大きすぎると逆に見えないこともある

『じゃあ付き合う?』

 告白は私からだった。勇気を振り絞った末のそれにエースが至って軽い感じで了承したことで、私達の交際は始まって。
 ゴーストマリッジの時の彼の発言からして、最悪、友人ですらいられなくなってしまうかもと覚悟していた私は予想外すぎる軽いノリにしばし呆然としてしまったものだ。
 あれから約半年。デートにキスにそれ以上のことも済ませて、世間一般的に見れば私達のお付き合いは順風満帆そのものだろう。でも私はそう思えなかった。

「あっ♡ えーす、だめ♡ んっ♡ あぁあっ♡」
「はいはい、逃げんなって」

 とちゅとちゅ、エースは緩やかに腰を動かしているだけ。それなのに私の嬌声は絶えず溢れて、びくびくと快感に体が震える。
 さっきから何度も高みに上り詰めてぐずぐずになっている私とは対照的にエースは涼しい顔のまま。それは性行為に限った話じゃない。手を繋ぐのも、キスをするのも、何ならエースと一緒にいるだけで私はいつもドキドキしてる。

「えーす、すき、すき……」
ってば、ホンット、オレのこと好きだよな〜」

 けど、エースは違うのだ。常に余裕たっぷりで、さっきみたく事ある毎にからかってくる。お前はオレのこと大好きだもんな、と。否定はできない。そう、私はエースが大好きだった。エースが私の事を好きじゃなくても、私はエースの事が大好きだった。
 私が彼に恋してしまったことで今までのような気安い友人関係ではいられないとわかったからか、それとも同情だったのか。彼氏になったとは言えど、エースは私に恋していないのだろう。私ばかりが好きなのだろう。
 恋はできずとも友人としては好ましく思っているのか、いたく大切にしてくれているから時折勘違いしそうになる。でも先程あげた所もそうだし、何より私は彼から「好き」と返されたことがない。そんな確固たる証拠がある以上、彼をもう無理に付き合わせるべきではないのだろう。
 わかってるのに。彼の優しさに甘えちゃいけないのに。どうしても私は別れを切り出せずにいる。

「うへぇ、マジかよ……」

 昨晩は泊まりに来た彼と共に自室で眠ったはずなのに、目が覚めたら私はエースと一緒に見知らぬ部屋に居た。先に起きていたエースは手に持った怪しげな小瓶と、部屋の入り口に掲げられた看板を見比べてうんざりした表情を浮かべている。
 この部屋についての都市伝説は以前、聞いたことがある。夢を介して、何かしら拗らせてる恋人達をその問題を解決させるのに最適解な条件を満たさないと出られない部屋へ閉じ込める、お節介な妖精がいると。
 その妖精だが厄介なことに、並大抵の者では太刀打ちできない強大な力の持ち主らしく、提示された条件を満たさない限りは目が覚めないのだとか。
 ただどんなに長く夢の中で過ごしたとしても現実では数時間程度に収めるように調整したり、記憶を現実に持ち越させてわだかまりを解消したり、おかげで前よりも仲良くなれたと感謝してるカップルも多いらしい。
 だが条件に対して乗り気でないエースの様子に、私は感謝どころかむしろ憎々しく思ってしまった。

『相手への想いの強さに比例して効き目が変わる媚薬を飲んでセックスしないと出られない部屋』

 出されたお題を確認して鬱々とした気分になる。あまりに残酷な脱出条件に私が何をしたっていうんだ、そんな気分にもなる。ただ文句を言ったところで状況は改善しないだろう。
 だから自分にとって少しでもマシな方向に進むよう誘導することにした。まあきっと叶わないだろうけど。

「エース。その薬、私が飲むよ」
「あのなあ、魔力ゼロのお前に魔法薬なんて飲ませられるわけねーじゃん」
「大丈夫だよ、所詮夢だし」
「お前もあの都市伝説知ってるわけね。でも現状がそうとは限んないでしょ……噂通りってわけでもないみたいだし」

 私の提案をエースは即座に一蹴する。予想通りの反応だった、なんだかんだ優しい彼なら私に魔法薬を飲ませるのは避けようとするだろうなって。その優しさが私を苦しめるとも知らずに。
 エースの中ではお題に従うという選択肢はないらしい。部屋中を観察して他に脱出口がないか探っている。けどどんなに見回しても部屋にあるのは鍵のかかった扉と薬とやたらめったら大きなベッドだけだ。
 それでもエースは諦めず色々試していたが、全て徒労に終わったらしく難しい顔をしている。薬はエースの手の中に残されたままだ。

「エース、薬貸して」
「止めとけって」
「いいから」
「……お前なんでそんなにこれ飲みたがるわけ? 大変な事になるの目に見えてんじゃん」

 エースの言うとおり、私が口にしたならばとんだ醜態を晒すことになるだろう。でも最悪の結果と比べればよっぽどマシだ。
 自分が飲む、そのスタンスを譲ろうとしない私をエースは訝しげに見る。彼もまた渡してくれる気は全くないのだろう。

「エースに飲んでほしくない」
「……そりゃ、まあ、そう思ってもしょうがないけどさ」

 納得した様子の彼にぶわっと今まで堪えていた感情が溢れ出す。わかっていたのに改めて突き付けられた現実にぼろぼろと涙が落ちていく。聡い彼のことだからこの反応は予測できただろうに、エースは何故か泣き出した私にひどく狼狽していた。

「効かないエースを見るの、やだ。見たくない。わかってるよ、わかってるから、見せないで」
「え? 、お前何言ってんの……?」

 どうしてエースが戸惑うのか。さっき自分でも認めてたじゃないか。言いたくない、でも言わなきゃわからないなら口にするしかない。張り裂けそうな胸を押さえつける。今にも死んでしまいそうなほど、痛くて痛くてたまらない。

「エース、私のこと、そういった意味で好きじゃないでしょ。私があんまりにも必死だったから付き合ってくれただけなんだって知ってるよ。私がどんなに言ったところで、エースは好きって一回も返してくれなかったから。でも、わかってても、はっきり突き付けられるのは……くるしい」

 こんな事言ったってエースを困らせるだけなのに。泣き止まなきゃと思えば思うほど涙が止まらなくなる。どうしたらいいんだろう、ぐずぐず泣きながら考えるけど全く名案は浮かばない。
 これが夢ならどうか早く覚めて。そう願っていたなら体が何かに包まれる、よく知ったぬくもりにエースに抱きしめられているのだと気付く。

「……ごめん。オレ、お前が好きでいてくれてるの嬉しくて浮かれてた」
「えー、す?」
「閉じ込められた時はなんでって思ってたけど……お前がそんなに悩んでたんなら、そりゃお節介も焼かれるよな」

 私から身を離したエースは止める間もなく薬を一気に呷る。即座に赤くなった顔も荒くなった息も隠すことなく、エースは私をベッドに押し倒して。頬に触れた彼の手はひどく、熱い。

「めちゃくちゃみっともないとこ見せるけど、引かないでよ」

「あ♡ ひっぅ♡ あぁっ♡ えーす♡ えーす♡ あッーー♡」
「はッ、……!」

 私を穿つエースの自身が一段と膨らんだかと思えば、続けざまに最奥へ熱を送り込んでくる。飲み込み切れなかった精液が逆流して結合部から溢れてお尻を伝って垂れていく感覚に身震いせずにはいられない。
 あれからもう何度、彼の精を中へ注ぎ込まれたかはわからない。だけどもエースのそれはいっこうに萎えることなく、私の中をがつがつと遠慮無く抉っていく。抽挿されるたびに精液が泡立ち、気泡が潰れてぶちゅぶちゅと音を立てていた。
 最初のうちは持ち合わせていたらしいゴムを付けてくれていた。でも使い切ってもエースの熱は収まらなくて。薬が切れるまで我慢しようとしていた彼に、こんな時でもエースは私のこと大切にしてくれるんだなと嬉しくなって「そのままでいいよ」と私から切り出したのだ。
 私の提案にエースはしどろもどろしていたけど、薬で自制が削られている状態かつこれは夢だという状況のおかげあって、最終的にはそれに乗って。
 そうして初めて生身のまま受け入れたエースの熱。一時の夢なのに、この夢はどこまでもリアルだ。だから普段とは違って、はっきりわかってしまう彼の形や感触にぞくぞくが止まらない。まるでこうなることをずっと望んでいたかのよう、私の粘膜は過敏に反応して、彼が与えてくる快感をいつもより受け取ってしまう。
 これまた薬の影響か、いつにも増して彼のそれが熱くて大きいせいもあるのだろう。いつも以上に深く繋がっている感覚に頭がおかしくなりそうだ。

「ん、んんぅ♡ えーす、たすけて……きもちよすぎて、こわいよぉ……ッあ♡ だめ、だめっ♡」

 この快感はエースがもたらしているのに、過ぎた快楽に馬鹿になってしまった私はつい彼に助けを求めてしまう。だが彼の律動は収まるどころか、いっそう激しさを増して。
 ごちゅんごちゅんとかつてない荒々しい動きに翻弄されることしかできない。ただそれに今までのセックスで随分彼に我慢させていた事を、いつまで経っても慣れない私に押さえてくれていたのだと知る。それに私の体も心も喜んで。
 子宮口を突然ごりごり強くこねくりまわされ、頭がショートする。今まで時間をかけて開発されてきたそこは甘く撫でられる事しか知らないのに、今のはあまりに強すぎる刺激だったから。このままじゃ壊れてしまう、そう思うのに私の脚は彼の腰へと勝手に絡んでいた。
 するするとおなかを撫でられる。その些細な触れ合いにすら私の体は感じて、きゅうと中の熱を締め付けてしまう。

「ずっと、こうしたかった。それにいつも思ってる。お前のここに、オレの赤ちゃんできればいいのに、って」

 ——お前が絶対にオレから離れられないように。
 ほの暗い熱を宿した目を向けながらのエースの言葉に、私は恐怖を覚えるべきだったのだろう。でも怯えるどころか私はそれを嬉しく思うばかりで。
 赤くなった肌がなす切羽詰まった表情も、拭われぬことなくこめかみから伝っていく汗も、ふーふーと興奮を隠しきれない呼吸も、彼が余裕を失っていることを伝えてくれる。私との行為でエースが乱れてくれている事実にときめいてしまう。

「だ、め」
「わかってる」
「……今は、だめ」

 続きは言わなかった。というより、次の瞬間ガツンと最奥を勢いよく叩かれた衝撃で言えなかった。ばちばち目の前で火花が散って、仰け反った喉からは悲鳴のような言葉しか出ない。
 突かれるたびに軽く絶頂して、その締め付けにエースが欲を吐き出し私の中を満たす。でもエースはまだ熱に浮かされたままだ。ひとまずの区切りなのか、口付けたなら再びエースはぐちぐちと中を擦り上げる。
 もうとっくに扉は開いている。直に触れ合うよりも先に、ガチャンと開く音を聞いた。それに外に出てしまえば、この夢は覚めて、エースの理性を蝕むこの薬だって解けるはず。
 でも、それでも、互い終わろうと口にすることはなくて。私は彼に抱かれ続ける事を選び、エースも取り繕わない事を選んだ。ぎゅうと彼の体に縋り付く。
 本当の意味で初めて繋がって溶け合って。だからなのだろう。今まで体を重ねてきた中で、一番気持ちよくて幸せだと思った。そして、これからはきっと、この気持ちが続くことを確信して。

 再び目を覚ました時、私は見慣れた部屋にいた。体勢のせいでちょっと確認に戸惑ったが、私達はちゃんと元の世界に戻ってこれたらしい。
 そうして一糸纏わぬ姿の私は同じく、何も着ていないエースの腕に収まっているわけなんだけども。がちがちに固められて抜け出せそうにない。
 情事さながらぴたりとくっついた肌に頬が火照る。こうして肌を合わせて迎えた朝はいつも昨夜のことを思い出して悶絶してるのに。今回に至っては夢で抱き合った記憶もあるのだ。普段の倍の羞恥心が私へ襲いかかる。でもそれ以上の多幸感のおかげでなんとか凌ぐことができた。
 今までは遠慮してたけど、通じ合った今ならきっと許してくれるはず。そう思った私はエースが寝ているのを良いことにすりすりと甘えてみる。

「エース、好き」
「そういう可愛いことは起きてる時にしてくんない?」

 起きてるじゃないか、という私の反論はぎゅうぎゅうに抱きしめられたことで遮られてしまう。
 昨晩までと違って素直に受け入れられるようになった彼のぬくもりの甘さに再び瞼が重くなる。たぶん夢のせいで精神的に疲れているせいもあるのだろう。
 もう朝だけれど今日は休みだから二度寝しても問題無い。ただそうなるとエースの朝ごはんが遅くなっちゃうけど、彼も巻き込んでしまえばいっか。企みながら再びすり寄る私をエースはしっかり抱き留めて。

「オレもが好きだよ」

 眠気はあっても、まだうとうとし始める前だった。おかげで幸いにも私はそれを聞き取ることができて。昨夜のおかげで彼の気持ちはわかったけども、改めて言われると格別なんだなあ。ふにゃふにゃ、頬が緩む。
 嬉しさあまった私は彼の手を取ってお腹に宛がう。それに?とエースが不思議そうに尋ねてきた。

「いつか、ね」

 だから夢の中で言えなかった続きを口にすれば、再びエースはのしかかってきて。朝から二度寝どころか、夢の中と同じ位ぐちゃぐちゃのめちゃくちゃにされてしまったのだった。まあ好きだから、いいけどね!

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