大切にめちゃくちゃにした
『どちらかが媚薬を飲んだ上で5分間お互いが接触したら出られる部屋』
「なるほど」
「待って下さい」
部屋からの指示を理解すると同時に、目の前にあった瓶を呷ろうとした私の腕をスカリーくんが掴む。
咄嗟に止めたものの、言葉が見つからないのだろう。彼はあたふたしていた。その様子をじっくり眺めながら、私は「慌ててるスカリーくんも可愛いなー」と場違いな感想を抱く。
なんか気が付いたらスカリーくんとこの知らん部屋に閉じ込められていた。現状わかるのは以上だが、それだけわかれば十分だろう。
「いやあ、力の差からしても私が飲んだ方が安全じゃない? 私に襲いかかられてもスカリーくんなら簡単に制圧できるでしょ、ヘッドロックでもかけてればお題達成できるよ」
「我輩としては色々申し上げたい事はあるのですが……もっとご自分の体を大切になさってください!!」
付き合ってもないのに、好きな人へ痴態を見せることが恥ずかしくないかと言われれば、まあ……恥ずかしいが。
ワンチャン、乱れる私に欲情してうっかりスケベ展開になってくれないかなと。スカリーくんの性格からして責任取ってくれそうだから、ぜひとも漬け込みたいんだよな。
え? 発想が邪悪すぎる? ハハハ褒めてくれてありがとう、こちとらだてにNRC生やってないぜ!
茶番はさておき、一応、そんな私の下心はバレていないと思う。それにもっともらしい理由も付けられた。だけどこの名案はさっきの通り一蹴されてしまったわけで。うーん、参ったなー。
私が諦めてないのがわかったからだろう。目つきが鋭くなるスカリーくん、あららすっかり警戒されてしまった。
だからなんだろう、私の腕を掴む手に力が籠もる。
「スカリーくん、そんな握られたら痛い……」
「あ、申し訳ございま、ってあ゛あ゛あ゛!!!」
私がそんなしおらしい態度を見せるなんて演技に決まってるだろう。ふははは、まだまだ甘いなスカリーくん。
パッと彼が手を離した一瞬の隙に、ごくごくごくごくと瓶の中身を一気に喉の奥へ流し込む。
絶叫し終えた彼に首根っこを掴まれる。そしてもう片方の手が口元に近づくのに気付いて、私は変な顔になるのも厭わず、がっちり唇を閉じる。
思った通りだ。噛みつかれかねないというのに、スカリーくんは私の口をこじ開けようとする。コイツ、ノータイムで吐かせようとしやがる。確かにやべえ薬を飲んだ時の対処法としては大正解なんだけど、それにしたって判断が速い!!
毒とかならまだしも単にスケベになるだけだ。好きな人の前でリバースとか乙女として絶対にノーサンキュー。
いやいやと首を振って抵抗する私に「すぐ終わりますから」って優しい声をかけてくるスカリーくん、なおその間も私の唇と彼の手は猛攻が続いている。ここでゲロって終わるのは私の恋心だろ。
そうこうしているうちに媚薬が効いてきたのだろう。体が火照ったり、なんか妙な気分になってきた。
「ん、ぇ……?」
パッとスカリーくんの手が離れる。そういえば媚薬って効いてきたら、もう吐いても意味ないんだっけ。だから解放されたのか。かつて錬金術で習った知識が頭をよぎる。
足がガクガクして立ってるのがしんどい。床にぺたんと座り込む。すぐさま隣にスカリーくんがしゃがみこんだ。
スカリーくんが何か言ってる、でもわかんない。頭の中がぐるぐるしてて変な感じ。飲んだ後どうするんだっけ。そうだ、スカリーくんに触らなきゃ。
「えっ、さ」
ぎゅーっとスカリーくんに勢いよく抱きつく。いきなり飛び込んできたにも関わらず、彼は私をなんなく受け止める。ぴったりと体を寄せてへばりつけば、おそるおそるといった感じで背中に彼の腕が回った。
すごいドキドキするし、彼の胸元にくっつけた耳からもドクドクと同じ音が聞こえる。抱き心地はあんまり良くない。固い。でもずっとこうしてたい。
どのくらい、そうしてたんだろう。すりすりとスカリーくんに甘えながら口を開く。
「スカリーくん、五分たった?」
「……いえ、まだ経っていないかと」
「うそつき」
顔をあげて、にへらと笑う。とっくにガチャと鍵が開く音が鳴ったのを私は聞いている。
驚いた顔を見せる彼がもっとびっくりしちゃうだろうけど、わからないはずの私にあんな嘘をついちゃうようなら問題ないでしょ。
本当なら届くはずのなかった、すぐ傍の唇にちゅっと自分のそれを重ねる。驚きのあまり彼が後ろへとひっくり返った。なお抱かれたままも私も巻き込まれ、彼を押し倒たかのような体勢になって。
身長差からして普段なら絶対取れないマウントを今の私は獲得している。
「スカリーくん」
この部屋に放り込んだ犯人こと噂の妖精は大概性格が悪い。
五分間、欲情した状態で接触していれば大抵その気になるだろう。だがこの媚薬は脱出条件を満たすと同時に切れるようにしているのだから。
なので片方がその気なだけなら強制終了、そうじゃなければスケベ展開が佳境に入る頃にはとっくに素面というわけだ。
きっかけこそ作ったけど、最後まで進んだのは結局お前らがスケベなだけでーす!と言わんばかりのこのシステム。さすがNRCを住処にしているだけある。
でもそれを知っているのは現状、瓶の中身を飲み干した私だけ。
「私のこと、大切にしてね」
ま、きっちり理解した上で利用する私も大概性格が悪いか。
媚薬というのはピンキリで時間で効果が無くなるものもあれば、性行為で発散しなければ収まらないパターンも少なくない。彼はそれを知ってる、だって同じ授業受けてたし。
私に押し倒されている真っ赤なスカリーくんにもう一度、唇を重ねる。さっきの抱擁でドキドキしてた甲斐あって、今の私は未だ欲情したままのように見えることだろう。
なお、この後、媚薬飲んだのスカリーくんの方だっけ……?と思う羽目になるのだが。そこまではわかっていなかった私は浮かれた気分でうっとりと彼を見下ろしていた。
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