※この二人は付き合ってません
食堂に立ち寄った後、私はさっき購入したそれと、自分のお弁当を手に、いつも通りレオナ先輩の部屋を訪ねる。
ノックしても返事はなかったが、この時間なら勝手に入っていいと言われているのだ。
なので遠慮なくドアを開け、ソファの上で読書していた彼の前へ袋ごと差し出す。
「なんだその袋は」
「何って頼まれてたスペシャル弁当ですよ。ラギー先輩にならって、おつりは手間賃として頂きました。ありがとうございます!」
『これで明日の昼飯を用意しろ、肉だけのやつ』と、先日レオナ先輩との昼食後に二千マドルを渡された。
その言葉とパシリにラギー先輩じゃなく私を選んだ事から、学食のスペシャル弁当を頼まれているのはすぐに理解した。
だってあんな値段の弁当、ラギー先輩絶対買えないもんな……カリム先輩から譲られてさくっと食べたチョコ一粒が三万マドルと聞いて気絶してたぐらいだし。
まあ私も『もっと味わえばよかった!』と激しく後悔するだろうけど。
余談はさておき。デラックスメンチカツサンドのように競争率高かったらマズいなあと思っていたが、私の三日分の食費と同じ値段のスペシャル弁当はさすがにお坊ちゃん揃いのこの学校でも持て余しているらしい。
一日三食限定にも関わらず余裕で買うことができた。学食に置く品じゃないよ、あれは。
お値段が張るだけあってスペースほぼ全て肉・肉・肉で埋め尽くされている。
熱を持った袋からは長らく食べてないお高いお肉の匂いがして色々キツい。なんでも色んな地域の高級ブランド牛を使ってるんだとか。
そりゃあ肉好きのレオナ先輩のお目に叶うはずだ。うっかり手を滑らせて私にも一口ぐらい恵んでくれないかな。
なんて淡い期待を抱きつつ、差し出したそれを『さっさと受け取れ』とレオナ先輩へ目で訴えかける。飢えは人の心の余裕を奪うよね。
自分から頼んでおいて、しぶしぶといった様子で受け取ったレオナ先輩。
いつも彼の態度と同じく堂々と主張する耳は何故か、へにゃ……と力なく萎れていた。尻尾も下へと垂れ下がっている。
よくわからないけど、まあミッションは達成したわけだし……。
私の定位置、つまりレオナ先輩の隣へと腰掛ける。それからおつりのおかげで普段よりも、おかずに恵まれたお弁当を膝の上で広げて。
「……どうしました?」
いただきますと手を合わせたところで、先輩の視線が私のお弁当に向かっていることに気付く。
彼は無言のまま私のお弁当を奪って、スペシャル弁当を代わりに膝上へと載せてきた。
一体どうしたんだろう。今日はあんまりおなか減ってなかったのかな。
だとしても私のお弁当箱の量じゃ、先輩だと絶対に足りないと思うんだけど。
まあフロイド先輩ほどではないといえ、レオナ先輩がこういった気まぐれを起こすのは今に始まったことじゃない。
というわけで大して気にも止めず、交換されたスペシャル弁当を口に運ぶ。うわっ、口の中でお肉が溶けた……!
「草ばっかじゃねえか」
「文句は食費を用意してる学園長にお願いします、ここぞとばかりに私も援護射撃するので」
これが勝ち組の味か……としみじみしていたところ、レオナ先輩がクレームを付ける。
節約料理で肉とか高望みですよ、先輩。これでもおつりのおかげで牛挽肉が入ってて贅沢なぐらいです。それと鶏胸肉と豚こま肉は正義。
文句は口にしつつもレオナ先輩は食事を続ける。
なんだかんだでラギー先輩の残り物解消レシピで庶民の味にもある程度慣れてるんだろう。マスターシェフにも審査員として参加するぐらいだし。
先に食べ終わったのはもちろんレオナ先輩だ。口の大きさはもちろん、お弁当の大きさがそもそも違うからなあ。
何が面白いのか、レオナ先輩はもぐもぐ口を動かす私をじっと見つめている。
最初の頃はさっさと食べるよう無言で圧力をかけているのかと焦っていたが、そうではないらしく、慌てて食べたせいで咳き込んだところ『落ち着いて食え』と言われた。
そんな感じで今日に始まったことじゃなく、いつもの事なので気にとめず自分のペースで黙々と食べ進める。
食事の間、先輩は基本的に喋らない。
普段は粗野なところが目立つけど、レオナ先輩、根本的には育ちがいいんだよなあ。
「ごちそうさまでした」
「……全然足りねえ」
「でしょうね。まだ時間ありますし、簡単な物で良かったら何か作りましょうか?」
「だったらここの厨房使え、お前の寮の冷蔵庫はロクなもん残ってねえだろ」
「ではお言葉に甘えて、台所お借りしますね」
ご名答!もやしと豆苗メインではご満足いただけないだろう。自分で言っててちょっと悲しい。
時間があると言っても、有り余ってるわけではないので急いで厨房へ向かう。
少しはおなかが膨れて機嫌が良くなったのか。さっきとは打って変わって先輩の耳はピンと張っていた。尻尾も同じように元気よく立ち上がって。
確か猫ちゃんって、ご飯欲しい時はあんな風になるんだよなあ。
空腹は最大の調味料というけれど、魔法使いにはもう一つとびっきり美味しくするものがあった。
元の世界でも言われてたけれどアレは比喩であり手間暇かける事を示すが、この世界は本当に言葉通りの意味で。
だからもし魔法が使えたら、きっとラギー先輩に負けないほど美味しい物が作れたと思う。
でもあいにく私は魔法が使えないので元の世界方式でやらせてもらおう。
そう決意しながら『料理は愛情』を実現すべく、牛肉とデミグラス缶を冷蔵庫から取り出した。