いい夫婦えんちょうせん
「……その、久しぶりに、えっち、したいなって」
夕食後、デザートのチェリーパイに何か要望があるのだと悟ったエースが「で、今日は何のおねだり?」と聞いてきたから、そう答えたまで。
一拍置いてエースの手にあったチェリーパイがぼとりと皿の上に落ちる。さっきまでの意地悪そうな顔はどこへやら。私の発言にエースはあんぐり口を開き、ついでに目も見開かれていて、驚いているのは一目瞭然だった。
それは私からの滅多にないお誘いのせい……ではなくて。エースの視線が私の腹部へと移る。
「え、いや、ダメでしょ。お前、おなかに赤ちゃんいるのに」
妊娠5ヶ月目となれば、だいぶおなかはふっくらしてきた。順調に育っているようで、もう少ししたら胎動を感じるようになるだろうとお医者様には言われている。
年末に妊娠が発覚してから早三ヶ月。あれ以来、目に見えて過保護になったエースの事だ。彼がそう返してくるのは予想していた。
だからあらかじめ用意していたそれを机の上に置く。彼が仕事から帰ってくる前にちゃんと清書して、我ながら綺麗にまとめられたと思う。学生時代、散々私のノートを借りて見慣れているのだから問題無く読み進められるだろう。
「……なんでお前、こう無駄に思い切りいいわけ……」
「無駄じゃないよ。お医者様だって大事な夫婦のコミュニケーションだってノリノリで答えてくれたし」
渡したルーズリーフを読み上げた後、エースは頭を抱えていた。異論を唱える私に彼は微妙な表情を浮かべてみせる。
そこには本日の定期検診でお医者様に確認してきた妊娠中のセックスについての注意事項やらが事細かに記載されている。ついでにお医者様の「子供生まれたらそれどころじゃないから今のうちにイチャイチャしとけ」と言われたことも書いておいた。
いつもみたいに付いてきてくれたならお医者様と一緒に説得したのだけれど、今日はどうしてもエースの仕事の都合が付かなかったのだ。だから私一人で何とか持ち込まなければならない。
「私がしたいって言ってもエース一人で処理しちゃうの、すごく寂しい。エースに触ってほしいし、私だってエースに触りたい」
妊娠する前はほぼほぼ毎日抱かれていたのに、発覚した途端そういった触れ合いはすっぱり無くなって。もちろん私とおなかの子を思ってのことだというのはわかる。えっちな事こそしないけど、大事にしてくれているのは普段のやりとりから十分過ぎるほど伝わってきているし。
あと当然ながら浮気しているわけでも、私にムラムラしなくなったというわけでもないのだ。ぺったりくっついたりした日には前を大きくしてるし、夜中にそそくさトイレに行ってるし。
エースの心遣いは嬉しい。でもだからといって、気付いた私の申し出を「余計な心配しなくていいからお前は自分とおなかの子の事だけ考えてればいいの」と一切合切お断りするのは間違ってると思うのだ。
「気持ちはわかるけど、それでもやっぱり、さ」
「エースといちゃいちゃしたいの……だめ?」
エースはだいぶ葛藤している様子。これなら後一押しすれば……!
なので我ながらちょっとあざとすぎるのではないか、そう思いつつ精一杯かわいく見えるように心がけながらおねだりする。夫婦は似てくるって言うし、きっとエースのが移ったのだろう。
エースは基本的に私に甘い。それに自分で改めて言うのは照れくさいし、未だにこんなカッコイイ人がと信じられない気持ちもちょっとあるけど、私のことが大好きなので、きっと私が望んでるなら乗ってくれる……はず!
「〜〜〜ッあ゛ーー! もうわかった、わかったよ! する、から」
覚えるまで読ませて、と呟いたエースがルーズリーフを握りしめる。それに改めて大事にされてるなと頬を緩ませてしまう私であった。
◇
いつもしている、いってきますとただいまのキスとは全く違う、久々の深い口付けに瞳がとろけるのが自分でもわかる。体位的に難しいと言っていたから、おそらく始まる前にいっぱいしておこうという算段なのだろう。
お互いの唇を十分堪能したならば、エースが服を脱いでいく。私もそれに合わせるように自身の服のボタンを外す。いつも気が付いたら脱がされているので何だか新鮮で、あと今からセックスするのだとまじまじ突き付けられているようで、ちょっと恥ずかしかった。自分から切り出したのになあ。
裸になったところで彼に背を向けるようにして横たわる。エースが私の背中側に添うように身を寄せて、おなかへと腕を伸ばし優しく撫でてきた。
「お腹張ったり、どこか痛くなったらすぐ言ってよ」
「うん」
する、とエースの手が胸へと移動する。いっぱいしていた頃よりも少し大きくなった膨らみにエースは優しく触れる。子宮が収縮してしまうからだろう。胸の先は避ける手付きはありがたくて、ちゃんと覚えていてくれた事が嬉しかった。
胸の膨らみを一通り可愛がり終えたエースがそっと抱きしめてくる。絶頂するのも危ないからだろう、普段とは違って随分緩やかな愛撫だった。波に攫われるような激しい快感はない、でも物足りなさどころか心地よく満たされていくばかりだ。
やわく触れ合った肌と肌が、じんわりと伝わってくるエースの体温が、気持ちよくて愛おしい。
「えーす、きもちいい……」
「……そっか。でも無理しないでよ」
すっかり潤んだ秘部にエースの指の先が埋まる。中の具合を確かめるようにゆっくりと動かして、丁寧に中をほぐしていく。いつもの私を高みに登らせるための指使いじゃなくて、繋がるための繊細な動きに何だか胸がくすぐったくなる。
十分過ぎるほど開かれた末にエースの指が胎内から抜けていく。ピリッと聞き慣れた、それでいて懐かしい音がすぐ後ろから聞こえた。
「、ちょっと片足上げられる? ……ん、上手」
言われるがまま上側の脚をエースの膝と太股の境に乗せる。もう片方は絡めるようにエースの足の間へと挟み込んで。さっきよりも密着する形になんだか嬉しくなってしまう。
ゴムに包まれたエースの熱が蕩けきった秘部に宛がわれる。とろとろと溢れている愛液をエースは性器全体に塗りたくるかのよう擦り付けて。期待にこくりと小さく喉が鳴る。
くぷり、その音を機にエースの熱が秘部へと潜っていった。
「んっ、ん……」
「……苦しくない?」
「うん、だいじょうぶ。その、えーすの、いっぱいで、うれしい……」
ゆるゆる引いて押して、少しずつ奥へと進んで、時間を掛けてエースの熱が全部収まった。その事に喜ぶあまり、彼が入り込んでいるであろう辺りを撫でてみる。じわりとおなかの下から彼の熱が伝わってくるようだった。
まだ入っただけ、なのに既にふにゃふにゃになっている私の耳にエースの溜め息が届く。あのな、とちょっと怒ったような声でエースが耳元で囁く。
「久しぶりで余裕ないから煽るようなこと言わないでよ」
「……えーすも、きもちいいの……?」
「そりゃあ大好きな嫁さんと久々にいちゃいちゃできてんだから、気持ちいいに決まってんじゃん」
入れてるだけでイきそうと。そう甘い吐息と共に零したエースの言葉に胸がキュンと疼く。
赤ちゃんの為にもあまり激しく動く訳にはいかない。だからエースの余裕のなさは幸いで、何よりそんなにも私の体で興奮してくれていることが嬉しくて喜ばずにはいられなかった。
それからエースは気持ち程度しか動かなかった。ただ二人の繋がりを楽しむだけのそのセックスは、普段の突き抜けるような快感こそ存在していなかったものの、信じられないぐらい気持ちよくて。
とくり、としばらくして体を震わせたエースが吐精する。ゴム越しに感じる彼の熱、その心地よさに浸りながら私は瞼を閉じた。
◇
「すごかった……」
服を着せてもらって、後処理を終えた彼の腕に収まって、それでも行為の余韻から私はまだ抜け出せずにいた。寝かしつけるためか、ふにゃふにゃ状態の私の体を掛布の上からぽんぽんと優しくエースは叩く。
「満足した?」
「……わかんない」
「そこはうんって言うとこでしょ……何がダメだったわけ?」
正直な感想を述べれば、エースはいかにも不満げな顔を見せる。けども即座に改善に努めようとする所に、私は本当に素敵な人と結婚したのだなと思い知る。
「だめというかね」
「うん」
「すごく満たされて嬉しくて幸せで、だから、また、したいなあって……」
ぴたりとエースの手が止まる。続けてきゅっと唇を噛んで、はあと彼は大きく息を吐く。その顔は小さなランプ一つ分でもわかる位に赤くなっていて。
「……随分欲張りなお母さんなことで」
「お母さんである前に、エースのお嫁さんだからね」
かつての彼の発言を元にそれを口にすれば、エースは「なまいき」と唇を尖らせた。すっかり拗ねてしまったようだけども、敢えてその胸にすり寄って。
「好きだよ、大好きだよ。エース。この子に妹か弟ができても、ずっといちゃいちゃしようね」
ぐっと言葉に詰まった様子を見せて、エースはそれ以上何も言わなかった。けれどおなかの子を労りながらも力強く抱きしめてきたその腕こそ答えなのだろう。
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