰める。見てほしくない、けど顔をエースに掴まれてるせいで逸らせない。止めてほしくて「えーす」と口にした名前は自分でも嫌になるくらい弱々しかった。

「……お前が"オトモダチ"のオレに触られただけで、そんなとろとろの顔しちゃう、えっちな女の子だってお前の好きな奴が知ったら……どう思うだろうね?」

 そう告げるエースはなんだか皮肉めいた笑みを浮かべている。彼がなんでそんな意地悪な顔をしているのかわからない。
 それよりも彼の台詞の方が気になってしまった。私がこんなはしたない女の子だって知って、エース幻滅しちゃったのかな。気持ちいいのと不安で頭がぐちゃぐちゃになる。だからなんだろう、気付けば私はそれを口にしていた。

「えー、すは……えっちな女の子、きらい……?」
「〜〜〜〜ッ、だ、い、す、き、で、す、け、どぉ?!」
「ひぁあゃっ?! ふあっ、やあ、だめ、えーす、はげし、あっあああッ」

 質問を終えた途端、急にエースがさっきよりも強く触ってきて。やだやだと必死に訴えるけど全く彼の手は緩まない。それどころか、私が暴れるから抱き留める彼の腕にも力が籠もって、普段よりも密着してしまう。
 ドキドキのオーバーヒートとか、体力が尽きたりで、最終的にぐったりしていた私はエースが許してくれるまでひたすら胸を触られることになったのだった。

「監督生、お前本当にエースと付き合ってないのか?」
「あのデュース、どうしたの……?」

 もはや定例とかした相談会にて、開始早々私はデュースに詰め寄られていた。敵意や害意がないのはわかってるが、しょっぱなからアクセル全開の彼に気圧されてしまう。
 私の思わしくない態度に成就していないと判断したのだろう。デュースは腕組みしながら悩んでいるようだった。

「先日エースにも確認したんだ、監督生と付き合ってるのかって」
「えっ」

 思いもよらない報告に硬直する。実直さはデュースの長所だが、所詮は友人の色恋沙汰である。だからそこまで大胆に彼がぶっこんでいくとはまったく想像していなかったのだ。
 本来ならエースの返答に怯えていたのだろうけど、先程のデュースの質問からして悪い反応ではなかったと予測できて。緊張にこくりと唾を飲む。

「……そ、それでエースはなんて……?」
「『もしも、そうだって言ったら?』と逆に質問されたんだ。だから『応援する』と言ったんだが……微妙な顔してたな。けれど否定にされなかったものだからてっきり叶ったとばかり。何か進展はあったのか?」

 デュースの質問にひとまず頷く。それに「そうか!」と破顔する彼にちょっと良心が痛んだ。ブラウス越しから下着越しに変化したので、ある意味進展はしてるので嘘ではない。嘘じゃないけど、ね……。
 残念ながら期待していたほどエースの心中がわかる答えではなかった。否定されなかったとはいえ、エースらしいはぐらかし方だよなって。エースは恋愛なんてしばらくごめんって言ってたし、話題にするのも嫌だったのかもしれない。
 ……私もたまにはガッツリ突っ込んだこと聞いてみような。当の本人じゃなくてデュースを挟む形になっちゃうけど、こんな事聞けるのデュースぐらいだし。

「デュース、嘘偽り無く答えてほしいんだけど……やっぱり男の人って胸が大きい女の子の方がいいよね」
「えっ、えっと、女性の魅力は胸だけじゃ」
「覚悟してるから大丈夫だよ。それに男装してた時にオンボロ寮に隠させてって頼んできた本、二人とも巨乳物だったの忘れてないし」

 う゛っとデュースが唸り声を上げる。私が女だと知ってから即座に回収されたし、もの凄く謝られたものの、二人ともこの件についてはかなり気にしていたのだ。なので卑怯な手だとは思うが、率直な意見を得るためにもその罪悪感を利用させてもらうとしよう。
 質問に対してデュースがスッ……と一瞬、私の平らな胸を見て、すぐさま目を逸らしたのはそれでチャラにしてあげるつもりだ。

「その、最近のエースなんだが」
「うん」
「……やたら僕に巨乳物を勧めてくるんだ」
「そっか……そうだよね。大きい胸の方がやっぱりいいよね。デュース。言いづらい事、聞いてごめんね」

 ぺたと自分の胸を押さえる。掌の下の心臓がずきずき痛む、わかっていてもショックを受けてる自分はなんて滑稽なんだろうか。
 見るからに落ち込んでいる私にわたわたとデュースが慌てて「タイプなんてあんまり当てにならない」「お前にはお前の良さがある」と必死に慰めてくれたが、どうにも気持ちは沈んだままだ。
 改めてエースの好みから自分が外れているショックもあるだろうけど、たぶん生理前で情緒不安定だからだろう。なかなか浮かび上がれそうもない。
 大きくもないくせ、一丁前に張ってる胸がいつも以上に憎らしくてしょうがなかった。

「エース、あのね。今日は普段より敏感になってるから、優しくしてほしい……」

 いつも通りの準備が整い、触れられる直前にエースへお願いする。普段なら腹巻きを付けてるけど、エースにあの野暮ったい姿を見られるのが嫌で今日は装着していない。だから剥き出しになって冷えちゃうかもしれないおなかを押さえておく。

 部活が忙しかったようで、しばらくエースの訪問は途絶えていたのだけれど、予想していたとおり昨日、毎月のアレがやってきてしまった。幸い今回は軽いとはいえ、胸の張りはしっかり残ったまま。
 健康面で言えばこうして狂い無くやってくることに感謝すべきなんだろう。でもどうせならエースが来なかった期間に終わってほしかったなと。
 というのもエースに触ってもらえるのが嬉しくて、だから邪魔になりそうなこの胸の痛みが嫌で仕方なかった。最初は本当に胸を大きくしたい一心だったのにな。

「……もしかして生理?」

 どうしてと尋ねられたら気まずいなと思っていれば、ずばり当てられていっそう居たたまれなくなる。
 過去に何度か生理痛が酷かった時はいつもエースが面倒を見てくれた。最初はグリムから子分が死にそうだと言われたらしく駆けつけてくれて、それからは隠していても「お前、調子悪いんでしょ」と何故かバレてしまうのだ。
 今回は……手品には観察眼が大事というからそれと、あとはさっき言った通り私の生理周期が安定しているのと、何度もお世話をしてもらってるせいでなんとなく周期知られちゃってるので、わかっちゃったんだろう。
 嘘を吐いた所で見破られるので正直に肯定する。それにエースは私から離れて、脱いだ服を拾って押しつけてきた。

「あの、エース」
「体冷やしちゃだめじゃん。早く着て温かくしてなよ」
「むね……」
「調子悪い時までやるもんじゃないでしょーが」

 私にそれを言いつけるとエースは部屋から出て行く。ただ持ってきた鞄を掴んでいかなかったのとこれまでの経験上、おそらく台所に向かったんだろうなと。
 制服に皺を付けるのは憚られるのでパジャマに着替えて、彼に言われたとおり掛け布団へと潜り込む。
 そうして布団の中で大人しく待っていたところ、エースが部屋に戻ってくる。その手には予想していた通り、湯気の立つマグカップがあった。

「ほら、ホットミルク」
「ありがとう……」
「それ飲んで大人しくしてろよ」

 手渡されたマグカップに口を付ける。じんわりと広がる温かさに心が落ち着くのがわかった。
 ほう、と息をつく。いつの間にかベッドの傍へ、エースが椅子を寄せて腰掛けていた。ぱふぱふと掛け布団の上からお腹の辺りをエースが優しく叩く。完全に子供を寝かしつける体勢だ。
 おずおず彼に近い方の手を伸ばせばエースが握りしめてくれる。最初の時、痛みで不安がって「もうやだ」「怖い」と泣きじゃくっていた私を見かねてしてくれたのだが……それからも私はその優しさに甘えてしまっていた。
 エースはなんだかんだ文句は言っても面倒見が良くて、あんな馬鹿みたいなお願いにも応えてくれるぐらい優しくて、つい勘違いしそうになる。自惚れちゃだめなのに、どうせエースには手のかかる妹ぐらいにしか思われてないんだから。
 エースはかっこいいし、こんな風に手慣れた様子で女の子の世話できて、きっと今までいっぱいモテてきただろうし……。体が温まったのと手から与えられる安心感に睡魔が訪れる。眠気に頭が回らない。

「……えーす」
「何?」
「えーすは……ほかのおんなのこのむね、さわったこと、ある……?」
「はっ?」

 エースの表情が歪む。自分でも何を聞いてるんだろうと思う。でも眠気にブレーキが壊れた今、自分でもどうにも押さえられなくて。
 グレートセブンを知らない私達を馬鹿にした時と同じ顔をエースは向けてくる。うーん、何度見ても腹立つなあ。

「だったらどうすんの?」
「……その、やだなあって」

 他の女の子みたいに膨らみは皆無だし、他にも変だし、知ってたらきっと比べられてもっと嫌がられるだろうなって言うのもある。でもそれ以上に好きな人が他の女の子とイチャイチャしてたのは考えたくないなって。
 彼女でもない私がそんなこと言う資格ないのにな。今にも眠りそうになりながら、そう考えていたなら握りしめてくれていた手が掛布越しに私の胸へと触れる。

「……お前が初めてですけど」
「そう、なの? えーす、かっこいいのに……?」

 何故か拗ねたようにエースが口にする。意外な答えに驚きながら返せば、彼の目が丸くなった。
 それからエースはふいっと顔を逸らしてしまって。でも耳はゴスマリのあの問答の後みたいに赤くなっている。褒められた事に照れているのか、エースぐらい顔が良ければ言われ慣れてそうなものなのに。

「お前のそういうとこ、ホンットムカつく……終わったら直で触るから」
「えっ」
「せいぜい覚悟しといてよ」

 エースも可愛いところあるよなあと微笑ましくなっていた状況で与えられた宣言に顔が引きつる。ぽんぽんと優しくあやす彼の笑みはまったく甘くないであろう悪魔のそれだった。

「やだやだやだぁ!」
「往生際悪いの止めてくんない? 直で触るって言ったじゃん、オレ」
「脱がすなんて聞いてない!!」

 悪魔の宣告から数日後、胸のマッサージが再開されることになり、いつも通り下着一枚になったところまでは問題無かった。
 だけど今日はエースが前に座り出したことに動揺していたなら、ブラジャーに手をかけられて。慌てて身をよじり逃げ出した私は胸を腕で隠して必死に抵抗していた。
 部屋の外へ行くという選択肢は今の姿からして存在しなくて、そもそも焦りすぎて後ずさることしかできなかった。だからあっという間に寝台の頭へと追い詰められてしまって。
 だとしても絶対にこの胸を見られたくない。けれど男女の力量差は圧倒的で、あっけなく腕はほどかれ、ブラジャーをずりあげられてしまった。

「いや、いやぁ……みないで、えーす……」

 情けない涙声で訴えるけど、エースは私の胸を凝視して固まっている。
 どうしよう、見られてしまった。蚊に刺された跡みたいな膨らみも、人と違って変な形の胸の先も。エースは大きなちゃんとした胸が好きなのに。
 見ないで、嫌わないで、ごめんなさい。そう、ぐずつきながら訳も分からず謝っていれば、エースは舌なめずりして……えっ。

「ははっ、えっろ」
「ッひう」

 ぱくりとエースが胸の先を咥えて。突然のことにパニックになりながらも彼の頭を引き剥がそうとするが、じゅっと思い切り吸われて力が抜けていく。
 非現実的な光景に頭が理解を拒むけれど、彼が与えてくる刺激がこれは現実なのだと訴えてきて。なんでこんなことになってるの。私の胸、変なのに。エースが好きな胸じゃないのに。
 ちゅうちゅうと吸い続けていたエースがゆっくり口を離す。そこにはぷくりと顔を出した隠れていたはずの先端があった。洗わないと汚いから自分で何とか取り出していたので見るのは初めてじゃない。でもエースによって晒されている事実がどうにも受け入れがたかった。

「あー出てきた出てきた、じゃこっちは指でやろっかな」
「きゃうっ」

 埋まったままのもう片方の乳輪をエースは爪で軽くなぞる。くにと中の物に触れるように指を入れられた瞬間、あまりに大きな刺激に悲鳴を上げてしまって。頭をぶんぶん振って再び激しく抵抗し始めたからだろう。すぐさまエースの指は抜けていった。
 ただそれに安心する間はなかった。すぐさま、ぐにぐに先端を押し出すように親指と人差し指で挟んできたから。エースが器用だからか、それとも好きな人がしているという興奮のせいなのか。まもなく自分でするよりもあっさりと両方の先端が露わになった。
 自分が触った時よりも赤くなっているそこをすりすり優しく指の腹で擦られる。やだ、と啜り泣くような自分の声はひどく甘い。

「やっ♡ やだぁ♡ あっ、んぅうっ♡」
「普段隠れてる分、ここ敏感なんだ」

 ぴんっと指で弾かれ、びくびく体が震える。エースの言うとおり、胸の周辺を触られる時よりも刺激を受け取ってしまう。
 両方の先端を摘ままれて、軽く引っ張られて、ちょっと痛い位にされてるはずなのに全部気持ちいいに変わってしまって。お腹の奥からじわじわ熱いものが湧き上がってくる。未知の感覚に怖くなって、気付けば無意識のうちにエースへと手を伸ばしていた。

「あっ♡ ふぁあっ♡ えーす、こわい、なんかきちゃう……」
「んー、もしかしてイきそう? お前、本当に胸弱いね」
「い、き……? わかんない、こわい、こわいよ、たすけて、えーす。ふああっ♡」
「大丈夫だから。オレの手で気持ちよくなっちゃうとこ見せてよ、

 片方の手が胸をまさぐるのを止めて、きゅっと私の手と繋いでくる。それだけでひどく安心してしまう、だってこの手は怖い時いつも助けてくれたから。
 例え同時に彼から追い詰められていたとしても、今までの築いてきた信頼の方が大きくて、だから彼に願われるまま快楽に身を任せてしまう。怖い、でもこれはエースがしてることだからだいじょうぶ、こわくない、から。

「えーす、えーす♡ あ、んっ♡ ひ、あっ、あ♡ ん、ん〜〜〜ッ♡」

 体の中で何かが弾ける。一気に登りつめた感覚にびくんと体が跳ね上がった。目の前がちかちかする、悲しくもないのに勝手にぽろぽろ涙が落ちてく。
 息が苦しい。はふはふと下手くそな呼吸しかできなくて、いっこうに乱れた息は整いそうにない。胸から離れた手が私の目元を拭って、続けざまに髪を撫でられる。さっきの暴力的な快感とはまた違う気持ちよさに思わずうっとりしてしまう。
 何とか息を整えて、エースを目に写した私はぴたりと固まった。視線の先には彼の下腹部があって、そこは膨らんで。思いも寄らない出来事に思考がフリーズする。
 男性経験がない私でもさすがに何が起きているのかわかる。ただどうしてと、なんでが、頭の中を占めていた。私の視線に気付いたエースがキッと眉をつり上げた。

「お前の胸触ってる時、いつもこうなってましたけど?!」
「な、なんで」
「好きな子に触って、えろい姿見て、聞いて、そんなの勃つに決まってんじゃん!!」

 キレながら大声でぶつけられた言葉に目が回る。さすがにこの距離じゃ聞き間違えることはなくて、じゃあ、それだとエース、私のこと、好き、って。
 まさかの展開にもうこれ以上はないと思っていたのに顔が更に熱くなる。混乱するあまり返事ができずにいれば、エースがきゅっと唇を噛んだ。照れた表情から一変して、泣きそうな顔をエースは見せる。

「もうオレにしてよ。デュースじゃなくて、オレのこと好きになってよ……」

 エースの今にも泣き出しそうな表情に思わず伸ばした手がぴたりと止まる。同時に疑問符が私の頭の中を埋め尽くした。えっ? どういうこと? なんでデュースが出てくるの……?

「オレがお前の好きな男わかってないと思ってた? 知ってたよ。デュースと二人で話してる時、いっつもあんな可愛い顔してたら気付くに決まってんじゃん。アイツ巨乳好きだからオレに頼んだんだろうけど、もう限界」
「あの、エース」
「オレはお前が好きなのに、こんなの、」

 ぽろ、とエースの目から涙が落ちる。滲んだスートが描いた線のせいでまるで血の涙を流しているようだった。あのプライドの高いエースが人前で泣き顔を見せるなんて、私はよっぽど彼を追い詰めていたらしい。
 彼の視点からすれば、好きな女の子が親友の為に自分に胸を触らせていた事になるわけで。うん、そりゃメンタルやられるよね! 心の中で必死に謝りつつ、私は慌ててそれを口にする。

「胸のあれ、なんだけど。本当はね、好きな人に揉まれると大きくなるって話なの……」
「…………は?」
「わ、私もエースが好き」
「は???」

 彼がこの反応になるのも仕方ないと思う。いや、だって私も今になって冷静に考えれば何やってんだって自分で自分にツッコミが止まらないし。あの時の私はどうかしてた。でも本当にこれしかないと思って、まあそのせいで今めちゃくちゃ拗れてるんだけども!

「デュースにはエースの事ずっと相談してて、エースの話してたからそんな顔してたんだと思う。あとエースも大きい方が好きだよね、オンボロ寮に隠そうとした本からして……」

 私の指摘にエースが頭を抱える。デュース同様、彼もまたあの件を引きずっているらしい。あの時も感じたけど、私のマブ達は紳士だなあ……。
 長らく私を悩ませてきたあの件についてはさっきの反応からして全く気にしてないんだろう。でもどうしても確かめたい、彼の口から聞かせてほしい。だから勇気を振り絞って私はそれを口にする。
 こんな現在進行形で更にダメージを食らってる彼には酷だと思うけれど、聞くなら今しかないから。

「私、この通り胸ぜんぜんないし、形も変だけど、エースいやじゃない……?」
「〜〜〜〜ッ、めちゃくちゃ興奮してますけど?! もうタイプとかそういうの関係無しにお前が好きなの、オレは!!」

 どうやら今のエースは一度弱ってるところを、彼にとって死んでも見せたくないであろう姿を晒してしまったことでヤケクソになっているみたいだ。一通り叫んで、ぜーぜーとエースは肩で息をしていた。
 そんな彼にぎゅっと抱きつく。すき、と零す私をエースが抱き返してくれる。

「私のこと、エースの彼女にしてくれる……?」
「……ん」

 私のそのおねだりにエースが身を離す。彼のぬくもりを失った素肌に寂しがっていたところ、エースが唇を寄せてくる。迷いながらも瞼を閉じれば、ふにとお互いの口が合わさって。うわエースの唇、やわらかい……!
 ちゅ、ちゅと角度を変えながら重なる唇が気持ちいい。告白もキスも順番が逆になっちゃったけど、彼の恋人になれたんだなとじわじわ実感が湧いてくる。しばらくして名残惜しげにエースの唇が離れていった。

「……これ以上は我慢できなくなるから」

 ずらされていた下着を元に戻され、ついでに落ちていたブラウスを手渡される。こうやってエースは私を大事にしようとしてくれている。だから、私はその優しさに甘えるべきなんだろう。
 でもブラウスを受け取らずに彼の足へと私は手を置く。?と尋ねられる私の顔はきっと真っ赤になってることだろう、それだけ恥ずかしいお願いなもので。でもどうしても譲れないからだろう、するりとその言葉は私の口から零れていった。

「が、我慢しちゃやだ……」
「……は?」
「そのエースに触られるの、好きだから、嬉しくて。もっと、ぜんぶ、触ってほしい……えっちな女の子で、ごめんね」

 謝る私の体が後ろへと倒れる。覆い被さるエースの顔も赤くて「大好きだよ、ばか!」とまた自棄になりながら叫んだ彼と再び唇が重なって。

「ひっ、ああ♡ えー、す♡ あ、っ♡ んんんっ♡」

 ちうちうと胸を吸われながら、秘部に入った三本の指が抜き差しされる。胎内に何かが入るのはこれが初めてなのに、事前に何度も絶頂させられたせいか全然痛くなくて。
 しかも私の反応を伺いながらエースが的確に気持ちいいところを刺激してくるせいで快感しか拾えない。今も器用に胸の愛撫を続けたまま、ぐいぐいと弱い部分へ曲げた指を押し込んでくる。
 口に含まれた先端を舌で転がされ、甘ったるい声が抑えられない。陰核を優しく撫でられた刺激に再び達したところでやっと彼の指が中から抜けていった。でもこれは終わりじゃなくて、むしろ始まりで。
 いつの間に付けたのか、ゴムに覆われたそれが秘部へと擦り付けられる。こんな大きいの本当に入るのかな、というか。

「エース、なんで、ゴムもってるの……?」
「まじまじ見ないでよ、ってか今それ聞く?!」

 確かに空気の読まない発言だった。ただもう醜態を見せたことで吹っ切れてしまったのか。襲わない自信がなかったの、とエースは律儀にぼやいてくれる。
 その回答に改めて私もの凄くエースに酷い仕打ちしてたんだなと心が痛くなった。本当にごめんね……。
 雰囲気を取り戻すためか、軽いキスを一つ贈られる。そして大きくて熱いそれが膣口へと宛がわれて、ぐっと押し込まれた。ぷちと何かを千切るような音を立てながらゆっくりと隘路を割り広げていく。
 いやというほどほぐされていたからか。痛みはほんの少しだけ。ただ埋め込まれた熱に圧迫されたお腹が苦しくて、ふうふうと呼吸が乱れる。自分で思う以上に辛そうにしていたのか、エースが心配そうな顔で頬を撫でてくる。
 と名前を呼ばれて唇を重ねられる。キスに気を取られているうちにエースが深く潜ってきて、気付いた時には彼の根元まで私の体は飲み込んでいた。繋がれた事が嬉しくて、ついふにゃと頬が緩む。
 私が慣れるのを待っているのか、エースはすぐには腰を動かさなかった。意志とは関係無くひくひく痙攣するおなかに触れる。掌の、更に皮膚の下で脈打つ熱を感じて。ああ、おなかの中、エースのでいっぱいになってるんだ。

「背中、爪立てていいから」

 そう言ってエースが体をかがめてくれたのに対して、ぎゅっと縋り付く。
 私の準備が整ったのを見計らって、エースが腰を引く。ずるずると抜けていく熱を恋しがるように私の中はきゅうと締め付けて。再び奥まで満たされて。それの繰り返しにだんだん頭が痺れていく。
 時折、陰核を撫でられたり、胸の先を舐められて、びくびく大げさなぐらい体が跳ねてしまう。こんな胸でも可愛がってくれることに、きゅんとときめいて、彼の事が好きだという気持ちが膨らんで。
 目を細めて私を見るエースは余裕の薄れた、とても気持ちよさそうな顔をしていて、それがひどく嬉しい。内壁を擦られるたび、ぞわぞわと快感が全身を巡って。奥を優しくノックされると、じわりじわりと気持ちよさが滲んでいく。
 初めてなのにこんなに気持ちよくなっていいのかな、やっぱり私えっちなんだなあ、快楽に鈍くなった頭で色々考えてしまう。でもエースが好きって言ってくれたから。

「あっ♡ えーす♡ わたし、も、だめ♡ あうぅ♡ ふ、あぁあ♡」
「オレも、もうイきそうだからっ」

 胸の先端を摘ままれながら、奥をぐりと抉られた瞬間、ばちんと体の内側で何かが弾けて目の前が真っ白になった。過ぎた快感に息が止まる。
 ただ働かない頭でも中で薄い膜越しにびくびくと脈打つ熱の感触は拾い上げていて。エースと一緒に気持ちよくなれた事実に胸がいっぱいになる。

「えーす、すき……」

 腕に力を込めれば、覆い被さってきた彼の体と隙間無く密着する。ぴたりと触れ合った肌に多幸感が増していく。巨乳だと胸が邪魔になってこうはいかないだろう。だから、至るまでの彼の言葉のおかげもあって、初めて私はこの胸で良かったなと思うことができたのだった。

「そうか、付き合い始めたのか!」
「お前ら手間かかりすぎなんだゾ……」
「ごめんね。デュース、グリム、今までありがとう」

 散々デュースとグリムには迷惑を掛けた自覚があるので、付き合い始めた次の日にエースと共に二人に報告する。純粋に喜んでくれるデュース、呆れながらも安心した様子を見せるグリム。私は本当に良い友人と親分に恵まれたなと嬉しくなった。
 エースもエースで何かデュースに相談をしていたのか、デュースへと「悪かった」と小声ながらも謝っていた、でも言われたデュースは分かっていないみたいで首を傾げている。それにエースは微妙な表情を浮かべていて。
 そんな和やかな雰囲気の中、ふとデュースが思い出したかのよう私達へと問いかけた。

「ところで、二人は何がきっかけで付き合ったんだ?」

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