例の部屋(全年齢規制)VSトンチキ監督生VS好きな子に非童貞と思われてるクローバー

「ははっ、参ったな……」

 その台詞を苦笑いで呟く、お前のような普通な男がいるか選手権ぶっちぎりトップ唯一無二のエレガントポップことトレイ・クローバーだが、全く困ってなどいなかった。
 かくかくしかじかで、彼は気が付いた時には『童貞を捨てないと出られない部屋』に閉じ込めていたわけだが。
 相手はきちんと用意されていて、その相手こと監督生は彼の想い人だったからだ。なので現状を彼はむしろツイてるなとすら思っていた。
 それと同時に犯人の目星を彼は既に付けていた。おそらくツイステ世界のノスタル爺こと男女カプ推し妖精のせいだろう。
 twst夢によく出てくる都合の良いアレである。今更詳しい説明は不要だと思うので簡潔に言えば、作者が推してる監受カプが結ばれるための舞台装tお手伝いしてくれる存在だ。
 なんで男子校にそんな妖精いるんだよというツッコミはしてはいけない。たぶん男子校に女の子が入学とか、いかにも王道少女漫画の冒頭みたいなシチュエーションにラブの気配を感じ取ったのだ。話が進まなくなるので深く考えないでくれ。
 やることのしょうもなさはともかく、古い歴史を持つだけあってクソつよ妖精には変わりない。なので素直に条件を満たすのが得策だ。作者がトレ監にスケベさせたいだけとも言う。
 なお一緒に閉じ込められた相手が監督生じゃなかった場合、このトレイ・クローバーはしれっとユニーク魔法で脱出条件を塗り替えていたことだろう。そういうところだぞ、トレイ・クローバー
 ちなみにこの妖精がお節介を焼くのはカップルor両片思いだけの安心仕様である。じゃないと作者がマーライオンになってしまう。twst夢でDLsiteのタグでいうところの合意無しとか見たくねえ(※両片思い前提でトラブルかすれ違いの末に……な場合は除く)
 ともかく、監督生は知らないが、そんな妖精の仕業なのでトレイは安心しきっていた。なんなら薄々感じていたが両思いだったことを確信して、心の中ではガッツポーズを取っている。
 好きな子相手に童貞を卒業できるとなれば喜びもするだろう。所詮、彼もまた恋する男子高校生(童貞)なのだから。
 ……浮かれきっていたあまり、彼は気付いていなかった。脱出条件を見た監督生が深く考え込んでいたことを。

「あの、妖精さん。ちょっといいですか?」
『なんだい?』
「その壁にある通りなら、お願いしたいことがあるんですが」

 監督生が呼びかければ、どこからともなく若く中性的な声が聞こえてくる。
 姿は見えないが二人の様子をつぶさに観察していたのだろう。そのことに監視下で脱童貞はちょっと嫌だなとトレイは思いつつも、結局欲望が勝ったので深く考えないようにすることに決めた。最悪セルフドゥードゥルで妖精を認識できないように塗り替えればいいしなと。
 そして彼女が口にしたことで壁に『条件を満たす為に必要なものがあったら遠慮せず言ってね。 By男女カプ推し妖精』と書いてあったことにトレイは気付いた。推測しなくても書いてあったのか、とちょっと恥ずかしくなる。
 注意深い彼にしては珍しく、脱出条件の看板にばかり気を取られていたのだ。なのでトレイは彼女が頭を悩ませていたことも当然気付いていなかった。
 『もちろんだよ!』と肯定する妖精に監督生は硬い表情で発言する。

「じゃあ私におちんちん生やしてもらえますか」
「待ってくれ」『なんて???』
「トレイ先輩が童貞を捨ててる以上、私が生やしてトレイ先輩のお尻の処女を奪うしかないじゃないですか」
『確かにそうなんだけど、僕ふた×男は性癖の対象外だから……』
「ふた×男が何かわからないが、たぶん俺も好みじゃないと思うな。じゃなくて!」

 かかさずステレオでツッコミが入るが監督生は止まらない。
 あまりに澄んだ目で主張する監督生に妖精が説得されかかる中、トレイはなんとか思いとどまる。ここで自分まで流されては収拾が付かなくなる。なお、残念ながら一度ねじれてしまった性癖とカオス展開とはそう簡単に収まる物ではないのだ。

「なんで俺が経験済の前提で話してるんだ?!」
「え、だってトレイ先輩はもう雰囲気からしてドスケベですし……」
「お前は褒めてるつもりなのかもしれないが、100%風評被害としか思えないぞ」
「逆ナンしてきた綺麗でおっぱいが大きな大学生のおねーさん辺りで捨ててますよね?」
「あのな監督生、そんなモテない男子高生の夢みたいなシチュエーションは存在しないんだ。夢は叶わないから夢なんだ」
『なんか深そうで全然深くないこと言ってる……』

 誰のせいだ。妖精の困惑が前面に出た呟きに、トレイは思わず心の中で悪態を吐く。
 どう考えても勝ち確だな風呂入ってくるから、なんでこんなことになってしまったのか。言うまでもない、監督生が非童貞だと勘違いしているせいである。
 帰省中に店番するたびに薔薇の王国の幼女達の初恋キラーこそしてるものの、この小説のトレイ・クローバーは正真正銘の童貞なのだが。

「トレイ先輩、大丈夫ですよ。私は例え先輩が女入れ食い100人斬りしてても引いたりしません。正直に仰ってください」
「気にしてくれ。とんでもないクズ野郎じゃないか、警戒してくれ。いやそもそもどっちも違うんだが」
「どんなにヤリチンでも私は先輩のことが好きなので」

 照れくさそうに自分に対する好意を口にしてくれる好きな女の子。その状況だけ見れば最高のシチュだが、今のトレイは彼女からの告白を素直に喜べなかった。残当である。
 推しカプ成立の瞬間に立ち会ったはずなのに妖精もこれには苦笑いしかできなかった。こんな時どんな顔をすればいいの。

「監督生、冷静になって考えてくれ。そんな女慣れしてるなら、女性を布巾に例えてビンタを食らったりしないんだ」
『うわぁ自ら恥部晒すようになっちゃった……』

 引いた感じの妖精のぼやきにトレイのこめかみに青筋が浮かぶ。ここから脱出したあかつきにはルークとクルーウェル先生の手を借りて、必ずやこの妖精を捕獲しようと決意した。サ部の活動において妖精の鱗粉は何かと使い勝手がいいので。
 ルークは珍しい獲物が狩れるとなれば大喜びで手伝ってくれることだろう。たぶんクルーウェル先生も協力してくれる、じゃなきゃ真面目にイカれる集団サイコパス部もといサイエンス部の顧問など務められはずがない。目が据わったトレイに妖精は悪寒に襲われていた。
 これだけ恥を忍んだというのに監督生はあまり納得していない様子。むしろ「そりゃ女の子の方から言い寄ってくるんだから口説き慣れてないよな……」なんて、ろくでもない方向へアンサーを出しているだろう表情にトレイの目は更に死んだ。

「俺は、童貞だッ!!」

 すっかり彼女のペースに飲み込まれていた結果、もうこれしかないとヤケクソになりながら叫ぶ。
 なんで好きな女の子に童貞宣言をしなきゃいけないのか。思春期まっただ中18歳男子高生に対してあまりの仕打ち。でもこの小説、イケメンエリートが好きな女の子のせいでかっこ悪くなったり、情緒めちゃくちゃされてるのが見たいヤツが作者なのよね……。この世は無常である。
 トレイの悲痛なシャウトに、監督生はパチパチと瞬いた後、目を丸くしていた。

「ああ、おちんちんが大きすぎて童貞にならざるをえなかったパターンですね! アズール先輩と同じパターン!」
「色々聞きたいことはあるが、とりあえずなんでアズールのサイズを知ってるんだっ?!」
「フロイド先輩が『アズールは元の姿の腕の一本ちんちんだからデッカイよ』って言ってました」

 実際に見たことはない……いやわかってなかっただけであるのか……?と呟く彼女に、ひとまず安心していいのか、いやでも不穏なこと言ってないか?と思うトレイ。
 ツッコミどころが多すぎて、もはやどこから手を付けていいのか彼自身もわからなくなっている。
 とにかく彼女とアズールが色めいた仲ではないことはわかったので、今はそれで納得することにした。なんでアズールが童貞だと知ってるのかも気にならないと言ったら嘘になるが、大方フロイドに教えられたのだろう。
 というか、普段から二人でなんて会話してるんだ。さすがに交接腕のサイズや童貞を学園唯一の女子生徒にバラされてるアズールに同情するトレイだった。正しく知らぬが花。
 まあ今は不憫に感じていても、この男も結局NRC生なので、アズールと揉める機会があったら一切躊躇なく交渉材料にするだろうが。
 なおトレイが心配しているアズールの陰茎を見たのか問題に関しては、監督生はオバブロの時のアズールを思い出しているだけである。まあさすがに見えてないと思う、どんなに治安が悪くてもD作品なので……。

『盛り上がってるところ悪いんだけど、この小説一応全年齢向けだから、あまり男性器の名称連呼しないでほしいな……』
「じゃあトレイ先輩のウミガメで」
「フロイドと関わる時に気まずすぎるから止めてくれないか」
「それならトレイ先輩の泡立て器……?」
「やめてくれ、身近なもので例えないでくれ。これからどんな顔して菓子を用意すればいいんだ」

 冒頭でトレ監にスケベさせたいだけと言ったな、アレは嘘だ! いや嘘ではないんだけどね。いつかNRC22人全員の健全ネタ書き終わったら挑戦するつもりだから、今は時期尚早なだけだから。
 全年齢のくせ、何故妖精がこんなスケベルームに推しカプを閉じ込めたかというと、おっぱじめたらブラックアウトしつつ退場して、こう良い感じに終わった後を写す予定だったのだ。
 この妖精は推しカプへ抱けー!抱け―!と言うくせに、そういうのは二人きりにしてあげなきゃと中途半端に良識があったので。童貞処女初体験に媚薬ガスをぶち込むのを躊躇する程度にはまっとうだった。妖精なんだからもっと人外じみていればいいものを。
 というわけで地味に人間の心がわかる妖精だった為、妖精は悟ってしまった。未だ男性器の名称の代替でコントをする二人に、もうここから入れる保険スケベはないのだと……。

『その、なんかごめんね……』

 その一言を最後に妖精は部屋の脱出条件を『出たいと思えば出られる部屋』に設定して去って行ったのだった。即行鍵の開く音がした、だろうね。

 無事に脱出した二人はこの後、なんとか良い感じのムードを力尽くで作り出したトレイの告白によって恋人にこそなったが、非童貞疑惑が解けるのはまだまだ先だ。頑張れトレイ・クローバー! 突き進め、妖精をしばくその日まで!

back