刺激的なカノジョ

 私の恋人であるジャミル先輩は将来一人旅がしたいと言っていたいだけあって、観光スポットの情報を見るのが好きだったりする。
 なので彼がオンボロ寮へ遊びに来たタイミングで、先日のエタニティ・フロートで撮ってきた写真をお裾分けしていた。
 港町だけあってアジーム家とは商いで繋がっているが、実際に行ったことはないらしい。私のスマホ内に残る町並みやお土産屋さんの風景に先輩は心を弾ませているようだった。

「先輩、これどうしても見てほしくて」
「なんだ? ……ほう、可愛いじゃないか」
「ですよねー! このワンピース、ジェイド先輩のお母さんが用意してくださってたんですが、すごく可愛くて……!」
「……俺が褒めたのはそっちじゃないんだが」

 先輩に見せたのは高台を背景にピースしている私のワンピース姿だ。
 海の青と、ワンピースのオレンジがかった桃色がうまく調和していて、なかなか良い写真になったように思う。
 なんで計ってもらってないのにサイズぴったりなんだ……?という疑問はあるものの、まあそこはスーパー秘書のジェイド先輩のことだ。なんとかしてジョルジーナさんに伝えたんだろう。深く突っ込まない、だってなんか怖いし。

「……本当に君に似合ってるな」

 ジッと私の写真を見つめる先輩にあれ?って疑問を抱く。
 嬉しい言葉をかけられているのだけれど喜べなかった。というのも、なんかジャミル先輩、目が据わってる。
 まるで怒ってる時みたいだなと思うけれど、この短時間で彼をキレさせるような言動をしたつもりはない。
 だからといって、覚えがないのに謝るのは彼相手には特によろしくないのだ。悪気がない、なんで怒ってるのかわからないのに謝ることはジャミル先輩が最も嫌がる事だから。理由はなんとなく想像がつく。

「……もうこんな時間か。夕食の支度があるから俺はそろそろ帰るよ」
「あっ、はい! ジャミル先輩、ではまた」
「ああ、またな」

 どうしようと焦っていれば、時計の音を聞いた先輩が食い入るように見つめていた私のスマホを手渡してくる。
 その時にはいつもの先輩に戻っていたから、追求することなく彼を見送るのだった。

「これを着てくれ」
「えっと……?」

 一週間ぶりの休日、オンボロ寮にやってきたやいなやジャミル先輩は紙袋を手渡してきた。
 着てくれというからに服なんだろう。袋から覗く布はエメラルドグリーン。自分だったら絶対にチョイスしない色合いだなーと思いながら、着替えてきますねと先輩に声をかける。
 談話室で待ってもらえるよう伝えて、私は小走りで手近な浴室へと向かうのだった。

「思った通りだ。よく似合ってる」

 先輩が用意したワンピースを身に付けて登場すれば、にっこり笑ってジャミル先輩が感想を口にする。
 こんな目が覚めるような鮮やかな色。それも全身となれば服に負けるのではと思いきや、さっき全身鏡で確認したところ、びっくりするほど似合っていた。
 ただ、まだ先輩に体を見せるような関係にもなってないのに、サイズぴったりなのがなんていうか。ムシューマルチにも限度があるとはちょっぴり感じた。
 でもそれ以上に素敵なプレゼントに嬉しい気持ちが勝つ。ありがとうございますとお礼を言う私に先輩は満足そうな顔をしていた。

「そのデザインなら普段着に使えるだろう。色落ちしない素材だし、ネットに入れる必要はあるが洗濯機で洗えるから気軽に着て大丈夫だ」
「さすが気配り名人……! 着倒せるの、めちゃくちゃ助かります!」
「ふふ、当然だ。あとあまり品がないから言いたくないが、君が気にするから値段についても言っておく。ファストファッション中心の若者向けのブランドだ。従者の給与からしたら、はした金だから気にするな」

 わかっていたけど、ジャミル先輩、贈り物のチョイスが凄すぎる。それと同時にこの感覚がないとカリム先輩の従者は務まらないんだろうなと感じた。
 先輩からの贈り物は嬉しい。そして先輩の気配りに尊敬の念も覚えてる。けど、肝心なことは言ってないなと気付く。

「それで先輩、急にどうしたんですか。このプレゼント」
「恋人に贈り物するのに何か理由が必要か?」
「んー、ただの勘なんですけど気になって」

 私の確認にぴくっと僅かだが先輩の眉尻が動く。すぐにいつものスンッと冷静な表情を作ったが、私はその動揺を見逃さなかった。
 カリム先輩はなかなか勘が鋭いタイプだから、ジャミル先輩とこんなやりとりしてるのを以前見かけたことがある。だからわかってしまった。
 裏があるとバレたことに勘付いたのだろう。先輩が苦虫を噛み潰したような顔を見せた。

「教えてくれなきゃショック・ザ・ハートしますよ」
「なんでそこで他の男のを使おうとするんだ、俺のを使え。いやそもそも君は魔法を使えないんだ、効かなくて当然なのにどうする」
「めちゃくちゃ拗ねます」
「それは困る。俺は面倒ごとはごめんだからな」

 意外とノリがいいよな、ジャミル先輩。この茶番に乗った上にノリツッコミを即座に行える柔軟性はさすがと言うしかあるまい。
 引く気配のない私に観念したのか。はーっとジャミル先輩は頭を押さえながら思いっきりため息をつく。

「……ムカついたんだ」
「何にですか?」
「君の存在を知っただけの相手が、君にあまりに似合いの服を選んだのが。恋人の俺の方が君のことをわかっているのに」

 ……ようは嫉妬ってことでいいんだろうか?
 予想外の回答に思わず考えてしまったが、たぶんそういうことなんだろう。
 さっき以上に眉間に皺が寄っている先輩に、対照的に私の口元は緩んでいた。

「笑わないでくれ、俺だってみっともないってわかってるんだ。だから言いたくなかったのに」
「いやーかわいい理由だなと思って。私、てっきり異性に服を贈る意味の方だと考えてたんで」
「は? …………はぁっ?!」

 怪訝そうな目つきになるジャミル先輩だったが、彼の優秀な頭脳はすぐに私の発言の意図に思い当たったのだろう。
 パクパクと口を開閉させる彼に普段の冷静さは見当たらない。
 両肩を強く掴まれる。真剣な眼差しを向ける彼に、私もまたまっすぐ見つめ返した。

「君は自分が何を言ってるのか、わかってるのか」
「ジャミル先輩の準備が整ったらいつでもいいですよ。先輩、用意周到にしてからじゃないと安心できないでしょ」
「……はあ、君が理解がある彼女で助かるよ」

 照れ隠しの皮肉すらも可愛い。ちなみに脱がしやすさも加味しました?と問いかければ、ぺしっと軽く頭をはたかれる。そんなつもりは一切なかったとは言えば嘘になるのだと、かすかに赤くなった耳が伝えていた。

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