もう一回活躍させような

「なあー、今度裸エプロンでキッチン立ってよ」

 夫がそういった方面のリクエストをしてくるのは今に始まったことじゃない。洗い物をする私の後ろ姿をやたら眺めてるなあとは思ってたけど……おそらく脳内で服を剥がしていたのだろう。すけべか。
 いや、すけべだったわ。彼の仕事が落ち着くのを待って籍を入れて半年、二人暮らしを始めて以来ほぼほぼ毎日抱かれていることからして否定しようがない。夕食が終わってしまったので、たぶんこの後も寝室に連れて行かれると思う。十代だった頃の方が控えめだったってどういうことなの。
 まあ門限とか場所とか気にしなくて済むようになったからなんだろうけど。新婚である事を加味してもお盛ん過ぎでは?と思ったことは一度や二度じゃない。でも困った事にエースとするの別に嫌じゃないんだよ。むしろその……好きだから、なんというか。
 濡れた手を拭って、リビングのソファーへと向かう。彼が座るその隣へ私も腰を下ろした。交渉するにはあの距離はあまりにも遠すぎるので。

「火傷しそうだからだめ」
「実際に料理はしなくていいから。というか料理中のお前に手出しするわけないじゃん……」

 オンボロ寮にいた頃、料理中の私にちょっかいをかけてブチ切れられたのが相当応えているようで、怯えたようにエースはそう証言する。エース曰く、私は滅多に怒らないタイプらしいので、その分記憶に焼き付いているみたいだ。
 いやーそりゃ怒るよ。包丁持ってる時とか、火を使ってる時とか、揚げ物してる時はホント危ないからね。私は治癒魔法使えないし、オンボロ寮とか木造建築っぽいから火の周り早そうだし……うっかりでもエースに怪我させたくないんだもん。
 彼のご希望について改めて検討する。おそらく今の気温ならエプロン一枚でも風邪ひかないだろう、もし真冬だったとしても魔法でなんとかしそうな気がするけども。だが現状ではまだ了承できない。あいにく私はノーが言える元日本人だしね。

「私を料理するつもりでしょ?」
「当たり前じゃん」
「だったら、やっぱだめ」
「なんで」

 見られるだけなら了承したけども、それだけで終わるはずがない。えっちな格好をしたら100%食べられる、今までの経験上、断言したっていい。しかもエースの場合、時折、えっ何が刺さったの?って聞きたくなるような物でも対象になっちゃうのだ。男の浪漫と謳われている裸エプロンなんてした日にはその場でいただきますされるに違いない。
 だからこそ、私は首を縦に振る訳にはいかなくて。ぶーたれてる彼へ正直に告げることにする。きっとこれなら悪いようにはならないだろうから。

「……台所に立つたび思い出してまともにご飯作れなくなっちゃうから、だめ」

 結婚生活が始まってすぐの頃、テレビでやってた再放送の映画に出てきた濡れ場のせいで、ちょうど今座ってるソファーでなだれ込んでしまったことがある。
 基本、映画は暗くして観る派なのだけれど、その日はたまたま付けっぱなしで。明るいままは嫌だと訴えてみたけど、エースは照明を落としてくれないまま、身を委ねることになって。いつもと違ってハッキリ見える分、余計に記憶へ焼き付かれてしまったのだろう。
 今でこそ再び座れるようになったけど、おかげでしばらくソファーが直視できなかった。その一件で大変困らされたので、日常にそういった事が組み込まれてしまうのは避けておきたくて。
 ついあの時の事を思い出してしまい、だんだん顔が熱くなっていく。照れてる私にエースは無言だ。俯いてしまったせいで彼の表情はわからない。

「ひゃっ」

 突然立ち上がったエースは軽々私を抱きかかえて。何も言わないまま、彼の足は寝室へと向かう。
 この一連の動作に、よくわからないけど、さっきのやりとりの中で何かがエースに刺さったのだろうと悟る。やっぱり今夜もそうなっちゃうのかあと、ろくに抵抗もせず私はベッドに下ろされて。

、何やってんの?」

 というのが、前置きである。この出来事から数日経った今、私はベッドの上でエースがお風呂から出てくるのを待っていて。
 寝室に入ってきたエースが疑問の声を上げるのも無理はない。これからムードを高めていくべき所で、嫁が頭からシーツを被るなんてトンチキな行動に出てたらそりゃ気になるだろう。
 だがエースの質問に私は無言を貫く。あの日の彼の真似ではないけど無視する方がたぶん煽れるだろうなと。

「何か言って……よ……」

 案の定しびれを切らしたエースがベッドに上がってきて、バサッと強引に私からシーツを剥ぎ取る。視界が明るくなって見えたのはむすっとしたエース、それからチェリーレッドが綺麗なまん丸になるところだった。
 ぽかんと形の良い唇が開かれっぱなしになる。瞳をぱちぱちさせてからは、じっと私のことを見ているが、まだエースは何が起きているのか認識できていないようだった。

「……びっくりした?」

 聞かなくても彼の反応を見れば驚いているのは明らかだ。にも関わらず尋ねた私の今の格好だが、アニメとか漫画の中だけでしか見ないフリフリのエプロンを裸に一枚纏っているだけである。言葉にするといっそうヤバイなと思いつつ、太股辺りの布をきゅっと握りしめる。
 へにゃと笑う私にエースは脱力しながら顔を手で押さえて。表情は確認できなかった、ただ隠し切れてない耳のせいで赤くなってるんだろうなというのはわかる。

「たまに出るお前のその思い切りの良さ、何なの……」
「だめだった?」
「……ダメって言ったのはお前じゃん」
「台所でするのが嫌なだけだよ」

 そう、別に裸エプロンは問題無いのだ。いや今すっごい恥ずかしいけどね! でもエースが喜んでくれるなら安いものかなって。
 私の回答に「へりくつじゃん」とケチつけるエース。いつもやられてばかりなんだから今日くらいはお返ししたっていいでしょ。

「これ、わざわざ買ったの?」

 頷く。裸エプロンについて色々ネットで調べたら、高確率でこういう可愛さ重視で実用的じゃないのが主流だったから。やるからには全力で!が私のモットーである。あとは単純に普段使いのエプロンでしちゃうと、やっぱり料理できなくなっちゃいそうな気がして。
 直接買うのは恥ずかしかったから通販で探していたのだけれど、デザイン性と値段しか見てなかったのは失敗だったなと思う。ちゃんと着用してる写真が載ってるサイトから選べばよかった。
 というのも想像してた以上にきわどい格好になってるのである。後ろがオープンスタイルでただでさえ布地が少ないのに、前丈も足の付け根がかろうじて隠れる程度しかない。しかも生地が白色かつ薄いせいでなんか透けてるときた。どこからどう見ても立派な痴女である、痴女に立派も何もないけど。
 時間差で照れ始めた私とは逆に立ち直ったエースはニヤリと悪い顔を見せる。それから布に覆われているにも関わらず、私の胸の頂を的確に爪でひっかいて。

「こういう事する為だけに?」
「やっ、かりかりしないで……♡」
「うそつき♡ こういう事されたいから着たんだろ、証拠にココぷっくりしてきてんじゃん」

 きゅむと摘ままれた刺激に背筋が震える。やっぱり素材までチェックするべきだった、エースの言うとおり膨らんだ先端が布を押し上げている。高ぶりを見透かされてまた顔が熱くなるのがわかった。
 左を指の腹で弄びながら、右側の尖りをエースは口に含む。どちらも布の上から行われているせいで、いつもとは感触が違う。口を手で覆って声を殺せばそれが不満だったのか、軽く歯を立てられる。ちくりと走る痛み、でもそれすら気持ちいいと思ってしまう。
 エースが口を離せば、濡れた生地が胸の先にぺったりとひっついて、充血して赤くなってるのが丸わかりだった。体が熱い分、唾液のせいでひんやりしているその部分の違和感が際立つ。
 敏感になったそこをぴんと指先で弾き、エースはおもちゃを見つけた子供のように楽しげに笑う。でも熱に浮かされた瞳は彼もまた欲情をしていると知らしめるのに十分過ぎた。

「はは、やーらし♡」

 胸をぐにぐに布越しに揉みしだきながらエースは唇を合わせてくる。舌を絡めて、口内を丁寧になぞって。口ぶりも手付きも意地悪なのに与えられるキスはひどく優しい。
 脇から入り込んだエースの手がこりこりと両方の先端を一緒に弄る。しっかり胸を愛撫しながら舌の動きはまったく衰えてない、その器用さがちょっとだけ憎らしい。

「こっち、触ってほしい?」

 疼く下腹部に耐えかねて密かに膝を擦り合わせていたのだが、それすらもエースはお見通しだったらしい。とんとんと足の付け根を指先で叩いてくる。かと思えば手を裾の中へ滑り込ませて内股を撫で回して。
 それに思い切って下着付けてなくてよかったなあと、ちょっと場違いなことを考える。いつもの事といえば、いつもの事だけれど、脱がされた時に糸を引いてるの結構恥ずかしいから。まあそれより恥ずかしい思いしてるんだけど。

「さわって」
「触るだけでいいの?」
「エースにも気持ちよくなってほしい……」
「はっ?」

 結婚前から色々教えてもらっているが、私は性的な事がものすごく下手だった。口でするのも腰を振るのも、気持ちよくなり過ぎちゃって最後までできないのだ。おかげでいつも結局、最後はエースにお願いするしかなくて。

「恥ずかしくても、痛くても、いいから、エースのしたいこと、全部して」

 だから自分ができる範囲で彼を喜ばせられるなら何でもやりたかったから、こんな格好をしてみたのだけれど。相変わらず私が嬉しいばっかりで、これじゃいつもと変わらないなあって。

、お前なあ……」

 気持ちよさにぼーっとしてたせいでなかなか気付かなかったが、エースは何故か手で顔を覆っていた。
 ゆるゆる外した手から出てきたエースの顔はほんのり赤い。なんで照れてるんだろう、抱いた疑問は長くは続かなかった。つぷと中に入り込んだエースの指のせいで。
 一気に二本、でもすんなり私の体はそれを受け入れる。裾のせいで見えないけれど、きっと直に触られる前からぐちゃぐちゃのどろどろになってるんだろう。
 私の良いところを覚えきってるエースの指は的確に私を追い立ててくる。おなか側の気持ちいい所をぐりぐり押されて、私の中はぎゅうううと締め付けてしまう。秘豆を押しつぶされて、増やした指全部でかき混ぜられて。どんどん私から出る水音は大きくなっていく。見えないのにすっかり覚えてしまってる私はエースの手付きがありありわかって、その想像にまた感じてしまう。
 指が抜かれて両足の間にエースの体が割り込む。彼から与えられた快感に蕩けきって、くたりとしている私の頭を彼の大きな手が優しく撫でてくる。

、オレのしたいこと、全部してくれるんだよな」
「う、ん」
「じゃあ、オレが今一番欲しい物ちょーだい。としか作れないし」

 私に作ってほしいだったら何の料理だろう、そう思ったに違いない。でもエースは私としか作れないと言った。まるで二人で頑張らないと作れないみたいな言い方だから何の事か検討もつかない。だって私はエースほど器用じゃない。
 でも、さっきも言ったとおり、私はエースが欲しがってるなら何でもしてあげたいのだ。だから内容も聞いていないのに頷き、何が欲しいの?と尋ね返して。

「子供」

 こども、思わずその三文字を復唱する。でもそうすんなり受け止められなくて、ぐるぐる彼のおねだりの内容が頭の中で走り回っていく。
 そうこうしている間に大きくなったエースの熱が秘部に擦り付けられる。ぐぷと先っぽに中を押し広げられた。でもそれ以上奥に入ることはなく、入り口に引っかけるように何度も抜き差しされる。

「えー、す」
「欲しいって言ってよ、

 焦らされているのだろう。でもすっかりエースに染められた体はそれすら軽く達してしまうほどの快感に繋がってしまって。唇ははくはくと空気を吐き出すばかりで、一向に言葉を紡いでくれない。
 だから彼がよくやるみたいにエースの口へ自分のそれをくっつける。私も欲しいとか、そう言ってくれて嬉しいとか、エース大好きとか、そのキスには色んな気持ちを込めておいた。無事にちゃんと伝わったみたいで今度はエースが唇を合わせてくる。

「ひぅっ、ぁ、あっ♡」

 ゆっくり良いところを擦るようにしてエースの熱が奥まで入り込む。は、と零れたエースの吐息の甘さに頭がくらくらする。
 私は頼りない布一枚しか纏ってないのに、エースはキッチリ着込んだまま。いつもと違って密着度が低いせいで繋がっている部分に自然と意識が集中してしまう。それにずるいとか恥ずかしいとか思っても、エースが動き始めるとそんな余裕は即座に無くなっていく。

「えーすっ、えーす♡」
ってば、すっげえとろけた顔してる。そんな気持ちいい?」

 必死で引き留めようとする中へ意地悪するみたいにギリギリまで抜いて、思いっきり奥まで打ち付けられる。そのたび強すぎる快感に目の前でばちばちと花火が弾ける。
 下りてきてるだろう赤ちゃんの部屋の入り口をこつこつ優しく突かれて、その気持ちよさに訳が分からなくなる。エースと子供を作ってる、その認識が私の体をいつも以上に敏感にしていた。媚びるように中が彼を締め付けて、貴方の子供が欲しいとおねだりするように奥へと誘って、注がれるのを今か今かと期待してる。

「すき、えーす♡ えーす♡ あぁっ——♡」
「オレもだよ、ッ」

 一際強い快感にびくんと大きく体が跳ねる。それと同時、最奥に嵌め込まれた先端から熱い飛沫が注ぎ込まれた。全部出し切るまでエースはゆるゆる腰を揺する。
 全部出し切ったのだろう、動きを止めてエースが口付けてきた。余韻と快感に酔いしれながら熱の籠もったおなかを撫でる。今の私は多幸感で心満たされていた。
 でもまだ終わらないと知っている。だっていつも、そう。お互い一度じゃ足りない。それに今も出したばかりなのにエースの熱はもう既にぶり返していたから。
 私の背中を抱きしめながらエースが身を起こす。あとは両足を前に出してエースの上に跨がれば、自然と対面座位と呼ばれる体位になって。これだといっぱいくっつけるから好き。さっきの分も取り戻すように甘えれば、ちゅと軽くキスされて。

「あとで後ろからもしよーな。このデザインならそっちの体位でも映えるだろうし、いっぱい奥に注げるしさ」
「……うん♡」

 エプロンの肩紐に指を絡めながらエースがおねだりする。それに私の口も体も正直に反応してしまうのだった。

「ねえママ。これ、ちょーだい!」

 そう言って娘が目の前で広げた、忘れようにも忘れられないフリフリのエプロンに思わずソファーから転げ落ちそうになった。私のおなかに伸びたエースの腕がなければきっと落ちていたと思う。
 後で捨てとくって回収したくせに! そんな苦情を込めて隣に座るエースを睨むが、娘と向き合った彼に私の視線は届いていないようだった。

「ごめんな、それはあげられない」
「これパパの? パパがきるの?」
「んー、ママが着るけどパパと一緒に作る時に使うやつなんだよね」

 で、まだ使うから。ぐりぐりと娘の頭を撫で回したかと思えば、私の方に振り向いて先程の発言の同意を求めてくる。
 子供の前で何言ってるんだバカ。そうは思えど器用にぼかしているので怒るに怒れない。というか今さらっととんでもない宣言しなかった?
 混乱しつつもどうにかして流そうとする私に口パクで「こ・ん・や」とエースは追い打ちを掛けてくる。

「……ママ、おかお赤いけど、だいじょうぶ?」

 あんまり大丈夫じゃない。なのでとりあえずエースの脇腹を軽く殴っておいた。なお夜になって仕返しされた、性的な方向で。

「もう一回活躍させような」

 なんてやりとりからしばらくして、生まれたばかりの息子を楽しげにあやす娘を眺めていた私へエースがそれを囁く。そして彼はクローゼットを指さして。
 エースの台詞の意図を理解し咄嗟に彼の手の甲をつねったが、たぶんというか間違いなく実現されてしまうのだろう。今度は娘に見られないよう、赤くなった顔を彼の背中へ押しつける。ただ彼のおねだりを期待してる自分は隠せそうもなかった。

back