似たもの同士
学年が違う、寮が違う、バイトのシフトも絶妙に合わない。
それでも先輩に会いたくて、私はお裾分けという口実ができるよう頻繁にドーナツを作っている。
ただ昨日は明らかに失敗してしまった。難しいレシピじゃないし、慣れてるから大丈夫と油断していたのだろう。
キツネを通り越してたぬき色、これでは到底渡せやしない。
私の好きな人は『腐ってなければ腹に入れば皆一緒ッスよ』なんてタイプだけども私が気にするのだ。
だってどうせなら好きな人には一番良い物を渡したいじゃないか。
それに焦げたドーナツってモッサモサなんだよなあ……。
グリムも先輩とわりと似た考え方だし食いしん坊だけど、舌触りが悪すぎるこれはさすがに申し訳なくて一人で処理してる。
微妙に苦いし、ハッキリ言って美味しくない。ドーナツに謝りたい。
いつも昼食はエース達と食堂で食べている。だが事情を知ったら文句言いながらもエースもデュースも手伝ってくれるだろうから、今日は彼らとは別行動。
というわけで中庭のベンチで甘くて焦げ臭いそれをひたすら私は囓っていた。
朝食で半分減らして今一つ食べ終わったから残り三つ、うわっまだ三つもあるのか……。
私の憂鬱に応えるかのような、長々とした溜め息が口から勝手に溢れていた。
「いいもんみーっけ」
「えっ、あっ」
口を占めるパサパサ感に落ち込みながら二個目を手に取った瞬間、いつの間にか背後に来ていた彼がガブッとそれへと噛みついた。
なんで死角から足音殺してきたんですか、ラギー先輩。先輩くらい良く利く鼻と耳を持っていたならともかく、ただの一般人に察しろというのは無茶がある。これほど人間に生まれた事を悔やんだことはない。
今は一番会いたくない人の登場に理不尽とはわかっていても文句の一つも言いたくなる。
会えて嬉しいはずなのに素直に喜べない。こうならない為にも密閉空間で食べるべきだったのに。また私は油断してたらしい。
「好きな匂いには釣られてみるもんッスねえ」
手に持っていた二個目はあっという間にラギー先輩のお腹の中へと収まってしまって。
ひょい、と脇へと置いていた入れ物が彼の手に渡る。そして私を片方へ詰めさせたラギー先輩はわざわざこちら側に回って隣へと腰掛けた。
突然縮められたパーソナルスペースには驚くしかない、肩が触れる距離に緊張して何も言えなくなる。乾いた舌は普段みたいなおしゃべりも制止する言葉も紡いでくれやしない。動揺している間に彼は残った分も食い尽くしてしまった。
それから先輩は「ごちそーさま」と私の複雑な乙女心も知らず、呑気に唇に付いた粉砂糖をぺろっと舌で舐め取っていた。
「イヤイヤ食うぐらいなら、いつもみたいにオレに持ってきてくれりゃいいのに」
「……先輩に渡せないですよ。こんなの」
「そりゃ味も匂いも悪いけど、腐ってない限り腹に入れば全部一緒ッスよ」
ほぼ想像通りの言葉を口にするラギー先輩。わかってはいたけれど相変わらずだなあ。
好きな人には一番良い物を渡したい、その気持ちが一切伝わっていないことに少しだけガッカリした私は「そうですか」とありきたりな返答をしようとして、彼の台詞のある違和感に気付いた。
「……今日のドーナツ、マズそうな匂いだったんですか?」
「まあ焦げ臭いッスね」
「なのに釣られちゃったんですか?」
疑問をそのまま口にすればラギー先輩が固まった。どうしたんだろう。
判断に困ってただただ静かに彼の反応を待っていれば、突然ぐいと肩を引き寄せられる。
びっくりして咄嗟に先輩の方を見る。鼻と鼻が触れ合う距離に彼の顔があった。
どういうことなの。ぱくぱくと意味もなく口が開閉する、痛い位に鳴っている心臓の鼓動はきっと先輩の耳に届いてしまっていることだろう。
「別にマズかろうが、なんなら手土産とか無くたっていいんスよ……」
それだけ言って先輩は私の首筋へと顔を埋めた、続けざまにすんすんと先輩は鼻を鳴らす。待って待って、先輩もしかして好きな匂いって。
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