お前と味わいたい
どうやら私以外にも日本から、この世界へ転移させられた人がいるみたい。そのことに気付いたのは生活に余裕が出てきて、嗜好品コーナーに手を伸ばすようになってからだった。
とある企業が、キノコタケノコ戦争の引き金になったあのチョコビスケットや、お口の恋人なガムとか、特別な存在にあげるキャンディやら、元の世界で見覚えのある数々のお菓子を発売しているからだ。
モラル的にどうなのと思わなくもないが、そもそも自分の周囲の道徳がツイステッドしてるような環境である。あと、たぶんその転移者も私と同じく魔力無しだと思うので、生活の為に知識を利用しざるをえなかったんだろうな、と。
自分としても懐かしの故郷の味に浸れるので、まあいっかと深く考えないようにしている。
「今日、用意したアイスはこちら!」
「……これは食べたことがないな」
「ツノ太郎、基本的に高級カップアイス選んでるもんね」
前回調達担当だったツノ太郎が持ってきたお高い味のアイス、クリーミーで美味しかったなあ。
そう振り返っている間に、ツノ太郎は私が意気揚々と差し出した赤いパッケージの箱をまじまじと眺めている。
このアイスは他にも期間限定の味やアソートもあるけれど、今回は無難に一番ポピュラーなタイプをチョイスしてきた。
すっかり恒例になったオンボロ寮でのアイスを食べる会。なんとも色気のないイベント名だけれど、実質恋人のツノ太郎とのおうちデートである。
少なくとも私はそう思ってるし、グリムにもツノ太郎と会う日はディアソムニアへ行ってもらうようにしているから。
ディアソムニアの人達は私とツノ太郎のお付き合いに好意的なので全面的に協力してくれていたりする。
グリム曰く「リリアの料理さえ逃げ切れば、美味しいもんいっぱい食わせてもらえるだゾ!」とのことで、親分も渋ることなく二人きりにしてくれるのだ。
なお、おうちデートにしては殆どアイスを食べておしゃべりしているだけというのは秘密だ。
知ったらグリムは「オレ様も食べたい!」ってごねるし、リリア先輩も「早うキッスの一つも決めんか!!」って急かすのが目に見える。キスしたのバレたら次は既成事実とか言われそうだし……。
「丸々一つ食べるのもいいけど、半分こできるアイス、ツノ太郎好きでしょ?」
「ああ。お前と分け合えるのは実に気分がいい」
私は元の世界で楽しんできた一般家庭向けのアイスを選ぶ事が多い。庶民の私にはなじみ深いが、ツノ太郎はどれも物珍しいらしくウケが良い。
その中でもフルーツ味の丸いシャーベットの実や、ジュース瓶のパッケージにチョコ珈琲のアイスが詰まったのとか、こたつで食べると特に美味しい某大福アイスの時は特に喜んでいたのだ。
だから今回も二人で食べるのにもってこいのこれを選んできたわけだが……。
あ、そうだ。開ける前に大事なことを決めておかないと。念のために裏面を確認する。あ、やっぱりアレも再現してるんだ。
「ツノ太郎、上の段と下の段、どっちがいい?」
「何か違いがあるのか?」
「ない時の方が多いんだけど、たまーにね。詳しくは開けてからのお頼みってことで」
「ふむ……なら僕は上を選ぶとしよう」
「オッケー、じゃ開封しまーす」
ベリベリと蓋をめくりあげていく。
そして現れる六粒、その中の右上の一つだけは形が異なっていた。
「あっ、ツノ太郎、見て! 大当たり!」
「さっきが言っていたのはこれのことか?」
「そうそう。たまにね、今みたいに風に星形とか、あとはハート型が混ざってるんだ。この違う形のを食べるとハッピーなことがあるんだって」
「ハッピーなこと……それはいいな」
試しに聞いたとはいえ、まさか本当に当たるとは。思わず声が弾む。説明がちょっと足りないかと思ったけど、心なしツノ太郎も嬉しそうだ。
もう少し楽しみたい気持ちはあるけど、相手はアイス。もったいないけどツノ太郎の携帯が壊れている以上は写真もあまり意味がないし、溶ける前にさっさと味わうことにしよう。
星形へピックに刺して「はい、あーん」と、隣に座っていたツノ太郎の口元に持って行く。
それにきょとんとした顔をツノ太郎は見せる……どうしたんだろう? 少し間を置いて、ツノ太郎が小首を傾げる。
「……半分こしないのか?」
「うーん、これは丸ごと一口で食べた時、一番美味しくなるよう作ってるらしいからダメだね」
「そうか……」
しょんぼり、とばかりに眉を下げるツノ太郎。元々顔が良いのに、その落ち込む理由を知っているせいで余計にときめいてしまう。
年上の男の人にこんなことを言うのは憚られるけど、とてもかわいい。こみ上げた愛しさに、ふとある案が私の頭をよぎった。
「ただ、ツノ太郎が食べた後にちょっとおすそわけしてもらうね」
私のその宣言に不思議そうにしながらも運んでおいたアイスをツノ太郎が口に含む。
半世紀近い歴史を持ち、あらゆる企業努力を詰め込まれたアイスだ。
たいそうお気に召したようで、ツノ太郎はキラキラと目を輝かせていた。
彼が食べ終わったのを見計らって、次の粒に移る前にツノ太郎の頬へ手を添える。
そしてそっと彼へ自分の唇を寄せた。軽く触れ合わせた唇は知ってるアイスの味よりもよっぽど甘い。
「……さっそく良いことが起きたな」
私のたどたどしいそれに彼は微笑む。直後にツノ太郎の方から口付けてきて。
やっぱりその唇は冷たくて、熱くて、後のアイスの味がわからなくなりそうなくらい甘かった。